第2章 13 忍び寄る魔の……手……?
カントとベスタは違和感の正体であろうそれと対峙していた。
「……ベスタ、後ろから援護を頼む!」
「分かったわ!」
「よし、じゃあ行くぞ! ……おおぉぉぉぉぉ!!!」
カントはそれに向かって走り出す。そして、それの頭を狙って剣を振る。
「……大地に宿りし淡黄の光よ、我が武器となりて現出せよ! 岩砲!!」
カントが剣を振ったと同時に放ったベスタの魔法はそれを目掛けて飛んでいく。
しかし、それは2人の攻撃を軽々と避け、避けた勢いそのまま攻撃に移る。
「ベスタ! 来るぞ!」
「ええ!」
2人は攻撃に移ったそれを見てすぐさま回避の体勢をとる。
「ッッ!!!!」
それは口を大きく開けて叫ぶ。しかし、声は全く聞こえない。確かに叫んではいるのだが、音がしないのだ。
だが、次の瞬間、
「っ!? ベスタ! 避けろ!」
「えっ?」
それは叫んでいるように見えた。だが、違った。魔法を放っていたのだ。
そう気付いた時には遅く、ベスタは大きく飛ばされる。
そして、魔法の効果なのか、あちこちに斬撃のような傷ができていた。
「ベスタっ!」
カントは、飛び立ち方向転換をしたそれを見ながら、ベスタへと駆け寄る。
「おい! 大丈夫か?! ベスタ!!」
「……え、ええ、なんとか……
治癒魔法を……使えば、大丈夫、だと、思うわ……」
ベスタは辛うじて急所に当たるのを避け、受け身を取って勢いを逃がしたようだ。
そして、ベスタは治癒魔法を自分に唱え、傷を癒す。
「……んんっ……ふぅ。もう、大丈夫よ。……それにしても、今のって……」
「あぁ、多分、魔法だろうな」
「魔法、ね……厄介だわね。というか、ここのドラゴンは魔法も使えるのね」
ベスタはこちらを睨みながら牽制しているそのドラゴンを見ながらそう言った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「はぁ……はぁ……」
「……」
「はぁ……はぁ、はぁ……」
「…………」
「はぁ……あ、あの……はぁ、はぁ……ふぅー。
はぁ、あの、無言は辞めてもらえると、嬉しいなーって思ったり、してみたり……?」
「………………」
「………………」
この空気に耐えかねた俺が息を整えつつキャリルに声を掛けるが、キャリルは無言を貫く。ジト目でじーっと無言で睨んでくる。
し、視線が痛いです。なにか新たな感情が……? い、いかん! この感情は感じてはいけないやつだ!
俺は頭をふり、その感じてはいけないそれを振り払う。
「……あの、なんで喋ってくれないんですか? 先生?」
「…………」
あ、なんか視線がより一層鋭くなった。そういや、先生と呼ぶなとかなんとか言ってたな……
どうしよう。なんて呼ぼうか……あ、そうだ。
「あの……し、師匠……?」
「…………あまり、変わらなく無いですか?」
あ、喋った。未だ怪訝そうな顔とジト目は変わらないが。でも、師匠はOKか。よし、じゃ、これでいこう。
「いえ! かなり変わります! 先生と、師匠。これらには似ても似つかぬ大きな違いがあるのです!!」
俺はとにかく勢いで捲し立てる。
「そ、そうですか……
ま、まぁいいです。それで、何かさっきから言いたそうにしてましたが、なんですか?」
キャリルは俺の熱弁に押されたのか一瞬たじろいだ。だが、すぐに本題に移った。
そうだった、本題。師匠が変な意地張ったから忘れてた。
「あ、そういえばそうでした。
いつもチョロ……コホン、いつもとても素直な師匠が変な意地張ったせいで忘れてました」
「……ねぇ、今なんて言おうとしたんですか?
