第2章 12 鬼が出るか蛇が出るか
カントとベスタはカントを前にして、落ちている石や岩以外に何も無い大地を、周りを見渡しつつ歩く。
これだけ見渡しが良ければ、遠くから何かが来ても分かりやすいだろう。
しかし、家を出て1時間程経ったが未だに生き物らしい生き物に遭遇していない。
見たといえば先程見た小さな植物くらいだろう。その植物ですら、見つけた所にしか生えていなかったのだが。
「なぁ、ベスタ。これで本当に手がかりが掴めるか……?」
「……あなた? 私も少しそう思っていたのだけれど、口に出したらそれまでだと思うの。」
「あ、あぁ、すまん。つい、な。」
家を出てすぐの時は会話がそれなりにあったのだが、なんの手がかりも掴めぬまま1時間程歩いた頃にはもう会話はほとんど無くなっていた。
その空気に耐えきれなくなったカントがベスタに喋りかけたのだが、ベスタに制されてしまった。
ベスタはいつも、言いたい事はちゃんと言うが、今はいつになく強めの口調で制してきた。
ベスタも少しイライラと焦りを感じているのだろう。
「……1時間ちょっとってところか。ベスタ、少し休憩するか? 大丈夫か?」
少し気まずい空気を何とかしようとどうにか言葉を捻り出すカント。
「大丈夫よ、あなた。
……でも、せっかくだから休憩しましょうか。
ほら、あそこに腰を掛けやすそうな岩があるし。」
ベスタは大丈夫と言いはしたが、カントの考えに気付き、とりあえず休憩することにする。
「わかった。じゃあ、あっちで休憩するか。」
カントとベスタは、体力的にはまだまだ歩けるのだが、流石に無言で歩くのは精神的に堪えたようだ。
2人は近くに座りやすそうな岩があり、そこに腰掛けて休憩をする。
「ふぅ。1時間ちょっとくらい経ったが先にまだまだ荒地が続いてるなぁ。見渡した限り生き物も見当たらないし。
……ベスタ、どう思う?」
「あなたも、何か違和感を感じる?」
カントのどう思う、という問いに対して、ベスタはカントの意を汲みつつ質問し返す。
「あぁ。いくら何でも流石におかしい。
でも、ここは知らない土地で知らない場所だ。その違和感は俺達が感じてるだけかもしれない。」
「そうかもしれないのだけれど、私としてはかなりおかしく感じるわね。
流石に空を飛んでいる生き物だとか、岩場に住んでいる生き物だとかが見つかってもいいと思うわ。」
「だよなぁ。それと、1番の違和感なのは……」
「「静か過ぎる。」」
2人は同時にそういった。
そう、やけに、どころではなく、かなり静かなのだ。本当に気持ち悪いくらいに静か過ぎるのだ。
2人はその違和感を感じていた。
そして、その違和感は2人が既にテリトリーに入っていることを表していた。
「……あなた!」
「っ!?」
カントはその違和感が明らかな殺意に変わった瞬間に頭に向かって振り下ろされた何かを間一髪で避けた。
「あなた!」
「っ……大丈夫だ、当たってねぇ」
ベスタが心配そうに呼ぶが、大丈夫なようだ。
そして、2人はその違和感の正体であろうそれを見る。
「「な……!?」」
2人はそれを見て、一瞬目を見張るが、すぐさま戦闘体勢をとって武器を構えた。
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カント達の会話が途切れ始めた頃、レントは魔法の訓練、もとい、キャリルの授業を受けていた。
「カントさんたち、大丈夫かしら?」
「先生! お父様達ならきっと大丈夫だと思います!
僕の勘なのですが、多分お父様とお母様は元冒険者だったのだと思います。」
俺はキャリルに大丈夫と言いつつ、俺の推測を話す。まぁ、推測と言っても多分当たっているだろうが。
「えっ!? そうなんですか!?」
「い、いえ、多分、ですよ?
