分断
―――――――――――――――断章―――――――――――――――
Side:三人称
「ちょっと! 待ちなさいよあんた!!」
「ん?」
そして翌日。
やっぱりシアンを止めようと決心したイエローはとにかく町中を歩きまわり、そのなかで町中をうろうろするシアンとマゼンタを見つけ出した。
特になにも目立つことはしていない、いたって平凡である。
「なんだイエローか。どうしたんだ急に?」
「急にじゃないでしょ!? あんたってさあ……!」
と、ここでイエローは自分の言葉に気を配る。
町中は天使達が監視しているのだ。うっかり反逆のことなど口にしていいわけがない。
「……昨日言ったとこ、もう実行したの?」
「昨日? ああ…………」
昨日といわれてなんなのかシアンはすぐに察した。
察した上でシアンはうっかり喋らないようにしながら訊く。
「もしかしてお前もあのことに加わるのか?」
「そ……そんなわけないでしょ!!」
加わると言われ、ほんの少し動揺しながらもはっきりと否定した。
むしろ逆に止めるためにここまで探したのだ。
イエローはわずかな迷いを振り払いつつビシッとシアンたちを指差して言った。
「……あんたに訊きたいことがあるんだけどいい?」
「……なんだ?」
「あのこと……考え直すことはできないの……?」
「…………」
シアンは……ここで真剣な表情になる。
迷いのかけらも見えない、まっすぐな姿勢で答える。
「……ない。オレは決めたことはやり通す主義なの」
「そんなの知らないわよ」
だが、簡単に諦める気はなさそうである。
となると仕方がない。
「いいわ。だったらついて来なさい」
「?」
イエローはシアンたちから視線を離さないようにしつつどこかへ案内しようとしている。
なんだか怪しそうな感じがするのだが…………
「いいだろう。ついて行く」
「マゼンタ……」
「あの女、なにか考えがあるのだろう。ならばそれに乗ることもいいだろう」
「…………わかった」
とまあ、シアンたちは素直にイエローについて行くことになった。
そして、数分後。
「おい、イエロー」
「なに?」
「ここって……お前と初めて出会った、オレがボコられていたところじゃん」
「そうよ。ここなら天使の監視が届かないわね」
連れ出したのは天使達の監視が届かない死角の場所。
街の複雑迷路のような路地裏の袋小路だった。
「ここなら大声じゃない限り堂々と話ができるでしょ?」
「ああ、そうか……」
マゼンタはいち早く納得してくれた。
単刀直入にイエローは訊きだす。
「それであんたら、反逆なんて恐ろしいこと軽々と口にしているけど、算段とかあるの?」
「なに?」
訊きだした内容は……シアンやマゼンタにとって予想外の内容だった。
イエローは続ける。
「あんたら、神様に反逆なんて言うけどたった二人じゃ天使にすら勝てなさそうじゃない? 神の元までたどり着くことができなくちゃ反逆なんて始まる前に無理でしょ?」
「…………」
マゼンタはイエローが何を言いたいのか理解した。
つまりは不可能性の要因を挙げてやる気を削ごうとしているのだ。
「いい? 目標が大きく……まあ、大きすぎるけど達成するにはいろいろな壁ってのがあるのよ? そんな壁のことを無視しては目標に辿り着くのは到底不可能な事よ。神うんぬん以前にまずは天使達のことを……」
「……算段はある」
「……どうにか…………え?」
と、ここで予想外なマゼンタの返しにイエローは間の抜けた声を出した。
今こいつは何をいったのだろうか。
「マゼンタ。算段ってお前……まだあのことを言っているのか?」
「別に完全に不可能でも絵空事でもない。懸ける価値は十分にあるだろ」
「え? え? なんの話?」
まったくもってさっぱりわからないことにイエローは混乱する。
どういうことなのか詳しく説明すると……
「ああ、実は神に反逆するに至って水面下でひそかに同志を募らせようとした俺だが……」
「あんた……何時の間にそんなことを……!?」
「いや、それがマゼンタの奴オレと再会する以前から、愚痴仲間みたいにやっていたことだったんだが……」
「その中に興味深いことをする奴が二名現れた」
意味深そうに言うマゼンタにイエローは興味を引かれていく。
「興味深いこと? なによ」
「マゼンタ。教えていいのか?」
「構わん。まだ可能性の段階だ」
「だからなにって言ってるのよ」
せかすようにイエローは言うと、マゼンタはもったいぶらずにそのまま答えた。
「失われた技術の再生と、悪魔の召喚だ」
「!?」
失われた技術。
