その裏でのこと
少年とマゼンタに何があったのか
それでは、どうぞ
Side:紅
…………ぐ……ぁ…………
まったく……何てことだ……
俺が……深手を負うとはな……
心無しか……雨も……降ってきた……
「ぐっ…………!」
全身を……刻まれた……
俺は体のいたるところからくる熱さと痛みに呻き、地面に伏せていた。
原因は予想外に起こったできごとなのだが……
「まあいい……少女の父親は……無事なようだ……」
俺の近くで少女の父親が倒れ伏している。
怪我は……ある。だが死んでない。気絶しているだけだ。
俺も血が流れないよう、深い傷の部分だけ能力を解除し、焼いて止血した。
まさか女騎士と同じことをするとは……
俺も十分危ないが……
……あいつらは……無事なのか……?
耳を澄ますと……先ほどまで騒がしかった戦場が静かになっていた。
という事はあの少年……うまくやってくれたようだ。
だが……
さすがにこの怪我は……予想外だ……
――――――――――遡ること少し前――――――――――
「人間。貴様は手出しをするな」
少女の父親は前に出て、俺に対して警告をする。
「なぜだ?」
「こいつはヤクトの右腕を奪った。人間が我々に牙をむいた。ならば……」
少女の父親は敵意を籠めた目で少年を見て……
「この小僧が人間である以上、許すわけにはいかん」
と言った。
一方少年の方はうんざりとした表情になった。
「はぁ……おれっち、おたくの言いたいことは解らないが……」
「なに?」
少年が一度ため息をつくがやがて深呼吸をすると……
「さっきのおっさんもそうだったし。おれっちに強い敵意があることは分かった」
敵意ではない、しかし確固たる意志で迎え撃つ気であった。
「だから……かかってこい」
「!」
少年の様子から何かを感じ取った少女の父親。
「……! 望むところだ!」
少女の父親は両腕を大きく広げると、力を籠めた。
「ぬうううううううううううううううううう!!」
すると少女の父親の両腕が緑色に光りだした。
「「!」」
俺や少年が驚く中、緑色に光る腕は人の形状から変化していく。
それはまるで……
「な、なんだ!?」
「……竜…………」
変化した腕はまるで昨日みた竜と呼ばれるものにそっくりであった。
通常よりも二~三倍大きく、硬そうな緑の肌と凶悪なほど鋭い爪に変わっていたのだった。
少女の父親の変化した腕を見て少年は顔を引きつらせる。
「お……おいおい……」
少年が少したじろぐと……
「行くぞぉ!」
「!?」
少女の父親が一直線に少年の元へ走った。
速い。一瞬にして少年との距離が縮む。
接近した少女の父親が右腕の爪で少年の首を掻っ切ろうとするが、
「うおぃ!?」
少年は間一髪でそれを躱した。
しかし少女の父親は構わずに左腕の爪で少年の腹部へ突き刺そうとした。
「なんの!!」
それを少年は……
ガキィ!!
「!?」
籠手を着けた両腕で受け止めた。
今の一撃は正直かなりの物だがそれを真正面で受け止めるとは少年も籠手も頑丈である。
……ん? よく見ればこの籠手……
少年が着けている籠手は奇妙な形状をしている。
籠手の手の甲の部分に円形でほんの少し厚みのある物体が付いている。
その上よく見ないとわからないが、その円形の側面から何かが伸ばされており、服の袖の中に隠れるようになっている。
まさか隠し武器か、と懸念していると……
「死ねぇ!」
俺が考えているのを余所に、攻撃を止められた少女の父親はそのまま右の爪を少年へ振り下ろした。
その攻撃は速く、一瞬で少年の頭を砕く勢いだ。
しかし少年も素早く、左の爪を塞いだ両手の内左腕を離し、右の爪を防いだ。
「!?」
少女の父親も速いが、少年の方も素早い。
少年も少女の父親もお互い両腕を防がれた状態である。
この状態で先に動いたのは……
「喰らえ!」
少女の父親である。
少女の父親は少年の顔に向かって思いっきり口を開けた。
「……!? させるかぁ!」
何か察したのか少年は思いっきり頭を後ろへ引くと……
「うおりゃあ!!」
「!」
少女の父親に向かって頭突きをかました。
少年の額と少女の父の額が思いっきりぶつかり合う。
「ぐあぁ!」
少女の父親が怯んだ隙に少年は手を離し、距離を取った。
その直後、
ブォ!!
