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コンプレックスな反逆者たち  作者: ゾンビ―鈴木
第四章・神と人間の世界編
102/114

再戦 その弐

ヴェールとイエローに続いて次は……

それでは、どうぞ

―――――――――――――――断章―――――――――――――――


  Side:三人称


 神が人類を管理する都市。

 そこは作為であれ平和な都市であるため、他者を傷つける技術や道具は封印されている。

 つまりはどういうことか?

 徒手空拳であれ、剣術であれ、そう言ったものは他人から教わることはない。

 自ら試行錯誤して学ぶか、かろうじて残された文献を参考にするしかないという事だ。


 シアンもイエローもそれぞれ独学で学んでいる為、いろいろと不備なところがある。

 その上、争いなどこの都市が起こさせないために戦いの経験などはほとんどない。

 そのため、シアンとイエローの戦いは泥沼化となり長く続いていた。


 そして、夜。


「……はぁ……はぁ……はぁ…………」

「ふぅ…………っ…………!」

「………………」


 両者とも譲れない戦いであるため、未だ決着はついていなかった。

 若干シアンが深いダメージを負っているがまだ倒れるつもりはなさそうだ。

 イエローがうんざりした感じに言う。


「あんた……まだ倒れないの……?」

「あたり、まえだ……」


 ふらつく体に活を入れてシアンはまだ立ち続ける。


「正直意外ね……あの時のあんたは結構ボコられていたけどてっきり弱いかと……」

「なめるな……そんな打たれ弱さは持っていない……!」

「そうね、でも!」

「!」


 もうすでにシアンの体力は限界に近い。

 拮抗する力の差も、徐々に徐々に離されていく。

 シアンが素早く牽制を含めた走りでイエローに迫るが、すでに見切った走りにイエローはカウンターを当てる。


「がぁ…………!!」

「まだよ!」


 ふらついている隙にイエローは更なる追撃をかける。

 シアンはなすがままにイエローの拳に当てられ続ける。


「…………っ!」

「もう駄目、よ!!」


 イエローはまだまだ容赦なくシアンを殴り続ける。

 が、シアンは猛攻に耐えながらもほんの一瞬の隙にイエローの右こぶしを受け止める。


「!?」

「捕まえた!」


 そして、イエローの拳を捕まえた手を支点に身体ごと振り上げて思いっきり木刀をイエローの肩に振り下ろした。


「であああああああああああああああああああ!!」


 バキッ!!


「…………いっ!?」


 打たれたのは左肩。

 よってイエローはうまく左腕が動かせなくなった。


「こいつ……!」

「そうだ、まだ終わってない!」


 シアンはさらに木刀を振り、攻撃を加える。

 だが、イエローもやられるだけにはいかない。


「だったら!」

「!」


 イエローは掴まれた右こぶしを振り上げてシアンを体ごと振り上げた。

 そしてシアンに驚く暇も与えず、シアンの身体を地面に叩きつける。


「がっ……!?」

「…………!」


 叩きつけられたシアンは、すぐにイエローの拳から手を放してすぐさま距離を取った。

 体を叩きつけられてもなお動いていられる。


「…………!」

「…………!」


 お互いに深いダメージを負ってもまだ諦めはしない。

 両者は同時に思う。


((そろそろあきらめてくれないかな……))


 ちなみにマゼンタは最初からずっとシアンたちの戦いを見ているが、見ているだけで一言も言わない。

 ただ見届けるだけなのだ。

 静かに見続けるマゼンタを横にしてイエローは再度シアンに問いかける。


「…………ねぇ、あんたって本当にそれで神、いいや天使にかなうと思っているの?」

「…………なに?」

「あたしにこうもボコボコにされるあんたが、天使達にかなうとでも思っているの?」

「…………」


 確かにそうだ。どいつも天使の力量など知らないが、少なくともこんな程度の力ではかなわないと思っている。

 イエローはなお敵わないと言い続けシアンの目標を変えようとするが……


「……確かに、オレの力などたかが知れてるかもしれない。天使にかなわないかもしれない。けど……」

「けど?」

「勝負はまだ……捨てていない!」

「!」


 それでもシアンは変わらない。


 ほとんど叫ぶように言うのと同時にシアンは一直線にイエローに向かって突進してきた。

 速い。もはや小賢しい牽制などなしにただまっすぐに速く進む。

 だが、


「この!」


 直線過ぎて逆に捉えられやすい。

 イエローは右こぶしを力強く握り、向かってくるシアンに正拳突きを放つ!

