34 勇者の物語
僕らは59階層に到達する
「これほど早い階層攻略は前例が無いですね…」
アディ殿達の協力があったとしても
攻略速度が尋常では無い。
どんなに早くても25日はかかるところ
中層手前まで3日
58階層攻略までに14日
規格外もいいところだ。
「アディとフラン達のおかげですよ。」
ニコニコと柔らかい雰囲気の青年は
そう謙遜するのだが、
ここまで階層をスルトと一緒に戦ったマグネルは
召喚術で召喚した黒い巨狼を自身へ装身して
身体強化しながら恐ろしく切れる不思議な剣を持ち
戦う彼を目の当たりにしている。
その剣は振り抜いた自分を斬らずモンスターのみ
一刀両断したのだ。
斬れる対象の指定が出来るとでも言うのだろうか?
そんな剣は聞いた事もない…
マグネルは深く考え込むと、
その彼の宝剣に目を落とした。
59階層はモンスターが全くいない空間だった
薄暗い洞窟に一面の草原
異常な光景だけどダンジョン内部には意味不明な構造が構築されることも珍しくない、
しかしこんな構造が出来上がるダンジョン
とはなにか改めて疑問に思う。
僕らは慎重に先へ進むとその先には
冥界蛍がふわふわと
淡い光を放ちながら飛んでいた。
「冥界蛍がなぜダンジョンに…?」
しばらくふわふわと飛んでいたが、
ふっと消えてしまった。
ひとまず危険がなさそうなので、
ここで休むことになった。
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空色の隻腕の召喚術師
彼は剣士では無いと言うが剣の腕はかなりの物、
私と同等の実力であろう。
アディ殿はおそらく黒龍の真祖であり
虹色の相貌は伝承にある通り、
信じがたい事だがその本性は巨大な黒龍。
約1600年前に祖先のエルフと邂逅し
勇者物語にも登場する。
勇者はエルフやドワーフ、精霊の女王と各地を冒険し当時氾濫した魔王軍と熾烈な戦闘を
行い、訪れる先で村や街を助け魔族を撃退し
悪意に取り憑かれた強力な魔物を封印する。
そこに黒龍の真祖や大怪鳥や巨人戦鬼として
その恐ろしい姿が描かれる。
黒龍の真祖と勇者一行は対峙したものの、
結局和解があったと伝承にある。
黒龍の真祖としては勇者物語以外でも
様々な物語で語られている。
黒龍の様な存在は世界に六柱あるとされており今は世界のどこかに封印されていると言う。
横顔をじっと見過ぎたせいか、
『エルフの男よ、そう見惚れてもわしはスルトの、よよよよよよ、嫁!であるからして?ばばばば、売約済みであるわぁ!!』
自分で言っておいて、
ゆでだこみたいな真っ赤な顔になった
アディはフンッと鼻息を吐いて
ふんぞりかえった。
言った後にモジモジしながら
『嫁よよよ嫁よよ嫁よ…』
ニマァと笑う。
『あら!私の方が嫁に相応しいわ!壊滅的な
料理スキルに家事と言う破壊工作、それに〜』
フランはそう言うと勝ち誇った表情で
腕組みして二つの山を強調しつつ
アディの胸元に意味ありげな視線を送る。
『!!!!』
アディは自分の胸を見てそれから
ギギギと言う感じでフランの胸を見る
と絶望した表情で青い顔色に…
次は違う意味で真っ赤になってきた(汗)
あ、これはヤバイやつだ!
青筋を立てたアディとフランが
つかみ合いの喧嘩を始める。
『ぐぎぎ!ふんぬ!!』
『ううう!ぐうう!』
ドオーン!バコッ!
バリバリッ!!
両者の足が地面を割り
めり込んでいる(汗)
アディの足跡は真っ赤に燃え
フランの周りは暴風が吹き荒れ
周りにばちばちと紫電が走る。
「こらこらアディもフランも、
や、やめてー」
これ以上はダンジョンの天井がヤバイ…
アルナはやれやれと言う感じで
『女同士の争いは
醜くて見るに耐えませんな…
所詮どんぐりの背比べ…』
ギロォ
言い切るまえに瞬間2人の姿がブレると
すごい形相でアルナの両サイドから
2人の全力のフックが飛んでくる。
避けるまも無く衝撃波と共に、
アルナは数十回転して飛んで行って…
あ、地面に墜落した。
マグネルと黒曜は何も見てませんと言う
感じで冷や汗をダラダラ流しながら目が泳いでいた。
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59階層を探索するとどうやら所々に建造物の
廃墟の様な物が点在していて、
下階層への入り口が見つからない。
確かに60階層はあるとアルナの
探索結果だが、丸一日見つかっていない。
危険はなさそうだと言う事で
手分けして探索をする事にして
僕と黒曜で静かな草むらを進む。
いくつかの建物や遺跡の様な物や
何に使われたかわからない建築物を
調査した。
特に内部に変わった様子は無く、
モンスターもその気配も無かった。
やがて何ヶ所かの建築物を回った後に
そのうち一つの廃墟の前で立ち止まる。
「う、嘘でしょ…」
その見慣れた面影のある建物に
後退りする。
丸太を組み合わせたログハウス風の
建物にあるはずのない覚えのある傷
屋外に置かれた農道具も…
確かに見覚えがある。
しかしそれは遥か昔に、
あの人と住んでいた懐かしい家だった。




