聖地
イエローが倒した仮面の男のもとまで駆けたシアンだったが……
それでは、どうぞ
Side:藍
「なに、いないだと!?」
オレは善は急げと言わんばかりに、イエローが殴り倒したあの仮面男の元まで走っていったのだが……
「……やっぱり、あの時ここにも来て回収しやがったのか!」
どこを探してもあの仮面(砕けたけど)男はいないのであった。
耳を澄ましても音が聞こえない。さすがに死んだわけじゃあないだろうし……
「こうなったら……」
念には念を入れてだ。
オレは頭に装着したイヤーマフラーを外して、全神経を耳に集中させた。
そう、
「【広範囲音源感知】!」
もしかしたらまだ近くにいるかもしれない。
と、オレは耳を澄ませてみたのだが……
「! いる……!?」
反応あり。
数は……四つ!?
うち三つは高速でこちらから離れていくようすだ。
ってことは……
「回収したのはほんのついさっきか……?」
それだけじゃない。
横からなにものかがこちらへと接近していくのだが……
いったいどんな……
「え?」
あれ? 横から近づいてくると思ったがだんだん音が上の方から聞こえてくるんだけど……
オレは恐る恐る視線を音がした上の方へと向けた。
そこには……
「ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「え?」
現れたのは鳥のような細長い頭にでっぷりとした胴体。
そのくせ蝙蝠のような翼で空を飛んでいる変な生き物だった。
まさかこいつも……
「…………竜?」
「ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!?」
まさかオレを喰らう気なのか!?
鳥みたいな竜はこちらへと思いっきり突っ込んできた。
「ちっ……!」
オレは何とか紙一重で躱し、目の前の邪魔な竜を睨んだ。
人竜族ってのはこんな奴も取り込めるのかよ、と思ったのだが……
「邪魔してんじゃねえよ!!」
「ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
はやく、【広範囲音源感知】の範囲内から出てしまう前に、
「何とかしないと……!」
とにかくオレはいきなり現れた竜に対し迎え撃つつもりでいた。
逃げるのもいいがそれはそれで面倒なことになりそうだからね。
――――――――――――――――――――――――――――――
Side:歩
「ん? なんか変な声がしたんだけど、気のせいか?」
「クゥン?」
まあいいや。なんとかおれっちは間違えて置いてけぼりにしちゃった原始人を回収することに成功した。
そして、ととの背中に跨り、原始人も乗せて急いであの小川まで走っている。
しかし、予想外にもその原始人が突けていた仮面は破壊されていたらしく、うっかりとその素顔を見てしまったのだが……
意外と……普通だったな。
まあ、顔に塗料みたいなものを着けてはいるがそれ以外はいたって普通の顔であった。
どっちかっつーとおっさんじゃなくてお兄さん的な若さだったけど、
「おい坊主。お前仲間が無事ってのは本当だろうなあ」
おや、俺の後ろでととに跨っているお兄さんが話しかけてきた。
ちなみに素顔を見せたくないのか手で顔を覆っている。
「大丈夫だ。皆全員大した怪我は負っていない。心配するな」
「ったく、みんなしておれの事を置き去りにするなんて薄情すぎだろ」
「…………」
……どうしようか。
本当のことを言うと撤退したのはおれっち自身の意志であってそのために原始人全員にはあの時気絶させたんだけど……
けどそんなことは知らせるわけにもいかず、だから敵にやられたところをおれっちが逃げる形で何とかしましたって……
ああ、どうしよう……
「ワンワンワン!」
「! なんだ!?」
「!? どうした、とと!」
「ブワァ!」
ととは何か危険を感じたのか後ろ辺りに向かって吠えている。
後ろに何かあるってことか? だったら……
「わかった。とと、全速力だ!」
「ウウ~! バウ!」
「うおおおおおおおおおおおお!?」
おれっちがととに命令するとととは全速力で目的地へ向かって走り出したのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「よし! そろそろつく! 降りる準備をしろ!」
