アユムの心情
聖地へ上った歩はしばらくどうなっているのか
それでは、どうぞ
Side:歩
慣れとは恐ろしいものだ。
変な穴に吸い込まれ、なぜか現代とは遥か遠いところへ飛ばされ、恐竜に追われ、原始人に従わされ、なぜ存在するのか翼人と戦わされ……
「おい! そっちにいったぞ!」
「この先にいるのは……アユムか!」
「アユム! そいつを仕留めてくれ!」
「よし、まかせろ!」
そんでもって、どうやらおれっちと同じ異世界からきた人間に遭遇し、行き場のないおれっちに協力しないかと誘われ……
挙げ句の果てに原始人のおっさんたちについていって、見たことない集落にたどり着いて……
「よし、かかってこいやぁぁぁぁああああああああああああああ!!」
「ギャオオオオオオオオオオオオオ!!」
そして、だいたい一週間後。
バチン! ジョキ!
「おっしゃー! 二足竜を倒したぞ――――――――――っ!!」
「おぉ――――――っ!!」
「よくやったアユム!」
この原始人生活に慣れが出始めたおれっちは仮面おっさんの恐竜狩りに協力しているのだった。
「でかしたぞ! その竜は二本脚である故、足が速くて簡単には仕留められないんだ」
「それをやっちまうとはすげーぞお前!」
「い、いやいや……おれっちが倒せたのはこいつが弱った状態だったからだ。そんでもってこいつを弱らせたのはおっさんのおかげだからさ……」
え? 順応するの早いって?
「だからまあこいつを狩れたのはおっさんの協力があってこそだ!」
「こいつぅ! 言ってくれるじゃねえか!」
「ああ! けど、この狩りの一番の要は君だ。だから任せておいて正解だったよ」
「いやいや……」
たしかにこの生活は慣れるのに結構時間がかかると思う。
しかし、生き残るのに必死になればなんだって出来るのが人間ってもんよ。
「んじゃ、今回の分け前を決めるぞ!」
「おお!」
けどまあ、今のおれっちの格好も結構順応してきたなって思う。
なんせ初めは柄物のワイシャツにチノパンって出で立ちなのに現在では裸に腰ミノだぜ。(ちなみに仮面は着けてません。理由はあるが後ほど)
別に元の服をなくした訳じゃなくて、あるところにとって置いているだけだけどね。
つーか、こんな格好じゃ断鋏丸出しじゃん。
あれは不意打ち用の武器なのに……
「……だ。そして、アユムの取り分は……これでどうだ?」
「ええ!? こんなに!?」
あ、話が逸れたな。
このおっさんたち……と言うよりその集落には、基本困ったときは助け合いの精神を持っている。
故に、こんな得体のしれない迷子なおれっちに住むところを与えてくれただけじゃなく、実力があるとわかると、狩りにも参加させてもらえた。
もっとも、今回みたいな重要な役目は初だがな。
「ああ、今回は頑張ってくれたんだ。多少のおまけもつけてあげよう」
「おっさん……あ……ありがとうございます!」
「いいってもんよ! はっはっはっは!」
とまあ、こうして力を合わせて原始人と狩りをしているおれっちであった。
あ、もちろん我が相棒ととも同じく頑張っているので。
――――――――――――――しばらくして――――――――――――――――
そして、いつものように狩りを終え、貸してもらった自宅へ帰る。
途中、食事の誘いもあったがやんわりと断った。
で、自室。
「おーい! ただいま」
「バウッ!」
ただいまの挨拶に返事をしたのは我が愛犬とと、と………
「なにがただいま、だ。いくらなんでもくつろぎ過ぎだろ」
むすっとした表情で地面に座り込んだままこちらを睨む……
「そう不機嫌になるなよ。シアン君」
「うるせぇ」
……翼人を襲ったあの夜に出会ったおれっちと同じ異世界から来たちびっ子だった。
「おいお前。今失礼なことを考えてなかったか?」
「なんのことか」
まあ、くわしく説明すると以下の通りである。
いったいどこで足が付いたのか、このちびっ子はおれっちの所まで追いかけてきやがった。
しかもいったいどういう方法を使ったのか、この聖地まで登って来たそうだ。
まあさすがに登るのに時間はかかったらしい。
で、登ったはいいが……
「おっさんたちに見つかっちまうなんてなんて間抜けな……」
「やかましい」
どうやらおっさんたちはこのちびっ子に覚えがあるようで敵として襲い掛かって来たとのこと。
しかも相当無茶しちゃったようでまあフラフラな事。
