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コンプレックスな反逆者たち  作者: ゾンビ―鈴木
第三章・竜と狩猟の世界編
91/114

アユムの事情

突然ですが、数話前の回想の続きです。

それでは、どうぞ

――――――――――シアンが聖地に留まっていた頃――――――――――


  Side:歩


 おいおい、なんだよここは。

 なんか巫女シャーマンの住んでいる家と言うとなんかそれっぽいものを想像したけど……


「想像通りすぎるだろ…………」


 このやしろって所は、玄関の部屋とさらに奥へ続く部屋がある。

 が、この玄関の部分がすごい。


 部屋中に焚かれるは、まともに嗅いだら鼻が可笑しくなりそうなほど大量のお香。

 壁や床や天井には文字のようなものが刻まれていて……正直怖い。

 しかも周りには見たことがないさまざまな動物の、骨のようなものから肉のようなものまで……


 長老の許可を得て入ったはいいが入り口からしてすでに混沌カオスなんだけど……

 今の状況じゃなけりゃ自分から入りたくないんだけど……


『どうしたの坊や。おいで……』

「!?」


 おおぅ……いかんいかん。

 ぼんやりしてたら向こうから呼ばれちゃったじゃん。

 けどぼんやりするよね。こんな燻製でもしそうなお香の中じゃあよ。

 だってこれ煙で見えないもん、向こう。


「けど今の結構かわいい系の声だったな……」

『え……?』


 あ、やば!? 聞こえたか……!


「い、いやなんでもない! すぐ行く!」


 おれっちは気が変になりそうな部屋から急いで抜けるように奥の部屋へ続く扉を開けて中に入った。

 その中は……


「…………暗い」

「あら、御免なさいね。わたし、光が苦手だから……」

「…………?」


 奥の部屋はどうもお香は焚いてないようだが……

 暗すぎて前が見えねえ。


「あら……随分かわいいお客さんね」

「…………?」


 どうやら巫女さんの方はすでに暗闇から目が慣れているためおれっちのことが見えるそうだ。

 けど……


「あの……明かりは点けないのですか?」

「……御免なさい。さっきも言ったように、わたしの身体は光に弱い体質だから……」

「光に弱い?」

「ええ。正確には日光を浴びると肌が荒れたり、色が変わったり、ひどいことになるの」


 ……そうか、それは仕方がないな。


「ってかそれって病気じゃん。大丈夫なのかよ」


 光を浴びると大変なことになる体質?

 ってことはもしかして、こんな暗いところにずっと引きこもっているの?


「…………ふふっ。そんな風に素っ気なく返されたのは初めてね」

「……え?」


 いや素っ気ないって別に……

 何と言うか、なんて返せばいいか戸惑ったくらいで……


「他の皆なら大げさに哀しそうに同情するだけよ。わたしはそんな風に返されるのは嫌なのよ」

「はあ……」


 あ、でもあまり悪印象もたれなかったから結果オーライか。

 っと、暗闇に目が慣れてきたか、そろそろ目の前て笑っている巫女さんの顔が見え……


「…………!?」


 ……なん、と…………!

 見えてきたのは、息をのむほどに美しい少女の顔だった。

 暗闇の中でもわかるほど肌は白く、さらには髪も白く、そして澄んだ瞳に儚さを感じさせる容貌……


 もっと大人かと思ったのに、見た感じおれっちと対して変わらない……


 けどそれ以上に目を引いたのはその肌の白さだ。

 ずっと日に当たってないせいなのか、あまりにも白い彼女の肌に、美しいと見とれるよりも病気じゃないかと心配するほどのものであった。

 いやほんと、大丈夫?