それと僕の勘です。実際はどうかは知りません。
でも、じゃないと騎士だったとかお城で雇われていた魔法使い、とか以外に剣を振るったり、ロッドを使い古したりしないと思います。」
でも小心者なので、保険は掛けておく。その辺に抜かりはないのだ。小心者なので。
「な、なるほど。騎士様や、お城で雇われている……のは宮廷魔法士、というやつですね。
その可能性が低いから冒険者という説が有力だ、と。
……それにしても、レントはよく観察しているのですね。しかも、色々なことを知っていますし。」
「えっ、いや、そんなことはない、ですよ……?」
「ふーん、そんなことはない、ねぇ?」
キャリルがジト目でじーっと顔を見てくる。か、顔が近いです、先生。
俺はただ前世の記憶があって、その前世がニートのろくでなしだったってだけのただの5歳児です。
しかし、この事は死んでも言えないので、とにかく適当に誤魔化しておこう。
唸れ! 俺の脳みそ! フル回転だ!
「ほ、本とかで見たことある程度ですよ! 僕のお家にある本は優秀ですからね!」
……これは苦しいにも程がある。苦し紛れの言い訳とはまさにこの事ですね。
この言い訳はあのキャリルでも流石に……
「そ、そうなんですか。レントの家にはそういった本があるのですね。」
……キャリルはチョロかった。
なんか月毎にチョロくなっていってる気がしていたが、まさかここまでになっているとは……
まぁ、とっても素直ってことにしておこう。キャリルはチョロくなんかない! 素直なだけなんだ! 多分。
「そ、それより、先生! ここの荒地なら、上級魔法を撃っても大丈夫なんじゃないですか?」
これ以上の追求とキャリルがチョロくなり過ぎるのを避けるために話題を逸らす。
「……そうですね、これだけ広いなら問題ないと思いますよ。
では、今から、少し門の外でやりましょうか。」
「はい!」
多少強引だったせいか、キャリルが少し怪訝そうな顔をしたが、俺の話題にとりあえず乗っかってくれた。
やったね! 話題逸らし成功!
そして、中級魔法と中級の混成魔法をやり続けるのに少し飽きてきてたから丁度いいな!
そう思いつつキャリルについて門の外に出る。それから、五分程歩いてある程度離れた場所で止まった。
近いと家が危ないのだろう。そのまんまの意味で。
「……この辺でいいでしょう。離れすぎるとローナさんが心配ですからね。」
キャリルはそう言って、ふぅ、と一息ついた。
なるほど、そっちの心配もあるな。遠すぎず近すぎずってやつですね。
「では、私が得意な水属性の上級魔法、白銀世界を教えます。
今から、私が使うのでそれをちゃんと見て、聞いて覚えてください。いいですか?」
「はい! 先生!」
「よろしい。では、行きますよ!
……我が身に宿りし蒼き光よ、かの大地を白銀と成し、その力を世界に知らしめん! 白銀世界!!」
一瞬にして、俺と先生の周りの温度が下がった。
そして、目の前を見ると、
「…………すげぇ。」
つい、いつもの口調を忘れて、普通の口調で言ってしまった。それぐらいに、凄かった。
「どうでしょうか、レント?
この魔法には私は自信があるんですけど……」
どうやら、キャリルには聞こえていなかったらしい。
そして、何も言わず呆然とする俺を見てちょっと不安になったのだろう。
「……す、すごいです、凄いですよ! 先生!」
「そ、そうですか? あ、ありがとうございます。」
俺が興奮して急に前のめりになって先生に言ったから少し驚いたようだ。
でも、一応褒めてもらって嬉しいようだ。また髪の毛をクルクルしてる。
いやしかし、これは凄い。本当に。白銀世界とはよく言ったものだと思う。
魔法を使った辺り一面凍っているのだ。これは是非とも使えるようになりたい魔法だ! あ、実用的な意味でだよ? 宴会芸とかそのレベルではなく。
「で、では、レント。
私がやったようにしてみてください。
無理はしないでくださいね? 上級魔法になると中級魔法と比べて扱いがかなり難しくなり、ま……」
難しくなりますから、そう言いかけたキャリルは目の前の光景に絶句していた。
「……で、できちゃいました。テヘっ☆」
「……な、なんで出来るんですかぁぁぁっ!!」
キャリルは涙目になりながら俺に食ってかかる。いや、そう言われましても……
というより、
「ちょっ! 先生! おち、落ち着いて下さいっ!
揺さぶらないでください! ちょ、やめっ!
やめてくださいっ!!
じゃないと、ローナさんに先生にいけない事されそうになったって告げ口しますよ!」
ローナが肩を掴んですごい勢いで揺さぶって来るのでそれを止めるためにこっちもすごい勢いで宥める。
「なんででき……えっ!? そ、それはやめてください!
