巻き戻った時間 4
息をつく暇もないほどに一気に言った言葉に疲れたのか真くんはしばらくはぁはぁと呼吸を整えた。ごくりと音が聞こえるほど勢い良く水を流し込む。
「なんでこんな気持ちになったんだろうと考えていたら自分のはずの記憶が自分より年上の記憶もあって」
「年上、だったの?」
「あぁ、多分働いていたんだと思う」
そういうと真くんはすこしだけ顔を綻ばせた。おそらく未来の自分は今の真くんが望んでいる通りの素敵な人生だったのだろう。
「不思議なもので、きっと俺が何も考えずに過ごせばこうなるって違和感なく思えたんだ」
「そうなの」
「営業をしていた。大変だけどやりがいもあって。社会人としての飲み会も、友人もそれなりにいて。充実していたとおもう」
ふぅん、といいながら私は手元の飲みかけの飲み物を揺らした。カラカラとなる氷の音に少し安心感が生まれる。
真くんがわざわざ私に話すということが、お前の正体を知っている、と言われているような気持ちになる。ざわりざわりと心臓のあたりをワシ掴みされているような気分になる。
「志乃たちとも関わりはどこか不自然なくらいになくなっていったようにも思えたけど。大人になって世界が広がっていくと親戚付き合いも変わっていくのかもしれないな」
懐かしいことを思い返すように少しだけ遠くをみる真くんに不安な気持ちがよみがえる。
「友達との関係も。拗れてしまった人も。好きな人もいた」
真くんはきっと私のやってきたことを認めはしないだろうとわかっているからだ。本質的にそれは違っていて、その本質をすり合わせることはすごく困難だからだ。それを理解しているけれども。単に理解者がほしいがために、それでも思い出してほしいという浅ましい気持ちがわいてきては自身にあきれる。
「楽しかったんだね」
なんとか口に出したその言葉は口のなかがからからに乾いていてゆっくりと出てきた。飲み物をズズッと飲んで真くんを見る。すこしだけ焦っていた思考に落ち着きを取り戻す。
真くんはその言葉にすこしだけ動揺したように瞳を揺らした。
前の世界を求めて、今はそうでもないのではないか、と問いたくなるものの、真くんにそれを突きつけるのはあんまりな気がしてそれを言えなかった。
そんなことをいう私も、前の世界を追い求めている。そして、前のときにはなしえなかったことを信じている。
それで……と真くんは目を伏せた。
その様子に思わず身構える。
真くんはためらいがちにあー、とか言葉になりきれない音を出した。
「もしかしたら、志乃も、じゃないかなと思った」
その言葉に内心で冷汗が流れた。と、同時にやっぱり……と思う。だから私に話したのかと納得した。
真くんは正義感が強くて、優しくて、曲がったことを許せない人だった。頭が良かったと聞いている。運動もできて明るい、よく人を和ませていたと。
わたしもよく真くんにはお世話になっていた。ただ、正義感の強すぎる人といるのが辛くなったときもあり、その時に私が真くんを避けたのがきっかけでその後は会うこともなかった。
素敵な大人になっていただろう真くんを私は知らない。




