再度、目覚める
突然のマゼンタの行動に戸惑うイエローは……
それでは、どうぞ
俺の第二の親となったあいつはとにかく五月蠅かった。
「ほら、好き嫌いしてないで食べろ」
「お前もう少し運動したらどうなんだ?」
「寝すぎだ。とっとと起きろ」
とにかく、強面で厳しいあいつは言うなれば両親とは正反対の性格であった。
もっとも、あいつは一切体罰を加えず、傷つける言葉を出さぬよう慎重になっているところもあった。
あいつはあいつなりに不器用ながらも頑張って俺を育てていた。
そして、俺がいないときにはいつもどこか寂しそうな表情で外を見ているのだった。
あの時のあいつは何を考えているのかよくわからなかった。
だが、俺とあいつの生活もそんなに長くは続かなかった。
俺が十代前半のある時のこと。
あいつは突然俺にこう問いかけた。
「おいマゼンタ。おめえは将来、なにか目標となることがあるのか?」
その問いに対し俺は……
……特にない。
と、答えた。すると……
「なに?」
あいつは一瞬耳を疑ったが、すぐに俺の事を、なにがいいかうまく決まらないと勘違いして続けた。
「何を言っている。別に曖昧な事でもいいんだ。人の役に立ちたいとか、人を楽しませたいとか……誰かと結ばれたいでもいい」
あいつはそう言うけど違う。目指すものが決まらないという事ではない。
ただ……
……本当に何もないんだ。
それどころか、このまま生きていてもいいのかなって……
と、はっきりとそう告げた。
「…………!?」
それを聴いたあいつは……信じられないような表情をしていた。
俺は……ただ漠然としたことすらない。本当に何も感じられないことであった。
それを察したのかあいつは深刻な表情で追及する。
「なにも……ないだと?」
本当に何もなかった。
今はあいつがそばにいるがいつまでも一緒だと言う訳ではない。
いつか別れの時が来るだろう、その時に……
……もしかしたら俺はただ惰性で生き続けていたのかもしれなかった。
両親が死んだ……ただそれだけでも俺は辛いことだがそれだけではない。
神に管理された俺たち人類は罪を犯さない限り生きていけるはずだった。
それなのになんの罪もなかったはずの両親はあの事件により命を落とした。
俺は……そんな世界を生きたくはなかった。
ただ、死ぬのが怖かったから惰性で生き続けた。
それだけだった。
「おい! そんなこと言うんじゃねえよ!」
けど……
あいつは諦めなかった。
「お前は一人じゃねえ! 俺がいるし、友達だっているんじゃあなかったのか!!」
友達……そう言われても俺の心は動かなかった。
俺には……ずっと閉じこもっていたため友達と呼べる間柄なんていない。
いや、一人だけ俺を忘れずに接したやつもいた。
しかし、そいつも今は俺どころではなかった。
シアンは……あいつは大事な弟を亡くした。
しばらく仲違いしていたが、死んだとわかるとわかりやすいぐらい自分が悪化していった。
そんなシアンを、俺が救える度胸はなかった。
同じく家族を失い、悲嘆にくれた俺がいったいなにがいえよう。
だから……
「おめえ本当にそれでいいのか! 本当にこの先何もしないで死ぬのは満足か!」
それでもなお諦めずにあいつは続けた。
だから俺は少しだけ考えることにした。
その答えが……
神を……倒す。死んだ両親の仇を取る。
最もシンプルで、それ故に選んではいけない答えを出した。
すると……
「そんなことを考えてんじゃねえ!」
バシンッ! と
俺はあいつに初めて殴られた。
それはとても……悲しそうに顔を歪めていた。
「そんなの叶うはずねえだろ! 下手をしたらおめえは殺されるんだぞ!」
しかし俺は……迷うことなくこう告げた。
かまわない。このまま死んでも文句はない。
「!?」
もう十分、幸せを味わったんだ。それでいい、と……
「……………………!?」
いったいどれだけ時間が経ったのだろうか。
あいつは立ち尽くしたまま一言も言葉を発しなかった。
俺は最後に、あいつにこう告げた。
ありがとう、ディース。お前は……俺にとって、立派な親だった。
確かに父や母とは全然違うが、それでも俺はお前に拾われて良かった。
親に殴られることがこんなに痛いとは思わなかったし、それがただ痛いだけじゃないこともわかった。
