第2章 10 そんな話聞いてないよっ!
何か、不思議な夢を見ている。いや、見ていると言うより、感じている、という方が正しいだろうか。
なんだろう、フワフワと中に浮いている感じが身体中にある。しかし、身体は動かない。
一度、似たような感覚を味わった事がある気がするが、それが何かは思い出せない。
ふと、意識が浮上する────
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
んぁぁ……なんかかなりよく寝たなぁ……
外にはもう朝日が登っている。ほら、あんなに綺麗な太陽が2つも……そう、2つも…………
「……え? 2つ?」
えっ、あれ? 確かこの世界も1つだったはずじゃ……?
俺は急いで椅子を持って窓に寄り、ゆっくり登ってから窓を勢いよく開ける。
そして眼下に広がるのは……
「これ……海、か……?」
そう、家は断崖絶壁に建っていてすぐ下には薄い赤色に染まった海(だと思う)が広がっていた。
「なんだ、これ……」
俺は内心かなり焦っていた。朝起きたらいつもと外の様子が違うからだ。こんなの焦るに決まってる。
しかし、その焦りの中にもわずかに冷静さが残っていた。俺がそこで捻り出した答えは……
「……そうか、これは夢だ」
うん、これは夢だ。ほら、だってあれじゃん? 転生からの転移とかラノベでも聞いた事ないし?
まぁそもそも読んだことあるラノベの数なんてたかが知れてるけども。
……よし、もっかい寝よう。そして目が覚めたらもどってるっていう鉄板のあれだろ。
てことで、おやすみ……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
……全然眠れねぇ。なんだよ、これじゃあ戻れねぇじゃんかよ。
くそぅ、どうしよう。この夢どうやって覚まそうか。そうだ、とりあえず下に降りてみよう。
夢だったらいい所で起きるっていう某法則があるもんな。よし、行ってみよう!
……あ。それ以前に、夢の中でのお約束があるじゃん。
ほら、ほっぺたつねって痛かったら夢じゃないとかなんとか。
でも、これは流石にベタすぎて、ねぇ……
……よし、下に行こう。そんなお約束なんて関係ない。
自分に言い聞かせるように先程の考えを頭の隅に追いやり、俺は部屋のドアを開けて下に降りる。
リビングにいつもはカントやローナ、キャリルとかが居るのだが、まだ眠っているらしい。キッチンにもベスタの姿はない。
ということは皆はまだ寝ているようだ。つまり、この状況を把握しているのは俺だけか。
無駄に壮大な夢だなぁ。早く覚めろよな。これ、いい所つってもどこがいい所になるんだろう。
あ、でも夢だから勝手に場面変わったりごっちゃになったりするから、いつの間にかいい所になるだろう。多分。
俺は肩を落とし、ため息をついて部屋へと戻った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「いや、おかしい」
俺は流石におかしいと思い始めていた。夢にしてはかなり長い。目が覚めない。
急に前前前世から僕は〜とかBGM流れないよな……?
誰とも入れ替わってないよ? さっき確かめたし。
………………。
「はぁ……そろそろ現実逃避やめるか」
俺はため息をついて、遂にこのありえない夢に終止符を打つことにした。
うん、知ってた。知ってたんだよ、うん。夢じゃないかもって最初から思ってた。
でも万が一、って思った。しかし、希望的観測がすぎたみたいだ。
てか、平穏に暮らそうって考えてたのに、この仕打ちはないんじゃないかな?
