第6話 付与への希望
「何だ?」
……扉を開けた先には、暗い髪色の男性が、武器を磨いていた。……なんだか視線が鋭いな……。
「ケスタ、フクシアよ」
「あー、はいはい」
……その男性、ケスタは、レイーナの言葉を聞くとすぐに納得していたようだった。
“フクシア”が万能な造語のように使われている……その一言ですべてがわかるほど今まで色々あったという事だろうか……。
「ああ、ヒイユです……よ、よろしく」
「……おう」
ケスタは笑顔ひとつ見せず、武器の方に目をやった。
……ここで働くと決めたものの、本当に働いて行けるのだろうか。と、俺は今更不安になって来た。
「じゃあ、私は表で武器を売らないと行けないから、後はケスタに任せるわね」
レイーナは、そう言うと去ってしまった。
そ、それは結構辛い……。
俺はそう思いながらも、ケスタの方を見た。
「あー……ここでは、魔法の付与とか、武器を磨いて店の方に並べる仕事をしているんだが……付与は出来るか?」
ケスタは、仕事内容を説明をしてくれた。
「えーっと、出来ません……」
「……そうか。ちょっと待て、見せてやる」
ケスタは、淡々と説明を始めた。
……武器に魔法を付与する技術は、聞いた事はある。だが俺は、表に出てこない作業と言ったらいいのか、そう言った事は全く把握していなかった。
……でも、確かかなり難しい、専門的な技術だって聞いたような……俺に出来るのかな。
「……まず、武器に魔法を付与するには二つの方法がある、まずは、武器に直接魔法を付与する方法と、一旦この紙に魔法を付与して、その後武器に塗布する方法だ」
ケスタは、そう言いながら、つるつるした透明な紙を取り出した。
「それは……?」
「……これは、魔力から作られた紙だ」
ケスタはそう教えてくれた。
ああ、魔力の紙なんて一体どんな場面で使うのか、ずっと疑問だったが、そういった用途があるのか。
「これに魔法を付与する。……こうするんだ」
ケスタは紙に訳の分からない文字を書き始めた。
……そうそう、思い出した。武器に魔法を付与するには、魔法言語という、特殊な文字を用いる必要があるんだっけな。聞いた事がある気がする。
しかし詳しい文字なんて、もちろん俺は知らない。
……しかし、攻撃魔法を使えない俺が付与をしたとして、その力を発揮できるのだろうか。
「えっと……俺、攻撃魔法が使えないんですけど……それでも付与って出来ますか?」
「……魔法が撃てないのは、魔力の性質を変化させる事が苦手だという事だろう。付与は、文字によって魔力の性質を変化させる。……だから付与は出来るはずだ」
……付与の事は全く勉強していなかったから分からなかったが、付与なら恐らくどんな魔法も出来るようだった。
「な、なるほど……えっと、この文字は、覚えなければならない……ですかねぇ」
「……まあな。今付与が出来ない事は分かった。……取り敢えず最初のうちは武器を磨いたり、武器を運んだりしてくれたらいい。……文字は次第に覚えたらいい」
……やはり覚えなくてはならないらしい。
仕事……仕事だもんな……。
「ちなみに……直接付与する方法と、この方法って、何か違いがあるんですか……?」
「……ああ、直接付与した方が魔法の効果は強くなる。だが、強すぎる魔法を付与すると、武器が壊れてしまう可能性がある。……だからここでは、大体はこの紙に一旦付与して、その後武器に塗布するやり方をとっている」
「なるほど……分かりました……」
ケスタは、一通り話した後、武器を渡してくれた。……まずは磨く仕事だろう。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
俺が無言で武器を磨いていると、ケスタも無言で、魔法言語であろう文字をひたすら記入していた。
「……あの、ケスタ……さんは、どのくらい前からここで働いているんですか?」
俺は無言に耐えきれず、ケスタにそう聞いた。
「ケスタでいい。……ずっと前からだ」
「魔法の言語って、覚えるのは難しい……ですか?」
「そんな丁寧な話し方じゃなくてもいい。……まあな、種類もかなりあるからな」
……ケスタは、話に返答はしてくれるものの、何だか素っ気なかった。しかし、呼び捨てでいいとか、丁寧な話し方じゃなくてもいいとか、仲良くしたいのか疎まれているのか全く分からない。
「その魔法の文字って……本当に慎重に書かないといけないものなのか?」
「……ああ。この紙は、強い魔法を書き込める代わりに、破れやすいからな……」
「なるほど……」
俺は、ケスタと少し話して、ある事が分かった。ケスタは基本的に感情を顔に出さないが、魔法の付与関係の事を話す時だけ、少し表情が柔らかくなっている気がする。という事。
そして、俺のスキル『速筆』は、丁寧に文字を書き込まなくてはならない作業のスピードを上げられる、この仕事に向いたスキルなんじゃないか、という事だ。
……勇者パーティで報告書を書いていた時に、字が汚くて読めないなんていう事はなかった。『速筆』は、書くものを持てば字を素早く書けるスキル、という事しかまだ俺は知らないが、おそらく丁寧に書こうとしても、スピードは上がるのではないだろうか。
「……」
まあ何にせよ、まずは文字を覚えないとだな。
俺は、少しだけ未来に希望を持ち、武器磨きを続けた。
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