目覚め
夢から醒めたマゼンタは……
それでは、どうぞ
「おい、おめえは何で泣いている?」
あの事件により親を失った俺の前にそいつは現れた。
とても低い声で話し、静かな雰囲気の男だった。
顔は……もうおぼろげにしか覚えていない。
ひどく印象が薄いことだけが特徴だった。
そいつは一人になった俺にこう言った。
「おめえは……なんで一人なんだ」
そんな、わかったような問いをしてきた。
それに対し俺はあの事件の事を答えた。
すると……
「おめえ……辛いのか?」
それは、俺にとっては明らかに答えが決まった問いであった。
あの頃の俺は両親を失ったことに悲嘆に暮れていた。
両親は、一人息子である俺を溺愛していた。
甘やかすのではなく、しかし沢山の愛情を俺は両親からもらっていた。
それ故に、俺も両親の事が……
だから俺は両親が死んだことのに胸が張り裂けるほどの苦痛であった。
すると……
「なあ。おめえは今、死にたいと思っている? それとも生きたいと思っている?」
そいつは俺に向かって奇妙な質問をした。
神様に管理されたこの都市は不足があればすぐに補うようにされている。
食料も与えられ、住処も与えられ、病気にかかっても問題なく治療される。
つまりその気になればこの都市は独りでも生きていられるのだ。
だがそれは物理的な問題であり精神的には意味はない。
なんでそんなことを訊くんだろう、と思っていたが……
「早くしろ。どっちだ」
答えをせかされたため、俺は急いで考えた。
今思っても何故そんな質問をするのかわからないが、俺はその質問に答えるのに時間がかかった。
愛すべき両親が死んだ俺に生きる気力がなかった。
俺は両親の後を追うように死にたいと思っているときも多々あった。
しかし……
死ぬのが、怖かった。
死んだ先の未知の世界が何よりも恐ろしかった。
死んでも両親に会える保証がないことに怯えていた。
俺は、いざと言うときに死ねない、臆病者だった。
とにかく、あの頃の俺は生きたくもなく、しかし死ぬ度胸はない。
そんな中途半端な状態にとどまっていた。
俺のその様子に気づいたのかそいつは手を差し伸べた。
「小僧。生きたいのなら……俺についてこい」
そう言ったそいつの顔は強面ながらもどこか逞しい顔であった。
「俺はおめえの両親じゃないねえから、代わりにはなれんが……」
ほんの一瞬、どこか悲しげに言い出した後決意するように言った。
「おめえが……それでも生きてよかったって言えるように頑張ってみるよ」
……俺は、その男の強くもどこか寂しげな表情になぜか惹かれていた。
そして俺は……その男の手を取った。
そいつが俺の第二の親だった。
俺は……なぜ今になってあいつのことを求めているんだ……
あいつは俺の前に現れ、どういうつもりなのか、俺に手を差し伸べた。
親を無くした俺を、あいつは拾ってくれた。
なのに、なぜ……
ん?
なんだ? 何か声が聞こえる……
これは……泣いている?
誰かが……誰かが俺のそばで泣いているのか?
誰だ……誰なんだ?
わからない……だが……
目を……覚まさないと……
なにがどうであれ俺は、もう一度あの天使に会わなくてはならない。
そのためにも俺は……俺は……
ここで止まるわけにはいかない!
――――――――――――――――――――――――――――――
Side:紅
あの青天使の妙な力から解放され、俺の意識は徐々に鮮明となってきた。
初めに感じたのは……かすかな痛みだった。
そして、初めに見えてきたのは……
「ここは……」
俺の視界で最初に見えてきたのは、見覚えのない光景だった。
そして、全身の感覚からして俺は……横たわっているのか?
そして、見えるのは……天井? 室内か?
