第37話 不穏な影
「……まあ、その方法だったらかなり負荷がかかるだろうからあまり現実的ではないんだけどね」
「……負荷を減らす魔法もあるだろうけど、バランスを取るにはもっと大量に付与する必要があるから、ヒイユでも間に合うスピードで書けるかは分からないし……書き込める魔法の数にも限界はあるから……」
「……な、なるほど」
そうか……書き込める魔法に限界、か……。スピードは、もしかしたらスキルが進化して、もっと上がる可能性はあるが、魔法の方には確実に限界があるから、現実的ではない、のか……。
「……例えば、直接付与をした後に間接的に付与するとか、間接的に付与する時に使う紙を重ねて使う……っていうのは、できないんですかね?」
「……まあ、そうするともっと負荷もかかるし、何より外側に行くにつれて付与の効果が下がっていくから、あまり向いてはないよ」
……なるほど、やはりスピードでゴリ押しするのは、負荷という点を何とかしなくては、現実的ではないのか。
「まだ魔法言語では表せない魔法やスキルもあるから、それによっては現実的な方法になるかもしれないけどね」
「なるほど……」
魔法言語では表せない魔法やスキルか。
……付与の負荷を減らしたり無くしたりする……そんな都合のいいスキルがあるのだろうか。まあ、方法だけ覚えておくか。と俺は心の中で呟いた。
それより、今がチャンスだ。今付与の事を聞かなければ、またケスタとの会話が再開されてしまうかもしれない。
「……アルヘルさん、初めの方に、ケスタと話していた、本とはいったい……?」
俺は気になる事をひたすら聞いていこうと、構えた。
「ん? ああ、もしかして、君はまだ買っていないのかい?」
「まだ……? 買ってないですけど……」
「その本は……」
そこから俺は様々な話を聞いた。
ケスタが、アルヘルさんの事を付与に精通している人物だと見抜いたきっかけである本は、魔法言語の辞書らしく、新しい言語が見つかる度に更新され、新しい本が出されているらしい。という話や、どんな風に付与をしているかについても聞いた。
「なるほど……普段から普通の紙やペンで練習しておく……」
「うん、基礎的な事だけど、大切だからね」
……そしてしばらく話を聞いていると、アルヘルさんは気になる事を言った。
「……じゃあ、そろそろ、夜もふけてきたから……。僕も、明日行かなくちゃならない所があるからね」
「ありがとうございます……でも、行かなくちゃならない所って……どこですか?」
「うん……何で僕がここに来たかにも関わってくるんだけど、僕は、ある程度有名な魔法使いなんだ。だから、他の魔法使いと共に、明日やらなくちゃ行けない事があって……今日は準備のためにここにいるんだけどね」
「他の魔法使い……!?」
俺は思わずその言葉に驚いてしまった。
また、わかってしまった。有名人が来るという噂が立っていたのに名前がハッキリと広まっていなかった理由、噂に矛盾が生じていた理由、そして……勇者パーティの人が来るという噂が立った理由も。
エルティアは……魔法使いだ……。
「ヒイユ君?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございました……」
「……ありがとうございました」
俺は、嫌な予感がしつつも、アルヘルさんにお礼を言い、ケスタと共に建物の外へ出たのだった。




