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第32話 有名人が来るらしい

「……」


 次の日、俺達は同じように付与をしていたが、やはり、明らかに仕事が増えているのを感じた。難しい付与の依頼も増えている。もっと勉強を頑張らなくては……。

 また、ロコロはひたすら武器を磨いていた。磨く武器をまっすぐ、じっと見つめながら、微動だにせず、磨いていた。……やっぱり何だか怖い……。


「……ええと、なんて……呼べばいいかな?」


 俺はロコロに話を振ってみた。

 ……いや、まだ何があったか分からない以上、変に話を振らない方がいいのかもしれないが、昨日ちょっと引かれてしまったので、イメージを回復したいと言うか……。

 ……とにかく、俺がどう思われているか分からないのが、とても不安なのだ。


「……」


 ロコロはこちらをチラっと見たが、返答はなかった。


「呼び捨てでも……いいかな?」


「……」


 そう聞くと、ロコロは静かに頷いた。

 ……良かった。呼び捨てでいいって事は、少なくとも嫌われてはいないな。

 俺は少し安心した。


「……」


 ……と思ったのもつかの間、俺が話しかけるのをやめた後、何やらロコロからの視線を感じた。……な、何だろう、怖いな……。

 俺は、視線を気にしつつ仕事をこなしたのだった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「……ねえ」


「えっ!?」


 そして休憩時間になると、ロコロの方から俺に話しかけてくれた。……思わず驚きを声に出してしまった。


「気にかけてくれてありがとう。……でも、大丈夫……だから……」


「あ、そっか……ご、ごめん……」


「……」


 ロコロはそう言うと、離れて行ってしまった。やっぱり、変に話を振るのは良くなかったか……。

 俺は、反省しながら午後の仕事に向かった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「……ん? ケスタ、どうしたんだ?」


 仕事に戻ると、ケスタが、何やらそわそわしているという事が分かった。俺は気になってそう聞いてみた。


「……噂で聞いたんだが、中心街から、有名人がここに来るらしい」


 ……中心街から、有名人?


 俺がその言葉を聞いて一番に頭に浮かんだのは、勇者ディールアだった。

 いや、でも、そんなはずはない……よな?

 勇者パーティがわざわざ、馬車でも中心街からかなり時間がかかる、この場所に来るはずがない、よな……?


「……どうやらその人は、魔法の付与を研究している人みたいなんだ。ただの推測ではあるんだが……間違いない。噂の話からすると、きっと、付与に精通している人だ……」


 ……一瞬血の気が引いたが、どうやらディールアでは無いらしい。


 ……今の俺は本を読んだりして知識をつけたが、わざわざ新しい言語を覚える必要があるからな……簡単な付与もある、という事は学んでから分かった事だし、付与に興味がありそうな様子でも無かったから、おそらく精通はしていないはず。


 ……エルティアとライフィも……おそらく精通はしていない。


 ……よかった。

 だが、その人は、どんな人なんだろうか。

 もしかしたら、何かもっと付与が上手くなるコツを聞けるかもしれない。

 俺は、少し希望を持って、付与を続けたのだった。

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