 このままだとシアンは自分からイエローの拳に向かってしまう。

 そう、思っていたが


「かかったな!」

「!?」


 突き出した拳がシアンの顔面に衝突する瞬間。

 紙一重でシアンは回避し、そして手に持った木刀でイエローの腹部に渾身の一撃を当てた!

 おそらくシアンの持てる力をすべて出した最後の攻撃!


「…………っ!」


 さすがにこの一撃はイエローにとって相当に来てしまい、もはや体力も限界を迎えそうになった。

 だが、


「へへっ……どう、だ…………」

「!」


 ……先にシアンが限界を迎えてしまった。

 シアンはイエローに一撃を迎えた後、イエローによりかかるように倒れ、そして気絶してしまった。


「…………!」


 逆にイエローは失いそうな意識に必死に呼びかけ、なんとかぎりぎり保つことができた。

 そして荒い息を吐きながら、ぽつりと呆れたように呟く。


「……なにが勝負を捨ててない、よ。精神論でどうにかなる相手だと思っているの?」


 イエローは抱えたシアンの顔を見て、呆れと同時にどこか諦めたかのように言う。


「けど、あんたの覚悟はよくわかった。あたしがどうこう言っても変わるつもりがないバカってこともね」


 すると、ふと視線を横に向けた。

 そこにはいまだにこちらを見続けたマゼンタが、こちらへと寄ってきた。

 イエローはマゼンタにも試すように言う」


「ねえ……あんたも変わるつもりはないの?」

「くどい。俺の目的は変わらない。神や天使を倒す」

「……あんたに至っては強い何かを感じるわね」


 けど……

 ここでイエローは素直に退くつもりはない。

 もはや乗りかかた船だ。なおさら危険に向かおうとしている男を見捨てる気はない。


「よーくわかったわ。だったらあたしもあんたらの反逆に加わってやるわ」

「なに? お前正気か?」

「どの口が言うのよ……あんたらが過激なことをしないよう、あんたらのストッパーになってやるわ……」


 すると、ここに来てイエローも限界を迎えてしまった。

 体をふらふらとさせて、最後に一言。


「そう、シアンにも……伝えなさい…………」

「わかった」


 そう言ってイエローはシアンを抱えたまま倒れてしまった。

 マゼンタは、二人が地面にぶつかる前に受け止める。


「…………」


 マゼンタは特に何も言わない。突然のイエローの宣言に否定も肯定もしない。

 ただ、伝えるべきことは伝えようと、イエローの言葉をしっかりと覚え、二人を抱えたまま、どこかへと行ってしまったのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――



  Side:紅


 厄介だ……!

 この男はブルーとは違いすぎて別の意味で厄介だ。


「【衝撃伝達ストンピング】!」

「くっ……!」


 現在地、山中の平野部分。

 奴の謎の震脚に、回避をしつつ俺は視線を黄天使に向けて【熱視線ねっしせん】を放った!


「ぐあぁ!?」


 奴の身体は俺の視線により全身を炎で焼かれるが……


「……無駄だと言ったはずだろぉい!」

「…………!」


 黄天使は腕を一回振り払い、まとわりつく炎を払った。

 現れた奴の身体に、火傷は一つもない。

 またか……!


