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コンプレックスな反逆者たち  作者: ゾンビ―鈴木
第三章・竜と狩猟の世界編
82/114

さて、ご対面です

それでは、どうぞ

 俺のこの肥え太った身体。


 これは“幸せだったころの俺の姿”だった。


 物静かだが強い意志を持つ母。


 不器用だが努力家であった父。


 そんな両親がいて、俺は幸せだった。


 両親がいなくなり、消失した俺に手を差し伸べてくれたあいつ。


 あいつとの日々も……幸せではあった。


 だが、もう両親はいない。


 拾ってくれたあいつもいない。


 だから、復讐を誓った俺にはもう必要ない。


 幸せなど……必要ない。


 だから俺はこの太った体を捨て、必死に体を鍛えた。


 減らし、絞り、燃やし、扱き、そうやって鍛え上げたこの身体。


 シアンの奴……久々に会った時に「誰ぇ!?」って言っていたな。


 ……皮肉な話だ。


 悪魔にまた、こんな“姿”にされるとはな。


 この姿は幸せの象徴。


 だが、神を倒すことを目指した俺には……


 一つの戒めのようなものだ……



――――――――――――――――――――――――――――――



  Side:紅


 そして俺は、俺を拾った第二の親、ディースについて知っているというあの天使の元まで走った。

 体型など気にしない。最も的確な走り方により俺は頭の中に示されたある場所へと突き進む。


 あいつが俺の頭の中に直接入れた待ち合わせの場所。それは人竜族の敷地から大して遠くないところに会った。

 だんだんと目的地が近付くとゆっくりと歩みを緩めて、体力の消費を抑えつつ進み続けた。

 そして……


「…………来ましたね」


 人竜族から少し離れた山の中。

 その中でも石でできた囲いのようなものの中央に、

 そいつは…………いた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 俺は歩き続けた後に深呼吸をし、気分を落ち着かせたのちに目の前の天使を睨んだ。


「こうして現実で会うのは王子の時以来だが……」


 あの時はこいつも緑天使と同じとしか認識していなかった。

 だが、今は違う。


 白い髪も青い服も背中の翼も、特徴的な所は天使と変わらない。

 だが、この天使は俺にとってただの敵とは思わない。


「久しぶりだな。青天使」

「お久しぶりです。マゼンタ」


 さて、久々に再開したがまずはどこを訊くべきか……


「言いたいことはたくさんあるそうですが……」

「ん?」


 青天使は人差し指を前に出して何かを唱えだした。


「積もる話はある場所でします」

「おい……何をするつもりだ……」

「大丈夫です。攻撃ではありません」


 青天使が何かを唱え続け、それがやがて終わると……


「【無限の空間イスパース・インフィニィ

「!」


 するといきなりまわりの風景が溶けだすように回りだした。


「な…………!?」


 突然の出来事に俺は呆然とする。

 だが、しばらくすると……


「な、なんだここは……!?」


 突如周りが溶けだしたかのように消えたと思いきや、その後に急に周りの風景が変わった。

 ここは……


「海……!?」


 な、なんだここは……

 俺は先ほどまで山の中にいたはずだ。それなのに、見渡す限り海しかない……!?

 海以外は……何も見えない。どの方角を見ても水平線が見えるだけ……

 その上……


「!?」


 俺の足元ももちろん海であるため水中に落ちるはずだが……


「いったい、どういう原理だ……?」


 なぜ俺は水面の上を立っている……!?

 水中に地面があるわけではない。それなのになぜ……!?


「ここは、天使が力を使って創り上げた、即席の仮想空間です」


 すると、俺の目の前にいる青天使が水面の上に立った状態でこちらに話しかけた。


「仮想空間?」

「ええ、そうです。あなたには一時的に先ほどの世界から切り離しました」

「!?」


 なんだと……!?

 それはまさか……


「次元の穴に入ったという事か……!」

「いいえ、それは半分違います」

「なに?」


 半分違う?

 確かにあの感じは次元の穴と言うわけではなさそうだが……


「先ほど、あなたと僕は竜という生物が実存する世界から一時的に切り離しました。しかしそれは次元の穴から世界の外へ出たわけではありません。あくまであの世界にとどまったまま、しかしその場とは全く違う空間に干渉し、そこに入らせてもらったのです。しかしその場には何もありませんので限定的かつ即席の空間を作ったのです。いうなれば……」


 青天使は覚悟を宿した瞳でこちらを見た。


「ここでどれだけ暴れても問題ありません」

「…………」


 すでに戦う事は前提だな。

 だが……


「その前に教えてもらうぞ。俺を拾った第二の親、ディースの事を!」


 いくらなんでもこれ以上待てはしない。

 教えてもらうぞ、青天使!


