29 私の心
こうして見ると
まだあどけなさが少し残っている様に
見えてくる。
水色の美しい髪をなぜるとなんとも
胸の辺りがドキドキと鼓動が早くなるのを
感じるのだろうか?
顔は熱くなるし呼吸も荒くなる。
まるでブレスを吐く寸前の様な
感覚になってくる。
実際ブレスを吐く時の感覚には少し遠いのだけれど、自分が持っている感覚など数えるほどしか無いのだから仕方がない。
でもこの感覚は全然悪い物に思えなかった。
ふと視界に入る彼の片腕は肘から先が無い
先の襲撃時に悪漢に奪われたままだ。
途端に私の胸がズキリと痛んだ。
目の端に涙が溢れて止まらなくなる。
これも不思議な感覚だ、
モヤモヤとしたなんとも出口の無い
締め付けられる様な感覚。
とうとう堰を切ったように想いが溢れると
声をあげて泣いてしまった。
一方では冷静な自分が俯瞰して
子の様に泣いている自分を見ていると
少しだけ胸がざわつくのだ。
彼を起こさない様に抑えて泣く様は
なんとも言えなかった。
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僕はハッと目を覚ますと
全身に嫌な汗をかいている事に気づく。
まだ森は暗く深夜を過ぎた頃だろうか?
周囲は穏やかに静まり返ったままだ。
最近はずっと見なかった夢だ。
以前は繰り返し同じ夢を見ては
その悪夢に悩まされていたが、
しばらく見なかったので安心していたのだけれど‥
ふと隣を見ると
真っ赤にまぶたを泣き腫らしたアディが
僕の腕にきつく抱きついて
静かに寝息を立てている。
しっとりと艶のある美しい黒髪を
僕は優しくなぜると、彼女の唇から
僅かに安堵の様な吐息がもれる。
普段は口調もあり少女というよりは
女性と言う印象が強いのだが
隣で無防備に眠る今は
あどけなさを残す少女のようであった。
最近では時々痛む腕に悩んでいたが、
アディが優しく抱きついている腕は少しも
痛くは無かった。
ふと気づくとフランも反対側で
寝息を立てている。
こちらは艶のあるピンク色の唇が
健康的で美しかった。
長いまつ毛にアディより少し柔らかそうな
頬はうっすら紅潮して‥
バッチリ目が合う。
「起きてた?」
『眠っていたんですわ、でも‥』
にっこり微笑むと
『そんなに見つめられてしまうと眠れませんわ、むしろ寝かせませんわ』
ニタアと笑うフランにガッッチリ拘束される。
アルナがいつのまにか
枕元に立って何かヤバい言語でぶつぶつ言ってる!
『∴→∂¢⌘∫‥』
まった!まった!!
なんとか落ち着いた面々を正座させると
僕は彼らを見て苦笑いする。
丁度日が登る頃だったし
朝食を作ってしまう事にする。
手早く昨日の残ったシチューに濃いめの味付けをしなおして煮詰めたものをソースにする。
デラウトの卵を焼いた物と
ウサギの肉のローストをパンに挟み
先程のソースを塗ってサンドする。
デラウトは渡り鳥なのだが
肉が少し固いので塩をきつめにきかせて
スライスした薄いハム状
の調理法が好まれる。
この時期のデラウトの捕獲は難しいのだが、
幸い卵は入手できたのだ。
この冬の季節に貴重なタンパク源だ。
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『スルトの作る料理はなんでも絶品じゃのう♪』
大きな根をピョンピョンと飛び越えながら
アディは上機嫌でステップを踏む。
ちょっとハラハラするけどね(汗)
夜中に見たアディの泣き顔には
触れないでおこうと思う、
きっとまた悲しい顔をさせてしまう様な
気がする。
今は無くなってしまった
左腕の先にぼんやりと視線を落とす。
黒曜がベロリと僕を舐めると
心配そうな目を向けて僅かに唸ると、
影からズルリと出てくると
僕の前でゆっくりと伏せる。
チラリと自分の背を見た後、
尻尾を振って僕を見つめる。
「ありがとう黒曜」
僕はギュッと黒曜に抱きつくと
お日様の匂いがする毛並みに顔を埋めて
深呼吸する。
尻尾を千切れんばかりにブンブンさせて
フンフンと鼻息が荒い黒曜。
背後に悪魔が2体
「ぴッ!」
幸せ一杯の表情から一転
怯えた子犬になる巨狼フェンリル
「こら!アディもアルナも、やめなさい」
黒曜を抱き寄せてなぜると
フランが駆け寄ってきた。
僕は変わらないこんなやり取りの
なかですっかり笑っているのだった。
デラウト鳥 中型の渡り鳥
北方地方や南方まで広く見られる鳥で
冬の季節は南へ渡る。
体長は2.5mほどとかなり大きく
温厚な性格で人に懐くことは無い
警戒心が強くその卵を使う料理は広く普及している。
羽は高級な衣類の材料になるが、捕獲数が僅かで
あまり見かけないが、
卵は良く見つかることが有る。




