不戦勝
少ししてこちらでは……?
それでは、どうぞ
Side:藍
ちっ、なんなんだこの仮面男たちは!
最初は裸に武器一つとは大したことがなさそうかと思いきや……
「喰らえ!」
「なんの!」
危ない!
仮面男の一人が上からこちらへ槍を向けて落下してきた。
オレはそれをバックして躱し、そこを斬ろうとしたが……
「この!」
「ふん!」
音叉刀が当たる前に奴は上の木の枝へとジャンプしてかわした。
「くそっ!」
「へい!」
そしてそのまま奴は近くの木へと飛び移った。
さっきからこの調子である。
「……ったく! なんなんだこの戦い方は!」
「気をつけろ! 奴らはこうして相手の意表を突く攻撃をしだすのだ!」
そう、仮面の男たちはどうも厄介な戦術を使いやがる。
奴等はその並外れた身体能力によりすごい速さで木から木へと跳躍しやがる。
そしてオレたちの死角や隙ができた所を攻撃する。
防がれたり躱されたりするとまた跳躍し、同じことを繰り返す。
さっきからこればっかりだ。
それだけじゃない。
ヒュ!
「!? 危ねえ!」
「うお!?」
オレは近くに立っていたおっさんの背を押して位置をずらした。
すると、
ドスッ!
「!」
先ほどまでおっさんが立っていた近くの木に木材でできた矢が刺さっていた。
そう、もう一つ厄介なのは……
「狙撃とは厄介な……」
「奴ら、確実に殺す気だな」
どこかの木の上からか、こちらへと狙撃をしてくる奴がいる。
音から探そうにも周りが騒がしすぎる。
「【重たい空間】!」
「ぐあぁ!」
と、ここでやや離れて行動しているイエローが能力で仮面男の一人を落とすと、
「はあ!」
「ぐへぇ!?」
その鳩尾を踏みつけ、無力化した。
「これで……三人」
「こんな地道な作業じゃ……きりがない」
厄介なのはイエローの能力がフルに生かせないことだ。
接近戦は難しいし【重たい空間】はオレやおっさんたちを巻き込む可能性がある。
さて、どうする……
「こいつら……!」
「おのれ……!」
ってかこの仮面男たち尋常じゃないほどの敵意を向けてくるんだけど……
いったいなんなんだよこれは?
「ぐああああああああああ!!」
「マイト!」
「なに!?」
すると、オレの近くにいたやや太り気味のおっさんの肩に矢が刺さっていた。
どうやら狙撃をされたようだ。
「この…………人間がぁ!」
「マイト!」
矢を刺されたことによりおっさんが我慢ができなくなったように怒りだし、右手を上へ掲げた。
「待て! お前のそれは……!」
「うるさい! お前等は備えていろ!」
「はい?」
他の仲間が止める中おっさんは構わず何かをするようだ。
このおっさん何をするつもりだ?
すると突如おっさんの右手が光りだし……
……ん!?
「喰らえ!」
「ちょ…………!?」
その時、
ピカ―――――――――――――ッ!!
「「「ぐああああああああああああああああ!!」」」
「うおっ!?」
「ちょ、眩し……!?」
明らかに眩しすぎる閃光が視界を遮った。
おっさんたちは事前に分かっていたらしくあらかじめ目を閉じていたが、出遅れたオレとイエローは目を眩ませてしまった。
いや、俺だけじゃない。
「今だ! 行け!」
「ああ!」
木の上にいた仮面男たちも突然の閃光に木から落ちてしまった。
そこをおっさんたちが突く。
「こいつ……!」
オレも止まっている場合じゃない。
オレは音を頼りに近くで動きが止まっている奴に近づくと……
「おりゃあ!」
「ぐあ!?」
音叉刀で斬った。
目が見えなくても音でわかる。
ただ……
「う……目が……」
イエローはどうしようもなく、そこでしばらく止まったままだった。
まあ、とにかく……
「今だ! 止めを刺すぞ!」
「おお――――――――!!」
そろそろ決着がつくのかと思ったが……
「ごめん!」
「!?」
なんだ…………?
「謝罪謝罪!」
「ぐあっ!」
「ぎゃあ!?」
なんだ!?
この声は人竜族のおっさんどもだよな?
やられている!?
「なんだ!」
「バウッ!!」
「ぎゃあ!?」
…………!?
これはまさか……新手か!
いったいなにが……!?
「悪りーな」
「ぐあぁ!」
「ぎゃぁ!?」
あれ? なんで仮面男までやられているの?
戦闘中に何度も聞いた仮面男の一人の声……
あれ? この声どっかで……
「いやーごめんね!」
「ぎゃあ!?」
オレはそろそろ目が慣れてきたので、開けてみると……
「…………!」
い、何時の間に!?
