事件の真相
ブルーが語る事件とは……
それでは、どうぞ
俺が神に反逆する理由。
決まったことだ。理由は一つ。
……復讐だ。
陳腐と言うか? ありきたりと笑うか?
それをろくでもないと決めつけるのか?
だが、所詮言葉一つでは感情全てを言い表せないのだ。
俺に親はいない。
俺が物心をついて間もなく、両親は殺された。
そう、天使たちにだ。
まだ幼かった俺は、両親を殺した天使の顔など知らなかった。
しかし、あのころから俺は誓った。
仇を討つ、と……
誰でもない、俺自身に誓ったのだ。
それが……一度目の消失だった。
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Side:紅
「あなた達が反逆を起こすきっかけの一つとなったのが今の事件です」
再び動き出した時間。
青天使曰く、これは幻であるがそう言われない限り現実だと疑ってしまうほどの鮮明さがあった。
「当時、あなた達反逆者ができる以前に、別の反逆者たちの集団がありました」
目の前の建物が燃え盛る中、俺は冷静に青天使の話を聴いた。
周りの者どもは青天使が認識できないのか、これも聞こえない様子でずっと燃え続ける建物を見た。
正直未だ落ち着きがないが、目の前のこれはあくまで幻と思うことでなんとか平静を保った。
「それは、神様に対し不安を募らせた者の集まりでありました。彼らは近い将来、反逆か犯罪か、そう言った行動を起こすと予測されました」
「だが、それはあくまで“予”だ。実際何かを起こしたわけではないだろ」
「いえ、そうとは言い切れません」
青天使は建物内で燃えているであろう人間に対し、責めるように言う。
「彼らのリーダーは実際、天使たちの監視あるなし関係なく、人々を扇動するような動きがありました。それは演説でしかありませんでしたが、内容はまともなものとは限りませんでした。……中には天使たちに対し虚偽の内容を混ぜたり、濡れ衣を着せたり、その行いはあまりにも穏健とは言い難く、天使たちにとって無視できない存在とされてきました」
「……そいつは、俺たちからしても許せることじゃないな」
俺たちの場合はただ同じことを思っている奴らが集い、反逆しようとしただけだ。
青天使の言うような宣伝はしていない。
「そんな中、ある一組の夫婦が彼らのリーダーに接触したのです」
「なに?」
ある夫婦だと?
この事件に関係があるとするならば……
「はい。マゼンタ、あなたのご両親です」
「!?」
なに……!?
俺の……両親が……!?
「……いったいなぜ。なぜ奴らのリーダーと……!?」
俺の両親はただあの建物に巻きこまれただけじゃないのか……?
「あなたのご両親は彼らのリーダーとは反逆を企てる以前から、親友の間柄でした」
「なに?」
そんなことは初耳だが……
しかし青天使の様子からして嘘をついているようではない。
「だからあなたのご両親は、何度も何度も彼らのリーダーに説得をしたのです。『もうこんなことはやめてくれ』と」
「……だが、それに応じはしなかったんだな」
「はい」
本当にやめたのなら少なくともこんなことは起きないはずだ。
「実際、彼らのリーダーもある出来事により神様に対して強い恨みを持っていましたから」
「……そうか」
「そして、事件当日のことです。この日も、あなたのご両親は彼らのリーダーと話し合いをしたのです」
「……まさか」
俺と青天使は同時にもうほとんど焼け落ちた建物を見た。
「……はい。その場所がここだったのです」
「…………!」
俺は……焼け落ちる建物を前に歯をが軋り、拳が握られる。
握った拳からは血が出るほど強いのに、ここが現実じゃないのか血は全く出なかった。
「ここには、リーダーに限らず相当な規模の反逆者のメンバーが集まっていました」
「…そうだろうな。この事件にはたくさんの死傷者が出た」
「はい。一斉に討つにはちょうど良かったのです」
だが……
「……俺の両親は、天使たちの『処刑』に巻きこまれた」
「はい」
風化しかけた俺の記憶に残る両親。
夫婦仲がよく、それでいて人柄もよかった。
罪を犯すようなまねはしないはずだった。
故に、天使たちに殺されることなど、あの頃は全く持って思ってなどいなかった。
「何の罪もなかったはずだ。殺される理由などなかったはずだ」
「そうです。むしろあなたのご両親はご友人の反逆を止めるために力を尽くしました」
「それなのに……なぜだ! いったいなんでなんでこうなった!」
「それは……」
俺はやはり感情を抑えきれず、青天使に糾弾した。
すると……
「片付いたようね」
「!?」
またしても頭上から、今度は低めの女の声が聞こえた。
周りの人間も、この声は聞こえるのか視線を頭上に向けていた。
俺も声の元に視線を向けると……
「ふむ、やはりこの方法が確実だったわね」
現れた女は見覚えはないが覚えのある特徴的な格好をしていた。
赤を主体とした、巨大なマントと踊り子のような恰好。
透けるほどに白い髪。
そして、背中にある半透明の淡い翼。
女は、宙に浮かびながら唾棄するように焼け落ちた建物を見ていた。
まさか、こいつは……
「四輝天使の一翼、〈朱炎〉のルージュ。僕たち四輝天使のなかで最も人間を嫌い、人間に対して容赦がない天使です」
「……こいつが…………!」
俺は目の前の天使に対しても、自然と恨みを籠めた目で睨んでいた。
俺だけではない。建物ごと殺すという明らかにやりすぎな行為に対し周りの人たちは非難の目で空に浮かぶ赤天使を見つめていた。
だが赤天使は俺たちの視線を全く気にしていない。
いや、気にしていないどころではない。その表情はまるで道端に落ちている石を見るかのように、大して興味がないような様子だった。
そして赤天使は俺たちの事を気にせず独り言のように続ける。
「まったく……」
そう話を切り出そうとした瞬間、
ピシッ!
