監禁からの休養
やばい……なんだか最近忙しい……!
それでは、どうぞ
Side:黄
今日一日、本当に訳が分からない日であった。
竜という怪物に襲われ、同じく襲われそうな女の子を助けたのはいいが実はただ者じゃなさそうで、事実その子の父親がただ者じゃなかったようで……
そして……
「こら、看守! これはいくらなんでも少なすぎるだろうが!」
「文句を言うなシアン。囚われの身である上、贅沢は言えぬ」
悪いことをした覚えがないのに強制的に連れて行かれた。
どこなのかというとあの森をしばらく進むと洞窟みたいなところが見えてきた。
どうやらそこは集落であるらしく、そのままそこの牢屋に入らされるのだった。
一つの通路を両側の牢屋が挟むような形式である。
ずいぶんとしっかりした所ね。
「ちくしょー! なんでまた牢屋に入らされる羽目になんのだよ!」
「そうだな。まあ一度目は貴重だからで、二度目は誤解しているから、と」
しかもこの二人は二度目だという事だ。
ああ……鉄の箱につかまった時だね。
すると、シアンの不満気な声があまりにもうるさいのか……
「うるさいぞ! 貴様等囚われの身の分際で騒ぐんじゃない!」
柵の前にいる看守がこちらに注意をしてきた。
なお、この看守には翼は出ていない。
「だったらこの食事の量の少なさはなんなんだよ!」
シアンが不満を抱いていたのは、出されていた食事がパン一つに飲み物ひとつという事であった。
うん。あたしでもこれは不満を抱くけど……
「オレはなぁ! 見た通り育ちざかりな年頃なんだよ! もっと出さんかい!」
「く……こんな図々しい囚人は初めてだ……!」
シアンの猛抗議にたじろぐ看守。
ってか今小さいこと認めたよね。
「おい、お前」
「なんだ!」
今度はマゼンタが何かいってくる。
ああもう、次から次へと面倒なことを……!
「お前は俺たちのことを誤解している。その証拠に俺は不思議な力が使える」
「!」
「「?」」
マゼンタ。いったいなにを……
「嘘をつくな! この期に及んでまだそんなことを……!」
「嘘ではない。その証拠に……」
すると、マゼンタの視線の先、柵の一部が凍りだした。
あれは……【冷可視】……
すると、先ほどまで高圧的な態度だった看守が……
「…………!?」
驚きの表情を浮かべていた。
そして……
「……もういい。貴様等の相手などしてられぬわ!」
「!」
看守は、いったい何を思ったのか、ここから離れていくことになった。
「いいか! 貴様等にはわからないだろうがここの周りにはたくさんの衛兵がいる! バカなことは考えないようにな!」
しかもしっかりと釘を刺したまま行ってしまったのだった。
「……ったく! いったいなんなんだこの状況!」
「シアン。怒るのもわかるがあまり叫ぶな。余計疲れるぞ」
「なんだよ! だからと言ってこのまま静かに待っていてもここを出られる保証なんかないだろ!」
「シアン。それを言うなら“保障”だ」
はあ……なにこの状況、最悪に近いわ……
「まあ、なぜ俺たちが誤解をされるようなことになったのかは……思い至ることがある」
「え?」
「なに!?」
マゼンタ……心当たりがあるの!?
「あいつ等……少女は知らないがほとんど背中に翼をもっていただろ」
「あ、ああ……確かにあったな……」
まあ、大きさ的に翼って言っちゃったけどコウモリみたいだし、羽って言った方がいいかな……?