ねぇ? ねぇ? ちゃんと私の目を見てください、レント?」
ちょっと本音がでかかった俺にキャリルが一気に詰め寄る。これ以上の追求は避けたいな。影でチョロいだの、見てくれだけだの言ってるのがバレてしまう。
それにまた話が逸れていく。とりあえず気にしないで話を進めよう。
「いえ、なんでもないです。そんなことより、師匠が家に向かって逃げてそれを追いかけようとした時なんですが、なんか、変な違和感……みたいなものを感じたんですよ。
なんか、気持ち悪いというか、変に落ち着かないというか……
胸騒ぎ……ではないと思いますが、少し嫌な感じはします」
俺はあの変な感覚をキャリルに伝えた。……あ、ローナも聞き耳立ててる。
メイドっていつもあんな感じで悪い貴族の話とかを聞いているんだろうか?
いや、今はこれはおいておこう。
「変な違和感、ですか……
私達はここの土地に来てまだ1日も経ってないですし、知らない事が多すぎます。
その違和感もこの土地、大陸、特有のものかもしれません。
もしくは、いつもは感じる何かを逆に感じていないことに違和感を感じた、とかですかね。
まだ、はっきりとしないですし、レントしかそれを感じていないのでよく分からないですよ。
でも、もしかしたら、カントさん達の所で何かが起こっている可能性はありますね。
……多分、大丈夫だろうとは思いますが」
珍しくキャリルが、授業の時の様に分かりやすく予想を立ててくれた。そうか、カントとベスタに何かが起こってる……
……え? まじで?
「し、師匠! それは本当ですか!? お父様とお母様は大丈夫ですかね?!」
や、やばい、助けに行くべきか……?
いや、しかし何も起こってない可能性もあるわけで……
カント達のところに行くまでは何かが起こっている可能性と何も起こってない可能性の2つの状態が……
あああぁ、落ち着けー、自分でも何言ってるか分からなくなってきた。
と、とりあえず、おち、落ち着かねば……シュ〇ディ〇ガーの猫なんて気にしちゃダメだ。
とにかく、大丈夫なのだろうか、あの2人は……あぁ、落ち着いてる場合なのだろうか。
どうしたら、何か方法は……
「レント様、落ち着いてください。
あの御二方なら、大丈夫ですよ。きっと。
いつも、何かある度に心配してきましたが、毎回何事も無かったかのように帰ってこられます。
なので、信じて待ちましょう。
私は、家族を置いていなくなってしまうような雇い主に雇われた覚えはないつもりでございます」
ローナは落ち着いた、それでいながらひどく力のこもった声でそう言った。
その声にはいつも見ているローナからは感じられないような、信頼と、誇りが感じられた。
ローナは信じているのだ。一切の迷いもなく。
「……ふぅ。ごめんなさい、ローナさん。
落ち着きました。ありがとうございます。
そうですね、僕が信じないと、ダメですね。
……でも、心配くらいはさせてください」
「いえ、礼には及びません。私には勿体ない言葉です。
心配をするな、と言っている訳ではありません。
私も今の話を聞いて気が気でなりません。
ですが、あの御二方はそれをよそに何も無かったかのように帰ってこられます。
なので、信じて、待つだけです」
ローナは優しく微笑みながらそう言った。やはり、ローナは笑った顔が一番似合う。
「……そうですか。分かりました。ローナさん。
少し、いえ、かなり心配ですが、ここは信じて待ちましょう」
俺はローナが信頼を寄せる両親を信じて待つことにした。あの2人なら、大丈夫だ。
いつでも俺を陰ながら見てくれているカントと、いつも優しく見守ってくれているベスタなのだ。
彼らなら、大丈夫だ。
俺はそう自分に言い聞かせながら、体を洗いに風呂場へ向かった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ベスタ、来るぞ!」
「ええ!」
「ッッ!!!!」
ドラゴンが口を大きく開け咆哮を飛ばす。2人は口を開けた瞬間に大きく飛び退き攻撃を避ける。
「……本当にあれは厄介だな」
「ええ、本当にね」
2人はドラゴンの咆哮のせいで攻めあぐねていた。
「なんか方法は……」
「もう、いっその事首から切り落としたいわ」
