過去を知るため
マゼンタとイエロー。双方が再びぶつかり合う中……
それでは、どうぞ
俺が神を殺すと宣言した日の夜。
それは唐突に起こった。
「おい、誰だ! なにをする!?」
俺が自分の部屋で眠っていると、別の……あいつの部屋から物音とあいつの声が聞こえた。
音からしてただ事ではないことが分かった。
「よ、よせ! がぁ!?」
壁を隔てても聞こえてくるディースの悲鳴に俺はいてもたってもいられなくなった。
俺はすぐに自分の体を起こすと何も考えずにあいつの部屋に入った。
そこで見たのは……到底信じられないものであった。
「マ、マゼンタ…………」
部屋に入って見えたのは、こちらに背を向けて剣で腹部を貫かれたあいつ…………ディースと、
……ディースを刺した何者かが映っていた。
そして、部屋に入ってくるとディースは俺に向かって叫んだ。
「マゼンタ! 逃げろぉ!!」
その瞬間。
ボゴッ!
……と、
剣を刺した部分が爆発するように、ディースの上半身と下半身が泣き別れてしまった。
その瞬間俺は突然すぎる事態に頭が付いていけなくなった。
ディースが刺された……?
俺を……俺を拾ったディースが何者かに刺された……?
刺されたディースが……爆発して千切れた……?
刺されたってことは……死ぬ?
ディースが……死ぬ?
なぜ……
なぜディースが……死ぬんだ?
待ってくれ……待ってくれ……!
待ってくれ……待ってくれ……待ってくれ……!!
その直後……
うわああああああああああああああああああああ!?!?!?!?
俺は……狂ったように叫んだ。
両親が死んだと聞かされたことの比ではない。
なぜならこれから死ぬ瞬間を……そのまま見せられてしまうと感じたからだ。
だが、そんな暇を与えてはくれなかった。
ディースを指した何者かがこちらへ向かって歩いてきた。
「……! まずい! 逃げろ!」
歩くこともできずに床を這うディースは俺を逃げるように叫ぶ。
しかし俺はこの状況に体がついていけず、立ちすくむばかりであった。
「…………」
何者かは無言でこちらへ近づいてくる。
その手には……細くて鋭い剣のようなものがこちらを向いている。
顔は……暗いせいでよく見えなかった。
だが何者かは全く迷うそぶりもなく近づき、手に持った剣をこちらへ向けようとして……
ガシッ!
「!」
ディースが右手を伸ばして何者かの足首を掴んで止めた。
それはディースの最後の抵抗であった。
そして……
「マゼンタ! 逃げろって言ってんだろ!」
その言葉に俺は呆然とした状態から意識を覚ました。
「お前は……お前には幸せに生きてほしいんだ!」
何者かは鬱陶しそうに掴まれていない足でディースの手を踏みつけるがディースはやめない。
「俺はなあ! 辛くて苦しい目に会った人間にはその分だけ幸せになっていいと思っている!」
ディースは左手も伸ばし、両手で足首を掴む。
「お前は両親を亡くし、そして俺は今ここで死ぬだろう! だが、お前は……お前はそれでも生きるべきだ!」
何者かは徐々に激しく手を踏みつけるがディースは離さない。
「復讐なんて命知らずなことはするな! そんなことに努力するくらいなら幸せに生きていける努力をしろ!」
とうとう我慢できなくなった何者かは手に持った剣でディースの背中を刺した。
「ぐあぁ!?」
しかし……ディースはまだあきらめない。
「……ぐっ……たとえ……はぁ……ここが……神様に……ごほっ……管理されても……その中にだって……幸せはいくらでも…………転がっている…………!」
何者かは暗闇でもわかるくらい怒りを滲ませてディースを刺し続けるがディースはまだ続ける。
「マゼンタ……すまない……」
しかし、確実に死へと近づいている。
「俺、は……本当……おめえ、に……」
そして、何者かは剣を下に向けて高く振り上げると、切っ先をディースに向けて……
「幸せに……なっ……」
その瞬間。
ディースが死ぬ瞬間を見たくなかった俺は衝動的に部屋から……家から飛び出すように出た。
その間俺は訳も分からずに叫び続けていた。
―――――――――――――――――――――――――――!!
何を言ったのか分からない。
何を叫んだのか分からない。
だが、部屋を出て言った瞬間後ろから……
何かが突き刺さる音が聞こえた。
それは……考える必要はないくらいなんなのか解っていた。
両親が死んだ。天使に殺された。
ディースも死んだ。殺したのは誰かは解らない。
ただ、顔は見えなかったが何者かの背中のような部分に、
翼のようなものが見えた……
……しばらくして、喉が限界を迎え叫べなくなった瞬間、
俺に残った感情はたったの一つであった。
それは、怒りでも悲しみでもない。
虚無感、であった……
特に悲しかったり辛かったりといったわかりやすいものではない。
ただ……なにも感じなくなっていた。
感じるような余裕はなかった。
「…………ディース」
しばらくして俺は……
俺の中に確固としてある決意をした。
あの日以降俺はディースを殺した奴が誰なのかわからない。
だが、殺したのが天使ならそれを統べる神がそう命じたのだろうと思った。
そう、思ったはずだったのだが……
……………。
違和感が拭えない。
どこかが引っ掛かる。
いったいディースを殺したのは……誰だったんだ?