なんで私が告げ口されなくちゃならないんですか?!」
俺が脅……宥めると、キャリルは一層涙目になりながらも、慌てて手を離して落ち着きを取り戻した。
「はぁ……まぁ、なんとなく分かってましたけど。なんかできそうだなぁ、とは思ってましたけど。
これは、とても、釈然としません。先生、理解、できません。意味、分からないです。」
……なんか結構言われてる気がするんですが。そして何故カタコトに?
「いや、理解できません、って言われましても。
出来ちゃったんですし。確かに、魔力の制御に工夫が入りますが、そこまで複雑ではないと……」
「あぁー聞きたくなぁーい! あーあーあー! もうそれ以上言わないでください!
嫌味ですか! 嫌味なんですか!もう、なんなんですか! 本当に意味分からないです!」
あ、とうとう壊れたのか、なんか子供っぽくなった。地団駄踏みながら俺に文句を言ってくる。
「私なんて、私なんて! 2年ですよ! 2年かかってようやく、使えるようになったのに!
なんで、1回見ただけの1発目で……」
……あ、あぁ、そういうことか。なんか悪いことしたな。なんか本当に泣きそうになってる。
てか、2年もかかったのか。いや、それが普通なのか? もしかしたら、2年でも早いのかも……?
……いや、まじで悪いことしちゃったかも。
「はぁ……レント? もう、私の事先生とか言わないでください。それすらも嫌味に聞こえてきますよ。
じゃないと私……田舎者のくせにとか、魔法しか脳の無い変人とか言ってしまうかもしれないですっ!!」
……あ、逃げた。すごい勢いで捲し立てたと思ったらキャリルが走って家に逃げていく。
どうしよう、取り残されちゃう。
これは追いかけないとな。多分もう授業は中止だな。よし、じゃあ、追いかけ……って、
「速っ!?」
ちょっ、キャリルさん、速くないっすか!? キャリルはグングン離れていく。
やばい、これは本当に取り残されちゃう!
なんでそんな全力で走るんだよ! 普通俺が追いかけて追いついて声を掛けて宥めて、キャリルが、「レント……! ありがとうございます!」みたいなシチュエーションじゃないの?!
「せ、先生!? 待ってくださ…………?」
こっちも全力で先生を追いかけようとして、俺は止まった。なんか変な感じがしたのだ。
なんというか、気持ち悪いというか、落ち着かない感じというか。そう、違和感がした。
俺は辺りを見回したが、その原因らしきものは見当たらない。
変に思ったが、キャリルがすごい勢いで遠ざかっていたので、慌てて追いかけた。
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レントがキャリルを全力で追いかけていた頃、パルス村では────
「なっ!? こ、これは一体……?!」
ロールズは畑で取れた野菜をおすそ分けしに行こうと仲のいい隣人のカントの家まで来たのだが。
「家が、ない……?」
そう、そこにはあったはずの家がなく、綺麗な更地になっていた。
「ど、どういうことだ……? 引越したのか? いや、でももしそうなら家ごとなんて……それに、俺に一言くらい言わないか……?」
少しズレたことを考えつつもロールズは今の状況を皆に伝えるために家へと戻る。
「おいっ! レイン! 大変なんだ!
カント達の家が……無くなってるんだ!」
「……あなた? 日頃私にからかわれるからっていくら何でもそれは雑すぎない?」
レインはジト目で呆れたようにロールズを見る。そして、じーっと数秒間見つめていると、
「いや、そうじゃなくて、本当に!」
「……?」
ロールズのいつもとは違う雰囲気をレインは少し変に思う。
「とりあえず、来てくれ!」
「わ、分かったわ。」
ロールズがあまりにも真剣そのものなので、少し気圧されつつもロールズについて行く。
そして、
「……えっ……」
その光景を目の当たりにし、レインの思考は停止してしまった。
「だから、言ったろう? 家が、無くなってるって。」
「ねぇ、ママ? レント、何処かに行っちゃったの……?」
リンシエルが不安げな顔をしてレインの裾を引くが、レインは驚きが大きすぎたせいか、反応がない。
その日、ロールズ一家、そしてパルス村が騒然とした空気に包まれたのであった────
ちなみに、キャリルの得意発言は水属性の上級魔法の中で白銀世界が1番得意という意味です。
そして、パルス村でも騒ぎが……!
どうなることやら……