かつて五十年前の戦争に使用された高度な技術による兵器と武器のことだ。
神は再び戦争を起こさないため、現物や技術を完全に抹消したのだが、さすがに知識を持つ人間まで始末できない。
つまりはその人間が仲間にいるかもしれないという事と……
「悪魔ですって!?」
イエローがより驚いたのはこっちだった。
同じく五十年前、宗教戦争において悪魔の類を呼び出す人間がいるのを聞いたことがある。
召喚された悪魔が召喚した人間の言う事を聞き、国を滅ぼしたり要人を呪い殺したりと、そんな気味の悪い話が浮かび上がっているのだ。
しかし失われた技術以上に胡散臭い存在の為、そもそも本当かどうか疑わしいが……
「昔の文献で、実際に悪魔を召喚することで代償を払いつつも絶大な力を得たという話がある」
「だ……代償って?」
「時には魂だったり、人格だったり、または体の一部だったりと、聞いた話だけだから他にも何かあるかもしれない」
「…………!?」
「しかし……どれも共通して得たものはとても大きなものだと聞いた」
「なによそれ…………」
そんなものを求めるのは正気じゃない。
存在が胡散臭いものであるうえに、求めるものも求められるものもどれも絶大すぎてとんでもなさすぎる。
何が起こるかわからないが大ごとには違いない。
そんな気味の悪い曖昧な存在にイエローは不気味に感じた。
だが……
「マゼンタ。確かに大きな力が得られるってのはいいが、そう言うのは代償次第だ。呼び出した本人だけの問題で済むならまだいいが他の人間を巻き込むつもりなら承知しないぞ」
「む……そうだな。そう言うのは慎重に行わないといけないだろう」
「ちょ、ちょっとまってよ!! あんたはその悪魔って存在を呼ぶつもりなの!?」
存在の有無は置いといて、呼び出すかもしれないという言動にイエローは正気を疑うように訊く。
反逆行為と同等に彼女は驚いているのだ。
「まあそうだよな。余所や関係ない奴は巻き込めないが、もし力をくれるならオレはなんだってするぜ」
「ちょ…………!?」
「いや、まあ努力しないでそんなことするのは何事だって思うかもしれないけど、オレもマゼンタも充分努力した上で、その上できる限りの準備はやってみようと……」
「待ってって!!」
どこかずれたようなことを言うシアンだがとにかくイエローは言葉の途中を止めて、シアンを責める。
「あんたたち正気なの!? どうしてそんな命とか大事にしない事ばっかり言うの!? そんなにここで平和に過ごすことができないの!?」
「…………」
イエローのその怒るような、責めるような、嘆くような言葉にシアンもマゼンタもただ一言、
「こんな退屈な都市はいやだ。だから神に挑む」
「!」
「俺は神と天使を許さない。倒す」
「!?」
そう、聴いたイエローは……
ショックを受けたようにしばらく俯きだすと……
「……ふっふっふっふっふっふ…………!」
「!? イエロー!?」
突如、声を出して笑い出した。
もはや怒りなのか笑いなのか曖昧な感情で……
「上等よ……そこまで言うなら試してみようじゃない……!」
「え?」
「なに?」
イエローは拳をボキボキと鳴らしながら、敵を見るような目でシアンたちを見る。
「そこまで言うからには天使達に対抗するため、少しでもいろいろと努力しているんでしょ?」
「そうだ。当然のことだ」
「だったら勝負よ!!」
「しょ、勝負?」
突然の宣戦布告に困惑するシアン。
だが、イエローは構わない。
「もしあんたが勝ったらあたしはあんたらに協力する。あくまでもあんたらを死なせないためにね! けど、もしもあたしが勝ったら…………」
イエローはまたも迷う。
この世界は本当に満足か。このままでいいのか、こいつらをわざわざ止める必要があるのか。
しかし、悪魔だなんだ絡んでいる以上無理やりでも止めるしかない。
「反逆云々、やめさせてもらうよ!!」
「!?」
「ほう……」
言い切った。
イエローのその力強い宣言は、シアンを驚愕させ、マゼンタを感心させる発言なのであった。
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Side:藍
全くの予想外だ……
ここにきてこの男と遭遇するとは……
まだ外の世界ではあるが、ここで戦う気なのか?
オレが頭の中で疑問を巡らせていると、不意にブルーはオレに……いや、マゼンタとイエローに向かって……?
「それでは早速ですが、残り二人には別の所へ移らせてもらいます」
「はい?」
何をする気だ……?
