35 フランとフライア
アディは一つの建築物に足を止めると
少し見つめた後中に入る。
なんとなく、
ただ少し気になったから。
中はひんやりとした磨かれた石作りで
あの封印されていた祠のような
華美な装飾の無いただの部屋。
シンと静まった通路の奥へ
足音だけがやけに大きく響く。
通路を少し進むと
扉のある広い部屋に出る。
部屋の中央には大きな石作りの
テーブルと一脚の椅子が置かれ、
ぐるりと部屋の周囲には本棚が並ぶ。
どれも長い年月が経ち誰も足を踏み入れなかったように埃が積もる。
ふとテーブルの上に置かれた
一冊の本が目に入る。
その本に積もる埃を
風の魔法でふわり払うと
なんとなく手にとって本を開く。
中身はなんてことはない図鑑で
森に自生する薬草の使い道・
麦や葡萄の生態・動物の種類や
特徴などが記されている。
ページをめくると、
はらりと一枚のしおりが落ちる。
ズキリ
見覚えなど無いはずのそれに
訳の分からない違和感とともに、
突然、強烈な頭痛が私を襲う。
『ッ!!』
乾き切ったひび割れた地面に
パキリと裂け目ができる様な、
蜘蛛の糸に絡まった水滴が
自身の重みに耐えられず落ちる様な
痛みが襲う。
ズキズキとした強い痛みのなか
薄目で見渡す部屋の書棚に、
一冊だけ。
目を惹きつける分厚い本…
知らないけれど…知っている。
記憶に無いはずの文字で書かれた本
それがどんな意味なのか
なんの言葉なのか。
分厚い装丁の黒い、黒い本
みた事もないけれど知っている。
分からないけれど何かが分かる
とても恐ろしい感覚だけが
私を包んでゆく。
私はアレを知っている。
アレも私を知っている。
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大切な友達だった。
どうしようもなく、
彼女が好きだった。
遥か西方の大陸の端の小さな港町
銀髪の髪の少女が愛した町
エルフの少女とは特別に
とても仲が良かったのだ。
長い私の生の中では一瞬とも言える時。
それはキラキラと、
とても輝いていて
まるで宝物の様だったのだ。
私はやはり人族とは違い
とてつもない力を持っていたし
永遠とも言える寿命に、
衰えもしない若い肉体、
誰よりも長命であるが故の
膨大な知識。
それらが時に人を助け、
また人を傷つけた。
暖かい繋がりも
そして
暗い敵意の渦も。
私の名は、
フランメリ・ユートラム・フレズベルグ
本性は銀翼の巨大な鷲で
羽ばたけば一山を軽く翔び、
その影は山をも覆う程。
風を自由に操り
生命力を司る。
西方の大陸では神として祀られ
世界を奔放に翔び、
また畏れられる事も。
いつ生まれたのか自分でも分からない。
気づけばこの世界に有り
自我と言うものが生まれ
自分を自分として認識した時から
遥か長い年月が経つ。
はじめは恐ろしかった。
見る物全てに怯えていた。
周りのモンスターに比べて自身が
強大で大きく知能も高い事は
早くに認識した。
同時に意思の疎通が出来る者は
この場の周囲にいない事もわかった。
誰に教わる事も無く
色々な力を覚える。
初めて空を飛んだ時は
心までふわふわとして高揚した事を
覚えている。
風を切るビュウビュウと耳に響く音と
柔らかい空気の弾力。
速度を上げると空気は硬い膜を作り
次はゼリーの様な感触に変わる。
高い所から見る地平線に溶ける太陽と
夜の雲上に広がる静寂な海は
私の心にストンと響いて
とても落ち着いたのだ。
それから長くその地に根をはり
気づけば人族が自分の元に訪れ
雨を乞い
疫病の収束を乞い
豊作を乞い
誰かの没落を乞うた。
誰も彼も求めて私の元を訪れ
上手く行かなければ
恨みを吐き
願いが叶えば更なる願いを唱えた。
私の心には誰も気づかない。
そのうち私の強大な力を目の当たりに
した者が密かに私を恐れる様になる。
自然災害が私の祟りとなり
災いが神罰となる。
翼を広げれば、城門の端から端を覆い
見上げる程に高い異形の化け物と
呼ぶ者も現れる。
良かれと人族に寄り添った結果
聞き入れた願いは感謝を超え崇拝に。
助けた数だけ心は離れた。
それでもそれらの人々の醜い願いは
元を正せば家族の幸せを
思って綴られた物で有り、
誰かを思う人の心そのものだった。
皮肉な事に。
その頃私は数百か数千年ごとに各地を転々として放浪していた。
まるで渡り鳥が季節と共に景色を
巡る様に。
可笑しいけれど私も渡り鳥みたい。
そんなある町で
私は可愛らしいエルフの少女と出会う。
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夕方の港、男たちが舟の上で翌朝使う
漁具を手入れした後それぞれの
家族の元に急ぐ夕闇の中、
ポツリと白いワンピースを着た線の細い
美しい少女を見かける。
腰より長く伸びた美しい銀髪は
さらさらと夕陽を浴びてきらめいて
とても綺麗だと思った。
私はこの町で暮らすエルフ族の
フライア。
お父さんは鍛治職を営み
漁具を作って生計を立てている。
お母さんは少し病弱で今はサンドイッチ屋を少し休んでいる。
私はお母さんが作った
野菜沢山のサンドイッチが大好き。
お父さんのが作ってくれた
無骨な鉄製のアクセサリーも
本当は大好き、
恥ずかしいからお父さんには内緒。
「どうしたの?」
くるりと振り返った少女の銀髪から
健康的な傷一つない肌の
とんでもない位の美少女の顔が覗く。
?
不思議そうな
顔をして私を見つめて
『ここの村の子?』
「…」
『どうしたの?』
「あッ!…ご、ごめんなさい!
そうです!この先の鍛冶屋のッ」
真っ赤になるエルフの少女に
くるりと向き直って、
『初めまして、エルフのお嬢さん』
にっこりと笑うと
彼女も微笑んだ。
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自分で言うのもなんだけど
エルフ族は見た目が良い人が多い。
飛び抜けて美しいと言われているのは
創造神話に出てくるの3人の信徒の1人双剣のエルシーだろう。
絶世の美女とされていて名前も人気で
あやかって女の子には、
エルシーと付ける事も多い
目の前にいる少女は見た事が無いほど
美しかった。
さらさらと風に揺れる銀髪はしっとりと
艶があり肌は恐ろしく滑らかだった。
同姓でも羨む程の作りと
その神秘的な虹色の瞳は
力強く、それでいてどこまでも
透き通ってまるで宝石の様に。
小さな村が迎える初夏の季節の
ほんの僅かな間のそんな出会い。
それが私達の出会いだった。




