vs ブルー
Side:紅
ブルーを倒す前にまずは目の前の氷騎士たちを何とかしないといけない。
数は十や二十は超えるほどだ。これだけの数を操るのかあの男。
「【麗氷騎士団】よ! 今の状況に適し陣形を取り、攻めたてろ!」
しかも、ただ単に突撃するわけでもなく動きが統制されている。
ある程度強くてもこの数なら苦戦するだろう。
ならば……
俺は思いっきり後ろへと下がり、氷騎士から距離を取った。
「…………?」
ブルーは突然俺が引いたところを見て疑問に思っている。
だが、構わない。
俺は氷騎士の隅から隅までを視界に収める。
全て……俺の視界に収める!
「視界にある者をすべて焼き尽くす……!」
数の暴力など……
俺には通用しない!
「【熱々熱視線】!」
「なに!」
その瞬間。
ジャァァァァァアアアアアアアアア!!
「!?」
俺の視線から放った熱い視線は視界に映る氷騎士を全て融かしつくした。
いや、融けるどころではない。水を超えて一気に蒸気と化した。
そのせいか……
「ぐ……!」
爆発するように水蒸気が増えたため、向こう側にいるはずのブルーが見えない。
すこしやりすぎたか……
「……【麗氷騎士団】を簡単に破壊するとは……」
「!」
後ろから声……!?
俺は振り返りざまに距離を取り、【熱視線】で焼こうとしたが……
「無駄ですよ。【幻の霧】!」
「!?」
俺の視界にブルーが映るよりも先に、突如霧がどこかから現れ、俺の視界全てを覆われてしまう。
「ぐ……!? なんだ……」
なんて濃密な霧だ……
ほんの少し先の水面も見えない。
つまり、
「熱視線が使えない……」
だが、いったいどこから攻撃が……
「ここですよ」
「!?」
また後ろ……!?
振り返りざまに身を固めるが……
…………いない?
「どういうことだがぁ!?」
と思った瞬間、突如背中を斬られた。
「バカな……!?」
今のは声がした方とは明らかに真逆……!?
すると、
「ほら……こっちです」
「!?」
今度は右!
俺は左にも注意を向けつつ右を見ると、
「!?」
「おや、今度は正真正銘ですよ」
声がした方向に本当にブルーが目の前にいた。
本物だ。声だけじゃない。
「いきますよ!」
「!」
ブルーが右手を振り上げてサーベルで斬りかかろうとしている。
俺は攻撃してくるサーベルに集中するが……
「無駄です」
ザッ!
「ぐあぁ!?」
また……後ろを斬られた!?
どういうことだ。奴は目の前にいるはず…………!?
「いない……!?」
いつの間に消えたのか俺の前にいたブルーが消えていた。
これは……
「「「「もう一度言います。無駄ですよ」」」」
「!」
なんだ!?
今度は四つからだと……!?
「目に見えるものが、耳で聞こえるものが、そのまま信じていいわけではありませんから」
「…………」
……そうか。
要するにこの霧はただの霧ではなく、そのせいで今の俺では五感は頼りにならない。
ならば……
「霧を……焼く!」
だが、その前に……
目には目をだ!
「【熱幻】!」
「「「「!?」」」」
俺も自分の周りの熱を変えることで姿を消した。
その上、いくつか囮に離れた所の熱も変えているため……
「「「「……いったいどこですか!?」」」」
残念だが……
霧とは……大気中の水蒸気が凝結し、無数の微小な水滴となって浮遊する現象……
この霧も同じかどうかは知らないが……
俺は体を固め、身を引き締めて力を溜める。
「「「「この感じ……まさか!?」」」」
気付かれたか。
「「「「させません!」」」」
俺の身体……血も肉も骨も……みな沸騰するくらい熱くなる……!
「「「「見つけました!」」」」
四方向から突然現れる四体のブルー。
恐れくどれもが幻影であり、本物が混ざっているのだろう。
皆サーベルを構え、攻撃へと移るが……
「もう遅い! 全て燃え上がれ……【熱国】!」
「「「「!」」」」
俺を中心に広範囲の空気が、水面が、すべて……
全て焼き尽くされる!