「次元転移!」
「「!」」
するとマゼンタとイエローの足元から黒い穴が現れてきた。
直後、マゼンタとイエローが沈むように穴の中に入っていく。
「な、なんだこれは……!?」
「これって……!」
お、おい……この曖昧な感じの黒い穴……
まさか……
「次元の穴……!?」
「どういうことだ……! なんでシアンにはない……!?」
「ちょ! これ引っ張る力が強い……!」
初めはゆっくりと、その後徐々に力強く引っ張られ……
「うおおおおおおおおおおおおお!?」
「きゃああああああああああああ!!」
マゼンタとイエローが……
次元の穴らしきものに飲み込まれてしまった……!
「……ブルー! お前、今二人に何をした!」
「簡単ですよ。お二方には先に進ませてもらいました」
「なに!? 先に、だと?」
この世界から消えたのではないの……!?
「いろいろと、僕個人の事情もありますがあなた方三人を同時に相手するには不利かもしれませんし……」
……つまり、ひとまずマゼンタとイエローは先へ進ませて、ここでオレと戦うつもりなのか……!
確かに三対一では向こうにとって不利だが、そもそもこんな早くから出てくるのは……
「……なにより、ここで三人とも相手にしたら面倒な方々に怒られます」
「……そうか」
……面倒って、まさかあいつら?
まあ、一対一ならこちらも好都合か。
それにあいつらは先へ進んだのなら、心配する必要はない……か?
だったら、
「オレがここでお前を倒せば、あいつらの後を追えるのか?」
「はい。もしも僕を倒すことができたのなら、ここから先は通してあげます」
「そうか、それならいいんだが……」
しかし……わからん。
「どういうことだ? なぜマゼンタじゃなくオレなんだ?」
「簡単ですよ。あなたにはまだまだ言いたいことがありますから」
「オレに?」
まさか……
「……そうか、そりゃあオレもお前に訊きたいことがある」
「そうですか。ではそれがなんなのかを訊く前に……」
……ブルーがサーベルを構えてこちらを威圧してくる。
まいったな。こいつの戦い方、マゼンタしか知らない。
「決着を、つけましょう」
「……ああ、行くぞ!【音叉刀】!」
「はい! 【水刃】!」
だが、やるしかない!
オレは懐から音叉刀を、ブルーは何処から湧き出たのか宙から寄せ集めた水の刃を、それぞれの鍔がぶつける!
「…………!」
「…………!?」
行くぞ、ブルー!
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Side:黄
……いたたたた、まったくなんなのよ…………
急に次元の穴は出るわ、なぜかマゼンタとあたしだけ飲み込まれるわ、なんだって……
「…………あれ?」
なんで……あたし、緑溢れる平原にいるの……?
あれ? あたしさっきまで凍った海にいたんだよね?
しかも空は真っ黒な雲が覆っているし……
「ここは……どこ?」
……いくらなんでもこれは唐突すぎじゃない?
あの青天使ブルーがいきなり変な穴を出してここに出たけど……
まさかあたし……異世界に……!
…………ん?
「マゼンタがいない…………!?」
……ここにいるのはあたしだけで、マゼンタが何処にもいない……!?
いったい……なんで……?
「なんであたし……ここで独りなの……?」
また……また一人なの……?
だ、誰かいないの……?
「うふふふふ♪ やーね、よりにも寄ってあなたなんだね」
「!?」
この声は……!
上ね!
「あはは♪ 大罪人のくせして、よくもここまでたどり着いたわね。ま、褒めてあげる♪」
「……ずいぶんと偉そうに言うわね。天使……!」
……随分と懐かしい顔が出てきたわね。
緑を基調とした芸術家のようなひらひらした服。
透けるほどに白い髪。
そして、背中には半透明……じゃない?
「なんでもうすでに天使化してるの!?」
「うふふ♪ そりゃあこの状態があたしの本当の姿だからよ。それにここはあたしの造り出した仮想空間。ここなら本気を出しても誰も文句を言わないのよ」
仮想空間……!?
もしかしてあの竜の世界でブルーがやっていたこと……!
じゃあここは外の世界とは別なの? だったら……
「ヴェール! マゼンタは……!? あいつは今どこにいるのよ!」
「そう心配しないでよ。あの大罪人なら今ジョヌのもとにいるわ」
ジョヌ……え!?
なんでマゼンタがジョヌの所!? まったくわからないんだけど!?
え? ってことはシアンはブルーと、マゼンタはジョヌと、そしてあたしはこいつと……?
「あんた……何のつもりでこんなこと……」
「うふふ♪ 何のつもりでって?」
……な、なによこの攻撃的な笑みは……!?
笑っているのがこんなにも危なく見えるのは初めて……!
「こっちの台詞よ。なんであたしがよりにも寄ってあなたなのよ。うふふふふ……♪」
「え?」
あれ? 笑って……いるの?
