10.商売繁盛
「おいっ! もう聞いたか!?」
「あ、ああ。聖女セリカの話だろ? 何でも、ドラゴンゾンビを一人で討伐したとか……」
「あり得るのか? そんなこと……!?」
「しかも、ダンジョン初挑戦のジェイドたちはケガ一つ負っちゃいねぇ」
「ぱねぇな……! ジェイドたちを守りながら、ドラゴンゾンビまで倒しちまうとか……!」
「ちょっと悩んでたけど、俺やっぱり入るぞ! 聖女サポート会員!」
「俺もだ!」
王都シエンタの冒険者ギルドは、セリカの噂でもちきりだった。そして、そのセリカはというと、ジェイドたち三人と一緒に、ギルドの一室でギルドマスターと向き合っていた。
「地下三層にドラゴンゾンビが出没するなど……にわかには信じられんな……」
目つきが悪い壮年のギルマス、セイバーが唸るように言う。
「本来、ドラゴンゾンビは八層のフロアボスだ。それがどうして三層に……」
考え込むように天井を見上げていたセイバーだったが、唐突にセリカへ視線を向けた。
「ドラゴンゾンビが三層に現れたことも驚きだが、それを冒険者でもないお嬢ちゃんが倒しちまうとはな」
「ま、成り行きだけどね」
軽い調子で言い放ったセリカを、セイバーはじっと見つめた。
「さすがは聖女……と言ったところか。まさか戦闘もできるとは思わなかったが」
「相手がアンデッドだから何とかなっただけよ」
「ふむ……」
顎に手をやったまま何かを思案していたセイバーは、次にジェイドへ目を向けた。
「ほかに、何か気づいたことはないか?」
「いや、特には……ていうか、俺たちダンジョン初めてだし」
「……そうだったな」
セイバーがため息をつく。
「ねえ、ギルマス。どうしてドラゴンゾンビが三層にいたのかな?」
リオが最大の疑問を口にする。
「正直、見当もつかん。が、一つ考えられるとしたら……」
四人の視線がセイバーに集まる。
「魔王の影響、かもな」
「魔王かぁ。でも、魔王が誕生してるってのは、もう十年以上も前から言われてるよー?」
「その通り。そして、魔王がどこにいるのか、国のほうでもまったく把握できていない」
セリカの眉がぴくりと跳ねる。
魔王がどこにいるのかまったく把握できていない……? それなのに、魔王の討伐に行けって言ってたのかあの国王。むちゃくちゃだな。
「魔王なんて本当にいるの? そんなのがいるなら、世の中もっと物騒なことになってんじゃないの?」
「誕生はしているが、魔王として覚醒していないのかもしれないな。だが、今回の一件で、少々きな臭くなってきた」
「どういうこと?」
「魔王の覚醒が近づいているのかもしれない。覚醒が近い魔王のもとへ馳せ参じようとして、ドラゴンゾンビが八層から三層まで上がってきた……とは考えられないか?」
なるほど。そういう可能性があるのか。まあ、正直どうでもいい。
「ギルマス。とにかく今のダンジョンはおかしい。何らかの異変が起きているのは間違いないと思う」
ジェイドが真剣な面持ちで口を開く。リオとハマーも同意するように頷いた。
「そうだな。調査は行うとして、しばらくのあいだダンジョンは閉鎖するとしよう」
ギルマスへの報告に同席したセリカは、その後リオたちと少し雑談してから冒険者ギルドをあとにした。
あー……いろいろ疲れた。まあ、儲かったしいいか。
銀貨と金貨でパンパンになった革袋を、にんまりとしながら撫でまわす。はたから見るとめちゃくちゃ怪しい女である。
「ただいまー」
「あ、会長。早かったですね?」
「うん、まあいろいろあってね。はい、これ今日の売り上げ」
ノアに革袋を手渡し、自分の席に座ったセリカは大きく伸びをした。
「おかえりなさい、先生」
「ただいま、クレスタ。特に問題なくやれてた?」
「はい。ノアさんもいろいろ教えてくれますし」
クレスタがかすかに笑みを浮かべる。
「会長、クレスタ凄いですよ。業務の合間に金融や経済のこと教えてあげてたんですけど、理解がめちゃくちゃ早いです」
「ふふ。クレスタは賢い子だからね。将来は立派な経営者になれるわよ、きっと」
セリカの言葉に、クレスタはかすかに照れたような表情を浮かべる。
「あ、そうだ。ねぇ、ローレル。明日でいいから、冒険者ギルドから素材を引き取ってきてくれる?」
「んあ? 素材?」
「うん。ドラゴンゾンビの」
「そっか。ドラゴンゾンビ……の……? はぁっ!? ドラゴンゾンビの素材!?」
椅子に腰かけたまま腰を抜かしそうになるローレル。ノアもあんぐりと口を開けている。セリカは端的にダンジョンでの出来事を話して聞かせた。
「いや、もう凄すぎて引くわ……」
「さすが会長です。ドラゴンゾンビの素材なんて……めっちゃくちゃ儲かりまっせほんま!!」
「ノアさん、情緒……」
三者三様のリアクションを見たセリカは、愉快げに口もとを綻ばせた。
「でもセリカ。どうしてここへ引き取ってくるんだ? そのままギルドで買い取ってもらえばいいんじゃないか?」
「それじゃ、相場通りの買取金額にしかならないじゃない」
「? どういうことだ?」
ローレルが首を捻る。
「せっかくなら、もっと高く売らないとね」
「どうやって……? あ……!」
「クレスタ、分かった?」
「価値を……もっと高める?」
「正解。以前私が言ったこと、よく覚えていたわね。じゃあ、具体的にどうすればいいと思う?」
クレスタはかすかに眉をひそめたまま、思考を巡らせ始めた。
「例えば……何かに加工する? アクセサリーとか……」
「うん、それもいいね。ほかには?」
「んんー……」
「じゃあ、ヒント。うちの商会の強みは?」
「……先生がいることです」
「まあ、そうね。すなわち、聖女ブランド」
「聖女ブランド……」
「そう。ブランドは強力な武器よ。まったく同じ素材、造形のアクセサリーであっても、ブランド力があるのとないのとでは、価値が大きく変わる」
「なるほど……!」
「例えば、あなたがさっき提案したアクセサリーへの加工。それに加えて、「聖女セリカが浄化したドラゴンゾンビの骨を素材にしたアクセサリー」、のような触れ込みで売り出せば、相場の三倍以上の価格でも売れる可能性があるわ」
「ブランド力って、凄いですね……」
「そうね。特に、この世界において聖女ブランドは強すぎる。利用しない手はないわ」
納得したように頷いたクレスタだが、再び考え込むような仕草を見せた。
「あの、先生」
「ん?」
クレスタがセリカの目をまっすぐ見つめる。そして──
「私……いいビジネス思いついたかもしれません」