もう十分だ。
幸せはもう十分に味わった。
あとは、なんの罪もない人の命を奪ったあの天使たちに……
一矢報いるつもりだ。
「……………………」
その言葉を聞いたあいつは何も言う事がなく、自分の部屋へと戻って行った。
それが…………あいつとの最後の会話であった。
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Side:黄
い、いけないわね……
どうしてこうなったんだろうか……
「…………」
うわ……リュチェちゃんがすごくつらそうな顔でマゼンタを見ている……
あの後、あたしのせいでもう一度気絶したマゼンタをもとの場所で寝かせて、再び起き上がるのを待っているのだけど……
なんか……気まずい……
「おじちゃん……」
「…………」
マゼンタ……あんたどうしちゃったのよ。
あんなに慌てたマゼンタは……珍しいわね。
行かなきゃいけないところがあるとか言ってたけど……
と、あたしが考え事をしていると……
「ねえ、おねーちゃん」
「ん? なに、リュチェちゃん?」
リュチェちゃんがマゼンタからいったん目を離して、こちらを不安げな表情で見ていた。
そして、恐る恐ると言った様子であたしにあることを訊いてきた。
「さっきのおじちゃん……いったいどうしちゃんたんだろう…………」
「…………」
どうやらリュチェちゃんもさっきのマゼンタの事を考えていたらしい。
リュチェちゃんは心配そうにマゼンタの顔を見ていた。
そして、ぽつりと一言、
「怖い……」
「え?」
あたしにはその一言がかろうじて聞こえた。
この子がさっきのマゼンタに怯えていると思ったあたしはすぐにマゼンタのフォローをした。
「ボク……怖いよ…………」
「……大丈夫よ。たしかにさっきのマゼンタ、様子がおかしかったけど根は悪いやつじゃないんだから少ししたら……」
「ううん。そうじゃないの」
「え?」
しかし、リュチェちゃんの言っている怖いとは意味が違っていた。
それは……
「このままおじちゃんを放っておくと……おじちゃん、どこか遠くへ行っちゃうような気がするの」
え?
「おとーさんみたいに、平気で危険な所へ行ってしまうよ……」
「…………!?」
どういう、ことよ……!?
この子は恐らく嘘はついていない。なにか直感的な事でも感じたという事?
だとしたらマゼンタ……あんたいったい何があったのよ。
「それに……」
あいつ……なんでまだ帰ってこないのよ……
本当に無事なんだよね……
「おにーちゃん……」
あたしとリュチェちゃんは、今離れているあいつとそばにいるのにどこと妙なこいつに不安が隠せない。
いったい、どうなっているのよ……
…………ん?
「……リュチェちゃん。もう寝ましょ。今の時間だともう子供は寝る時間なのよ」
「で、でも……寝ている間におじちゃんが……」
そうね……
確かにその間こいつが行ってしまうなんてことがあったら大変ね。
さっきの様子もただ事じゃないし……
……でも。
「大丈夫よ。こいつはあたしが見ているわ。だからリュチェちゃんはちゃんとお休みしなさい」
「でも……」
「それでリュチェちゃんが身体を壊したら、お父さんが心配するよ」
「…………!」
さすがに父親を心配させてまで無理はしたくないと理解したようだ。
「……わかった。でもおねーちゃんも気を付けてね」
「ええ、大丈夫よ。だから安心してね」
あたしはなるべく不安にさせないとリュチェちゃんをゆっくりと強く抱きしめた。
「あ…………」
「マゼンタは……あたしの仲間は、自分を心配している子を置いて勝手にどっかへ行くことはしないから」
「おねーちゃん…………」
その後、リュチェちゃんは一言も言葉を発することなく部屋の外へと言ってしまったのだった。
ただ、その表情には信頼している感じであった。
「さて…………」
リュチェちゃんが行ってしまったことを確認すると、あたしは横たわるマゼンタに声をかけた。
「どう? 少しだけ冷静になったでしょ?」
あたしは逆にほんのすこし苛つくけどなるべく冷静になって言う。
「いったいどういうつもりなのか、説明してもらうよ」
あたしがマゼンタに問い詰めると……
「…………ふん」
あたしの言葉にマゼンタは目を開けたのであった。