俺は……知りたい。
ディースの……あいつの本当の事を知りたい。
あの青天使はいったいなぜ知っているというか謎だが……
だが……
……さっきの少女のあの目、
本気で俺を心配してたんだな。
だったら……先ほどの行いは、あまり良くなかったな……
そうだな……
せめて……せめて何か一言言っておくべきだったな。
――――――――――――――――――――――――――――――
Side:黄
あたしの一声に目を覚ましたマゼンタは今度はゆっくりを落ち着いた様子で立ち上がった。
そして、再び目を覚ましてから開口一番にこう言った。
「イエロー。俺にはいかなくてはならないところがある。どいてくれ」
…………。
落ち着いてはいるけどさっきと内容が変わらないわね。
けどまあ、さっきよりはましだけど……
「ダメよ。その訳を聴かせなさい」
あんたはあたしとシアンとリュチェちゃんを心配にさせた。
そんなここがあったのにまた一人でどこかへ行かせるわけにはいかないでしょ。
けど……
「駄目だ。その訳は話すことはできない」
こいつ……
「あんた。自分の立場が分かってて行ってるの?」
こいつは……
……全部言われないとわからないのかしら。
「あんたはね、人間が襲撃した日の夜、一人で先へと突っ走って全身に怪我を負った。それがリュチェちゃんのお父さんが死なないで済むためのものならまだいいけど、下手したらあんたは大量出血で死ぬことになったのよ」
「…………」
反論はしないでひとまずあたしの言いたいことを聴くマゼンタ。
それはそれですこし腹立たしいが構わずに続ける。
「その後はね、人竜族の人が……良いのかどうかわからないけど治療をしてくれた。リュチェちゃんがずっとずっとあんたのそばであんたを看続けていた。あたしもシアンも起き上がったあんたの負担にならないよういろいろと手を回した!」
とにかくこの約一週間、あたしはこれまでの周りの出来事を端から端まで並べて言った。
「あんたに対するそのたくさんの想いを、あんた自身が踏みにじるんじゃないわよ!」
最後にあたしは、あたし自身を含めたリュチェちゃんとシアンの想いを吐き出した。
するとマゼンタは……
「……そうか。お前も、シアンも、少女も……俺をそんなに想っていたんだな……」
すまなかった、と
マゼンタはあたしに向かって頭を下げて謝った。
あ、あれ? こんなにも素直に謝るの、初めてなんだけど……
「確かに少女はまだ俺の事を心配している。どこか遠くへ行きそうだな、と。あながちそれは……間違ってはいないかもしれないな」
「!?」
なんですって……!?
「俺は……どうしても行かなくてはならないことがある!」
「!」
「イエロー。だからそこをどいてはくれないか」
「…………」
それでも、と言うマゼンタの瞳にはどうしても退くことはできないと言う色が浮かび上がっていた。
「……本気、なのね……」
「ああ」
「その訳は教えてくれないの?」
「すまない。教えることは……できない」
「…………そう」
こいつ……先ほどまで焦っていた様子は見られない。
幾分か落ち着いている。さっき殴ったのが効果覿面だったのね。
でも……
「だめよ。仲間に危険な隠し事は無しよ」
ましてやマゼンタ。あんたが先ほど焦っていたような事にはね。
「言ったでしょマゼンタ。大事なことも危険なことも一緒だって。なのにあんたは恐らくこれから危険な所へ向かおうとしている。しかもそれを教えないと言う。そんなの筋が通らないでしょ?」
マゼンタあたしはリュチェちゃんと同じくらいあんたの事が心配なのよ。
それなのに何も知らないまま危険な所へ行かせて、何があるのかわからないまま待ち続けるのは……
到底、できない……!
「俺がこれから行こうとしているのは、俺自身が決着をつけることだ。だから……」
「だからって知らないままにされるのがいやだって言ってるでしょ!」
なんでわからないの!? 何でわかってくれないの!
あんたを心配しているのに……
「それでも、俺は言えない!」
「!」
あたしはまた苛立って何か言い返そうとした時、
「もうそれくらいにしておけ、お前等」
「「!」」
突然横から入り込んできた声に驚くあたし達。
発生源は部屋の入り口からだった。
「言いたくないことがあるんだ。それを無理やり聞き出そうとするのはよくないことだぜ」
「シアン……」
そこには体の所々に擦れた跡がある、いつも通り小さい仲間であった。
「イエロー。何か失礼なことを思った?」
「え!? い、いや、別に……」
なんだろう、妙に鋭いわね。
「シアン。お前その体はどうした」
マゼンタも心配してシアンに何があったのか訊いた。
「なんともねーよ。ただ、山登りってのはけっこう疲れるってもんだ」
「「?」」
なに言ってるのかさっぱりわからないんだけど……
「さて、先ほどからマゼンタがあるところへ行きたいとか、行かせないまたはその訳を聞かせろ、どっちも譲れない状態になっているが……」
こいつ、さっきの一部始終を聴いていたのかしら?