「燃えろ!!」
俺の合図と共に周りの温度は急激に変化する。
ゴォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「「「「うわっ!?」」」」
急激な気温上昇に霧はすべて蒸発され、足元の海も冗談みたいに蒸気が上がる。
直接火を使っているわけではないが、まるで焼け野原のように熱い空気を感じる。
俺を中心に放たれたあまりの熱気にブルーの幻は霧が晴れるように消えた。
「…………」
……そこか。
もうもうと上がる蒸気の中、俺の目の前で倒れ伏している青天使がいた。
「どうだ。息もできないくらい熱い空気は」
「…………」
返事がない。
それどころか全く動く様子もなし。
「おいおい。この程度で倒れるような奴じゃないだろ」
「…………」
「無言、か……ならば止めだ」
俺はゆっくりと倒れているブルーの前で右手を挙げた。
「【付焼刃】」
俺は右手の甲から赤く燃える刃を出し、ブルー追い打ちを掛ける……
キィン!
「…………!」
「……同じ手が通用するか」
……わけがなく後ろへと回し、ブルーのサーベルを受け止めた。
振り向くと今度は本物のブルーが驚きの表情で俺を見つめていた。
「なぜ……僕の氷の人形を……」
あそこで倒れたフリをしているのはブルーの偽物であった。
俺がそこに気を取られているうちに不意打ちをするつもりなのだが……
「【熱感知】。明らかに冷たい反応が返ってきたから、な!」
「ぐ……!」
とにかく俺は左手の【付焼刃】でブルーを追撃する。
ブルーも、もう一つのサーベルで左の赤の刃を受け止める。
「はああああああああああああ!!」
「させません!」
カキカキカキキィンキィン!
俺の付焼刃とブルーのサーベルが激しい打ち合いをする。
右手の赤刃を左手のサーベルで、
左手の赤刃を右手のサーベルで、
牽制を交えつつ俺とブルーはお互いに刃を交え続けた。
途中、ブルーが息苦しそうに喋る。
「なかなか……熱い空気ですね……!」
「当たり前だ。【熱国】は文字通り、常人なら生きてはいけない灼熱の空間だからだ!」
正直強力な技ではあるがあまり使えない。
仲間を巻き込んでしまうし、平気で環境破壊してしまうからだ。
「それにしてもお前……」
ギギギギギギギギギ!!
二本のサーベルと二つの赤刃がつばぜり合いする中……
「丁寧な話し方をする割には随分な戦い方をするな……」
人海戦術に霧に紛れての攻撃。
さらには囮の人形まで用意するとは……
「僕は……笑いながら綽々(しゃくしゃく)と戦ったり、体一つで突撃したりするようなことはしません」
「そうか」
「僕は……自らの強さに頼った戦い方をしません!」
こいつ……
確かに戦い方が緑天使とは違う。
「なら今の状況は丁度いい! お前の氷は【熱国】で出せないからな!」
だが、容赦をする必要はない!
「【熱線・焼太刀】!」
「!」
俺は右手を手刀の形に構え、指先をそろえて右に出した。
そして、指先から出された【熱線】が束ねられ……
「真っ二つだ!」
一つの大きな刃となったそれを思いっきり左へ薙ぐ!
「さあ、どうする!」
「こうします!」
ブルーは右手のサーベルを左手に持ち替た。
片手で二本持ったサーベルを足元の水面に思いっきり突き刺した。
「なにを……?」
すでに右手の大きな刃はブルーへと迫っている。
しかしブルーは回避行動を一切取ることなく……
「【水刃】!」
「!?」
ブルーが片手で水中から二本のサーベルを引き抜くと、それについてくるように大量の水がブルーのサーベルに纏わりつく。
「なんだと!?」
纏わりついた水は形を整え、徐々に徐々に細く、凝縮されていくそれは……
「刃……!?」
ブルーは巨大な水の刃となったサーベルと俺の【熱線・焼太刀】にぶつけた。
ギギギギギギギギギギッ!!
水と熱であるのに鍔ぜりの音が響く。
しかし……
「ぐ……あぁ……!」
いかん……こちらが押され気味か……!
「観念してください!」
ガキィ!
「!?」
ブルーが【焼太刀】を弾き、今度は両手で水の刃を掴むと、それを真上へと掲げた。
「終わりです!」
そしてそれを……思いっきり振り下ろした。
かなりでかい。さすがの【熱国】でも、蒸発しきれないか。
だが……
「うおおおおおおおおおおおお!!」
もう一度俺は……今度は両手にひとつづつ【熱線・焼太刀】を造る。
そして、二つの刃を交差させ、挟むようにブルーの水の刃を迎え撃つ!
「何故ですか、マゼンタ!」
「!」
すると、刃を交えている最中にブルーは怒りとも悲しみともつかない口調で俺に話しかける。
「あなたは天使により両親を失った。だからディースを造り、あなたの親であるようにした。現にあなたはディースと生きて幸せだった! なのになぜ、復讐の道に走るのですか!」
またか……またそれか…………!