……あれ? なんか今置かれてる状況を考えててたら、焦りより苛立ちの方が強くなってきたんだが。
おい、どうしてくれる。俺の異世界ファンタジー。いや、ここも多分異世界なんだろうが。
じゃあ、俺の平和な面白おかしい異世界ファンタジーをどうしてくれる、の方がいいか。
とりあえず、気休めに窓から外をもう一度見回してみて見ることにする。
そう考えて、窓の外をもう一度見やり──
「……うん、ここ、どこ」
結果は変わらなかった。どうやら転生5年目にして異世界に転移したらしい。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
皆が起き出してきて、各々いつものように朝食をとる中、
「レント、その話は本当か?」
「はい、お父様。多分そうだと思います」
ローナの作った朝食を食べながら、カントと話をしていた。ちなみに、朝食はベスタと交代制だ。
「へぇ、そうか……って納得できるかっ!!」
そして、カントにツッコまれた。なんて理不尽な。
俺は起きてきたカントに今の状況を伝えてみた。だが、信じていないらしい。まだ外をちゃんと見ていないようだ。いい朝だなぁ、みたいな感じで見ないのだろうか?
それにベスタとローナも俺の話に耳を傾けていたようで、二人も、信じてはいないようだ。
「では、お父様! 外に出てみてください!
ちゃんと太陽が2つあって眼下には薄く赤い色をした海が……」
「レント、からかうのも大概にしなさ……」
「うおっ!?」
俺が言おうとしたのをベスタが遮ったのだが、その遮ったベスタの声を遮ってカントの声がリビングに響いた。
「……どうしたの? あなた?」
「えっと……本当に、太陽が二つあるぞ……?」
「えっ?!」
ベスタが目を見開いて驚く。いや、本当ですよ? お母様?
「カント様、お戯れなら怒りますよ?」
「いや、本当だって……」
ベスタは驚き、ローナはカントをジト目で睨むが、カントが嘘をついているようには見えない。
二人が不承不承という感じで外に出る。
「「っ!?」」
外に出た2人は絶句していた。
レントが言った通り、太陽が2つあり家の裏手は断崖絶壁になっており、その下には赤い海が広がっていたのだから。
「お母様、ローナさん。本当だったでしょう?
多分ですが、マイカス伝記に載っていた転移というやつだと思います。
ここがどこかを知る必要がありますが……」
俺はここまで言ってふと気が付いた。そして、辺りを見渡す。
……ここ、周りになんもねぇじゃん。
庭と家の門はある。いつも見ている庭と門である。が、しかし、その先は荒れた大地がずっと奥まで続いていた。
えっと、詰んでないか、これ。後ろ海で前はどこまで続いてるか分からない荒野。
この状況をどうしろと……?
「皆さん、どうしたんですか……?」
今起きてきたのか、寝間着姿のキャリルが眠たそうに目を擦りながら外に出てきた。
そして、
「っ!?」
ベスタ達と全く同じ反応をした。予想通りではあるんだが、その反応しないとダメとかあるのだろうか?
「こ、これは……?」
「私達が聞きたいわよ、そんな事……」
ベスタが力なく答える。
皆はまだこの状況を飲み込みきれていないらしい。
いつも落ち着いているローナでさえ慌てているように見える。ちょっとレアだな、この光景。
そしてカントに至っては、外に出てベスタ達に喋ってからずっと口を開けたまま固まっている。
まぁ、ここは先に状況を知っている者として皆を落ち着かせてあげよう。
「……皆、落ち着いて下さい。
さっきも言ったようにマイカス伝記に載ってたやつだと思うので、多分どっかの大陸に……」
「いえ、そもそもどこの大陸でも太陽は1つのはずよ……」
あ、さいですか。どうやら俺では皆を落ち着かせるには力不足のようだ。そして、ようやく復帰したベスタがそんなことを……
……まじか。どうしよう、今ので異世界転移説が有力に……
「だ、大丈夫だ、お前ら。お、俺がど、どどどうにか、し、ししてやる」
カントが噛み噛みで感情があんまりこもっていない声でそんなことを言った。
カントはまだ戻ってきていないらしい。
「……ここは、異世界、ということになるんですね」
ベスタの次に復帰を果たしたローナが落ち着いたような声で言った。顔はかなり引きつっているが。
「あの……これから、どうなるのでしょうか……?」
キャリルがポツリとそう零した。
……そんなん俺が聞きたいわ!
急展開とか知りません。そんなの知ーらねっ。うん、絶対謝りません。
ちなみに某法則とはあるあるネタの法則です。




