31 エリアリア
エドガード自治区の広さは
リム王国の1.5倍程で南北に広く、
南側と西側はカーラ聖国に接している。
東側は広大なミラージュ大氷河の
境に連なるロンピーク山脈が天然の
要塞の様に機能している。
北側は北方海に面しており
そこから先は
海洋大型モンスターの巣窟になっている。
エドガード自治区には強力なモンスターの
出現する場所が限られており
森が深すぎる事を除けば
比較的安全な土地と言えるだろう。
森を大規模に切り開くと、
理由は定かでは無いが高い確率で
そこからモンスターが何処からともなく
湧き出してスタンピードを起こす。
実際に数十年前も開拓が原因とされる
大規模なスタンピードが起こり、
カーラ聖国の北端の村とエドガードの
集落の一部に壊滅的な被害をもたらした
と言う話だ。
エドガードの集落は北寄りに位置し
北端に近い場所にシロノ遺跡がある。
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どうやらマグネルの妹は
ウリンと言うらしい。
どことなく見覚えのある礼儀正しさに
既視感を覚えていたのだけれど、
フラムトリアのギルドの受付嬢が
まさかエドガード森林国の族長の妹だとは
全く思いもしなかった。
元気に受付嬢をしており
いつもお世話になっていた事や
人望が厚く礼儀正しさがマグネルさんにとても良く似ている事を伝えた。
兄も居るそうだけれど
こちらは放蕩者らしく
どこをほっつき歩いているか
分からないらしい。
「スルト殿に折り入ってご相談があるのだが‥聞いてはもらえんだろうか?」
「?」
マグネルさんが神妙な面持ちで
相談とはなんだろうか?
まさかウリンを連れ戻せとか?
恋仲を疑われて説教だろうか?
「妹がな‥」
えッまさかあたりかな(汗)
「ウリンには姉が居てな、実は少し厄介な事になっているのだが‥」
お姉さん!と言う事はウリンに
姉妹が居たのか!
「その姉が病にかかっている様で衰弱が酷いのだ。」
「病‥ですか?」
嫌な予感がする。
『御方様、この者は呪いの類にかかっていますね。しかも少しずつ衰弱させる様な悪趣味なものです。』
アルナが恐ろしく冷たい目で
少女を見下ろす。
「の、呪いですか‥」
マグネルは呪いと聞いて
目を見開いて狼狽える。
『これは‥道具?
いや植物を媒介した物か?』
ニーズヘッグは呪術に長ける権能をもち
あらゆる魔力・呪力干渉による術式を
解析し反呪や呪そのものなどを得意とする。
その特性を活かしたバフやデバフ
つまりは加護を与えるのが本来の姿だ。
封印前には立派な祠に蛇の神として祀られて
各地に信仰があったらしい。
冷徹な態度とは裏腹に
参拝した人々の病や怪我を治したり
商売人や家内に福を与え
罪人には悔改めた者へ改心の機会を与える
様な事もあったと言う。
しかし呪いと言うのは暗い側面だけが目立ち
アルナの性格も相まって、
蛇信仰を弾圧する歴史もあった。
それでもなお人々の光であった姿は
多くを語りたがらないアルナが
まさしく幻獣神のあるべき姿を体現している
のだろうと思った。
かなりのツンデレだよなぁと
アルナを見つめると
目の下に深いクマが有る顔で
にっこり微笑んで
途端に上機嫌になった。
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最初の出会いからは信じられない様な
扱いでもてなされていた。
『おおー♪なんと甘美な食べ物か!』
全部食べそうな勢いでバクつくアディ。
『あらほんとだわ♪』
攻殻蜂の蜜にトルピアの花で
香りつけした物を洋酒で割ったシロップを
揚げたカタパンにかけたお菓子
それを頬張った僕らはその美味しさに
感動していた。
エドガードの森林がもたらす恵みが
豊かな生活をエルフにもたらす。
またその恵みを守るため森を管理するのも
エルフである。
エルフという種族が閉鎖的な為、
こう言うお菓子などは
滅多に外部に出る事はない。
グエンさんの説明があった後
少しづつ僕らに近づいてくれる様になった
エルフの方達は実際に話すと
打ち解けやすくて
とてもいい人ばかりだった。
ルドなんかは建物の影からずっと監視?(汗)
ストーキングされている。
時折目があうと
真っ赤になって隠れるのだが、
長い赤くなった耳だけ見えてるんだよね‥
スミスはテラスで日光浴よろしく
日当たりのいい所でボケーっと立ってるし
黒曜は僕らの後ろでお昼寝中だった。
冬の季節は森での仕事も少ない
ロンピーク山の麓には大規模な
鉱山があるらしいがこの季節は
かなり雪深く近づくのも困難だ。
先日ソーシ街道の途中に雪を避けて
避難した小屋の方角だろう。
詳しい場所は秘密になっていて、
どの国も調査はしているらしいが
場所の見当すらついていないと言う話しだ。
エドガード大森林国の歴史はかなり古く、
今から1000年以上前の勇者の物語にも
エドガードの話しが出てくるぐらいだ。
勇者一行がエルフの青年と友情を結び
時にぶつかりながらも、
厄災を倒すべく仲間と冒険したと言う話だ。
実際にエドガード大森林国として
樹立したのは近代680年前頃
とされているが、
その前からエルフの郷としては
存在したらしい。
エルフの中でも古株のグエンさんなら
何か知っているかもしれないので
今度聞いてみようと思う。
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ウリンのお姉さんはエリアリアと言う。
彼女の病気の原因を調べる為、
アルナに解析をお願いした。
エリアリアさんの具合は想像よりも
悪かった。
五日に一度半日程位は
歩いて活動出来るそうだが、
それも遠くまで出かけられる様な物でなく
食もここ数年ではだいぶ衰退したとの事だ。
ゆっくりと真綿で締める様な衰弱死‥
言われてみれば正しく呪いそのものだった。
「エリアリアさん‥」
僕はいても立ってもいられないのだった。
その夜
「僕は彼女を呪いから救いたい」
『そう言うと思っておったのじゃ』
『仕方ないですわ』
『御方様‥』
(ヴォウッ)
アルナ曰く鍵付きの呪術らしく、
強制解呪すると精神を焼き切るような
性格の悪い呪式が組まれているらしい。
解除は簡単で
鍵に指定した物さえ見つかれば、
アルナなら数秒で解呪できる代物らしい。
術式が書かれた物から一定距離離れると
苦しみが増す様になっていたらしく
集落外に助けを求める事も出来ず
八方塞がりだった様で、
少しずつ弱る身体がもどかしく
悔しい思いをした事だろう。
しかし捜索範囲はかなり絞られるのが
救いかも知れない。
黒曜の空間認識能力を使ってみたけれど、
集落の中にそれらしき物は
見つからなかった。
トルピアの花
強い甘い匂いがする花びらを持っている
北方が原産地でエドガードでは
豊富に取れる香料の一種
強いアルコールなどに水溶性があり
香料シロップの蒸留加工品は
エドガードの特産品となっている。
比較的高価だが東部地域でも
薄めた物が安価に入手できる。
カタパン
ソーシ麦をベースに野生麦を1:9で混ぜた堅焼きの
パンで 水分が少なく保存と携行に重宝される。
スープに浸すか細かく切って焼いて食べるのが
一般的。
燻した香りが嫌いな人もいる。