「【土塊甲弾ソイルブレッド】!!」

「!」


 傷を負わない黄天使は地面から土の塊のようなものを取り出し、大砲のようにこちらに射出してきた。

 俺は体を大きく横へ跳ばし、攻撃を回避する。

 すると黄天使は呆れたように言った。


「はっ! どうしたどうしたぁ挑戦者よ! 逃げてばかりじゃ勝てねぇぜ!!」

「…………!」


 奴はもうすでに天使化している。

 ここは相手の土俵、問題なく本気を出せるという事か。

 その上……


「せっかく本気中の本気なんだ。もっと気を張らんかぁ!!」


 奴め……

 戦い始めてからいきなりこいつが黄色い衣装を脱ぎだし下着一丁になると、突如奴の身体が全身黒色に変わりだした。

 腕も足も顔も例外なく全身が黒く変わり、さらにはなにか硬質な光沢を帯びてきた。


 それからだ。


 俺はこの男に先ほどの【熱視線ねっしせん】、その他【焼籠手やきごて】【付焼刃つけやきば】【熱線ねっせん】【冷可視ひやかし】【凍息といき】【冷掌ひえしょう】と以上の技を試した。

 しかし……どれも通用しない。

 硬い、燃えない、凍らせても中まで凍らないからすぐに割れる。

 とにかく奴の防御力が格段に増している。


 体が黒くなること自体、奴にとっては最大の技であるようだ……


「【神の肉(ヴィアン・デ・デュウ)】。俺様自身の身体を最高の状態に昇華させる、俺様のみの最高の技でぇい!」

「…………」


 戦い始めてから一発目に大技を出すとは……

 ペース配分と言うのを知らないのか?


「土とは全ての生命が還る所。つまり大地とは世界の基盤なんでぇい」


 少しずつこちらへ足を進めつつ、黄天使…………否、黒天使は己の黒い体を指差して言う。


「さあ、もっと手を見せろぉい! 神を相手にするとはこの程度じゃ済まされねぇんでい!!」

「…………」


 本当に厄介だ。

 ブルーのような複数の手を講じて戦うのと違い、この男は自らの性能を高めて本能のまま戦っている。

 俺からの攻撃が通じない上、向こうからの攻撃が通るなど、厄介以外の何物でもない。


 さて、どうする……!


「はっ! おいおいどうしたってんでぇい。もうお手上げかぁ?」

「…………」


 いったん退くか。


「来い」

「あ、おい待てぃ!? どこへ行くってんでぇい!!」


 とりあえず俺は平野の所からいったん身を退くことにした。


「てめぇ!! 何を尻尾まいているかぁ!!」


 悪いが俺には俺の戦い方がある。

 通常の攻撃が通用しないなら、別の手を使うまでだ。



―――――――――――――――ジョヌの無限空間――――――――――――――

―――――――――――――――湿地―――――――――――――――



「待てってんだてめぇ! 【形質錬成アルケミスト】!」

「!」


 足元から迫る金属の棘を回避しつつ、一つ気になる所が見えてきた。

 見るからに水と泥土が集まり、足を踏み入れればとられてしまう所。

 走っているうちに目の前にやや広めの沼地が見えてきた。


「ならば……」

「!」


 俺は沼地を前に体を後ろへ反転させ、追ってくる黒天使に迎え撃つ姿勢を取った。

 黒天使は不審な表情をしつつ、足を止めずに俺に迫る。


「はっ! おいおい、立ち止まったりなんかしてなにかする気かぁ!?」

「そうだ。来い」

「はっ! 上等!」


 すると黒天使は走ったまま右半身を前に向けて、肩を主体にこちらぶつけてくる。


「ショルダータックルか」

「いくぜぇ!!」


 生身ならとにかく、今は全身が黒くとても硬い。まともに受ければ砕けてしまうだろう。

 湿地故に足元が少々不安だが、やるしかない。

 俺は両脚に力を入れ、しっかりと地面を踏みしめた後、両腕を前に突き出して突進する黒天使の身体を受け止める。


「ふん!!」

「!?」


 インパクトの瞬間、ひじを曲げて衝撃を殺した後、間髪入れずに黒天使の勢いを後ろへ流すように思いっきり投げた。

 投げられた黒天使は空中で弧を描いて、体勢を直し沼地の方へと着地した。


「こいつ…………!?」


 ……割と深く入ったな。

 沼地に着いた黒天使は腰まで深く沼に浸かってしまった。

 通常なら、これでもう簡単には抜け出すことはできない。


「はっ! 今の投げ飛ばしはたまげたがぁこんな程度じゃ俺様は倒れねぇ!! 【形質錬成アルケミスト】!!」

「!」


 こいつ……!

 いったいどういう手を使ったのか黒天使は自ら使っている沼地をただの乾いた土に変えた……!