「…………!」
またしても、周りの時間が止まりだした。
赤天使も本物ではなく、幻の一部であったため同じように動かない。
「そろそろ止めましょう……」
もう話す必要はない、と暗に言っているようだった。
俺ももうこれ以上このことについては追及する気にならない。
「僕たちにとって、彼らの行いは無視できないものでした」
青天使は何を思っているのか、辛そうに言う。
彼ら……俺たちよりもひとつ前の反逆者たち。
だが、無理に戦いたくないものまで巻き込もうとしたものたち……
「しかし、無視できないとはいえまだ大きな行動を起こしてはしません。それ故にこちらは穏便な手を使うのか、それとも強硬手段に出るか、二派に分かれました。神様も簡単に対応を決められず、彼らが人々を煽っている中、われわれ四輝天使もどう出るのか話し合ったのです」
神も……簡単には決められないのか。
ただの天使……〈輪あり〉にはできないことだな。
「ですがそんな中、僕たちに知らされないまま独断で行動に出た天使がいたのです」
「それが、今現れた赤天使だという事か」
「はい……」
あの赤天使がやけた建物を見る目。
あのあからさまな嫌悪感を出していた。
「先ほども言ったように、彼女は人間に対して何の情も抱かない、それでいて……」
青天使は赤天使を悲しそうに見つめて言う。
「まだ可能性の時点で、人間に罰を与える天使でした」
「…………」
たしかに、奴らの行いはまだ可能性の時点であり、実際に反逆を起こしたわけではない。
しかし、可能性は可能性だが、いずれ将来なんらかの形で結果が現れるのだろう。
だが……
「お前は結局、なにがしたかったのだ」
俺の両親を亡くしたあの事件。
なぜ巻き込まれたのか、なぜこんなことになったのか理解した。
しかし、結局のところ俺が調べたことと大差がない。」
「マゼンタ。僕がこの出来事を掘り返すように話したのは、あなたがどれだけこのことを知っているのか確認してみたかったのです。その結果あなたはほんの一部を除き、ほぼすべての事について知っていました」
「…………」
いや、俺だけではない。
俺たち反逆者のほとんどのメンバーは大事な人間を天使たちに奪われた者の集まりだ。
シアンやイエローのような思想を持つものは実際少ない。
俺を含むほとんどのメンバーは親しい人をあの事件で失った。
また、あの事件で失いそれに絶望した人間がメンバーの親しい人という事もあった。
つまりはあの事件は多くの人々に小さな穴を開けた。
これが原因で小さな穴はやがて広がり、そして……
「あなたはこの事件を機に神様や僕たち天使を強く憎むようになりました。それも、罪もないのに理不尽な出来事によって……」
青天使の言葉はこれ以上続かない。
続ける前に俺が大声を出して遮った。
「だから、お前は何がしたいと言っているんだ!」
さっきからこいつはこの事件の事しか話さない。
俺はいつまでも煮え切らない青天使に苛立っていた
「こんな光景を見せようと俺が貴様らを恨むことに変わりはない! どんな天使がやってあろうと俺の目的が神を倒すことに違いはない! それに……」
俺はあることを知るために青天使の話を聴きだしたのだ。
それなのに全く話す気配がない青天使にこちらから切り出した。
「結局、お前はディースについて何一つ話していない!」
俺が求めているのはこんな出来事の真相ではない!
なにがどうであれ、俺の両親が死んだことに変わりはないんだ!
だから……
「答えろ! あの時ディースは……あいつは……」
「今は教えることができません」
「なに……!」
ふざけるな、と俺は青天使に怒鳴りつけようとするが……
俺は青天使の表情を見て次の言葉が出てこなかった。
青天使はこれまでにない、冷たく、それでいて悲しい顔をしていた。
「マゼンタ。あなたは本当に何も変わらないのですね」
なんだと……?
何も変わらない……?
お前は俺の何を知っている……!
「あなたのその強すぎる感情。それは何の躊躇も容赦もなく他者を巻き込み、蹂躙する」
青天使はこれほどにない冷たい目で俺を見ている。
俺はその眼に……何も言えなかった。
凍りつかされたように……動けなかった。
「もちろん。あなたを拾ってくれた第二の親について話します。もっとも……」
その時、
青天使が作り出した周りの風景がまるで氷が溶けるように歪み始めた。
「!?」
「決着をつける必要が、あるようですけどね」
「なんだと……!?」
決着……だと!?
王子のときもそうだったがこいつはいったい何を考えている……
「あなたが夢から醒め、起き上がってから別の世界へ渡るまでに、僕はあるところであなたを待ち続けます」
「あるところ……!?」
「はい。場所はあなたの中に直接教えます」
「…………がっ!?」
すると突然俺の頭の中に激痛が走った。
唐突であったため、思いっきり頭を抱え込んだ。
「もしあなたが、ただ僕たちと神様を倒すだけなのなら行かなくても結構です。しかし、もしあなたの第二の親、ディースについて……いえ、それに限らず知りたいことはすべて、僕が教えてあげます。知りたいのならもう一度僕の元まで来てください」
こい、つ……
だめだ、頭の痛さに、うまく言葉が……
待、て……
「マゼンタ……」
待て……消える、な……
「僕、は……本当……あなた、に……」
待てと……いっているんだ……
「し……せに……なっ……」
く…………そ…………
それから俺はいったいどれくらいの時間、夢の中をさまよったのかわからない。
だが、俺は諦めない。
諦めるつもりなどない。
俺は、未だ覚めない意識を無理やり……取り戻したのだった。