「お、おう! わかった!」
ととが全速力で走り出してしばらくのこと。
おれっちたちはれいの小川に到着することができた。
「えっと、どこに……あ、いたぞ!」
すると、到着した所には見覚えのあるおっさんがいた。
いや、おっさんだけじゃない。他の皆も起きている。
とにかくおれっちは大声でおっさんを呼んだ。
「おーい! おっさーん!」
「!?」
おっさんは驚いた様子で(仮面が付いているけど何となく)おれっちを見た。
他の仲間も驚いている(気がする)
「こ、小僧! 無事だったか!」
「ああ、大丈夫だ! それに仲間もおれっちの後ろにいるぜ!」
おれっちはおっさんの近くまで寄ると、後ろのお兄さんと一緒にととから降りた。
お兄さんは顔を隠したまま、おっさんたちに向かって歩き出した。
「皆……無事だったのか!」
「お前も……いてよかった……!」
お兄さんとおっさんたちは再会するとお互い抱擁しだした。
おぉう……男同士のハグなんで初めて見たよ……
しかし、相当嬉しいんだな。仮面をつけてもそれだけははっきりと分かった。
と、おっさんはハグをやめて
「仮面……仮面はいったいどうしたのだ!?」
お兄さんの無事を確認すると、今度は何で仮面をつけてないのかを訊いた。
それに対してお兄さんはなぜか悲しそうに言った。
「す、すまない……奴らの仲間らしき女に、壊された……」
「! おお、なんと……」
あの女……あの金髪のねーちゃんのことか?
おいおい、仮面破壊するなんて随分アグレッシブな攻撃をするな。
「くそ……!」
お兄さん本気で悲しそうだ。
あの仮面、そんなに大事なものだったのか?
……後で聞いてみよう。
「まあいい。お前が無事で何よりだ。《聖地》へ帰るとするぞ」
「ああ、わかった」
へ? 聖地?
「なんだそりゃ?」
おれっちは疑問するがみんなかまわずある方向に向かって歩き出した。
おれっちはととに跨り、仮面男たちの後ろに付いて行った。
しかし……
「聖地ってなに?」
集落とか村とかならまだわかるけど聖地って?
おれっちは何なのかを考えていると横からいきなり声がかかってきた。
「少年、どうかしたのかな?」
「! ……!?」
おれっちは驚いて声がした方へ視線を向けるとさらにびっくりした。
横から話しかけたのは、髪が天に向かって立っている仮面おっさんだった。
すげー。ボリューム凄すぎだろ。怒髪天魔王?
まあいいや。おれっちはこのおっさんに今さっき疑問に思った事を訊いた。
「いや……聖地っていったい何の事かなって……?」
「なに?」
あれ? なんで向こうの方が分からないみたいな顔をしているの?
まるで当たり前のことを知らないことに驚いているような……
「少年。君はいったいどこから来たの?」
「…………かなり遠い所」
まともな回答じゃないと思うけど他に答えようがなかった。
「そうか。なら、歩きながら教えよう」
「おお、ありがとう」
あの太ったおっさんのお願いを聞くためにも、少しでも多くの事を知らなくてはね。
「聖地ってのはね、別名《竜の立ち入らない所》なのさ」
「竜が立ち入らない所?」
「そうさ」
随分とそのまんまな名前なんだな。
「少年は分かると思うが、ここにはたくさんの竜と呼ばれる生き物がいる」
「うんうん」
恐竜じゃなくて竜って言うあたりさらに不安になるんだけど……
「そうなるとおれたちはたとえどこかに村を作ったとしても村が竜に襲われる事がある」
「まあ、そうだな」
狩りから帰ったら家がなくなっている……
わお、想像してて恐ろしい。
「山、川、谷、森、空、様々な自然の地形があるがどこもかしこも竜だらけで困る」
「それは……大変だな……」
「大変だろう?」
おっさんはおれっちのつぶやきに同意した。
ってか空って……おっさんたち空中に住めるわけないだろ。
あ、それか空を飛ぶ竜がいるってこと?
しかし表情が読めないのに会話するって結構むずがゆい。
「そこで《聖地》だ!」
「おお!」
怒髪天おっさんは拳を上に突き出して言った。
おいおい、突き出した拳より髪の方が高いぞ。
「それは、かつてわれらの祖先が倒した伝説の竜、《ティアマトー》の亡骸を基に発生した土地。いったい何の力が働いているのか分からないが、亡骸を中心としたその広大な土地はどんな竜も寄せ付けない! わかるか?