「咄嗟におれっちが出てこなかったら死んでたくせに……」
「…………」
ま、あの後おれっちが……正確にはととが気づいてくれて素早く駆けつけることに成功。
そして、おれっちがおっさんたちに向かって言ったナイスな一言。
「いくらなんでも『あいつらに脅されて戦わされた』はねぇだろ!」
「仕方ないだろ。それ以外に方法はないし」
「それ以外方法はないって、失敗しただろ!」
……うん。いくらなんでもそれは……全員は信じてもらえなかったけどね。
と言う訳でプランB。
「そんでもってなんで『実はこいつ、おれっちとかつて生き別れた仲間なんだよ』って言うんだよ!」
「まあまあ。この世界にはない人間であることと、服装が違う事が共通項だし」
「……確かにそれでかろうじて信じてもらえたけど…………」
ま、何はともあれ紆余曲折はあったが、定期的に確認が入るという条件付きでなんとかおれっちのもとに置いておくことに成功したのだった。
「しっかしおたくはいつまでおれっちのこと露骨に毛嫌いするの?」
「うるせぇ。お前はマゼンタに大けがをさせたんだ。簡単に気を許せるわけねえだろ」
「……ま、それに関しては言い訳できないけどな。仲間思いだねぇ」
「……やかましい」
……『生きるため』ってのは一番厄介な免罪符だな。
そんな理由が許されなかったら何一つ怖がってできねえ。
……そして、それは今もそうだ。
なぜなら……
「なぜなら今日の食事は柔らかくてジューシーな幼竜の肉。まだ子供だってのに生きるために狩ってしまう。でも、狩り取ったのはおれっち自身ゆえ、ちゃーんと働いて得た物なんだから……ありがたく食えよ」
「……本当にのんきだな」
ま、自由に外を出ることが許されないためこいつにとって唯一の楽しみが食事時ぐらいだからな。
「いくらなんでもお前、あいつらと信頼関係築くの早すぎないか?」
「ん?」
あいつらってのは原始人の事だな。
まあそうだな。確かに早いと思うかもしれないが……
「信頼関係に速さも遅さもないんだよ。個人差だよ個人差。それに命を預ける戦友ってのは信頼が何よりも大事だからな」
「…………」
「ま、おれっちに限っては初対面の人間もあっさり気を許してもらえるテクニックがあるからな」
「……そうかよ」
あれ? 大して興味がないのかどうでもよさそう。
まったく、話し甲斐がないな……
ま、いいか。
と、いうわけでお楽しみの食事タイム。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
ま、さすがにこいつも食べ物を粗末にするような人間じゃないしな。
―――――――――――――――しばらくして―――――――――――――――――
さて、食事が済んだところで……
「情報交換タイムと行こうか」
「ああ」
現在おれっちはこのちびっ子が何者なのかは正直わからない。
わかるのは、おれっちと同じ異世界人だという事ぐらいだ。
まあ、元の世界も同じかどうか分からないが……
ただ、本人曰く不思議な力が使えるとの事らしく、家を監視されて外へ出られない身であれどバレずに外出し、情報をあつめる方法はある。
つまり……
「催眠術が使えるなんて、正直まだ信じられないな」
「【催眠音波】の事か? まあ不思議に思うのは解るが事実だ。今日もこっそり外出していろいろ情報が聞き取れたぜ」
「そりゃすごい」
なんでもこいつ、ヒュプノなんとかってやらで監視員に問題ないと暗示させ、後は見つからないよう外を移動してるとの事だからな。
しっかし……
外を出ても見つからないって、どうやって潜入してんだよ。
と、いつも思ってしまう。
本人曰く、また催眠術を使ったり、見つかる以前に見えないくらい速く移動すればいい、とのこと。
前半がわかるが後半って……
あ、いかんいかん。また話がそれたな。
「それで、お前の方も、ちゃんと訊き出せたのか?」
「そりゃあもうばっちり」
でもって、おれっちはその築き上げた信頼関係で、いろんな人からさまざまな情報を訊きだしていた。
怪しまれぬようさりげなく、物足りなくならないよう言葉を選ぶ。
話を引き出すってのは骨が折れるが不可能じゃない。
「今日もまた、有益な情報を引き出せたぜ」
「そうか……じゃあ、まずはどっちからだ」
「こっちで」
さて、と……
おれっちとこのちびっ子との共同生活もかれこれ……何日だ?