なんだか……怒りながら笑っているように見え……
「あたしだってね……あたしのことをキズモノにしたあのおチビちゃんとか、あたしの肌を黒く醜く焼いたおデブさんとか、そいつを相手にしたかったのよ。うふふふふ……!!」
「!?」
な、なによこの寒気がする感じ……!?
殺気、なの……!?
「ブルーったらどうしてもあのおチビちゃんとやりたいようだから、あたしは流れでおデブさんと戦おうと思ったのよ!」
「…………」
シアン……マゼンタ……
何をどうやったらこんなにも恨まれるのよ。
「けど……ジョヌの奴!!」
「!?」
「『はっ! どうせなら戦ったことがねぇ相手がいい! その方が楽しめるからなぁ!』なんて理由で残ったおデブさんの方を選んだのよ! そのせいであたしは残り物のあんたと戦うしかなくなってしまったのよ!!」
「え、えっと……」
残り物って……
あたしだってシアンやマゼンタと同じ反逆者なんだけど……
「あっははははは!! せっかくこの時を待っていたのに土壇場になってあいつら裏切っちゃってさあ! もう笑うしかないよ、あはははははははは!!」
「…………」
……なんだろうか。
この女、いろんな意味で危ない。
「だ・か・ら・ね、凛々しいお姉さん」
「凛々しい!?」
そんなこと言われたのは久しぶりよ!?
「おチビちゃんやおデブさんとは戦えないこの欲求不満……」
すると、
ゴォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「!?」
ヴェールの傍に、巨大な竜巻が二つ現れた。
かなり……強い!
「……あなたで解消させてもらうから。うふふふふ……♪」
「…………」
もう、それ……
完全に八つ当たりなんだけど……
「さあ、かかってきて大罪人。神様のもとへは行かせない♪」
「……わかったわ」
まあ、どの道こいつは神に仕える四輝天使。
戦わない理由はないわ。
「あたしも、本気で行かせてもらう!」
「……ふふふ、そうこなくては……!」
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Side:紅
「つまり俺たちは、切り離されてしまったという事か」
「はっ! その通り」
現在俺がいるのは、まったくどこにあるのかわからない山の中にいる。
山の中と言ったが、洞窟があり、沼もあり、葉が生い茂っている木があれば枯れている木もある。
さらには斜面もあれば平らな所もある。
はっきり言えば何でもありな山であった。
同じ無限空間でも、ブルーとこいつでは全然違うな。
「おい、一つ訊いていいか?」
「あぁ? 構わねぇがなんだってんでぇい?」
こいつはおそらくブルーとは真反対に位置する男だ。
だからこそ訊きたいことがある。
「お前は、この戦いをどう思っている?」
「…………なに?」
「イエローから訊いたが、お前は何事にも自分自身を優先させ、そのために神が決めた規律に反することもする男だと聞いた」
異世界へ渡り、イエローと戦い地面を変形させ、最後には緑のあれを残した。
自分勝手が伝わるが、こんな時もどう思っているのだろうか。
「ほかはどうか知らないが、お前は神の意志に従って戦っているのか、それとも自分の意志で戦っているのか、いったいどっちなんだ?」
「…………」
俺はこの男がわからない。
そこまで迷惑な天使なら他の天使に罰せられるはずだ。
事実規律違反したヴェールも、止めたブルーからは何か処罰をするようなことを言っていた。
ならばこの男は何をもとに動いている。
「……そんなもの、決まっている」
「なに?」
黄天使は大して迷う様子なく答える。
「俺様は俺様自身のために動く」
「……そうか」
自分自身の為、か……
ならばこいつは本当に仕えてはいない……
「そのために、神の命令は聴くぜ」
「なに?」
予想外の答えが返ってきた。
命令を聴く、と……?
「俺様にとって一番は俺様であるが、ブルーもルージュもヴェールも、そして神も俺様にとってはかけがえのないもんでぇい」
…………!
「ブルーが、ヴェールが、ルージュが、神が、皆戦いの中にいて、俺様がなにもしないわけにゃあいけねえもんでぇい」
この男は……
「なんだかんだ言ってぇ俺様は神に仕える天使。故にこの戦い、あいつらの命もかかっている以上、敗けるわけにゃあいかねぇ。俺様は俺様の為に動く。俺様の居場所にいる者を守るためにもよ」
……そうか。
この男は自分自身のために戦い、その上で同胞のためにも戦うのか。
「さあかかってこい挑戦者よ! 俺様はお前ぇの戦いを十分に楽しんだ後で……」
……厄介な男に当たってしまった。
「……余韻ついでに叩き潰してやるぜぇ!」
だが、俺も負けるつもりはない!
ここでお前を倒す!
それぞれ再会した天使たちに三人はどう動く……!