「それが出来りゃ苦労してねぇよ。
……いや、待てよ。アレ使えばもしかすると……うぉっと!」
2人は喋りながらドラゴンの攻撃を躱し、たまに攻撃を加える。
もちろん、攻撃はドラゴンには当たらないのだが。
当たる時もあるのだが、鱗がとてつもなく固く、剣が弾かれてしまったり、魔法も通用しないのだ。
「……持久戦には持ち込みたくねぇな。こっちがもたん。
……はぁ、しゃあねぇ。ベスタ、アレいくぞ!」
「……! わかったわ。無理はしちゃダメよ?」
「あぁ、分かってる」
カントは少し前に出て、1人でドラゴンと対峙する。後ろにいるベスタはもう既に何かの魔法を詠唱し始めている。
「ふぅ……これ使うのいつぶりになるかな。なまってるだろうなぁ……
まぁ、いいか。こいつを仕留められりゃ」
カントはそう言いながら上段に剣を構え、ピタリと動かなくなる。
それと同時にベスタの魔法が完成する。
「あなた、行くわよ! 身体補助!!」
ベスタが魔法を放つとカントの体が淡く光る。そして、カントの目の色が次第に黒から透き通った黄色にかわっていく。
「……ふぅ、ありがとう、ベスタ。
んじゃ、本番といきますか、ドラゴンさんよぉ!」
そう言うと同時にカントの体がぶれる。そして、ドラゴンが右足から体勢を崩す。
右足の足首辺りがいきなり横にズレた──否、切れたのだ。綺麗に、スッパリと。
ドラゴンが何が起こったのか分からず、急に来た激痛に悶える。
そして、次々と体のあちこちに傷が出来ていく。
「光剣流奥義、精霊の舞踏!」
カントが言い終わると同時にドラゴンの頭が首からずり落ちた。ズシン、という大きな音と共にドラゴンが倒れる。
「はぁ……はぁ……やっぱ、なまってるなぁ、はぁ……」
「あなた! 大丈夫?」
ベスタが心配そうにしながら駆け寄る。
「はぁ、はぁ……あぁ、大丈夫だ。それより、こいつだ」
「そう……よかったわ。これって、死んでる……わよね? 急に動き出したら嫌なのだけれど」
「おいおい、不穏なこと言わないでくれよ……」
レントが聞いていたら、それ絶対フラグだから! と言いそうなことをベスタが言う。
しかし、それは杞憂だったようだ。
「……大丈夫ね。動かないわ。
これ、どうしましょうか。違和感は無くなったし、これが原因で間違いなさそうだわ」
「だな。しかし、姿が見えなかったのはなんでだろうな? 空も見てたはずなんだが。
あと、こいつが使ってきたあの魔法だ。ここでも、魔法があるらしいな。
魔法でなくとも、魔力が動いてたからただの咆哮じゃないはずだしな」
「そうね。このドラゴンの特性みたいなものじゃないかしら?
隠密行動が得意、だとか、魔法を使える、だとか。
それに、そもそもこれはドラゴン、よね……?」
「ドラゴン……だよなぁ。
俺たちの大陸にいたドラゴンに姿形は似てるし。まぁ、炎は吐かなかったけどな。
ベスタに使ってきた魔法は風に近かったな」
「ええ、多分そうだと思うわ。まぁとりあえず倒せたことだし、このドラゴン(仮)を食べられるか持って帰って検討してみましょうか。
食べられるならかなりの量があるし、いい食料調達になるのだけれど」
「……これ、食うのか?」
カントが怪訝そうな顔で訊ねる。
「食べられればね?」
ベスタはいたずらっぽく答える。
どんどんと話が逸れていくのはレントだけではなかったらしい。
とりあえず、ドラゴン(仮)を持ち帰るようだ。
「んじゃ、帰りますか」
「ええ、そうしましょう。じゃ、あなた、それを運ぶのはよろしくねっ♪」
「えっ! ちょ、ベスタ! そりゃないだろう!」
「ふふふっ!」
まるで付き合いたてのカップルのようにイチャイチャしながら、2人は帰っていくのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「なっ……!? アレを倒すか……」
今の戦いをみていたそれは悔しそうにそう呻く。
まるで、影にでも住んでいそうなほど暗く、黒い雰囲気をまとったそれは次の案を実行することにする。
「……次こそ、次こそは……くくくっ……!」
そこに居たはずのそれはもうそこには居らず、元々居たかすらも分からなくなる程薄い印象で、消えていった。
激アツ戦闘シーンって難しい。