「? 急に黙り込んでどうしたの?」

「!?」


 お、おお……

 いかんいかん。見惚れてないで話を進めないとな。


「おたくが巫女シャーマンって人か?」

「はい。わたしがここの聖地を護る巫女、ステイアよ。あなたは?」

「……宇城うじょうあゆむだ」


 ……いや、こんな時にあんまりかっこつけた名乗りはできないんで。

 うん。決して美人の前で狼狽えてるわけじゃないからな。

 さてと……


「早速で悪いけど、色々と教えてほしいことがある。お願いできるか?」

「ええ。かまいませんよ」


 巫女……ステイアさん(まあさすがに呼び捨ては控えた方がいいよね)に早速教えてほしいことがあるんだが……


「……なんで入口のところお香で焚いてるの?」

「……はい?」


 あ、何言ってるのみたいな顔をしている。

 いくら暗くても雰囲気的にもわかるから。


「いやだってあのお香ものすごく焚いてるじゃん。この部屋にはないけどおれっちここに来るまで実際泣きそうだったから」


 うん。まともに浴びれば泣くよあのお香。

 あと、共に嗅げば倒れそうだし。

 何であんなに焚くのかなーって……


「…………!」

「……あれ?」


 ステイア、さん……?

 わ、笑っていらっしゃる……?


「……あっははははは! まさかここでそんな質問をしてくるなんて……あなたが初めてよ」

「え、ええ!? そうなの!?」


 え、誰も疑問に抱かないの!?

 だってあんなお香、なんの意味があるか誰だって気になるでしょ!?


「ふふふ……あのお香はいわば人避けなのよ」

「人避け……?」

「ええ。そうよ」


 あれか? 玄関払い用ってやつか?


「あのお香はね、今は使っていないけどあるお香の力を増幅するためのお香なのよ」

「お香の力を増幅するためのお香って……」


 ややこしすぎるわ。

 なんだよ、ただのお香でも十分精神的に効くわ。


「わたし、あまり人に会いたくない性分で、その上この体だからね。いつもは玄関には人払いのお香を焚いているの」

「…………」


 この人、引きこもりの上に人見知りなのか。

 おいおい、折角綺麗なのにもったいない。


「おいおい、折角綺麗なのにもったいない」

「え?」


 あ、やば! また言っちゃった!

 なにやってんのおれっち!


「あ、いや……その……いまのは、えっと……」


 おれっち、落ち着け!


「……アユム君ったら、本当に面白い子ね」


 あ、ちょっとクスクス笑いしないでくれ!

 恥ずかしいじゃないか!

 しかもいつの間にかアユム君って……!


「ううぅ……」

「あら、御免なさいね。しばらくアユム君みたいなかわいい子とお話ししてなかったからね」


 ちくしょー……この人話し方は物静かだけど、おれっちをからかって楽しんでいる。

 あ、ただ単におれっちが自爆しただけか。


「それで……あなたはいったい何の用があってわたしの元へ?」

「…………」


 はぁ…………

 出だしからズッコケてしまったが……

 ここからは真剣な話だ。


「おれっちは、おたくにあることを訊くためにここまで来た」

「あること? それはいったい?」

「それは……」


 さて、どうやって切り出そうか……

 そうだな……そのまんま言うか。


「……実はおれっち……この世界の人間じゃないんだ」

「…………え?」


 あ、いまポカーンとしたな。

 まあいいか。続けよう。


「えっと、その……実はおれっち、ある日、変な黒い穴に入って……」

「あ、異世界人ですね」

「そう、異世界じ…………」


 ………………あれ?


「なるほど。それで見かけない珍しい子だからなのですね」

「えええええ!? 知っていたの!?」


 なんで!? おれっちの覚悟はどこへ!?


「知っていたもなにも、わたしのお婆様は異世界人でしたよ」

「はぁ!?」

「そしてそのままこの世界に住みだして生まれた子供の子供がわたしなの」

「…………!」


 な、なにそのカミングアウト……!?

 急展開すぎる!?


