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28 暗い森の記憶

エドガードの森林をひたすらに北上して

道なき森を進む


人の手が入らず巨大な木々が生い茂り

倒木に命が育まれ

苔蒸した巨大な根が人の丈ほどもある。


肥沃な森の下には水が遥か先まで静かに

佇む。

夜には水に映る木々と合間から見える

紅大きな月と一回り小さな月が浮かび

時折水棲のモンスターがゆっくりと

歩いて行く。


うっそうとした暗い森は数百数千年の時を

人の手の入らぬまま残す。


唯一のカーラ聖国との街道は近づく人々を監視するエルフ達の守りが固く交渉の一切を拒む彼らとの壁を象徴するようだった。


元々カーラ聖国を通らない僕らは

ミラージュ大氷河から続くソーシ街道の分岐点の少し手前から森を抜けるルートを

通る事になった。


この時期は森の下に続く水の大湿地を通る方が安全である

エルフの監視も湿地側には無く

冬の季節にはモンスターや猛獣の行動も

緩慢になっている。


夏の時期には美しい水面に生える

巨木の森が見れるのだそうだが、

今は氷に閉ざされている。


白い月明かりに照らされた

巨木の森の足元に

静かに広がる湿地の氷の上を

黒く美しい毛並みの巨狼が歩いてゆく。

その傍らには金の刺繍のローブを纏った

リッチが滑る様に揺らめいていた。



ーーーーーーーーーーーー



フラムトリアの街を出発して3ヵ月

遠く離れたこの森を途中出会った彼らと

ともに進む。


「やっと大森林国エドガードまでたどり着いたね」

『お疲れ様ですわ』

『このあたりも随分と変わったのう』

はじめて訪れた僕らとは違い

過去にアディはどうやらここに

きたことがある様だ。



広大な森の途中

大湿地の浮島を見つけた僕らは

そこで休む事にした。


木々が風にそよぎ葉の音だけが

夜に優しく響く。

冬特有の雑音が消えた静かな夜

遠くに水棲の大型モンスターの足音だけが

聞こえてくる。

緩慢な動きでゆっくりと歩き

彼らが人を襲う事は滅多にないそうだ。


干し肉と茹でたマナロの球根を具に

ハーブと塩を効かせたシチューを作る。

シチューにつけて

固いパンを緩めて食べるのは

とても美味しかった。


水棲の光る精霊がゆっくりと僕らの

周りをゆらゆらと飛び回る。


暖かいシチューの皿を持ったアディも

穏やかな目でその景色を眺めていた。


巨木の根本に近い場所

浮島の端にテントをはり

黒曜は島の中央に伏せる

長い耳はピンと立っている。


シチューを骨の隙間から

ドボドボとこぼしてアリスに怒られていた

スミスが今はじっと黙ったまま

黒曜の側に佇む。

僕は黒曜の足の間に囲われて

静かな星空を眺めていた。


いつの間にか寝てしまったスルトの

側、アディが優しく綺麗な髪をなぜる。

その瞳はとても優しく

少しだけ悲しさも。


『わしはスルトが好きじゃ‥

今までとても長い時間を生きてきたが、

こんなに人の子を好いたことはない』


ただ好きなのとは違うのを

なんとなくアディはわかっていた。


元々起伏の少ない感情に

街を消し飛ばしても

挑んできた戦士と戯れても

空っぽだった。


今はその時がどんな気持ちだっかすら

思い出せない。


寝息を立てているスルトを見ていると

胸の真ん中が暖かくそれでいて

ムズムズする様な居ても立っても居られない

そんな感じになるのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



暗い森の中

大きな手で引かれて

背丈より高い草の中を

懸命に駆ける。


息は上がり

小さな足は少しも進んでいない様に思えて

その場にすくんでしまいたくなるが

強く握ってくれる大きな手が

少しだけ僕に勇気をくれる。


昼間だと言うのに木々の隙間から陽の光が

届かないのはどんよりと空が曇って居るからだろうか?普段から恐ろしい雰囲気に包まれた森は今はいっそう不気味にうつる。


バキバキと木々を倒し

地面を抉る。


背後からは恐ろしいモノが

僕らを追いかけてくる音が聞こえる


大事なあの薬草をどこかで落としてしまった僕はあの薬草を探しに

森へ入ったのを思い出す。

何だか僕の手を強く握ってくれていた彼に

僕は決して森につ近づかない様に

言われていたのを

きっと怒られるのだと思っていた。


あの人が僕の前に立ち、

僕を木の根に隠すと

シワが深く厳しくも穏やかな彼は

優しく微笑んで僕の頭をなぜてくれる。

何か喋っているのだが、

耳鳴りと爆音の中よく聞き取れ無かった。


彼がゆっくりと背を向けて歩き出すと

鈍い音と共に視界が赤く染まる。



そこで目が覚めた。


※マナロの球根

北方エドガード地方に自生する水に浮かぶマナロの

花の球根

茹でるとほんのり花の香りがする

ホクホクとした食感で茹でた物を練ればパイ生地のベースや防水のりにもなる。

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