たどりついた世界
さて、その頃三人はどこへ出たかというと……
それでは、どうぞ
―――――――――――――――断章―――――――――――――――
Side:三人称
少女と危険な少年たちの喧嘩はわずか短時間で決着がついた。
それは見るよりも明らかとなった。
「はぁ……はぁ……はぁ……あと一人……」
「お前……なかなか強いな……」
喧嘩の結果、少女は危険な少年たちを巨体な少年を残して全て倒したのだ。
これには巨体な少年も驚いた。
「当り前よ……こっちは、差別ばっかりするバカな男たちに勝つために日々鍛え上げているんだから……」
「そうか……」
すると巨体な少年は構えをといて、床に伏せた少年たちを全て抱え上げた。
もう戦う気はないという事である。
「だったら好きにするがいい。あそこの少年は感謝しないだろうがな」
「そんなの知ったことではないわ」
「そうか……」
巨体な少年は呆れるように息を吐くと少年たちを抱えて行ってしまったのだった。
もう襲ってこないだろう、そう確認した少女は怪我をした少年の元に駆け寄る。
ぼろぼろの状態だと言うのに少年にはまだ意識がある。
「ねえ、あんた大丈夫なの!? 死んだりとかしないの!?」
「…………」
少女は少年に対し苛立つ気持ちはあるが、まずは怪我のことについて心配をした。
ただでさえ擬似雪が降る中だというのにこんなにも血を流せば自殺行為である。
いや、むしろ少年はそれを望んでいるかもしれない。
現に……
「おい……助けろとは……言ってないぞ……」
「!」
少年の突き放すような言葉……
その一言が、決定的だった。
「この…………!」
少女は相手がけが人でも構わないくらい思いっきり拳を引くと、
「馬鹿!!」
ドゴッ!!
「…………かはっ!」
少年の腹部に固い拳が突き刺さるように入った。
少年は浅い呼吸から突如息を大きく吐かされる。
それと同時に少女は睨みつけるように少年を見て言う。
「あんた……まさか死にたいと思っているわけ……?」
「そう、かもしれないな……」
「…………っ!」
少年の言葉がますます少女の怒りを駆り立てる。
「なんでよ! なんでそんなバカなこと考えるのよ!!」
「…………」
少年にとってはまったくの意味不明であった。
今あったばかりの少女になぜこうも怒られなくてはならないのか。
自分自身の事ゆえに放ってほしいと思う。
だが、少年は見た通り目の前の少女は融通が利かなそうだと思ったため、話すことにした。
「……お前は、この都市がいいところだと……思っているのか……?」
「なんですって……?」
「なんの目標もなく、なんの努力もなく、ただ生かされるだけの人たち…………けど、それは神様がいろいろなものを与えているから…………なんの不満も不足もないんだ…………」
「?」
どういう事だろうか。
突如自分の事じゃなくこの都市のことについて話し出した少年に少女は怪訝な顔になる。
だが、少年は構わずに続ける。
「けど、なんの不満も…………不足も起こさないこの街で…………自分から命を絶つ人間がいるってことに…………オレは気づいた…………」
「!?」
「原因は…………他人を傷つける言葉と…………他人を拒絶する言葉だ…………ははっ…………なにが不満も不足もない、だ…………平気で人の心を傷つける人間が、オレの周りにはたくさんいたじゃないか…………!」
「…………」
少女には心当たりがあった。
かつて女だからという何の根拠もない理由で父親からひどいことを言わされたこと。
ほかにも、近くの女の子が男の子に差別するようなことを言われたこと。
確かにこの都市でも人を傷つける言葉は存在する。そして、あからさまな奴じゃない限り天使は動かない。
「オレも…………他人の心を傷つける人間の一人だった…………この都市はそれを正さない…………自分で気づかないといけない…………でも、もう…………遅かった…………」
「…………」
少年はどこか懺悔するように言った。
少女にとってこの少年はなんなのか知らないし、だからと言って傷ついた体のまま放っておくわけにはいかない。
だから……
「……あんたの話、少しわかる気がするわ。でも……!」
「!?」
「続きはあんたの怪我を治してからにするわ! 話はそれからでもいいんでしょ!!」
「ああ…………勝手に、しろ…………」
少女におぶされた少年はそのまま意識を失ってしまった。
少女は自分の背中が血で汚れるにも関わらず、少年をおぶってとりあえず治療してくれるところへと行ったのだった。
反逆者の主要人物、シアンとイエローの出会いであった。
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Side:藍
さて、次元の穴で大事なことを話した後、何もないところを抜けると……
「……なんじゃここは?」
「さあな」
「……見えないわね」
真っ暗で何も見えないところだった。
どこだここは?