「「!?」」
少女の父親の口元からほんのわずか、火が漏れ出ていた。
これは……
少女を襲った火を噴く力……
この男も使えるのか。
だとしたら……厄介な……!
「まったく、とんでもないなお前。容赦ない」
「貴様……見かけによらずやるじゃないか」
少年も少女の父親もお互い落ち着いて相手をよく見た。
言葉がわからないくせに通じ合ってはいる。
「……じゃあ仕方がない。またこいつを使わせてもらうか……」
「なに?」
少年はぽつりと呟くが少女の父親には聞こえたようだ。
少年は一瞬だけ視線を籠手に向けた。
少女の父親は訝しげに少年の籠手を見た。
「なんだその籠手は。それで人竜族である俺を倒せるとでも?」
「なに、壊れたりはしない。それじゃあ……行くぞ!」
「!」
会話が微妙に食い違っているがそれは置いておく。
少年は先ほどとは逆に、少女の父親に向かって突撃してきた。
少年は籠手を着けた右腕で少女の父親に殴り掛かる。
「なんの……!」
少女の父親は迎え撃つように左の爪で少年に向かって振り下ろそうとした。
すると……
「かかったな!」
ビリビリビリッ!
「!?」
少年が叫ぶと同時に着ていた服の袖が内側から破け、中から何かが出てきた。
それは、籠手についている円形の物か伸びていた二本の刃であった。
その刃は円形の物を支点に、二本ともそれぞれ別方向に回転して……
ガキン!!
「なに!?」
……少女の父親の左の爪を挟んだ。
まさかこれは……
「ハサミ……なのか?」
「そう、その通り!」
いったいどういう仕組みで動いているか分からないが、どうやらただの頑丈な籠手ではない、鋏付きの籠手だ。
籠手の正体がわかると少年は誇らしげに言った。
「名刀・断鋏! おれっちの隠された武器なのさ!」
「うぐぐ……こいつ……!」
少女の父親は挟まれた左の爪を必死に振りほどこうとするが……
「駄目だよ。さっきも言ったがこの籠手は特製の物で、そう簡単には壊れない」
それに、と少年が囁くと……
バチン!
「……! うぐぁぁぁぁぁああああああああああ!!」
「!?」
少年は、右の籠手で挟んだ左の爪をそのまま力任せに挟み切った。
な、なんだあの武器は……
全く知らない上にどういう仕組みなのかもわからない。
その上この少年、先ほど簡単そうに爪を挟んでいたがあの速さを捉えるとは……
少女の父親はそのあまりの痛さに悶えている。
「あ、あれ? 痛かった? 爪なのに?」
少年は軽い調子で言うが目は本気だ。
こいつ……
俺はこの異世界人の少年が本当に只者でないという事を悟った。
物理的に、精神的に……
「こいつ……!」
すると、少女の父親は怒りだし……
「ぐあああああああああああああ!!!」
「うお!?」
先ほどは両腕のみ光っていたが今度は背中側が光り出した。
正確にはそこには蝙蝠のような翼があるのだが……
「「!」」
その翼が光り出すと、巨大化し、約二倍ものの大きさにまで膨れ上がってきた。
その翼で少女の父親は先ほどとは比べ物にならない速さで突撃してきた。
「おのれ! 人間がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちょ! タンマ! タンマがぁ!?」
制止の声をかけようとした少年は最後まで言い切らずに吹き飛ばされてしまった。
先ほどの攻撃は、少女の父親は相手とすれ違うようにして、巨大化した翼を少年の身体に叩きつけたのだ。
それも……
「どべ!? がはぁ!? べごぉ!?」
先ほどから連続して身体に翼を叩きつけられている。
少年が吹き飛んでから地面に着地するまでの間にもう一度叩き込まれる。
そしてもう一度吹き飛ばされ、地面に着く前にまた叩かれる。
先ほどからこれの繰り返した。
少女の父親は少年に動く隙すら与えず猛攻を繰り出している。
「………………!」
ここらが限界か……
このままではこの少年は死んでしまう。
こいつも俺と同じ異世界人ならなにか情報があるかもしれない。
ならばここで少女の父親を止めるか。
と、俺が少女の父親を止めようと行動に出ようとした時、
「待て!」
「なに?」
とつぜん聞こえてきた少年の声。
いったい何回目の特攻か。
少年は空中で向かってくる翼に足で蹴り返して飛ばされる方向を変えた。
「なに!?」
そして少年はそこからようやく地面へ着地するとすぐさま立ち上がった。
あれだけボロボロにされてもなお屈しない瞳である。
「こいつ……!」
少女の父親は一度地面に降りると身体を少年の方へ向け、再び駆け出す構えを取った。
しかし攻撃の構えを取られているのに少年は不敵に笑ったままだ。
「おっさん…………ようやくお前の速さが…………見えてきたぜ……」
「なに?」
「計十一発……それだけ受けりゃあ目が慣れる」
こいつ……あれだけ攻撃されてた中ずっと少女の父親の動きを覚えていたのか……!?