「……わかりました」


 青天使は決意をしたのか迷うの無い表情で答えた。


「ではマゼンタ。いきなりですが直球でディースの正体を教えます。心して聴いてください」


 ……なに?

 あいつの正体だと?


「あなたを拾い、あなたを育て、あなたを幸せに導けなかったある男の正体」


 青天使は……まだ躊躇いがあるのかのどにつっかえるように言葉が出ない。

 まるで……


「それは……








 …………彼は人間ではありません。それ以前に既存の生物ではないのです」








「……………………」


 今、なんて言った……

 今こいつは、なんて言った……!?


「信じられないようですね。でも事実です」


 青天使の口から語られる事実。

 俺を拾ったディースの正体は……


「ディースが人間ではない、だと……!?」

「はい。彼の正体は人ではありません」

「……どういうことだ!」


 俺を拾ったあの男が人間じゃないだと?

 そんなバカなことが……!


「マゼンタ。あの事件の後に僕はあなたの事について知ってしまいました」

「……なに?」


 ……突然、どうした?

 まるで懺悔するように、罪悪感に苛まれてるように話している…………


「何の罪もない一組の夫婦が、僕と同じ天使が原因で命を落とし、そのせいで一人になった少年のことを……」

「…………」


 なんだこいつは……?

 なんでまたあの事件の事を……


「僕は……親を失い、一人になったあなたに何とか手を差し伸べたいと思いました。しかし、ご両親を失った原因が天使である以上、同じ天使である僕が手を差し伸べてもあなたが拒絶すると思ったのです」


 ……どうなんだろうか。

 直接見たのではなく他人から聞いた両親の死と、その犯人が天使である事。

 もしあの時俺の目の前に天使が現れれば、俺は……


「だから僕は……僕の代わりとなり、あなたを幸せに導くための人形を作ったのです」

「!?」


 人形…………?


「僕は……僕以外の三翼に頼み、ある一つの最も人間に近い人形を造りました」


 なにを、言っている……?

 

「ジョヌはベースとなる肉と骨と臓腑を、ヴェールは呼吸器官や生体を流れる電気を、ルージュは体温を……」


 まさか…………!? 


「そして僕は体液を造り、これらを複合させることで一つの人形を作りました」


 そんな、バカなことが……!?


「最後に魂の代わりに僕の分け与えた力の一部を核として、僕自身の人格を注入すれば完成です」

「…………!?」


 そう言うと青天使の足元から水が湧き上がり出した。

 湧き上がった水が青天使と同じ大きさの四角柱の形になると一気に凍りだした。

 今度はその氷が徐々に形を変えると……

 形を変えた氷が人の形になっていき……


「これが……」


 見覚えのある男の形になった。

 その体格、その表情、その眼……

 間違いない……


「あなたの第二の親の正体です」


 ……まぎれもない、ディースそっくりの氷人形だった。


「う……あ……あ…………!」


 信じられない…………

 あの時、俺に手を差し伸べてくれた男が……

 俺が憎む天使の創り出した人形であることに……


「う……うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 なぜだ! なぜだ!!

 俺はただディースの本当の事を知りたかっただけだ!

 それなのになぜだ、なぜ…………!


「……残酷なようですが、これが真実です」


 こんなことが、俺の知りたかったことではない!


「やったのは初めてですが、これは四輝天使でも最大の禁術ですね」


 ディースは……創られた……?

 一人になった俺を……なぜ……?