「マゼンタ。一応次元の穴は抜けたはずだよな?」
「そうだな。穴から出たことは間違いないようだが……」
と、近くでマゼンタがごそごそと動き出す気配がした。
周りを探っているのだろう。すると……
「……暗いだけじゃない。壁が近いうえに空気の流れが感じられない。それに床も壁も土ばかりだ」
オレや音からしてイエローが動き出さない中、マゼンタは周りの所を手探りで探っている。
「……ここはどうやら洞窟、それも光が差さないところを見るとかなり奥だな」
「……おいおい、森の次は洞窟かよ」
「という事は……いや、どこ?」
しっかし本当に何も見えねえ。
これじゃあうかつに進むことができねえじゃん。
「マゼンタ。明かりをつけることはできないのか?」
「無理だ。燃やす媒体がない以上火は点けられないし、そもそもうかつに火は点けられない」
「そうか……」
見えないせいで進めない。
だったら……
「イエロー。マゼンタ。オレにつかまれ」
「シアン?」
「シアン。何をするつもりだ?」
オレは右手にマゼンタの、左手にイエローの手を掴んで正面へと向いた。
「視覚が頼れないなら他を使うまでだ。【超音波探知】!」
「「!」」
オレの口から出た特殊な音波が目の前の地形に反射しオレの元へと戻る。
……なるほど。
「よし、お前等オレから手を離すなよ」
「シアン、あんたここからどう進めばいいのかわかるの?」
「まあな。ここはとにかくオレに任せろ」
オレは音波を出し続けて地形を把握しつつ、慎重に前へ前へと足を進め続けた。
途中足元に岩があったり壁があったりするのを感知しつつ気を付けて先へと進み続けた。
その途中。
「ノワール。おい、ノワール」
「どうしたのよマゼンタ」
「いや、さっきからノワールを呼んではいるのだがまったく返事がしない」
「別にいつもの事なんじゃないの?」
……お前等、いくらオレが今話せないできない状態だからってそれはないんじゃないの?
「まあ確かにこの世界もどんなところか気になるけど、まずはこの洞窟を抜けてからだろ?」
「それはそうだが、この先いったいどんな事態が起こるか全く予想ができない。なにせこれまでもそうだったからな」
「ええ……たしかにそうね」
オレたちは慎重に洞窟内を歩きつつ、話は続く。
「魔法なんて不思議な現象とか、ロボットなんて奇妙な機械とか、竜なんておっかない生き物とか、行く先々新しいものばっかりだったからね」
「そのたびにオレ達はいきなりひどい目に遭うんだけどね……」
暗殺されかけたり誘拐されたり変な疑いをかけられたり……
出だしは決まってろくでもないことばっかりだったし……
「シアン。俺たちはよその世界から来たよそ者だ。異物に対して警戒することは無理ないだろ」
「それはそうだけど……」
「と言うか、そもそも最初に暗殺者に殺されかけたのはお前から首を突っ込むからだろ」
な……!?
い、言われてみればそうだけど……!
「べ、別にああでもしなければリヴィアやラヴィニスが殺されるかもしれないからだろうが!!」
「まあそうよね。それにリヴィアちゃんがいなければあの森抜け出せられなかったし」
「……本当に行く先々ろくでもないな」
もっとも、初めから反逆を起こした時点でいろいろと覚悟はしてたつもりだが、さすがに予想外過ぎたね。
だっていきなり異世界へ飛ばされるって予想できないじゃん。
「でもさシアン。あんたはどうするつもりなの?」
「え?」
「リヴィアちゃんの事よ。告白されたんでしょ?」
「…………!?」
こ、告白…………!?
え、えっと……やっぱりあれ、告白だったのかな……?
そ、そりゃあ確かに妙にしおらしい雰囲気だったし顔もちょっと……あれだったけど……
けどマゼンタのせいではっきりと言葉では聞けなかったし……
「必ず帰ることは約束した。でも、もう一つあんたはあの子に対して応えなくちゃならないことがあるでしょ?」
「それは……」
「だから先に訊きたいの。シアン、あんたはいったいリヴィアちゃんのことを……」
…………?
「……いや、待て」
「なに?」
「シアン?」
……………………?
「…………」
「シアン、急に足を止めてどうしたの?」
「…………」
「おい、シアン」
……あれれ?
おかしいな……
「イエロー、マゼンタ。オレは先ほどまで跳ね返ってくる音波を頼りに先へと進んでいたんだけど……」
「うん」
「それがどうした」
信じられないな……
いや、信じたくないんだけど……
「今、すぐ目の前に心音が聞こえてくるのだが……」
「…………え?」
「それも……かなり大きい上、人型じゃない」
獣か?
少なくとも人間じゃあないんだけど……
「……それじゃあシアン。その目の前にいる何かは今どうしているの……?」
「それは……」
それは……
「静かな状態から動き出そうとしている。おそらく今眠りから目を覚まそうとしている」
「「…………」」
すると目の前にいる大型の何かは、口を思いっきり大きく開ける。
ということは……
「グァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「…………!」
「…………!」
「…………」
はあ……まったく……まったくもって……
「なんでなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「!?」
「シアン!?」
「なんでいつもいつも出会い頭にろくでもない奴ばっかりなんだよ!? 暗殺者といい鉄の箱といい凶悪な肉食竜といい、まともな出会いはないのかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「マゼンタ! シアンの奴なんかどうにかしちゃっているんだけど!?」
「シアン、落ち着け! 下手に力を使えば生き埋めになるぞ!!」
だから嫌なんだよ!!
よりにもよってこんな出会いなんかほしくなかったよ!!
