過失。そして逆走
何でもいいから時間が欲しい……
それでは、どうぞ
Side:歩
おれっちと原始人を乗せたととはとにかく戦場から離れ、間の悪い雨に濡れ、そうしているうちに夜が明けてしまったのだ。
そのあとおれっちは三十分ほど仮眠をすると少し進んだところに、偶然小川を見つけだしたのだ。
どれほどの時間かわからないが、日が昇る程に走り続けたため、死にもの狂いに川の水を飲んだ。
雨が原因で少々濁っていたが構ってはいられない。
そして、近くに人や恐竜の気配が感じないとわかると、近くの砂利に座り込んで改めて自分の身体を確認したのだった。
まあ……先ほどはなんとかかっこつけて去ったのはいいがもちろんあのおっさんから受けた傷は無視するには結構なもので……
「痛たたたたた…………」
シャツをめくるとおれっちの腹部周辺には目を覆いたくなるほどの痣が……
もしかして、あ、あばらが何本かイッてしまったかな……?
ったくあのおっさん容赦ないな……
「クゥ〜〜〜ン」
「とと……大丈夫だよ」
まあこっちだって手を抜くわけにはいかなかったけどな。
おれっちと同じ異世界人……マゼンタとか言ってたな。
あいつが入って来なければどうなってたことやら……
「こっちの調子も大丈夫だろうか」
おれっちは改造された両腕、断鋏の調子を確かめた。
シャキ! シャキ! シャキ!
「うん……問題ないな」
あの時は必死だったから考えてないが、今思うとぞっとする。
挟んだのはおっさんの爪と翼。
そして、おっさんの仲間の右腕。
挟み切ったのは実は初めてなのだが……
「これが斬るという感触……」
あの感触はしばらく忘れられそうにないな……
訓練と実戦は違うってことを実感……
「ワン!」
「おっと、こうしている場合じゃない」
おれっちはととの背に乗せた原始人たちに怪我がないか確認することにした。
ちなみに、ととは鼻が利くこともあるため、置き去りになった原始人はいない……はず。
まあたったの数人だから運ぶのに問題ない。
おれっちはととの背中から原始人を地面におろすと、一人ひとり並べて寝かした。
そして、一人ずつ原始人の立派な筋肉が付いた逞しい体の状態を確認する。
「……うん……うん……うん…………」
傷の具合は無傷の者からほんの少しと平均的に問題はないようだ。
けど、少しとはいえ傷ついた所をそのままにしておく訳にはいかない。
「化膿したら大変だしな……」
一期一会とか、袖振り合うも多生の縁とか、そういう言葉もあるんだ。
……いや、こいつら袖ないんだけどね。
「やるとするか。とと、お前はしばらく休んでいろ」
「バウッ!」
おれっちの命令にととは横になって静かに身体を休めた。
「さて、と……」
おれっちはこいつらのうちまず一人目を小川の所まで運ぶと、川の水で傷口を洗い出した。
雨で少し濁ってはいても傷口を洗うのに問題はない。
「しかし、なんでおれっちが男の体なんかを……」
勘弁して欲しい気はあるが……女の子なら女の子で違う意味でできないか。
と、くだらないことを考えつつおれっちは原始人の顔に着けてある仮面が気になってきた。
「………………」
そう言えばこの仮面……いったいどういう意味でつけているんだろうか。
何か気になるな……
「とってみようか……」
ああ、でもなんか気が引けるよな……
そうだよな……無粋ってやつかなー……
なんて葛藤したのはほんの一瞬でおれっちは仮面に手を……
「こらーッ!」
「わぁ!?」
伸ばそうとしたところ後ろから怒号が響いてきた。
「小僧! 今お前何をしようとしていたんだぁ!」
「うおおおい!? すいませーん!?」
おれっちは後ろを振り向くと、原始人の内の一人である、やや体が大きい男が目を覚ましておれっちに怒鳴りつけていた。
おそらくおれっちが一人目を洗っている最中に目を覚ましたんだろう。
とにかくおれっちが怒られている原因は一つしか思い浮かばず、おれっちは目の前の仮面に伸ばしていた手を引っ込めた。
「まったく…………興味本位で戦士の素顔を覗こうとするんじゃない」
「は、はい……わかりました……」
翼人と戦ってた時とは違う恐怖におれっちは少しだけ震えていた。
……やっぱり、好奇心は猫を殺すって言うんだね。
…………ん?
「何でこんなところに居るか知らんが、仲間の身体を洗っているんだろう」
違和感。
あれ? そういえばおれっち……このおっさんがなにいってるのかわかるんだけど……
……なんで?
「詳しいことは後で聞く。俺も手伝うが間違えても仮面は外したりするんじゃないぞ」
たしか……わからなかったんだよね?
昨日までは何言ってるかさっぱりだったよね?
