第8話 転倒
「んで、寝坊しちゃったの?」
次の日、俺は寝坊してしまった。
レイーナはやれやれといった様子でこちらを見ている。
やってしまった……深夜まで本を読むんじゃなかった……。あんなに意気込んだ次の日に寝坊って……。
……レイーナと目が合わせられない。
「やっぱり、野宿は辛いんじゃないですか? よかったら……家に……」
「い、いや、まだ大丈夫! ……じゃなくて、大丈夫大丈夫」
俺が武器屋に着いた時、そこにはフクシアもいて、レイーナと何かを話しているようだった。
「ま、今日は予定があるから、説教は後よ。ほら、働いた働いた!」
「はっ……はい!」
何をしていたのだろうと気にしていると、レイーナはそう言ってすぐに俺を店の裏に行かせようとした。俺は予定ってなんだろうと思いながら、ケスタの所へ向かったのだった。
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「これ……ありがとう」
「……もういいのか? まだ完全に覚えていないんだったら、もっと借りていていいぞ?」
「ああ、じゃあ……借りるよ」
「……!」
ケスタは、俺が借りるといった瞬間に目に喜びを宿した。やっぱりケスタは魔法の付与が好きなんだ。
「後、一応簡単な魔法なら付与出来るようになったんだけど……」
「……それは本当か? 今すぐ見せてくれ」
俺は実際の付与がどんな感じなのか確かめようという気持ちでそう聞いてみたのだが、ケスタは本気の目をしており、魔力でできた紙とペンをすぐに取り出した。
「よし、『速筆』、はいこんな感じ……」
俺はすぐさま紙に覚えた魔法を全て書き込んだ。
「……え、待て今、どうやった?」
「え? ああ、実は俺、『速筆』って言うスキルを持っていて、字を速くかけるんだ。丁寧に書こうとしても速くなるのか分からなかったから、昨日確かめてみたんだが……出来るようだったから……」
俺の言葉に、ケスタは目を輝かせた。
「……す、すごい! まさかこんなスピードで……このまま文字を覚えることができたら、武器さえ仕入れられたら魔具職人として名を馳せる事も……」
「ケスタ……?」
「あっ、ああ……すまない。魔法の付与に興味があるなら……これからもその調子で頑張ってくれ」
ケスタは一瞬、まるで別人のような声色になっていた。
「……ケスタ、もしかして……というか、やっぱり、魔法を付与する事が好きなんじゃないか?」
俺は本当にそうなのかはっきりさせたくて、ケスタにそう聞いてみた。
「……ああ、まあな。俺は、ここで働かせてもらう前から、魔法言語の習得を頑張って来たんだ……」
やはりそうだったらしい。
俺は一つ物事をハッキリさせて、少しスッキリとしていたが、一つ疑問が浮かんだ。
働く前、という言い方じゃなくて、働かせてもらう前ということは、もしかしてケスタもレイーナに頼んで働かせてもらっているのだろうか。
「……ケスタも、ここで働かせてもらうように頼んだの?」
俺は気になってそう聞いてみた。
「……ああ、実は、俺も、フクシアに色々助けて貰って……」
「えっ……?」
なるほど、通りでレイーナが言う“フクシア”がすぐ通じた訳だ。
「一時期野宿していた事がある……今は、ここの町の家を借りているんだが」
おお、ケスタにも野宿していた時期があったのか……。ケスタも、もしかしたらフクシアの家に泊まるのは流石に遠慮したのだろうな。
なんだか仲間意識が芽生えてきた。
「……じゃあ、今日も仕事を頑張ろう」
「……おう」
ケスタも、初めて会った時より、だいぶ表情が優しくなっていた。初めは辛いと思ったが、案外この環境で働くのも悪くないのかもしれない。俺はそう思いながら仕事を始めたのだった。




