日曜日の誕生日 3
「なんとなくというのは案外否定できないものでして。感覚は私たちが考えているよりももっと私たちのことをわかっているものです。いわゆる第六感というのもありまして。まぁ第六感はいいのですが、そういうわけだから、気の向くままというのは時に必要なことなのですよ。なにか目的がなく過ごしてしてもそれはその時に必要なことが多い。例えば、あなたが今ここに来てくれたからこそ、こうして知り合えた、というようにね」
「はぁ」
「ご縁というのは、必要な時に巡り合えるようになっているんですよ、そうはおもいませんか?」
何か迷っていると思ったのか。つらつらと話す瀬崎に気のない生返事を返す。瀬崎はそんな態度に気分を害した様子などなくにこにこと笑みを浮かべてうんうんとうなずいている。瀬崎の態度は偽善的と言われて否定する人もいるだろう。しかし私は前から少しも変わっていないその態度に少し安堵した。
瀬崎の横にいるツインテールの子はじぃ……と警戒している猫のように強い視線を向けてわたしの一挙一動を見ていた。目を合わせようとしてもすぐに逸らされる。瀬崎の服の裾をぎゅっと握っているのがわかるほど瀬崎の服にはシワがついていた。ツインテールの子の視線にどうしたものかと一息つくと瀬崎が思い立ったように口を開いた。
「どうやらアイさんが仲良くしたいみたいですね」
そういうと瀬崎ははあとはお若い2人で、とお見合い等で聞きそうな常套句を言うと背を向ける。ぎゅっと握っていたものが離れて所在なさげに手が動く。
こちらを見るだけ見て、会話をしそうにない、ツインテールの子に思わずため息がもれそうになる。瀬崎の背中を見ながら、瀬崎についていくかと迷っているように挙動不審になるその子に、やっぱりどこかで見たことがあるなという気持ちになった。
「アイさん、ですか? 私は夏目といいます」
視線がかちあったところで口を開けば、ツインテールの子は何度も視線を泳がしてから、自信のなさそうな声を絞り出した。
「ナ……ナツメさん……」
覚えるように繰りかえす様子は雛鳥が親鳥をまねるそれに似ていた。
「ふ……藤吉、愛……です」
真ん丸とした目とそのかわいらしい顔、そしてその名前を聞いて、藤吉愛という子を知っているということをはっきりとわかった。
ただそれがどこだったのかを思い出せない。私の前の記憶ははっきりと覚えているからきっと今の15年の間なのだろうと記憶をひねり出そうとするが思い出せない。少しの沈黙ののちにわたしはゆっくりと口を開いた。
彼女は所在なさげに両手を何度もこすっていた。
「愛さんはよく来るんですか?」
「え……。はい。せ……瀬崎さんとお話ししに」
戸惑いながら出された声はか細くては風の音にさえかき消されそうであった。どもり癖があるのか、ただ慣れていないだけなのか、わたしには判断はできない。ぼそぼそと早口で言うその様子を見て会話を切り上げたいのかもしれないと考えた。
「あ、瀬崎さんっていうのはさっきの方で、すごくお世話になっているんです。瀬崎さんはすごく優しい方で、いつもいろんな話をしてくれて……」
付け足したように勢い良く言うと徐々に視線を下げていく愛の様子はなんとなく迷子の子供を彷彿させる。
視線を下げながらも瀬崎の話になってどこか安堵したように早口でいうその言葉にうんうんと頷きながらも頭のなかでは別なことを考えていた。
私の知っている瀬崎は基本は穏やかな人間だった。ただ、ある一定の条件の人に対してはその穏やかさはなりを潜め、ただ冷たさを感じた。瀬崎はこと学生、とくに中高生には特に冷たさと厳しさをもっていた。