原始人も、翼人も……
「おい、聴いているのか小僧。おい、おい!」
いや、昨日の時点で唯一言葉がわかるのがいる。
「……もしかして…………」
マゼンタ……あの太った男……
なんかあっさりと暴走したおっさんを静めたりしたけどまさか……
あいつ、おれっちに何かした?
「…………」
「おい、大丈夫…………」
「……えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」
「ちょ、おい!」
おれっちはいきなり相手の言葉を理解したことにより、驚いて叫んだのだった。
吃驚した様子でおっさんはもう一度おれっちに怒鳴りつけた。
「こら! いきなり大声を出すんじゃないよ。びっくりするだろ」
「あ……!? は、はい……すいません……」
いったい何でだろうか、おれっちはこの原始人のおっさんたちの言葉がわかるようになっていた。
ほんのつい昨日までは分からずじまいだったのに……
「しかし、小僧。お前俺らの言葉が流暢に話せるのなら初めからそうしていればいいだろうに」
「え?」
「え? って、昨夜はいったい何を言ってるのか分からずじまいだったんだから結構苦労したんだぜ」
「……………」
どうもこのおっさんもおれっちの言葉が分からずじまいだったらしい。
……だとするのなら原因は……
「まあいいが……小僧」
「……は、はい」
っと、考えていたらまた呼ばれた。
なんだろうか。
「妙なことに俺たちは昨夜の事について全く覚えていないんだが、いったい何で俺たちはこんなところにいるんだ」
「え?」
「たしか、あの人竜族の男の手が光り出したところまでは覚えているんだが……」
「…………」
「……まあ詳しいことは後で話すとして今やっていることを続けるとしよう」
おっさんは少しだけ疑問に思っていたがすぐに他の仲間たちが横になっているところへと行った。
そうか、あの時はおれっちが気絶させて強制的に退避させたんだがそのことがわからないようだ。
よかった。もしそのことがばれたのならおれっちはいったいどうなっていたことやら。
「……それにしても」
なぜにおれっちは原始人の言葉がわかるようになっていたのだろうか。
そもそも原始人は言葉が使えるのかとか思うがまあそこはいい。
なんせここは翼人だなんて架空の物語でしか見ないやつらがいる。
そんでもってマゼンタって男が言ってたこと。
『この二つの関係、ただ事ではないと感じるからだ』だったっけか?
二つって、原始人と翼人の事だよな?
そりゃまあそんなこといくつかは想像はできるけど……
けど、事実は小説よりも奇なりって言う。
あんまり推測で動いちゃあいけないよな。
あ、そうだ。たしか原始人が翼人のことどう思っているか訊いておけとか言ってたな。
今ならおっさん、おれっちのこと敵対心は持ってなさそうだし、第一戦いに巻き込まれたんだから別に訊いても……
「お、おい小僧!!」
いいんじゃ……え?
おれっちが考え事をしていると先ほどのおっさんが血相を変えておれっちの元まで来た。
いや仮面着けているから表情は分からないけどまあ様子からして、だ。
「どうしたんですか?」
おれっちはやや緊張気味に訊いてみると……
「お前……一人足りないぞ!」
「へ?」
「一人足りないって言っているんだ! まさかあの場所に置いてきたのか!!」
おっさんは興奮しておれっちの胸倉を掴みあげた。
「ちょ、待て待て待て待て! 落ち着け!」
「あ、ああ……!
なに? このおっさんなんて言ったんだ?
一人足りない、だと?
いや、いくら全員仮面着けていて素顔が見えないから見分けがつかなくてもととのにおい分けで分からないはずがない。
「おっさん。そいついったいどういう特徴だった?」
「槍だ。でかい槍を持っている奴だよ!」
槍……槍……槍…………
…………あ。
「おれっちに話しかけてきた奴……」
そう言えば確かにあいつでっかい槍を背負っていたよな……
皆逞しい体だけど、その中でも一際がっちりした体つきであって……
で、砂利の上に寝かせている原始人たちの中には……
「…………いない」
あれ? もしかして置いてけぼりにしちゃった?
おれっちが強制的に撤退させたってのに仲間一人置いちゃった?
このおっさんは撤退したのはおれっちの仕業とは気づいていないけど、
もし今寝ている原始人の内一人でもいたら……
「ま……まずい! おい、とと! 起きろ!!」
「バウッ!?」
「な……小僧!?」
やばいやばいやばい!
こうしてはいられねえ!
おれっちはスタンバイ状態のととに跨り、命令した。
「とと! 全速力だ!!」
「バウ!!」
「小僧!? どこへ行くつもりだ!?」
後ろでおっさんが聞いてくるが時間は掛けられねえ。
「すまねえ! おれっち置いてけぼりにしちゃった仲間取り返すから待っててくれ!!」
「おい、ちょっと待て! おい!!」
後ろでおっさんが叫んでいるが構わない。
ととは言うとおり全速力で駆け出し、今来たところを逆に進んだのだった。
「……全く……恥ずかしい……!」
あんな別れ方をしてすぐに戻ってしまうなんて……