それは文字通り聖域なのだよ!」
「おおー!」
ただ単に竜が入らない土地って言えばいいのにこんなにも胸熱な説明をしてくるなんて……
この怒髪天おっさん、随分と誇らしげだ。
たぶん、自分たちの祖先に対して、なのだろう。
「あ、そうそう。もうひとつ訊きたい事があるんだけど」
「ん? なにかね」
聖地って呼ばれるのがどういうところか分かった。
じゃあもう一つの疑問であるあの翼人のこと。
「あのさ……」
それを怒髪天おっさんに質問しようと思ったら……
「着いたぞ―――――――――!!」
「え?」
先頭を歩いていたおっさんが大声をあげているのが聞こえた。
いけねえ、怒髪天おっさんの話に夢中でいったいどう歩いてたのか……
……いや、歩きはととに頼りっぱなしだったからか。
とにかくここはどこだ? と、おれっちは周りを見回してみると……
「…………はい?」
いつのまにかおれっちは森を抜けて、荒野に出ていた。
おいおいこんなところに聖地があるのか、とおれっちは前を見ると……
「…………なに?」
目の前にはなにやら謎の断崖絶壁があった。
それはもう絶壁としか言いようがなく、相当な高さがあり上がよく見えない。
また、横にも相当広く端から端までが見えない。
上がとんがっている山ではなく、台形のような岩山だった。
おいおい、なんだこの巨大な岩山は。いったいこれをどうするつもりなんだ、と思っていると……
「よし、登るぞ」
「おう!」
え?
なんか今不思議な言葉が聞こえたんだけど……
おれっちが困惑するにもかかわらず、原始人たちはその岩山の絶壁に足をかけると……
「は―――――――っ! は!!」
「「「はっ!!」」」
「!?」
そのまま原始人たちは絶壁を駆け上がり始めた。
「ええええええええええええええ!?」
もちろんその姿は驚愕である。
おいおい、ずいぶんとダイナミックな登り方をするな、と思っていると
「おーい! 少年! 登れないのかー!?」
と、登りながら振り返らずに訊いてくる怒髪天おっさん。
あ、そうだよこんなことしている場合じゃない。
「とと! 悪いけど頼めるか!?」
「バウゥ!」
ととは快く引き受けてくれるとおれっちはととに跨った状態でしっかりと、ととに掴まった。
「よし、行けぇ! とと!」
「バウァ!」
おれっちの命令を聴いたととは全速力で走り出した。
そう、絶壁の壁をである。
「とと! 落ちないようにね!」
「バウァ!」
と、おれっちはととにまたがったままふとこう思った。
振り返ったらどうなるだろうか……
そう思ったのだが怖くてできないのであった。
―――――――――――――しばらくして、頂上――――――――――――――――
「ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……ハッ…………!」
「おうし、よく頑張った。偉いぞ、とと」
「ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……!」
いやーいくらおれっちでも絶壁を走るなんて真似できなかったからなあ。
「おお、やっとついたか少年」
「そんな動物に頼ってちゃあ自力で登れんぞ」
わざわざ待っててくれたのか仮面の原始人のおっさんたちが迎えてくれた。
「それで? 結局聖地ってのはいったい……」
「あれだ」
おっさんが指を指したところを見ると……
「…………………!?」
そのこうけいはおれっちには衝撃的だった。
最初外から見たらただ横に広い絶壁なだけの岩山かと思った。
しかしその頂上にはあり得ないサイズの骨を中心に一つの大きな集落ができていた。
「なんだ、こりゃ……!?」
確かにこれはすごい。
中央の骨は、角が生えた頭を中心に大量の骨が並べて置かれている。
もし骨じゃなく生きていたら岩山を覆うんじゃないかってくらいでけえ。
あんなでかい岩山のであったため頂上はとてつもなく広い。だからこそ一つの村という物が出来上がっている。
これはもう……言葉が出ないくらいすげえ……!
「ようこそ。ここが、我らが聖地だ」
ここが……聖地……!
「ではまずは、村長の元まで行くとするぞ」
おれっちは目の前の光景に何も言えず、ただただ黙ってついていくのであった。