「だけど、お婆様もお母様も、一応元の世界に帰る方法を探してはいたの」

「そ、そうか…………」


 い、いいのかそんな偶然……

 マジかよ……


「ふふっ……坊やったらかわいい顔なんかしちゃって……」

「…………!」


 ぐ……なんかすげーからかわれたが……

 ……まあいい。


「それで、訊きたいこととはもしかして元の世界に帰る方法?」

「そうだ。あんな正体不明の黒い穴、いったいどうやって……」

「方法は簡単よ」

「……見つけ、て…………」


 ……はい?

 簡単?


「実は…………」


――――――――――十分後――――――――――


「……以上が、元の世界へ帰る方法よ」

「…………本当に簡単な方法だったな」


 竜の亡骸から穴を開けるって……

 まさかそんな方法で帰れるとは……

 あ、でもあいつ等にとっては難しい話だよな。


「でも、正確には異世界への穴を開くだけで元の世界に戻るとは限らないけど……」

「……そうだな。でも、手掛かりであるのならそれでいいや」


 何もしないで留まるよりは何かあるだろ。


「それで、アユム君。別世界への穴を開く方法は教えたけど、他に訊きたいことはある?


 他に訊きたいことか。

 そうだな…………

 ……訊いてみるか。


「おれっちは……ある男との約束や……おれっち自身の意志であることを目的としている」

「…………?」

「翼人……いや、人竜族と人間との争いを終わらせたい」

「!?」


 暗闇の中でもステイアさんの表情が驚きに代わるのがおれっちには分かった。

 おれっちは怯まず続ける。


「おれっちはよそから来た人間だ。だけどそんなおれっちをおっさんたちは歓迎してくれた。狩りの仕方とかも教えてくれたし、たくさん友達ができた。だからこれ以上無意味に争う事は避けたい」


 今はおっさんたちは狩りに集中しているが、もしまた余裕が出きたら同じことをするだろう。

 そうなったら……


「……人竜族の方にも同じことを考えている奴がいる。おれっちとは何の接点もないけど、あいつからも頼まれた。故におれっちはたとえどんなことをしてもこのことは止めたい」


 あのちびっ子少年シアン君も、人竜族のために動いている。

 疑う必要はねえ。あれは本当の事を言っている様子だ。


「だが、そのためにはいろいろと情報が必要なんだ」


 シアン君はおれっちのことを毛嫌いしているが信頼してはいる。

 ならばそれには応えないとな。

 だから……


「もし知っているのなら人間と人竜族の事について、教えてくれないか」

「……そう」


 ステイアさん……驚いてはいるけど、無謀とか言ってないな。

 さて、どう返してくるのか……


「……あなたは人間と人竜族のこと、どこまで知っているの?」

「……え? あ、ああ……そうだな。たしか……」


 えっと……人間のことや人竜族のこと……

 おれっちのここ数日間の情報源はおっさんたちや若い子たちの会話、シアン君の情報、これらぐらいだ。

 翼人と人間とは互いに憎み合っている。

 主な要因はまあ……仇討ちなどの類だがそもそもの始まりは別だった。


 もともとは竜を寄せ付けない聖地と呼ばれる所から始まったのだが……


「だけど、わからないところがある」


 あの時、怒髪天のおっさんは自分たち人間の祖先があの巨大な竜を倒し、聖地を作り上げたと言った。


「結局あの聖地は誰が作り上げ、いったい誰が住み始めたんだ?」

「…………」


 だが、いつの間にかそこには人竜族が住んでおり、そこを人間が奪い取ったところから始まった。

 どういうことだ? 人間が作った土地になぜ住み始めたのが翼人なんだ?

 もう……訳が分からん。


「……確かに、疑問に思う事は分かるね」


 ステイアさん……

 おたくは、なにか知っているのか……?


「しかし……残念ながらわたしにも詳しいことは分からないの」

「そんな…………」

「ごめんね。期待に応えられなくて……」


 な、なんだよそれ……

 巫女さんでも、わからないのか……

 それじゃあどうやって……


「でも、ひとつだけ推測があるの」

「え?」


 一つだけ……?