少年は中腰の姿勢になって、両腕を前へ突き出した。
「……! 人間がこの俺の力を受け止める気か!?」
「なーに、おれっちこう見えても得意なんだよねー」
こんな状況でものんきな声でしゃべる少年に少女の父親はまたしても怒り出す。
「人間、くた……ばれぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええ!!」
少女の父親は翼を全開にして少年の方へ突進してきた。
それに対し少年は少しだけ立ち位置をずらすと……
「うおおおおおおおおおおおお!!」
ガキィ!!
「「!?」」
籠手に付いた鋏で少女の父親の翼を片方ずつ挟んだ。
そして……
ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そのまま少年は体を押されるが足に力を入れて踏ん張ると……
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ザザザザザ………………!
「「!」」
突進した少女の父親を止めたのだった。
「貴……様…………!」
「あっはははは! 止められたのがそんなに意外か?」
こいつ……大柄な少女の父親に対しこの少年は小柄で体つきが細い。
つまり、少年と少女の父親では体格も身長も全然違うはずが……
……少女の父親の突撃を止めた!?
俺だけではなく少女の父親も驚いている。
「放……せ…………!」
「でもまあ、おれっちに捕まったのは運の尽きってことで……」
…………!
いかん!
「おい! 今すぐ退け!」
「!?」
「もう遅い」
その瞬間、
ジョキッ!!
という音とともに……
「…………!」
少年の鋏が翼を……根元から断ち切ったのだった。
翼にも痛覚があったのか、爪とは違い二つとも完全に斬られたことで……
「ぐ……ああああああああああああああああああああああ!!」
少女の父親は叫び声を挙げた。
それは痛いというだけではなく、悲痛と言う意味も含まれていた。
「が……あ……!」
「悪いな。こうでもしないとおれっち死にそうになっちまうんで」
少し罪悪を感じつつもはっきりと言い切った少年。
すると少女の父親は……
「う…………がああああああああああああああああ!!」
「うおぉ!?」
翼をなくしたせいかそのまま錯乱し、爪を振り回しだした。
まずい……!
「ぬおっ!? 待て、ちょっと待てってぇ!?」
少年もやはり先ほどの怪我は無視できないのかうまく攻撃をかわすことができない。
もはや暴走だこれは。
こうなったら……!
「待て! 止まれ!」
「ぐぅあああああああああああああああああ!」
少女の父親は理性が定まらない様子で爪を振り回している。
俺はその少女の父親の足元に視線を向けた。
「【冷可視】!」
「「!?」」
俺は【冷可視】で少女の父親の足元を凍らせ、動きを止めようとした。
しかし、
「……! ぐあああああああああああ!!」
「なに!?」
少女の父親は関係なしに足を動かし、少年へと向かった。
そして、少女の父親の振りかぶった腕が少年へ命中し、かなりの距離を飛ばされた。
「ぐあぁ!!」
「! 無事か!?」
俺の真横に飛ばされた少年は何度か地面を転がると、そのまま勢いよく立ちあがった。
……無事か!?
「……くっ! いくらなんでもこれは……きつい!」
どうもまだ動く事が出来るようだ。
だがこれ以上は……!
「こうなったら……!」
「ん?」
少年は少女の父親の……さらに向こうに視線を向けてなにかアイコンタクトらしきものを送った。
……まさか…………!
「ぐ……ああああああああああああああああああああああ!!!」
少女の父親はもう一度鋭い爪を振り回しながらこちらへ突進してきた。
その上、速い!
「来いやぁ! おたくの動きなんざ見えているって言っただろぉ!」
少年は再び両手を出し、足を強く踏ん張り出した。
もう一度受け止める気か。
という事は……!