 ということは……


「うらぁ!!」

「!」


 黒天使は自分の下半身が埋まったただの土に拳を当てた。

 土そのものを破壊してそのまま抜け出す気か!

 その上、先ほどの一撃で地面に罅が大きく入った。


「はっ! なんてこたぁねぇ!!」


 こいつ……なにもかも力技で抜け出すのか。

 だが、このまま逃がさん。


「【熱線ねっせん焼撃やきうち】!」

「!?」


 俺は、指先から放たれる熱の弾丸を、元沼地の乾いた大地に埋まったジョヌの胸部目がけて連射した。


「………………!」


 黒天使は熱の塊を受け続けながらも必死に、体に力を入れて地面から抜け出そうとする。


「このまま動かなければいいが……」


 …………ピシッ!!


「……やはりだめか」


 やはり集中砲火は不可能か。

 もうすでに試したことだが、半身を封じても同じか……!


「ぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううううううらあぁ!!!!」


 直後、黒天使を封じていた大地は黒天使自身が内側から破った。

 失敗か。ならば!


「次」

「あぁ!? てめぇ、どこへ行くつもりでぇい!!」


 俺は再び黒天使から距離を取って逃亡していると案の定奴も追ってきた。

 さて、他に手はあるか……



―――――――――――――――洞窟―――――――――――――――



 今度は山の中に大きな洞窟を見つけた。

 妙に入り組んだどころで俺は黒天使を撒いて洞窟内のある所にいた。

 なお、


「おぉい!! どこへ行ったぁ!! 出てこいったらぁ出てこい!!」


 違う所で声だけはこちらによく響いてきた。


「……出てこいと言われて出ると思うのか……?」


 さて、今度はどうするべきか……


 生半可な技では傷をつけることはできない。

 かと言って大技となると周りを巻き込む。別に仲間はいないが森林に着火すれば後々面倒になる。

 低温の方も、ただ凍らせる技が大抵だ。通用するものはないだろう。


 どうするか……


「そうか。お前ぇがそうするってぇ言うなら俺様はこうするぜ」

「…………!」


 なにをするつもりだ……!


 ズン…………!


「!」


 なんだ……?

 いったいどこか遠くからか、なにか大きな揺れが伝わってきたが…………

 いったい、


「そこかぁ!!」


 ドゴォ!!


「!?」

 なんだと……!

 黒天使が俺の横から壁を突き破って現れた……!


「見つけたぜぇ!! 俺様の敵ぃ!!」

「くっ……!」


 いかん!

 ここまで近い上に、こんなにも狭くなれば避けられない!


「てぇい!!」


 黒天使が俺の腹部に向かって右こぶしで殴りかかってくる!

 ならば!


「【付焼刃つけやきば】!」

「!」


 俺は腹部から生やした赤い刃で黒天使の拳を受け止めようとするが、


「ぐっ!!」


 俺は黒天使の拳に刃ごと押し返されてしまい、後ろの壁へと衝突してしまった。

 拳そのものは防げたが力で押し返された!


「はっ! その程度かぁ?」

「……まさか! 【焼籠手やきごて】!」

「!」


 俺は両掌を冷たくさせ、黒天使に接近戦で挑む!


「はっ! なんのつもりでぇい!!」

「接近戦だ」

「はっ! 企みならのってやるぜぇ!!」


 罠とわかっててあえて乗るか。

 相当な自信を持つやつだ!