「なぜ……そんな人形を作った…………」

「あなたを幸せに導くために必要だったからです」

「なぜ……俺を幸せに導く…………」

「理不尽な不幸を味わった少年に、これ以上辛い目に遭わせたくなかったからです」

「なぜ……天使がわざわざそんなことを心配するんだ…………」

「それは僕自身の全くの私情だからです」


 青天使の顔を見ている限り、だんだんと答えは確信していった。

 今の青天使は悔恨と懺悔を織り交ぜた表情をしている。

 そんな顔したやつが、嘘をついているわけじゃない。


 つまり、ディースは天使に創られた人形だった。


 要は青天使が俺の事を哀れに思い、そのための人形を作った。

 ご丁寧に四輝天使全員が力を駆使して人間にそっくりな人形を作った。

 つまり俺は……


「天使に両親を殺された俺が、今度は天使が作り出した人形に拾われた……」


 これはもはや滑稽を通り越して……なにも言えない…………


「僕がディースに命じたのは一つだけ、君の事を拾って、そして幸せに導いてくれ、と。彼は自身自分が人形であることには気づいていません」

「……だとしても…………!」


 俺は……


「天使に情けをかけられた…………?」


 俺は……もはや何を言えばいい……?

 こいつはいったい……なんなんだ……?


「俺を哀れに、思ったから……?」


 俺の知っているディースがいない……

 これまでずっと思っていたあいつが……


「違います……!」

「!」


 なんだ、今のは?

 今、感情的になって否定した?


「僕は、そんな気持ちで彼を作ったのではありません……!」

「…………!」


 突然の青天使の豹変に俺は戸惑う。


「僕は……親を亡くし、ずっと心の中で泣き続けているあなたに、どうか幸せになってほしいと願い、彼を創ったのです!」

「…………」


 いや、違う。

 抑えていたものが一気に解かれたように……


「あなたの事はディースを通じて知りました。あなたは……ディースと共にいるたびに徐々に徐々に幸せへと近付いていました。本当にこれでよかったと思ったのです。そのはずが……」


 青天使……

 なぜそんなに辛そうな顔をする……


「……なぜ……あなたは自ら幸せになることを放棄したのですか!」

「!」


 …………泣いている!?

 俺を見るその瞳から、堪え切れないほどの多くの涙を流している……


「同情ではありません! 僕は本当にあなたに幸せになってほしいと願い、そのために他の天使に頭を下げて……神様にも認めてもらえるように必死に説得して……それでようやく彼を造ることができて……あなたが彼について行って……もうこれでよかったと思えたのに……」


 なぜだ……

 なぜ天使がここまで他人事に泣く…………?


「なぜ……こうなったのですか……?」

「…………」


 その瞬間、


 ドパァ!


「!」


 突如俺の目の前に大きな水柱が立った。

 それも一つではない。いくつもの水柱が俺と青天使の間に立つ。

 突然の出来事に驚愕するがそれだけではない。


「なに……!?」


 上がった水柱が落ちると、今度はその中から何かが現れた。


「こいつらは……!」


 人形……

 複雑な形をした氷を複数繋げたような人形が俺と青天使の間に立っていた。

 人形はすべて騎士の格好をしており、どれもこれも全身鎧に剣、斧、槍、弓、棍、などの武器を持っていた。

 氷の騎士が現れると青天使は足元の水中から二本のサーベルを引き抜いた。


「…………!」

「【麗氷騎士団(リグラス・シュバリエ)】よ、僕の命令に従え。合図と同時にあの者を排除せよ!」


 ガチャガチャガチャ!!


 主からの命令に血が通ったように動き出す氷の騎士。

 青天使は今だ涙を流し続けながらこちらを見る。


「マゼンタ。あなたはもはや誰の言葉も聞いてはくれないでしょう。それほどまでに、あなたの心は強い復讐の念にとらわれています……!」


 もはや青天使はこれ以上何も言わなかった。

 それは、俺に対する諦めであった。


「復讐の先には……何もありません。あるのはただの虚無です。だから、そうなる前に……」


 そう言って青天使が手に持ったサーベルを振るうと同時に氷の騎士たちが一斉に襲い掛かる。


「あなたを殺し(救い)ます!」


 諦めと絶望と、そして決意を表す一言だった。

 それを聞いた俺は……


「……ブルー…………」


 俺は…………

 ……もはや混沌としてきた頭の中を払うように、青天使の名前を思いっきり叫んだ。


「ブル―――――――――――――――ッ!!」


 ……わからない。

 なぜそうまでして俺を救おうとしたのか。

 結局ディースを殺したのは誰なのか。

 なぜ俺のために涙を流すのか。


 わからない……わからない……

 だが……


「来なさい! せめてあなたがこれ以上破滅しないよう……ここで終わらせます!」

「上等だ――――――――――――ッ!!」


 俺に向かって襲い掛かる騎士団に、俺は真正面から挑んだのだった。

ここまで来るのにずいぶんかかった……

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