第2章 14 刺客が来たみたいですよ。
前回のあらすじ:ドーンってしてバーンってなってドラゴンを倒しました。
「……まだ来ない」
カントとベスタが家を出てからかれこれ3時間以上経っているが、一向に帰ってくる気配がない。
俺はお風呂から上がり、熊のようにのそのそとリビングをうろついていた。
それをずっと見ていて、なにか言いづらそうにしていたローナが意を決して声をかけてくる。
「……レント様。そろそろ……えっと、私の視界に支障をきたし始めたので大人しくじっとしていてください」
「その気を遣われている感が逆に痛いですっ!」
もう、いっそのことストレートに言ってくれた方がこっちも傷が浅くて済むのに!!
しかも、なんか遠回しに言ってる感じだけど全然遠回しになってないし! 目障りって言ってるのと全然変わりないじゃん!
「……ローナさんって実は毒舌ですか?」
「私は言いたい事はしっかり言うタイプです」
ローナ、即答。うん、知ってる。気を遣ってくれてるってのも知ってる。本音は全然隠しきれてないけどね。
この人、俺の目利きによると、Sっ気がある。今はメイドだから強くは言えないだろうが、その地位がなければ、喜んで罵ってきそうだ。
世間のおじ様なんかにチヤホヤされそうだ。おおぅ、なんか想像してたらムラムラして……こないな。
興奮はするが俺の息子は当然反応しない。そりゃ、当たり前か。体は子供なんだもの。まだ大人になってないもんね!
その事はまぁいい。それよか、ローナが罵る件についてなんだが……
「……レント様、よからぬ事を思案していらっしゃるのでしたら、全力で中断させていただきますよ?」
「べ、別にそんなことはないですよ?」
想像して興奮してるだとか、罵られたいだとか、別に、そんなことないんだからねっ!
俺はそんなアブノーマルな趣味嗜好はない……はず。
……ないと断言できない自分がちょっと怖いな。
ま、まぁとりあえず、ローナはなにかと勘がいいな。今後注意しておこう。
俺はローナのジト目を見て見ぬ振りをしてスルーしながら、カント達の帰りを待つ。
「それにしても、レントではありませんが、カントさん達遅いですねぇ……」
「ぼ、僕はそんなに心配してないですよ? ちょこっとだけしか心配してないですから? そ、それに、お父様達は強いんですからっ!」
そう、カント達は強いのだ! そんな簡単に負けるはずがない!
カントは毎日素振りだってしてるんだぞ! ベスタは……と、とにかく強いんだぞ!
色々捲し立てながら言い張って、そんなことを考えていると、
「何、子供が意地張ってるんですか。
子供は子供らしく、親に甘えたらいいんですよ。
さっきは、心配くらい、させてください、みたいなこと言ってたじゃないですか? ねぇ? レント?」
キャリルがニマニマとしながらそう言ってきた。
ぐぅ、さっきの俺を殴ってやりたいっ! さっきは情に任せてあんな事を言ったが、普段は俺はそんな事言うキャラではないのだ! そのはずだ!
ま、まぁ、確かに? 家族は大好きだけども? それを恥ずかしいとか思ってはないけど?