両腕の刃が水の刃を弾くと、【焼太刀】を消し、【付焼刃】に変えて相手の懐へもぐる。
「あなたのその憎しみが、あなたの幸せよりも強かったのですか!」
ブルーも俺が接近する瞬間に水の刃を消し、再びサーベルのみで迎え撃った。
「なぜ死ぬことを恐れないのですか! なぜ幸せなのにそんなことを言ったのですか!! なぜディースの気持ちを分かってあげないのですか!!!」
サーベルと赤刃が競り合う中、ブルーは感情を思いのたけに吐き続ける。
「そしてなにより、こんなことををしてあなたのご両親が喜ぶとでも思っているのですか!」
「…………」
俺も……
戦闘中でありながら俺も口を開く。
「……思わないだろうな。むしろ怒られちまうだろう」
「え……!?」
……ずいぶん以外そうだな。
だが、隙ありだ!
「ぐっ!?」
「両親は良し悪しに関しては厳しかったしな。だが……」
さも当たり前のように……
「所詮は、死人だ」
……死んだ人間の代弁などするな!
「死んだ人間に、口など……ない!」
「!」
ブルーの反撃を俺は受け止める!
「死んだ人間は死んだ人間だ! 何を思おうとも、もう会うことなどできない! できるはずがないんだ!」
お互いの武器が競り合う中、俺は【熱視線】でブルーの顔を焼こうとする。
しかし、いち早く察したブルーが頭を振って回避する。
「死んだ人間がどう思っているかなどどうでもういい! 俺は……あの日から……誰かに両親が殺されたと聞かされた時から……」
ブルーが頭を振った瞬間に追撃を仕掛ける!
「神を許さないと、そう決めたんだ!」
「そんなの……身勝手ではないですか!」
だが、ブルーの狙ったかのような返しに俺は右肩を突かれた。
「ぐあぁ!?」
「あなたの両親はあなたに幸せに生きてほしいと願ったのではないですか! ディースも……彼も生き延びて幸せになってほしいと言ったではありませんか! それを……」
肩に刺さったサーベルを抜き、それを振り上げると……
「あなた自身が否定しないでください!」
なんの躊躇もなく振り下ろした。
だが、
バシ!
「!?」
俺は振り下ろされたサーベルをそのまま素手で掴んだ。
右手はもう使えない。左手のみで刀身を握った。
手の平から血がにじみ出るが構わない。
なぜなら……
「……その幸せを奪ったのはどこのどいつだ…………」
「!?」
それ以上に……俺は怒りで満ちている……!
刀身を握る力が強くなる。
痛みなど……大したことはない!
「俺の……両親だけではない。ディースを奪ったのは誰かわかるか?」
「…………!」
俺は許せない……!
「お前たち天使が……全部奪っちまったんだろうが!」
やがて握られた刀身は握力に耐え切れず砕け散った。
「!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は血の滲む左手に力を、怒りをも籠めた一撃を相手に当てる!
が……
「無駄です」
ズシャ!
「お…………!?」
な……なん、だ……
腹部に、違和感が……
「……!?」
ば、ばかな……
水面から……刃が……!?
「【水刃】。別にサーベルに纏わりつかせるだけではありません。こうして水面から出すことも可能です」
な、なんだと…………
「結局あなたは……僕の言葉を聞いてはくれませんでしたね」
ち……くしょう…………
腹部を……刺された…………
や、ばい……倒れ、て……
「僕は……悲しいです……」
こいつ……また涙を…………
「あなたは僕の言葉を聴いてはくれませんでした。解り合えませんでした」
あたり、まえだ…………!
敵に……そんなつもりなど……!
「せめてもの慈悲です。この中で眠ってください……」
なにを……する気だ…………
「【永氷の棺】」
「!?」
な、なんだこれは……!?
氷が、徐々に徐々に……俺の周りを……!?
「決して解けぬこの氷。せめてその中で夢を見たまま眠ってください」
ちく、しょう……
足元から……だんだん感覚が…………
「さようなら、マゼンタ。もう二度と会う事はないでしょう」
なぜ、だ……
なぜ止めを、刺さない……!
「せめてあなたには命を奪うことなくここへ封印します」
なぜだ…………!
なぜ……泣きながらそんなことを言う……!
なぜ…………
「僕は……結局…………あなたに償う事はできませんでした……!」
なぜ……そんな悲しそうな顔をして……言うんだ…………
「さようなら。ディースの子……」
行く、な……
まだ、決着はついていない……!
「僕は……あなたに……幸せに生きてほしかったです」
ブルー…………!