 何だか知らんがそれは聴いておかないと。


「ここの聖地を作り上げた竜を倒した時も、あの謎の黒い穴ができたそうだけど……」

「まあ……そうだよな」


 そうじゃなけりゃ……前例が無けりゃ穴を開ける方法が確立してるわけがないしな。


「もしもそこから異邦人が、それも多く現れたとしたら?」

「!?」


 まさか……!?


「とはいっても、これはあくまでわたしの推測であり、確信は持てないけどね」

「…………」


 推測だけじゃあ確信できんな……


「ああ――――――!! わからん!」

「……確かに、いくらなんでも記録が少なすぎだね」

「あの長老とやらは何か知らないのか!」


 あのおじいさんならなにかわかるそうだが……


「それも訊いたけど、知らないしか言わなかったね」

「…………!」


 ……そうか。

 結局、手掛かりは無しかよ。


「第一、もはや人間と人竜族がたたかう理由なんて、聖地は関係ないと思うよ」

「…………」

「それでもあなたは止めるの?」

「……当たり前だ!」


 結局、いいことは聴けなかったか……

 だったら……


「……もう昔なんてどうでもいい! こうなったら意地がなんでもおっさんたちを止める!」

「え?」


 え、じゃねえ!

 もうなんだかやるべきことをシンプルにする!


「昔話かなんか知っていれば説得の材料になると思ったがダメならダメで仕方がない! 過去なんか気にしないでやってやるよ!」

「…………」


 呆れているか? かまうもんか。


「……アユム君ったら、随分真っ直ぐなことを言ってくれるのですね」

「そ。それがおれっちの性分だ」

「うふふ……そうなの」


 だとするならまずはどうするべきかってことだな。

 さて、どうしよう……


「だったら、わたしからも一つ、助言をするわ」

「え?」


 助言?


「あ、でもちょっと待っててね。いろいろと確認したいこともあるから……数日、ほんの数日だけ待っててれない?」

「数日って曖昧だな……」

「確認が終わり次第、わたしから声をかけるから」


 助言か……

 まあ、数少ない情報なんだ。聴いてて損はないだろう。

 ただ……


「なんでまた、おれっちに助言をする?」

「え?」

「おれっちのやろうとしてること、無謀だと言って止めないの?」

「…………」


 あ、あれ? 黙っちゃった?

 なんか深刻そうなんだが……


「わたしも、ここに住まわせてもらっている。だからみなさんには恩があるの。でも、それ故に皆さんを止めるのに力はなくて……」

「…………」

「ごめんなさい。口ばっかりでなにもできない人だけど……」


 ステイアさん……

 おたくも、この争いを止めたいのか……


「だったら、おれっちから、一つ頼んでいい?」

「? 頼み?」

「そ! まあ、一段落して余裕ができてからでいいよ」

「……それは、なに?」


 おそるおそる訊くステイアさん。

 ああ大丈夫。怖い事じゃない。


「おれっちと、友達になってくれないか?」

「!? と、友達……?」


 素直な感情、これが大事。

 おれっちは引きこもりのおたくを見て仲良くなりたいと思ったのさ!


「おれっち、どうやらおたくと友達になりたいのさ!」

「…………!」


 さて、言いたいことを言ったからには早々退散する!


「――――――――――!!」


 おおっと、後ろからなんか聞こえてきたけど振り向かない!

 返事は後で聞くよ!


「うわ!? お香!」


 げほっ、げほっ!

 やっぱりこいつはキツイって……!!



――――――――――そして現在――――――――――



 ……さてと、できるだけ多くの準備はした。

 やれることはやった。まあ、まだ下準備の段階だがな。


 後ろを確認。

 うん、ちゃんと準備したものはある。


「それじゃあ、とと……」

「バウッ」

「本番と行きますか!」

「バウッ!」


 ここ、聖地から離れた荒野にて、

 おれっちこと、宇城歩の前に、幾多ものの仮面戦士がこちらへ向かっていた。

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