随分と長い事現実から離れた感じがする。
俺は……なにを……
すると……
「おじ、ちゃん……?」
「?」
横たわる俺の右側からかすむような声が聞こえてきた。
この、声は……
俺は、首を動かし視線を声がした方へと向けた。
そこには……
「少、女……」
「おじちゃん!」
少女は俺が目覚めたことがわかると横たわる俺に抱き着き、そして……
「…………!」
少女は泣きながら俺に抱き着いてきた。
「おじちゃん……よかった……生きててよかったよ……!」
こいつ……
なぜそうまでして俺の心配を……
「まったく。女の子泣かせてんじゃないわよ」
「!」
少女の涙に戸惑っていると少女とは反対方向から聴きなれた声が聞こえてきた。
これは……
「イエロー…………」
「ほんと。リュチェちゃん同様、あたしまで心配させないでよね」
「待て……」
ここはどこで……今、どういう状況になっているのか分からない。
だが……
「行かなくては……!」
「え……!? おじちゃん……!?」
俺は、自分の身体が大して痛まないことがわかると、体を起こし、ここから出ようとした。
「おじちゃん! ちょっと待って! どこへ行くの!?」
「行かなくちゃ……あいつの元まで……行かなくては……!」
「おじちゃん!?」
早く……早く……あの天使の元まで行かないと……!
あいつは……俺の…………!
「ちょっと待ってよマゼンタ! いったいどうしたのよ!」
「イエロー……」
俺が部屋から出て行こうとすると後ろからイエローが俺の肩に手を置いて止めに入った。
「放せ。俺には……俺にはいかなくちゃならないところがある!」
「なにいってるのおじちゃん!? そんなに怪我していったいどこへ行くつもりなの!?」
「あいつと……あいつと決着をつけなくちゃならないんだ!」
あの青天使に早く会って……そして……
ディースを……あいつの事を知らなくては……!
「待ちなさいよマゼンタ! いったい何のことかわからないけど今は駄目よ! あんたまだ怪我をしているでしょうが!」
「それでも……行かなくちゃならないところがあるんだ!」
「ダメよ! どこかわからないけど行かせないわ!」
「行かせろ!」
俺はいまだに肩を掴み続けるイエローの手を振り払った。
「うわ! 何をするのよ!」
「お前が止めるからだろ!」
怪我? そんなの今の俺にはどうでもいい!
早く……早くあいつの許へ……
「こんのぉ…………!」
行かなくて………………ん?
イエローは顔を伏せ、怒りを込めた声を放つと……
「この……分からず屋がぁ―――――――――――――ッ!!」
ドゴッ!
「ごはっ!?」
こいつ……容赦なく腹部を……!
「しばらく頭を冷やしなさい! バカ!」
「お……前…………!」
「おじちゃん!」
イエロー……手前……!
「おねーちゃん、なにしているの!? おじちゃんはまだやみあがりなんだよ!」
「あ……ご、ごめんね。ちょっとこいつ、周りを見ない目になっていたから……」
ぐ……なぜだ……意識が……
「あ……おじちゃんがまた倒れちゃうよ!」
「しまった……ただでさえまだ怪我が残っているのに……」
こい……つ…………
「邪魔……する、な…………」
俺は……イエローに殴られたことでもう一度意識を沈ませてしまう事になった。
ただ、意識を失う直前に見た少女の顔が……
……安堵と喜びを不安を織り交ぜた物であった。
―――――――――――――――一方その頃――――――――――――――――
Side:藍
さてと……
オレはアユムの所から離れ、何とか聖地……つまり岩山を少々時間をかけて降り、【音速移動】により、人竜族のあの洞窟を目指していた。
はずだったが……
「ここは……どこ?」
そう言えばあの時は音を頼りに必死に追いかけたため、周りも見ずに突っ走って行ったな。
しかも今は日も沈んだ夜というわけであり……
「やばっ……迷った……!」
いけねえ、どうしよう。
と、オレは自分の心臓が早鐘を打っていること感じていた。
やばいやばいやばい……!
これ、どうやって帰るんだ……!?
とにかく……走ってみるか。
オレは走るのをやめず、とにかく感覚的に洞窟があると思う方角へ走って行ったのだった。
――――――――――――――しばらくして――――――――――――――――
「ここはどこじゃぁ――――――――――っ!?」
とにかく森を見つけ、森の中を突っ走ったらいつの間にか山らしきところに迷ってしまっていた。
おいおいやべぇよ! これ完全に迷子になったじゃん!
いくらなんでももう二十を過ぎた大人が迷子って完全にアウトじゃねーか!
やばいやばい! どうせなら明日の昼になるまで待てばよかったじゃねーか!
「やばい……どうしよう……!」
このままオレ……帰れなくなっちゃうの?
い、いやだ! それだけは……!
………………!?
「誰だ!」
オレが迷子になったことに恐怖していると後ろから何者かの気配を感じた。
それに対しオレはすぐさま警戒して身をひるがえした。
すると、
「…………!?」
そこにいたのは…………