 無論、防御が堅い相手にまともに打ち合う気はない。

 俺は素手で黒天使を相手にしつつ、相手の強力な攻撃を全て避けた。

 そのたびに周りの地形が破壊される。


 俺は焼籠手による殴打で黒天使の胸部を殴る。

 しかし、大して効いていない。

 向こうからの、下から上へと振り上げる拳を紙一重で躱す。

 通り過ぎた拳が天井を削る。


 俺は焼籠手による掌底で黒天使の胸部を張る。

 しかし、大して効いていない。

 向こうからの、横へ薙ぐ蹴りを後ろへ跳んで回避する。

 躱された脚が横の壁を破壊する。


 俺は焼籠手による渾身の一撃を黒天使の胸部にぶつける。

 しかし、大して効いていない。

 向こうからの、接近する頭部の攻撃を受けつめつつ後ろへ流す。

 流された頭が背後の壁に衝突する。


 ……そろそろか。


「はあ!!」

「なっ!?」


 俺は【冷掌ひえしょう】で黒天使の足元を凍らせて地面に固定させた。

 もっとも凍らせるだけなら簡単には破られるが……


「何をするつもりだってんでぇい!!」

「お前、周りをよく見ろ」

「あぁ? …………!?」


 俺は氷で一時的に動けなくした黒天使に大きく距離を取り、今の黒天使の周り状態を確認する。

 そこには接近戦の弊害で代わりの壁や床や天井がところどころ崩れ、粉塵が霧のごとく黒天使の周りを舞っていた。

 つまり……


「てめぇ……!」

「俺に熱は通用しない上、衝撃にはあらかじめ備えている」


 今この瞬間ほんの少しの火の気があれば……


「粉塵爆発、耐えられるか?」

「はっ! してやられたぜぇい!」

「【熱視線ねっしせん】!」


 俺の視線に、黒天使の周りの粉塵に着火する。

 瞬間。


 ドォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ―――――…………!


 黒天使の周囲を中心に大きな爆発が起こった。

 その上ここが洞窟である故威力は逃がせない。


「………………!」


 やはり……かなり来るな……!

 爆炎に関しては問題ないが、衝撃はかなり強い。

 俺は向かってくる爆風と衝撃に耐えきれず強制的に洞窟の外へと出された。


「ぐ…………!」


 怪我は……所々あるが大きくはない。

 が、向こうはいったいどうなったか……

 外に出された後、俺は煙を出し続ける洞窟の入口へと目を向ける。


「…………」


 ……来ない、か?

 本当にただの爆発が効いたか……?


「……やるねぇ。だが、まだまだでぇい」

「!」


 ちっ!

 効果はなかったか……!

 煙の向こうから全身どこにも怪我がまったくない黒天使が現れた。

 まったく通用しないだと……!


「さぁて、次はどうするってんでぇい」

「…………!」


 ……どうする。

 ここはもう、本気を出すしかないのか……

 しかし、神を前にしてあまり力は……


「もう手はなしかぁ? はっ! つまんねぇもんだぜ!」

「……戦う事に、つまるもつまらないもないだろ」

「はっ! 戦いとはただ敵を倒すことだけってって言いたいのかぁ!? ならばそれは俺様にとって間違いだぜ。なんせ俺様たぁこんなところでぇ……」

「次」

「……あぁおい!? また何処へ行くってんだぁ!?」


 悪いが長話をするつもりはない。

 再び、なにかいいところはないかとまた一時撤退をする。


「こいつぅ!!」



―――――――――――――――平野―――――――――――――――



 …………行き止まりか。

 山を完全に降りたようだが、そこにあるのは全く同じ地面が連なっているだけ。

 障害物も何もない以上、もう退く意味はなしか。


「はっ! いろいろと小賢しいことになってしまったが、これで終わりだぜぇ!!」

「……そうだな」


 もうこれ以上小細工は必要ないか。


「あぁ? そうだなってぇ諦めるつもりか?」

「……確かにこれはある意味諦めだ」

「なに?」


 ……まったく、考えが甘いというべきか?

 否、どの道敗ければ同じことか。


「この後も神との戦いが控えているし、なるべく力は温存したままお前を倒すつもりだと思っていたが……」

「思っていたが?」

「……ここで本気を出すしかない」


 それにここは何もない平野。

 面倒なことは起こるまい。

 いくぞ……!


「【完全燃焼かんぜんねんしょう】!」

「!」


 俺の声に身体の熱は大きく上昇する。


 肌が焼ける。

 肉が焦げる。

 血が煮える。

 骨が燃える。


 俺の全てが、熱くたぎる……!