まあいいや。数日間過ごしたわけだが、いろいろと分かったことが多い。
まあ、元の世界に帰る方法も手に入れたっちゃ手に入れたんだが……
「さてと、それじゃあそろそろ戻るとするか」
「ん?」
情報交換を終えるとちびっ子は立ち上がり、周りの身支度をし始めた。
「なんだ、もう帰るのか?」
「もうってなんだよ。さすがに戻らないと仲間が心配する」
「そうか」
まあ、さすがに一週間ぐらいはここに滞在しているからな。
遠距離で会話するツールも持ってなさそうだし。
「それに十分な情報も得ることはできたんだが……」
「ん? どうした」
「いや、実はな……」
なんだ? なんかおかしいところでもあるのか?
「オレがこの前教えた人竜族の情報のこと覚えているよな」
人竜族? ああ、あの翼人の事か。
「もちろん覚えているけどそれが?」
「いや、どうも矛盾した所があってな」
「……ふーん」
矛盾、ねえ……
ま、ここには人間と人竜族とたった二つしか視点がないからな。
第三者の視点がない以上矛盾が生じるのも無理はない。
「まあいい。考えるのは後々、仲間にも教えてからだ」
「そうか。じゃあ気を付けて帰れよ」
「……なんでお前はそうも軽いんだ?」
「それがおれっちの元だからさ」
けどまあこの件はおれっちには無関係とは言い切れないんだよなあ。
だから……
「しばらくしたらおれっちもおたくらの元に駆け寄るから」
「え? いいのか? 外出しても」
「大丈夫大丈夫。言い訳ぐらいたくさん用意しているしそれに……」
「それに?」
「おたくがやろうとしていること、おれっちにも賛成だからな」
「…………」
こいつらがやろうとしていること。
なんでも翼人と原始人を仲直り……とまではいかなくてももう争い事を起こしてほしくないようにすることだそうだ。
正直おれっちにとって翼人の事なんか余所の奴にしか過ぎないが……
「正直、ここに住んでいる奴はみんないい奴だ。たった一週間でもいろいろと世話になったんでな、けどその人たちには無事を願っているわけだ」
「…………」
「あ、そうだ」
おれっちは大事に置いてある元の服の中から一つ、あるものを取り出した。
そしてそれをちびっ子に渡した。
「? なんだ、これ?」
「こいつは香水さ」
「香水?」
「ああ」
おれっちが手渡したのは手のひらサイズの瓶に満たされた紫色の液体である。
てっぺんには霧吹きもついている。
「この瓶の匂いはととの好物でさ、もしおれっちがおたくらを探しているときはこいつを振りまいてくれ。すぐにととが気づいてくれるからさ」
「そうか……わかった」
おれっちが差し出した瓶を受け取ると、ちびっ子は近くの窓を開け、窓枠に足をかけた。
そして、振り向きざまに一言……
「それじゃ、また会おう。アユム」
「ああ」
「お前の事は信用できないが、信頼はするからな」
「わかった」
そう言って窓から外へ飛び降りて言ったのだった。
それなのに外から騒ぎがしないのはうまく見つからないように移動したのだろう。
「ふう…………」
しかし、おれっちもずいぶんとここに情が移っちまったな。
「ま、どんな形であれお世話になったし、あのままだったら恐竜に食われてたかもな」
ここのみんなは仲間意識が強く団結力が硬い。