俺は勢いよく地面を蹴り出し、戦い合う二人のもとへと駆け抜けた。
否、正確には……
「ぐああああああああああああああああああああ!!」
ガッ!
俺の目の前で少女の父親の突進を鋏ではなく素手で受け止めた。
そして、突進の勢いから後ずさりする少年。
ズザザザザザザザザザ!!
「ぬぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
少年が必死に足に力を入れて少女の父親を止めているが俺はそれどころじゃない。
俺は必死に走り、せめぎ合う二人の間…………いや、
少女の父親の背後へ向かう。
間に合え……間に合え……
「ぐぁあ!?」
「止まったぜぇ!」
間に合え!
「カモーン! とと!」
「バウァ!!」
「「!?」」
少女の父親を止め、両腕でしっかりと拘束した少年は伏兵であろう者の名前を呼んだ。
少年の合図に現れたのは意外にも人間ではなく……
「なに!?」
現れたのは、犬であった。
ただし、俺の知ってる犬ではない。
雄牛ほどの大きさで獰猛な表情をしている。
さらには全身には刃物が付いた変わった鎧を身に着けていた。
その犬が、少女の父親の背中に向かって駆けてくる。
「やれぇ! わが相棒、殺人犬ととぉ!」
「バウ!!」
「車輪犬舞!」
「バウァ!」
少年が叫ぶと鎧犬が縦に回転しながら跳躍してきた。
おそらく鎧についた刃物で相手を切り刻むのだろう。
向かう先は少女の父親の背中。
だが!
「間に合った!!」
「「「!?」」」
そんなことはさせない!
俺は何とか少女の父親と鎧犬の間に入る事が出来た。
そして……
ジャリジャリジャリジャリ!!
「がぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっっ!!」
「「!?」」
俺は少年の仲間であるこの鎧犬を傷つけないよう、全身で攻撃を受け止めた。
しかし、刃つきの犬であるため俺の全身が切り刻まれる。
だが……
「止めた……!? ととの車輪犬舞を!?」
「なに……これしきの事…………」
何とか……回転する犬を止めることはできた。
少女の父親にはダメージはない。
俺は腕に抱えた犬を向こうへ思いっきり投げつけた。
まさか止められるとは思わなかったのか、突然の事に受け身が取れず、そのまま投げつけられた。
「ギャイン!?」
「とと!」
だがなんとか……
少女の父親への不意打ちは止める事が出来た。
あとは……
「おのれ……ここにきて参戦か。じゃあ二対二だな」
「違う。二対二ではない」
「なに?」
この戦いを……止める!
「これにて戦いは終わりだ」
俺は痛む体をこらえ、少女の父親の体を後ろから抱き抱えた。
「え!?」
「バァ!?」
「!?」
三者三様、俺の行動に驚く。
俺は翼を切り落とされた暴走状態になった少女の父親を落ち着かせる。
「【凍眠】……」
「!?」
俺は体全体を使い、少女の父親から徐々に徐々に体温を奪い取った。
すると少女の父親は体温が下がっていくと意識も朦朧となっていく。
「う……うぅ……ぁ……」
頭に血が上っていた状態から静かになっていく。
今がチャンスだ。
「ふん!」
「がっ……!?」
とどめに俺は打撃で少女の父親を気絶させた。
なんとか……静かになった。
「ぐ…………!」
「…………!?」
先ほど鎧犬の攻撃をまともに受けたせいで出血が激しい。
と、ここで少年は訳が分からない様子で俺の元に寄ってきた。
「……おいおいおい。仲間をかばうのは分かるがなんでわざわざおっさんを気絶させた?」
「無用な血を流すつもりはない……という訳だ」
「は? いやおれっち十分怪我してるし、おっさんもおっさんで結構な血が流れているんだけど……」
まあ、本当は俺一人では上手く止められないと思ったからだ。
仲間が怪我を負った事で怒る少女の父親。
まだ何を考えているかわからない謎の少年。
だから俺はお互い弱ったら死なない程度に無力化するつもりだった。
それにもう一つ、
「俺はこの男の……仲間ではない」
「はぁ?」
「ただ……利害が一致した、だけだ……」
「……わからん。おたくは結局何がしたいわけなの」
「そうだな……」
俺はこいつとゆっくり話す機会が欲しかった。
思っているのとは違う形だがな。
ノワール曰く、俺たちとは別に異世界から来た少年。
様子からしてこいつは根本的に仮面男の味方じゃない。
ならば……
「一つ、取引がある……聞いてくれないか」
「……え? なんでこんな時……」
「いいから、聞け」
「…………」
俺もお前も異世界人。
そしてこいつに戦う意思がないなら好都合だ。
「もしお前が……ここから仮面男たちを退かせてくれるのなら、俺たちはこれ以上追跡しないとしよう」
「なに? ……そんなことしてなんかメリットでもあるのか?」
「メリットはある……」
普通にそんなことをすればこいつは仮面男に糾弾されるだろう。
ならば……
(おい、ノワール)
«……何だ»
(あの少年、俺以外の者の言語がわからないようだが……わかるようにすることができるか?)