「はっ……すげえ……すげえぜ……!」


 先ほどまで獰猛で好戦的な表情が、さらに危険な表情へと高まる。


「それがお前ぇの本気ってやつかぁ?」

「そうだ。これをもって、お前を倒す!」

「はっ! やれるもんならやってみろぉい!!」


 悪いがここから先は特に何の捻りもない、文字通りの肉弾戦。

 力を使う事のない、真っ向勝負。


「いくぜぇ!!」

「来い!」


 掛け声とともに黒天使が突撃する。

 俺も熱く熱した体で対抗する。


 黒天使は拳、脚、頭など様々な個所を使って攻撃する。

 俺も高熱を帯びた体で攻撃をするが、奴の身体は火傷する様子が全くなく、熱としての効果が全くないと見る。


「喰らえぇ!!」


 ドゴッ!! ピキッ!!


「うぐっ!?」


 右肩……折れたか……それとも罅か……!

 まったく……その上、奴の硬化した拳や蹴りは掠めただけでもそれなりに効く。

 一方俺は、同じように猛攻をするが、狙うは一点、黒天使の胸部の身である。


熱線ねっせん】や【熱視線ねっしせん】と言ったものは使わない。自らの身体のみで攻撃をする。


「てやぁ!!」


 ゴッ! メキメキメキ!!


「…………!」


 今度は、胸部か。……ぅ…………!

 すると、いったい何度目かの攻撃かを当てた瞬間、黒天使から怪訝な様子で疑惑の声を上げる。


「……てめぇ、いったいどういうつもりなんでぇい」

「…………」

「さっきからなんでぇい!! なぜ同じ所ばかり攻撃する!!」

「…………」


 ……さすがに気付かれるか。

 だが、理由を話す気などない。


「…………」

「……話したりはしねぇ、と? はっ! まあ、大方硬いものが衝撃に弱い故に集中攻撃で破壊しようとするか? だが……!」


 話している間、俺の熱い右こぶしが黒天使の胸部にぶつかるが、まったくビクともしない。

 どういうことだ? もうそろそろのはずだが……


「そんなこたぁ不可能だってんだよ!!」

「!」


 …………!


「はっ! わかんねぇか? さっきからお前ぇの攻撃は【衝撃伝達ストンピング】で全て地中に流しているってんでぇい! いくらお前ぇが同じ個所に攻撃していようと、無駄の一言だってぇんだよ!!」


 黒天使の横殴りが俺の頭に衝突する!


「…………ぐっ!!」


 今のは……かなり効いたか……


「だが……!」


 今ので頭を揺らしてしまうも、ふらつく右手で黒天使の胸部に手を当てる。

 ……そろそろか?


「はっ! おいおい、結局俺様のこの【神の肉(ヴィアン・デ・デュウ)】には敵わなかったってかぁ? だとするならがっかりだぜぇ!!」

「……そうか、どうやら最後まで気が付かなかったようだな」

「……なに?」


 ……うむ、そろそろか。

 これでうまくいくといいが……


「俺がここに攻撃を集中させたのは、なにも物理的な直接攻撃で破壊しようと思ったわけではない」

「あぁ?」

「そろそろ、いい感じに温まっただろ?」

「!?」


 いいや、熱くなったというべきか?


「気づかないのか? 貴様の胸部、俺の焼ける拳で殴り続けたせいで、かなりの熱を持っている状態だ」

「……おい、何をするつもりってんでぇい……!」

「こうする!」


 もう、俺の身体の熱はほとんどない。

 熱すればあとは冷めていくだけ……

 ……そう!


「【完全冷凍かんぜんれいとう】!」


 パキパキパキパキパキパキパキィ!!


「!? なに!?」


 ……完全燃焼とは全くの逆。

 ただ冷えていく。それだけの技。

 触れるものを巻き添えに、ただ冷えていくだけ。

 故に、俺と俺が触れた黒天使の胸部が、急激な速さで冷えていく。

 凍るほどに、冷えていく。


「てめぇ! なにをするってんでぇ……」


 ピシィ!!