と、思っているとシアンが耳打ちするようにあたしの顔の横に近づいた。
……? いったいなにを……
「―――――――」
「?」
なに? いったい何を言って…………!?
「なに、これ……!?」
体が……動かない!?
「すまねーな。今回はマゼンタに味方をするよ」
「シアン、あんた……!」
いったい……どういうつもりなのよ……!
「マゼンタ。行け」
「……いいのか、お前……」
「今さら遠慮なんかすんな。オレとお前の仲じゃないか。それに……」
マゼンタはシアンのいきなりの行動に戸惑うが、なぜかシアンは解りきっているみたいに続けた。
「決着、つけるつもりなんだろ」
「「!」」
「だったら早く行って早く帰ってこい。そして……」
シアンは部屋の扉を開けて、最後に一言言った。
「辛そうにお前を心配していたリュチェの前で一言謝っとけ」
……こいつ、これからマゼンタが何をしに行くのか知っているの……!
だったら……何であたしには教えないのよ……!
「シアン……待ちなさいよ……」
「……わかった」
「待ちなさいって言ってるでしょ!」
あたしが必死に引きとめるとマゼンタは深刻な表情になって語りかけた。
「悪いがイエロー。今俺がやろうとしていることは全くの私情だ。そのために今こんな状態で行こうとしている。止める気持ちはわかる。だが……」
するとマゼンタが治療のため全身を覆っている蔦や葉をむしり取った。
それにより……あの夜以来のマゼンタの全身が目の前にさらされる。
「!?」
「それでも、俺には行かなければならないところがある」
傷が全て塞がったマゼンタの全身はとにかくすごかった。
腕、脚、腹、胸、所々に一生残らないような深い傷跡があった。
それはもう……見ているだけで痛々しい。
しかし、マゼンタはそんな自分の様子に大して何も感じず、一言言った。
「だからイエロー。悪いが俺は決着をつけに行く」
「ちょっと!」
「大丈夫だ。俺は死なない」
「待ってよ! マゼンタ!!」
あたしは必死になって叫ぶがそれも通じず、マゼンタは迷いがないような動作で部屋を出て行った。
取り残されたあたしは残っているシアンにどういうつもりなのか問い詰めた。
「シアン……」
「ん?」
「あんた……いったいどういうつもりなのよ……!」
なんでまたマゼンタを危険な所へ……!
「あいつ、怪我は治っても起き上がってからあんまり時間が経ってないのよ! それなのに事情すら教えてもらえないなんて……」
「けどよ、人間誰だって触れたくない過去の一つや二つはあるでしょ?」
「なに、言ってるのよ? よくわからないけどあいつが無事で帰ってくる保障なんか……」
「いや、帰ってくるさ」
シアン……なんでそんなに断言して言えるのよ……
「あいつの目を見たか?」
「?」
目?
それがいったい何よ……
「あいつ、不安とか心配とかも混ざっていたが、絶対に死ぬわけにはいかないって強い気持ちがこもっていたぜ。だったらそれで十分じゃないか」
……確かに今のマゼンタの眼にはそう言う決意が宿っていた。
先ほど焦っていたマゼンタとは違う。
けど……
「知らなくても信じてやること。仲間として大切だと思うぜ」
「…………」
……仕方ないわね。
今さら何を言ってもマゼンタは行ってしまったし意味はないわね。
「……わかったわよ。知らないままあいつが無事帰ってくることを信じて待っているわ」
「ああ。それでいい」
「けど……」
「ん?」
なんかあんた達だけでわかっているようなのが腹立つ。
まるであたしだけ仲間はずれみたいじゃない。
「マゼンタが帰ってきたらあんたも一緒に殴るから」
「ええ!? オレも!?」
「そりゃそうよ。あたしだけ除け者みたい」
「待て待て待て! それだけは勘弁して!」
こいつ、先ほどまで変に澄ましていたのがもうどっか行っちゃったよ。
今一決まらない子だな。
「それで、あんたは人間について何か何かわかったの?」
ってかこんなに時間がかかってわからないのなら怒るけど。
「ああ、もちろんだ。十分すぎるほどわかった」
へぇ、あの時倒した仮面男からずいぶんと分かったようね。
だったら……
「じゃあ、マゼンタが帰ってきてから話そう。それでいいわね?」
「ああ。わかった」
さてと……
マゼンタ。あんたいったい何をしに向かっているのか知らないけど……
絶対帰ってくることよ。




