巻き戻った時間 2
「志乃、あんたははやく着替えて準備してきなさい」
「はーい」
そう言う母親に軽く返事をして部屋に向かう。
「真くんみたいなおしゃれな男の子のことだから、彼女とかできたんじゃない?」
扉越しに聞こえた言葉に準備ができてもしばらくは母が真くんを離さないだろうなと予測をつける。
自分の部屋に入り洋服を見る。
わたしが選んで買っている洋服なのに、私には似合いそうにないものばかりだ。なんなら好みとも違う。この頃はいわゆる流行りを追いかけるのに夢中でそれが似合っているのかまでは考えていなかったのだ。
これはそのうち整理をしないといけないな、と思いながらも洋服を選ぶ。結局Tシャツにジーパン、薄手のカーディガンというなんともシンプルな格好になってしまう。
部屋を少し散らしたまま、洗面台に向かう。前の時よりも少し短い髪が跳ねている様子に鏡の前で櫛を通した。
準備が済んで真くんと母のところに行こうとすると楽しげな声が聞こえた。その声に心底安心する私がいたことに驚く。どこかあたたかい気持ちになりながら、準備できたよと声をあげた。
「志乃、真くん彼女いないんだって!」
「へぇ」
「こないだ別れたらしいわよー」
母は躊躇いなく今真くんから聞いた言葉をわたしに伝える。真くんは少し気まずそうに笑っていた。
「それはそうと、今日服装いつもと違うわね?」
ペラペラと一通り真くん情報を伝えた母は思い出したように口にする。
「変?」
「いつもよりはいいわよ」
やっぱり似合っていないと思っていたのかと苦笑すると、真くんも笑っているのが横目に見える。
「せっかくなんだから今日真くんからおしゃれとは何かを教えてもらってきなさい」
「今日はそんなんじゃないよ」
「いいよ、早く終わったら洋服も見ようか。ならそろそろ行かなきゃね」
そう言って真くんは立ち上がって玄関にいく。私もそれにならい歩く。その後ろを歩く母はどうやらお見送りまでしてくれるらしい。
「じゃあ、志乃かりますね」
「あらぁ。いいのよ。この子で役にたつなら。志乃、真くんに迷惑かけちゃダメよ!」
「かけないよー、行ってきます!」
いってらっしゃいという言葉を背中に感じて振り向いて手を振る。真くんが最近買ったといっていたが私の家の駐車場に遠慮がちに止まっている。鮮やかな青色の車は近づいてみたら少しへこんでいるところもあった。
「真くん、青色好きだっけ?」
助手席にのせてもらい、車内のイメージも青で統一されている様子に思わず口にする。
「嫌いじゃないけどすごく好きなわけでもないよ。これは中古で買ったからな」
「そっか」
「お金持ちの大学の先輩のお古を安くで買ったんだよ」
「へぇ」
珍しいな、と思ってまじまじと見た。
真くんは真面目でしっかりしているからお店で買うのかと思っていたのだ。とはいえ、私はそこまで真くんのことを知っているわけでもなかったから、知らない面もあるのだろうと納得した。
「今日何買おうか」
「何が喜ぶかなぁ」
今回の買い物は目的がある。真くんのお姉さんである夏目鈴奈こと鈴ちゃんが結婚する、ということで従兄弟たちを代表してのプレゼントを選ぶことになったのだ。鈴ちゃんは従兄弟の中で一番年上ということもあり、わたし含めみんなにとっていいお姉ちゃんをしてくれている。そんな鈴ちゃんになにかしようと言い出したのは自然な流れだった。ちなみに言い出したのは真くんで、わたしは真くんのアイディアに乗っただけだ。
ショッピングモールの駐車場に真くんが車を停める。
「まだ運転なれてないから駐車場遠くでごめんな」
出入り口から少し離れたところがポツリポツリと開いていてそこに真くんが停めながらそう言った。
「なんの問題もないよ」
私は随分と久しぶりに来たような気がしてきょろりとあたりを見渡した。バスや電車を利用したらわたしでも来れる距離だから先月も来ていたはずだったが、記憶が混ざっている今はそれが随分と昔の事のようだった。
「真くん、元気ないね。なんかあった?」
お店を何店舗かみながらぼんやりとしている真くんに聞く。
記憶が混ざったからか、それとも真くんがわかりやすいのか、違和感というものを顕著に感じていた。会った時から感じていた違和感は二人になった瞬間に余計に強さが生じた。しばらくしても消えない違和感に、心配よりも疑念を感じてしまう。
前よりもずっと大人っぽい服装も、丁寧な口調も、私の知っている真くんとはなにかが違った。少なくとも私の知っている真くんは服装もおしゃれじゃなかったし、免許ももってなかった。大学で車を買えるほどの人間関係だってなかったはずだ。そしてなにより、小さい時から真くんは青色は好きではなかった。
今いるこの人は本当に私の知っている真くんだろうか。
浮かんだ疑念を消す方法を私は持っていなかった。
「真くん?」
「なぁ、志乃」
「うん?なに?」
「すごく、おかしなことをはなしていいか?」
困ったような顔をする真くんにはとても悪いが、その顔はまぎれもなくわたしが知っている真くんに違いなかった。
ショッピングモールの騒がしさや流れる陽気な音の中、そういった真くんは足をとめて口にした、
その場所はちょうどエスカレーターの近くでとりあえず、と腕を引っ張る。
「ぶつかるよ、真くん」
「あ、ごめん」
行こうか、そういうと真くんは失敗に気がついたように恥ずかしそうに笑った。
話をする雰囲気でなくなったこともあってプレゼントを本格的に選び始める。私自身もなにか話さないといけない本題から避けるようにお祝いの品を探した。
かわいいペアのコップなどいっぱいあるなかでお互いにどうしようか、と悩む。あれでもない、これでもないとお互いに言い合う。スマートフォンで安易に検索をして選択肢がひろがりなおのこと決まらない。お互いにいろいろ言い合いながら悩んで決まったのは結局のところ鈴ちゃんがほしいといっていたキッチン用品だった。