オレの目の前には全員気絶して倒れたおっさんたちと……
「へえ……お前があいつの仲間か……」
「…………誰?」
おっさんたちの中央に立っているよくわからない謎の格好の少年がいた。
肌は白いし髪は黒いから人竜族じゃない。
仮面もつけてないし…………誰だよ。
少年はオレの表情から何が言いたいのか察した。
「おれっちの正体? それならおたくの仲間である、あの太った男に訊くんだな」
え、太った男って……
「それじゃあまたねー!」
「えぇ! 早っ!?」
「カモン、とと!」
少年は指を口に当てて笛を吹いた。口笛である。
その音を聞いて現れたのは……
「バウァ!!」
「!?」
……なぜか全身に鎧を装着した変な犬であった。
しかも四本足と頭としっぽの部分には刃物のようなものまでついていた。
これだけでも十分変な犬なのだが……
「でか!?」
なんというか雄牛ほどの大きさはあった。
しかも背中には気絶した仮面男たちが大量に積んである。
「ちょっと、なにが……ええ!?」
今ごろなのかイエローが目を開け、そしてでかい犬を見て驚いた。
その声に少年はイエローを見ると……
「ああ……お前が金髪長身の女か。この二人もあの男と同類なんだな」
「ちょ、ちょっと待て!」
さっきからこいつはなんて言っていた?
あの男と同類?
そうか、この声は……!
「お前……マゼンタはどうした!」
「え?」
この声は……先ほど離れた所から聞こえた軽い調子の声。
たしかリュチェの父親とマゼンタがそっちに向かっていたから……!
「お前の言っているあの男とは肥満体系の男の事だよな! だとしたらそいつは……!」
「ああ、そいつなら今、大怪我を追っているぜ」
「「!?」」
大怪我……!?
マゼンタが……!?
「馬鹿な! あいつがそう簡単に怪我を負うほど弱くは……!」
「いやーべつに強弱は関係ないと覆うよ」
「それは……どういうことよ!」
イエローは少年を中心にオレとは対称的な所に立っている。
つまりは挟み撃ちするように囲ったままオレもイエローも殺気立っているが、少年は全く怖気づかない。
そのまま平然と少年は続けた。
「だってあの男、翼が生えたおっさんをかばって怪我をしたんだから」
「…………!」
「それって……!」
リュチェの……父親か!?
だったらこの状況は……
「だけどまあ、これ以上追撃はしない。あの男の取引により、こちら側は撤退させてもらうぜ」
「なに!?」
撤退だと……!
いったい向こうで何があったか知らないが……
「ふざけるな! 自分から攻めておいて不利になったら逃げるだなんて……!」
と、オレが少年に対し突っ込んでいこうとするが……
「待てよ。これは取引だっていっただろ?」
「そんなの知るか! このままお前等を放っておくわけには……!」
「その取引を持ち出したのが、お前の仲間である太った男でもか?」
「…………!?」
マゼンタが!?
あいつ……何を考えているんだ!
「それに、あの男は怪我をしている。それも深く、な。だから安全確保しないと……」
「……! 早くしないと!」
イエローは目の前には正体不明がいるにかかわらず、マゼンタとリュチェの父親の元まで駆けて行ったのだった。
残された俺は目の前で嗤う少年を睨み付けた。
「貴様…………!」
「おいおい。そんなに怒らないでよ。こっちだって必死なんだから」
少年は手を額に当てて空を仰ぎながら呟いた。
そしてこのまま視線をオレから逸らし……
「それに、あの男には正直死んでほしくないんでね……」
「?」
なんて言ったんだ?
小声だからよく聞こえないが……
すると少年はオレに向かって手を振りながら、思いもよらないことを言った。
「それじゃあね…………おれっちと同じ異世界人さん」
「!?」
今こいつ……なんて言った!?
異世界人……だと!?
「それじゃあ行くぞ! とと!」
「バウッ!」
「あ、おい! 待て! お前なんでそれを知っている!?」
いや、それだけじゃない。
オレと同じ、だと……!
少年の合図にたくさんの仮面男を背負った犬が、巨体に似合わない速さで駆けて行ったのだった。
そして少年もいつの間にか消えるように去っていったのだった。
「…………」
いったい何者だ?
なぜオレたちが異世界人であることを知っている。
それにマゼンタが……!?
「……いや、考えるのは後だ! 今は……!」
ひとまずオレは考えることをやめ、仲間が無事かどうか確認しに行ったのだった
これにて、ひとまずこちらを襲った仮面男の集団はなぜか一人の少年に連れていかれた形で撤退したのだった。