そりゃあ竜なんてあんな生き物、大人数で力を合わせない限りは倒せないもんな。
それ故にみんなは仲間を大切にし、仲間のために戦う。そう言った集団だ。
故に、みんなあの翼人の事を赦さないのだろう。
おれっちとちびっ子少年シアン君の情報交換の結果。
聖地云々に関することは秘匿であり知らないところもある上、ちびっ子の言ってることが正しいのなら矛盾があるためここでは省く。
原始人が翼人を襲い、戦う理由。
一言で言えば、恨みだ。
つまり、翼人を襲った仮面のおっさんたちは皆、家族っつー大切な人を失った人たちだった。
そう、この集落の人間は助け合いの精神を持つ。
しかし、シアン君の事を警戒したりと、どうも矛盾してそうなこともある。
シアン君は翼人の味方に立って戦った人間だ。
じかに戦ったことのある人間には覚えがあるだろう。
でもって、翼人と一緒に戦っていた人間がここにいることに警戒するのは無理がない。
それほどまでに強い感情を翼人に対して持っている。
そのひとつがあのおっさんがつけた仮面に現れている。
あの仮面は家族の仇を取る戦士が着けるものらしく、素材もただの動物の骨だけではない。
曰く、動物の骨で作った後、最後にどこかに、死んだ家族の骨の一部を仮面に組み込むようだ。
そして、その仮面をつけることで仇討ちを誓うってわけだ。
あの時、仮面を取ろうとして怒られたのは、一度誓った復讐を果たさない限り、一部を除いて外してはいけないとのこと。
なんでもずっと昔から翼人たちはここで暮らしている人間を聖地から追い払うため、襲ってきたことは十も二十もあるようだ。
まあ、翼が生えているわけだからね。難なくここに来ることは可能だしね。
で、この聖地ってのはどこもかしこも集落があるため、戦場にして大丈夫な所はない。
つまり、戦えない女子供はどこにもいるってわけだ。
それに、相手は空を飛ぶため、結局のところ安全地帯なんてどこにもない。
ずっと前から翼人は、聖地を奪還するため何度も襲い掛かってきたんだそうだ。
全員ってわけじゃないが中には非情な攻撃をする奴がいてな。そのせいで……
おれっちが仮面を取ろうとして怒ったおっさんはかけがえない奥さんを殺された。
聖地の事を説明した怒髪天おっさんは大切な息子さんを屠られた。
仮面が砕けた槍使いの兄ちゃんは溺愛した妹さんを焼かれてしまった。
あの時翼人を攻めた皆は、誰か家族を失ったそうだ。
家族だけじゃない。他の仲間も……
けど、そういうのは終わりにしないといけない。
おっさんも、怒髪天おっさんも、槍兄ちゃんもまだ他の家族だっているんだ。
無理に戦って死んだら、それこそ残された奴が悲しむんじゃないか。
現に……
「兄貴…………」
行方不明……ただそれだけでおれっちは不安で不安でいっぱいだ。
ましてや、もし死んでしまったなんて訃報が来たら……
「クゥ~~~ン……」
「とと……」
我が愛犬は心配するようにこちらを見ている。
そうか。心配してくれるのか、とと……
「ありがとうな。とと」
「ワン!」
はは、かわいいやつめ。
さて、と……
「どう動く、おれっちとは別の異世界人さん」
おれっちはこれ以上、共に戦った仲間に血を流させたくねえ。
だからこそ、頼りにしてるぜ。
おれっちはおたくらの事、信頼しているからよ。