«可能だが……そんなことする必要が……»
(ある)
一つは言語を理解できるようにすること……
«……いいだろう。言うことを聞こう»
どうやら快く引き受けてくれたようだ。
あとはお互い得することを……
「そもそもお前は何の目的があって、ここにいるのかはわからないが共にいる以上……目的を果たしやすいのでは、ないのか?」
「……なに?」
「お前もこの世界の住人ではないんだろ…………異世界人」
「…………!」
俺の言葉を聞いて顔をこわばらせる少年。
さすがに俺の正体を察したようだ。
「……どうやらおれっち、もう一度おたくに会う理由ができたな」
「それは光栄だ」
「いいだろう。正直おれっちここにきて心細いからねえ、おたくからいろいろと聞いてもらうわ」
少年は踵を返し、こちらへ背を向けると、大声で何かを呼び出した。
「それじゃあ……とと!」
「バウッ!」
少年は鎧犬のを呼びよせると、唯一刃の付いていない背中に跨った。
どうやらここから去るようだがその前に……
「それじゃあおれっちの名前を教えるか」
最後に少年は名乗ることになった。
「おれっちは宇の城にて歩むつわもの…………」
ずいぶんと回りくどい挨拶だな。
そんな俺に構わずに少年は続ける。
「これをもって、宇城歩と申すのさ」
「ウジョウ・アユム……」
「アユムって呼んでくださいねー」
こんな時でも少年はのんきな声で言う。
大丈夫か、こいつ?
「で、おたくの名前は?」
「…………マゼンタ。お前と同じ、異世界人だ」
「やっぱりね。他にもいるのか?」
「ああ、あともう二人、金髪長身の女と明らかに小さい子供がいる。そいつらは俺の仲間だ。手はだすな」
「そうか、わかった。じゃ、また会おう。マゼンタ」
と、少年は跨った犬に命令を出そうとするがその前に、
「待て、少年」
「……って、なに? まだなんかあんの? それにおれっちのことは名前で呼べよ」
「そんなことはどうでもいい」
「よくねーよ。名前でよばねーと無視するぜ」
「…………」
……まあ、ここで意地を張っても意味はないしな。
「……アユム。お前は、仮面男たちと人りゅ……いや、翼の生えた人間たちの事をどう思う?」
「え? 仮面男はまあ原始人の事だよな。で、翼人との関係? おれっち、言葉がわからんからなんとも……」
「そうか、なら……」
俺は一つ気になることがあった。
歪んだ空間の力場と関係はなさそうだが……
「お前は仮面男たちに、お前の言う翼人とやらの事をどう思っているか訊いておけ」
「え? なんで?」
「この二つの関係、ただ事ではないと感じるからだ」
「…………」
人竜族と人間。
どちらも相手に対し、強烈な感情を持っている。
い敵対心では収まりきらないほどの、な。
少年はいまいちといった表情で俺をみると、再び犬に跨った状態で走り出す姿勢に入った。
「何のためかはよくわからんが、やることはよくわかった。とはいっても言葉がわかんないからあまり期待はするな?」
行け、とと! と
少年は跨っている犬に命令し、そのまま走って行ってしまったのだった。
――――――――――そして、現在――――――――――
……あの少年……うまくやっていけるだろうか……
少女の父親に、その仲間……まだ息はある。
あとは誰かが来るまで待つしか……
「……ちゃ……こ……よ……」
……この声は…………
……だめだ、意識が朦朧としてきた。
血を……流しすぎた……
傷を塞いでも……血は戻らぬしな……
「…………! …………!」
……そう心配そうに叫ぶな。
俺は簡単には死なない……
神を……殺すまでは……
だから……少しだけ……
眠るとするか…………