「その上、少女から聞いた話を合わせるとあの者たちはおそらく人ではないと考えられる」
「……! 人間では、ない……!?」
「まあ少なくとも、俺たちの記憶にある、だがな」
リュチェちゃんが言ってたこと、マゼンタから伝えられていたが……
不思議な力を宿す、だっけ……
じゃあ、リュチェちゃんのお父さんも不思議な力を使う、と……
「人間とは違う種族……そう考えればいろいろとわかってくる」
「……けどよマゼンタ。魔法があった世界では『魔法』っつー不思議な力を使う人もいたし、違う種族って考えるのは早とちりじゃあ……」
「だが、機械の方に至っては人じゃなくロボットって名前の機械だったろ」
「「あ……」」
「ただ不思議な力を持つ者と、別の種族とじゃあ、いろいろと違ってくる」
そうか、つまりは似てはいるけど違うってことね。
「事実あいつらは俺たちのことを『人の身』と言ってたしな」
「……あんたあの状況でよく覚えているわね」
こいつは見た目に合わず記憶力があるからねえ……
「少女も大人たちもみんな決まって金の髪に褐色肌をしていただろ」
「え? ええ、そうだけど」
「その上あいつらは『我らのふりをして娘を騙そうとした不届き者だ』と言っていた」
「え…………あっ!」
そうか! あたし達と特徴が中途半端に同じだったから……
「マゼンタの肌、イエローの髪が同じではあったがどちらも片方ずつでしかなく、その様子から、自分たちになりすまして騙そうとしてるように見えた。と……」
「まあ、そういう事だ」
「シアン……よくわかったわね」
あんなに察しが悪い子だったのに……
「おいイエロー。今さりげなくバカにしなかったか?」
「え。そうよ。普段は察しが悪いのによくわかったと」
「なんでもう一度言うの!?」
「いや……まあそれは置いといて」
「置いとくなよ!?」
置いといて。
じゃあ先ほどのマゼンタの行動は……
「あれは看守の目の前で力を使う事で、おそらく種族特有であろう特殊な力を持っている奴だと思わせればいいってこと?」
「そう言う事だ。事実、看守は俺の力を見て明らかに動揺した」
「おいおい、誤解を解く気ならオレ達も力を使えばよかった」
と、シアンは後悔するように言うが……
「いや、そうはいかない」
「へ? いかないって?」
「まだ誤解を解くには足りないという事だ」
足りない?
どうやらまだ何かあるようね。
「……俺たちは確かに悪魔から授かった力はあるがそれだけだ。じゃあ翼を出せと言われたらそれまでだ」
「それは確かに……」
「そうだな……」
まああたしなら翼なしに飛べるけど……
だったら……
「リュチェちゃんが本当のことを言ってくれれば……」
あの子ならば当事者だし、隠し事はしないと……
「いや、おそらくそれは信じてはくれないだろう」
「え?」
「そうだよな。だって聞く耳持たずな様子だったぜあの親父」
「それは……」
そうだけど……
……そうだよね。
「それに、誤解は解けたとしても敵対心は変わらないという事だ」
「「え?」」
「そもそも誤解とは俺たちが少女と同じ種族に成りすまし、少女を騙して連れていこうとしているところだ」
「それで?」
「誤解は解けたのはいいが人間であることに違いはない。その時点から敵対されているのならどうしようもないってことだ」
確かに、それはそうだけど……
「それじゃあ、なんでさっき力を使ったんだ?」
シアンも同じように思ったのか先ほどのことを訊いてきた。
「簡単な理由だ。…………賭けだ」
「「賭け?」」
いったい何を賭けるつもり?
「もしこの後先ほどの看守だろうと別の奴だろうと、俺宛てに来るならば、その時俺に対する見方が変わるだろう。もしも良い方へと行くならばお前らも力を使え。悪い方ならば力を隠すんだ」
「ちょっと待てよ」
シアンはそのやり方に不服なのか異を唱えてきた。
……そうよね。あたしもそう思ったところよ。
「なんだ」
「なんでまた……そんなこと相談せずにいきなりやるんだよ」
「相談など……する暇がないだろうが」
「そういう問題じゃない!」
シアン…………
「……そんなの、いつものマゼンタじゃないぞ」
「いつもの俺とはなんなのだ」
「ずいぶんとやり口が違うってことだ」
そうよね……
こんな賭けみたいなやり方じゃなくても、もっと安全なやり方ぐらい……
「……ふん。何事も強行突破で行けばそれでいいというわけではない」
「え?」
「特に今回に関しては厄介だ。竜と呼ばれる生き物が生息する森、あまり発達してない文明、手がかりのない状態、途方に暮れるのは目に見えている」
「マゼンタ……」
「それにだな……」
マゼンタは変わらずにつづける。
「これは推測だがここに歪んだ空間の力場について何か手がかりがあるかもしれない。だから……」
「マゼンタ。もう言わなくていい」
だけど、シアンはここから先を察したのか、マゼンタの言葉を遮った。
「ったく、お前ってばいつまでも変わらないな」
「そうね……」
まったく……自分から進んで損な役回りを選ぶなんて……
「ほんと、もし疲れていなかったらヘッドバットしているところよ」
「おい、なぜボディーブローから変わった」
「あんたのその頭、一度どうなってるか見てみたいものね」
ほんと、シアンだけじゃない、あたしだって腹が立ってるんだから。
「とにかくこの先何があるかわからない。今は疲労した身体を休めるんだ」
「そうね」
「……わかった」
いろいろと納得いかないこともあるけど……
あたし達はとりあえず身を休めることにしたのだった。
ちなみにこの牢の中にベッドは一つしかないのでジャンケンをした。
その結果、あたしが勝ち取り、ほか二人は床で寝るのであった。