「…………!?」


 ……来たか。

 正直一か八かの賭けのようなものだったが。


「なんだ……なんだってんだぁ!?」


 うまくいったようだな。


「なぜ……この強靭な肉体に……罅が入っているんだ!?」


 先ほど、俺が集中攻撃によって、尋常じゃないほどの高熱となった胸部。

 あれだけ攻撃してもビクともしなかったはずの黒天使の胸部に罅が入りだしたのだった。


「お前、熱膨張を知っているか?」

「なにぃ?」


 黒天使は戸惑いながらも俺の言葉を聴く。


「ガラスや金属の類はある一定以上の熱を与えると膨張し、形を歪ませるという事だ。それは無機物だけではない。人間も火傷を追えばその部位は腫れあがるからな」

「だ、だとしてもなんでってぃ! なぜそこで冷やした瞬間に俺様の身体に罅が入るってんでぇい!」

「まだ分からないか?」


 話をしつつも黒天使の胸部の罅は広がっていく。

 ここまでくれば修復は不可能か……


「高熱が原因で膨張した部位も含めお前全体を急激に冷やした場合、その部位とそれ以外の部位は、違う形へと変えようとし、しかしそこに歪みが生じるのだ」

「なん、だと…………!」

「物質によっては耐久はあるが物事には限度はある。俺ほどそこら自然にはできないほどの高熱でなければできない荒業だ」

「…………!」


 そう言われて、黒天使ははっとした表情になった。

 ようやく気が付いたか。


「!? つまりお前ぇがさっきから同じ所ばかり攻撃したのは……」

「衝撃に弱いの所はあくまでついでだ。本当は熱した俺の攻撃を受けて、一部分のみお前自身を高温にするためというわけだ」

「!?」


 もっとも、理屈も何もない不可思議そのものである黒い体に通用するかどうか微妙だが、どうやら成功したようだ。


「まあ、仮にそれも不可能だとしても今度は俺の最高……いや、最低の低温技だ。凍りつけばいかなるものも硬く、そして脆くなる」

「!?」

「勝負あったな。お前はここで終わりだ」


 最後に俺は拳を構えて、狙いを黒天使の胸部に定める。

 向こうも何を思ったのか、この状況に笑みを作って言う。


「……はっ! お前ぇ……なかなかの男だな」


 そして、俺は思いっきり引いた拳を突きだし、


「がっ…………!!」


 ……黒天使の胸部に風穴を開けた。

 直後、かすれる声で黒天使が……


「……はっ、楽しかった、ぜ…………」

「…………」


 すると、


「!?」


 周りの空間が、歪んで……!

 そうか、ここは仮想空間だから元の場所に戻ると……


「お前ぇ……この先は気を付けた方がいいぜ……」

「!」


 こいつ、まだ喋れるのか……


「……気を付けるだと? 今更言う事か?」

「はっ! なに、特に気を付けろって意味でぇい。なにせこの先には……ルージュが控えているからよぉ……」

「!」


 あいつか……!


「ルージュは……あいつは四輝天使の中で最も人間を忌み嫌い、敵視している、危険な天使なんでよぉ……気を付けた方がいいって事だ」

「…………」


 ……人間を敵視する、か。

 だろうな。さもなくばあんな事件を起こそうとはしない。

 だが、


「敵に心配されるほど、俺は弱いつもりはない」

「はっ! 言うねえ、挑戦者が。まあいい、お前ぇが俺様を倒したことに違いはねぇ。心配するだけ損か。だったら、最後に言わせてもらおう」


 ……こいつは胸部に風穴をあけられたというのになぜ満面の笑顔で言える。

 本当に、変わった男だ。


「お前ぇ等と俺ら、互いに対立しつつも似ているたぁ思わないかぁ?」

「?」


 こいつ……突然なにを言い出すのだ?


「だってそうだろ? 神様の感情を分けられて生み出された俺ら四輝天使。悪魔に姿を奪われるも力を与えられたお前ぇ等挑戦者。外見と内面、天使と悪魔、ほれぇい対立しつつもどこか似ているだろ?」

「……何がいいたい?」

「はっ! つまんねぇな。なぁに、お前ぇなにを思っているかは知らねぇが、あの悪魔には気を付けるこったぁ……」

「……そんなこと…………」

「?」

「……お前に言われるまでもない」

「……はっ! そうでぇか……」


 だが、忠告としてはよく肝に銘じておこう。


「……あばよ」

「…………ああ」


 ここでじっとする気はない。先へ進ませてもらう。

 黒天使の最後の言葉と同時に、周りの空間は完全に消失したのだった。

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