「マゼンタ! じゃあどうすればいいってんだ!!」
「とにかくここはいったん退く! どこか安全な場所へ移動してからだ」
「ちくしょう、ここまで進んだのに…………!」
というか撤退したって安全な場所なんか…………!
「その必要はねぇぜ」
「「「!?」」」
え…………?
「グオォ?」
「はっ! 邪魔だ、どけぃ!」
ドゴッ…………!!
「グアァ…………!?」
「悪ぃな」
…………!?
反応が……消えた……!?
倒された……のか?
ってか、誰…………?
「ようこそ、挑戦者の諸君」
「?」
挑戦者?
「俺様が迎えに来てやったぜぇ」
「いやだから…………誰?」
オレはこんな声に聴き覚えはないし……
マゼンタも知らないようだしイエローだって……
「いや……なんで……いや……!」
…………ん?
「イエロー? おい、イエロー?」
「どうした、イエロー」
「なんで……なんで…………」
イエロー……?
なんか震えているんだけど……
「なんであんたがここにいるのよ!?」
「はっ! その声はお前か。久しぶりだな」
え、え……え?
し、知り合い?
「四輝天使が一翼、〈樺地〉のジョヌ!!」
…………え?
「なに?」
え、ちょっとまって……?
四輝天使? それも出会い頭に…………?
しかもこの状況で……
「はあああああああああああああああああああ!?」
「…………!?」
――――――――――しばらくお待ちください――――――――――
Side:黄
……ありえない。
…………いくらなんでもこれはありえなさすぎる。
「本当にお前について行けばこの洞窟を出られるのか?」
「あぁ。間違いないぜ」
「俺たちをここで倒しておくつもりはないのか?」
「はっ! そんなつまんねぇ真似して勝ちを取るつもりはねぇ」
……今、あたしたちはこの真っ暗闇な洞窟の中、あの忌々しい天使ジョヌの案内により出口へと目指している。
念のためにシアンが音で罠とかないか探しているようだけど今のところ問題はないようね。
それは当然だ。ジョヌ……あいつは何かと楽しむとか楽しいとかそんな言葉を連呼するような男だ。
「そういやぁさっきからイエローの奴なんも話さねぇが大丈夫かな?」
「ああ、イエローならちゃんとオレと手をつないでついてきているから問題ないが……」
あたしは……嫌よ。
こんな奴と話すことなんかない。
「はっ! お前ぇまだあのことを引きずっているのか? まったくすぎたことぉグダグダとよぉ……」
「…………!」
あんたに言われたくないわよ…………!
「確かお前、俺やシアンがイエローと別れていたころ、お前は緑天使と同じ神の規律に違反してイエローに会い、そのまま戦ったそうだな」
「ああ。少々違う所があるがまぁ大体はそうだな」
「ならばなぜ今になって同じことをする。あの緑天使はブルーに強制的に帰らされたのだ」
そう、よね……
この天使またしても平気な顔(見えないけどそんな感じ)して同じことを……
「答えは簡単でぇい。それはこの世界がお前ぇらにとって最終目的地だからでぇい」
「「「!」」」
…………え!?
最終目的地って……
「まさか……」
「そうだ。おめでとう、とうとうお前ぇら挑戦者は無事見事にここまで戻ってこれたってわけでぇい」
「じゃあ、この洞窟はいったい……」
シアンはいまいちわかっていないようだけど……
まさか……
「外の……世界?」
「!?」
「はっ! ご名答」
正確には外の世界のどこかにある洞窟ってことだけど……
「かつて人間共が様々な理由により争い、殺し合った地、その中の洞窟に今いるってわけでぇい」
「……ということはこの洞窟を抜けた先は……」
「ああ、お前ぇ等が知らない、初めての都市の外ってわけでぇい」
都市の外……
いったいどういう所なのか全く想像できない。
いや、話からして結構荒れ果てていると思うんだけど……
「お、そろそろ出口が近いぜぇ」
「!」
角らしきところを曲がると、向こうから光がさしかかっているところが見えてきた。
あれは……
「そろそろ外か……」
「おうおう、ようやくこんな暗いところから解放されるぜ」
「はっ! まったくでぇい、お前ぇ等の顔が見えねぇもんだからなあ」
……あんたらなんか意気投合してない?
しているよね、なんで敵であるこんな奴に?
それに顔が見えないなんて別に大したことは……
「だが、ここから先の光景はよく見ておくことだ」
「え?」
ここからって……洞窟を抜けた先の事?
「神を憤らせるほど、人間共の不要な争いによる変わり果てた世界ってぇのよお」
「…………!」
「!?」
「…………」
変わり果てた世界……!
「そして教えてやる。神が何を思って人類管理をし出したかな」
「…………!」
ジョヌにそう言われると、あたしや……いや、シアンもマゼンタも同じように緊張した様子が伝わる。
この洞窟を抜けると見えるんだ。五十年前の戦争によって荒れた外の世界が。
いったいどれほどのものなのか……
緊張する気持ちを自覚しつつ、あたし達はジョヌの後ろをついて行くように暗い洞窟の中に差し込む光を抜けた。