ただ、自分が、そんな聞いてて顔が熱くなるようなこと言ってたと思うと……うぅ……
くそぅ、キャリルめ。さっきの腹いせだかなんだか知らんが、ニヤニヤしながらここぞとばかりに俺が言ったくさいセリフを引っ張り出しやがって……
キャリルはやっぱり大人気ない。子供相手に何ムキになってるんだろうか。
とりあえず、さっきからずっと、ん?ん?ってニヤニヤしながらほっぺたプニプニしてくるのがなんかムカつく。
「ねぇ? レント? そういうこと言うのはですね、もっとこう思春期くらいになったぐらいが丁度────」
「……鼻息荒く詰め寄って思春期じゃない子供に大人の階段登らせかけたくせに」
「っ?!」
俺がボソッと言った事に対して、キャリルが予想外の反撃にたじろぎ、ローナがピクッと反応する。
「……キャリルさん? ちょっと、話をしましょうか?」
「ち、違います! 違くないけど大体違いますっ!! 誤解ですっ! 誤解なんですっっ!! あぁっ、レント! なんて事言うんですかっ?! いや、ローナさん? 本当に、本当に誤解なんですぅ!」
「はいはい、続きはお部屋で……ね?」
キャリルの言葉を軽く受け流したローナが可愛く首をかしげて微笑みかける。
すっかり涙目になって青ざめたキャリルはローナに引きずられながら部屋へと入っていった。
物は言いようとはこの事だな。ふぅ、スッキリスッキリ。多分、キャリルは明日まで口聞いてくれなくなるだろうなぁ。
というか、部屋で何をするのだろうか。説教? お仕置き? それとも……
……うん。知らない方がいい事もあるよね。知らぬが仏だ。
一応ローナには後で謝っておこう。かなり本気の目をしてたし。微笑んではいたのだが、目が笑っていなかった。
後始末が怖いので先手を打って謝ろう。言い方が悪かったって言えば多分大丈夫だ。
俺達がそんなくだらないことをして時間を潰していても、カント達は帰ってこない。
どこまで行ったんだろう。すごく遠くまでかな? 帰ってきたら何かあったか? と聞かねば。
……いや、話してくれるか。普通。そのための調査だしね。まぁ、それは帰ってきてからのお楽しみだな。
とりあえず待ってれば、そのうち帰ってくるだろう。大丈夫だ。心配ない。
さて、暇つぶしがてら俺は何をしておこうか……
キャリルとローナはお楽しみ中(何してるかは知らない)だしなぁ。
うーん……あ! 新しい魔法の開発でもしておこう! 暇だしな、やることないしな。
よーし、ってことで部屋に籠ろう!
あのキャリルから貰った応用・改の本も見ながら色んなのを組み合わせてみよっと。
とりあえず、風と火は絶対に組み合わせないでおこう。今度こそ家がなくなってしまう。
本に載ってない組み合わせとか試そう。お湯みたいに出せるかもしれないじゃん?
できたら便利だなぁって感じのやつやりたい。例えば? うーん、そうだなぁ……
…………。
…………………………………。
……思いつかない。思いつくのお湯くらい。俺のボキャブラリーはそんな少ないのか!?
……まぁいい。とにかく、利便性が高いやつだ! 高いやつと言ったら高いやつなのだ!
思いつきはしないけど。そのうち勝手に思いつくか。んじゃ、とりあえず部屋に行きますか……
そう思って部屋に行こうと階段へ向かおうとした時に、玄関のドアが、"ガチャッ" と音を立てて開く。
「ただいまー!」
「帰ったぞー」
あ、やっと、来た。 帰って、来た……!
「お父様! お母様! おかえりなさい!」
俺はそう言ってベスタの胸に飛び込んだ。ベスタがそれを優しく受け止める。
「はいはい、ただいま」
「ちゃんといい子にしてたか?」
「はい! 先せ……師匠と一緒に魔法の訓練をしてました!」
「し、師匠……? そ、そうか。ちゃんと話を聞いてたか? 授業に集中しなきゃだめだぞ?」
「はい! 大丈夫です、お父様!」
俺がニマッと笑うとカント達2人は頬が自然と緩んでいった。俺の武器はまだまだ顕在らしい。
「あら? そういえば、ローナとキャリルちゃんは? どこにいるか分かるかしら?」
「え? あ、その……」
あ、これはどうしよう。多分あの部屋でまだお楽しみ中であろう。まぁ、何してるか分からないけども。
とにかく、水を差すわけにも……いやしかし……
「カント様、ベスタ様、お帰りなさいませ。
お風呂の用意は出来ておりますので、ごゆっくりと」
「うわぉぅっ?!」
「……? あら、いるじゃない。お風呂を沸かしてくれてたのね。ありがとう」
「いえ、これはメイドとして当然のことでございます」
俺の驚きにベスタが首を傾げ、ローナは澄ました態度でベスタの言葉にそう答える。
本当にいつの間に来たのだろうか。なんの音もしなくて急に隣から喋り出したからビックリして変な声出ちゃったじゃんか。
そして、一緒に出てきたであろうキャリルは、ローナの後ろで涙目になりながら顔を赤くしてモジモジしている。
……本当に何やったんだろうか? 凄く気になるんですが。
ああやってキャリルが上目遣いでチラチラとローナを見ているのが一番気になる。顔を真っ赤にして、モジモジしながら。
……本当に何があったんだろう!
