日曜日の誕生日 4
瀬崎はどちらかというと、ある程度大きくなった制服を着た学生、特に高校生に対してはなんとも表現のしがたい表情を向けることが多かったように思う。憎しみや恨みにそれは近く、反面、哀憫や諦めを感じさせるその表情はなかなか忘れられない。今から、前、瀬崎に会うまでの間になにかがあったのだと確信をもった。
「そうなんですね。瀬崎さんを慕ってるんですね」
「慕ってるなんて、そんな」
愛は照れたように手をすり合わせ、口をもごもごと動かした。話を変えようとしているのだろう、何度かうーん、と小さく言いながらゆっくりと口を開いた。
「夏目さんは、よく来るんですか? ここに」
「いいえ、全然」
「全然、ですか」
「初めてですよ、わたしがここに来るのは」
「はじめて、ですか」
「気まぐれです」
言い切ると不可解なものを見るような視線を感じた。疑問をありありと顔に出しながらそれを口にしない愛の様子がなんだか少しだけおかしかった。
「さっき瀬崎さんが夏目さんを見つけた時にすごく驚いた顔をしていたのは夏目さんが気まぐれだったからなんですね」
愛は少し戸惑いながら言葉を選んでいた。
「どういうことですか?」
「だって」
思案するように、かしげる首とともに愛の細い艷やかな髪も揺れる。桃の香りが香った。
「誰かが亡くなったわけじゃないのにお寺にくる人なんて珍しいじゃないですか」
法事とか年忌ってわけでもなさそうだし。とつづけられた言葉に私は茫然としてしまった。
「そう、ですね」
思いのほか硬い声が出る。
「あ、すみません。余計なことをいいましたよね」
自信なくうつむいていく愛に、いいえ、と首を振った。
「いいえ。余計なことじゃないです」
言い切ると愛の顔がパッとあがるのがわかった。
「亡くなりましたから」
ずいぶんと時間があきましたけれども。
そういうと愛は不思議そうに首をかしげたあとに納得したようにうなずいた。
「そうなんですね」
「はい」
硬い声はとれてくれそうにない。愛の困惑した様子が手に取るようにわかってしまう。しかしこれ以上この話をすることも、取り繕うことも私には出来なかった。
「そういえば」
話を変えるように口を開く。
「愛さんはよくここにくるんですよね?」
「え?はい。結構頻繁にきてますね」
「いいですね」
「え?」
「瀬崎さんと愛さんの関係」
「え、そんな」
照れたように愛は笑いながら言葉をつづけた。
「瀬崎さんには……迷惑をかけているだろうなぁと思いながらも、やめられないんですよね。きっと瀬崎さんに甘えてしまっていて」
情けなさそうにいいながらまた愛は両手をこすっていた。自分の話をするのが苦手なのかもしれない。先ほどから愛の話になると両手をこすっているのが目につく。
「甘えてって愛さんは何歳なんですか?みたところ学生さんみたいだし。いいんじゃないですか?」
子供は大人に甘えるものですよ。という言葉は飲み込んだ。