カントとベスタがどっちが先に入るか話しながらお風呂場へ向かっていく。
俺がそれを違うことを考えながら眺めていると、
「……レント様。余計な詮索はされない方がよろしいかと思いますよ。世の中、知らない方がいい事もあるのです」
ローナが耳元でそんなことを囁いた。
……ゾクッとした。すんごいゾクッとした。今、心臓がバクバクいって、かなり冷や汗が出ている。
やべぇ、ローナ超怖ぇ! 特に最後にニコってしたのが何より怖い!
本当に何したんだよ! あんた! しかし、探りをいれたらどうなるか……
……考えないでおこう。身の危険を感じる。そして、俺も場合によっちゃローナをキャリルのように見るハメになるかもしれない。
やはり、世の中には知らないことがいいこともあるのだ。
異世界生活5年目、齢5歳にしてそんな事を学んだ。
ま、まぁ、とりあえずカントとベスタが帰ってきたのだ。今はそれを素直に喜んでおこう。ローナのした事? ナニソレキョウミナーイ。
俺がそんなふうに考えている間もキャリルは潤んだ瞳でチラチラとローナを見ているのであった。
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キャリルが新たな事に目覚めて、ローナが何食わぬ顔でしていた家事を終え、俺が魔法はまた今度にしようと決め、カントとベスタがお風呂を上がった頃。
家の中は混乱の渦中であった。
「「「ドラゴン?」」」
「えぇ、ドラゴンよ。私達が知ってるのと少し違うから食べられるか分からないけれど、一応食べられるのなら食料になるし、持ってきておいたのよ」
「運んだのは俺だがね」
カントとベスタが何でもないことのようにそんなことを言って……
「ど、ドラゴンってあのドラゴンですか?!
あの、最強で最凶、凶悪の大陸の王と呼ばれている?!」
「えぇ、さっき言ったように元いた大陸のものとは少し違うようだけれど。手強さは多分ここの方が上ね。
まぁ、初見ってこともあるのだけれど」
再起動したキャリルの言葉にベスタがサラリとそんな事を言い返す。
というかドラゴンってこの世界でそんな風に呼ばれてんのか。なんか厨〇病っぽいネーミングセンスだなぁ。
この世界は何かに名前をつける時には厨〇病っぽくなるのかな? それとも名付けてるやつが厨〇病?
まぁそんなことはどうでもいいか……
あ、よく見れば、カントもベスタもあちこち傷がついている。治癒魔法を使っても傷跡が残る場合もあるらしい。
ふぅん、大陸の王の名は伊達じゃないってか。
「まぁ、いいじゃない、そんなこと。倒しちゃったんだもの。
とりあえず、ローナ。食べられるかどうか、確かめてもらえるかしら?」
「は、はぁ……分かりました。恥ずかしながら、査定させていただきます」
「ありがとう、助かるわ」
ベスタとローナで話がどんどん進んでいく。カントは俺が倒したのに……と少し拗ねた子供のようにぶつぶつ言っている。
そして、俺は話に入るタイミングを完全に失ってただただそのやり取りを見守っていた。
だ、だって、入りづらいじゃん! 話進んでるし! なんか手伝えそうにもないし、話の腰折ったらなんか悪いじゃん?
という訳で色々考えつつ傍観してました。
そんなふうに謎の言い訳をしていると、皆が外に移動を始める。
とりあえずドラゴンとやらを見に行くのだろうキャリルもついていっている。俺も気になるのでついていくことにする。
そして、カントが家のドアを開ける。
その目の前には────
「どうも、初めまして。我は大悪魔のゲイルと申すものである。
貴様らの刺客として来た」
……目の前には自らを大悪魔、そして刺客と名乗る正直な人型の喋る生物がいた。
……これ、ドラゴン?
ここから更に展開していく……!




