第48話
「はぁ……はぁっ」
少しでも回避が遅れれば致命傷は避けられない。
ただの力技での勝負なら対等ではあるが…
エカテリーナの威力は、ただの殺戮機のように格段にアップしている。
有効打を与えられる攻撃も見当たらない。
「……どうすればいいんだ」
そうこう考えているうちにエカテリーナに見つかってしまい
エカテリーナに容赦なく背後から建物を狙撃され、私はまた走り出す。
(せめて……どうにかして注意を逸らせれば……)
焦燥と緊張で鼓動が早くなる。
エカテリーナの攻撃を回避しつつも頭をフル回転させる。
彼女を取り戻すために、何が必要なのか───
自らのユニーク魔法──『特異点の観測』の原理を噛み締める。
この魔法は世界の繋ぎ目や矛盾点を感知し、時に逆流すら起こすことができる。
ならば彼女の思考回路も解析できてしまうはずだ。
もし操り主であるMASTERの魔法が強固であればある程──その接続部を探し出せるはずだからだ。
ただし問題もある。
操られたエカテリーナは隙など一切与えない強敵であり、今のところ隙も無い。
一度でも視線が合えば即座に撃たれる危険性が高い。
だからこそ、今しかない。
彼女が死角に入った瞬間、即決断して行動に移すしかない。
意を決して振り向き、エカテリーナを見据え、一直線に突っ走る。
弾丸を剣で弾きながら近づき、
「エカテリーナ!」
叫びながら間合いに入る。
至近距離からの射撃に身体を捻るが左肩を貫かれる。
痛みを堪えて更に詰め寄り、
「私の声を聞いてください…お願いですから……っ!」
そう言うと同時にユニーク魔法を発動させて、接続部を探す。
しかし彼女の瞳は依然として虚ろなままである。
「……アルベルト……!」
微かに聞き取れた言葉に希望が湧くも次第に再び光を失っていく瞳を見て確信する。
(今すぐ解除しないと……本当に彼女を失ってしまう…ッ)
時間が無い。
彼女の目にはまだ一片の理性が宿っている。
その証拠に私の名前を呼んだ。
だがそれも長くは続かない。
(猶予がない……今しかない)
全身が痛むのを無視してエカテリーナとの距離を詰めた。
彼女のリボルバーがこちらを捉えた刹那──
私は彼女の腕を掴み、そのまま強く抱き寄せた。
抵抗しようと暴れる彼女の身体を両手で包み込む。
華奢な身体。温かい。生きている。
驚愕のあまりエカテリーナの動きが止まる。
目を見開いたまま固まっている。
「……っ!」
短い息遣いと共に彼女の体から力が抜けた。
(今だ!)
ユニーク魔法を全開にした。
二人の心臓の鼓動が共鳴するような感覚。
彼女の内部で蠢く異質な"コード"を──そこにあるMASTERの魔法の痕跡を追う。
「離せッ!」
彼女が正気に戻りかけているのか抗い始めた。
けれど私は強く抱きしめたまま離さない。
(感じる……エカテリーナの中に……何かが根を張ってる……)
これはただの支配じゃない。
心臓に紐付けた命綱のような呪縛だ。
もしこれを切断したら……?
エカテリーナ自身が無事でいる保証はない。
だが、もう迷っている暇はない。
「エカテリーナ……ッ、戻ってきてください……」
私はエカテリーナの唇に自分の唇を重ねた。
互いの魂を繋げるための行為。
二人の境界が溶け合うような錯覚。
瞬間、エカテリーナの目から涙があふれた。
「アル……ベ…ル……ト…」
掠れた声で名前を呼ばれた瞬間──
彼女の体内で蠢いていた"コード"が露わになった。
(…っ!今だ)
私は渾身の魔力で"コード"に触れ──
彼女を蝕んでいた異質な力が弾ける。
眩い光と共にエカテリーナの体が崩れ落ちた。
「っ!」
慌てて受け止めようと伸ばした腕の中で彼女が弱々しく息をつく。
「ぅ……あ…」
焦点の合わない瞳が徐々に潤みだし──
「……っ…!」
突然の嗚咽と共に私にしがみついた。
「ごめん……ごめんアルベルト……!私……自分が自分じゃなくなってて……っ」
泣きじゃくる彼女の体温を感じながら安堵の吐息を漏らす。
(成功した……彼女を取り戻せた……)
ほっとしたのも束の間──
「……ふむ、中々面白い」
背後から聞こえた冷たい声。
「私のユニーク魔法を破るとは、流石だな。アルベルト。だがこれ以上の茶番は必要ない」
振り向くと、すでに白翼の男が再び戦闘態勢に入ったのか──
「!?」
その瞬間、視界に閃光が走った。
(速すぎる……!)
思考する暇すらなかった。
MASTERの指先から放たれた一条の光が、エカテリーナを直撃せんと迫っていた。
反射的に足が動く。
「エカテリーナッ!」
叫びながら彼女に飛びかかり、小さな身体を包み込むように覆いかぶさった。
次の瞬間──
「ぐあっ……!」
熱と痛みが背中から脳天までを貫いた。
視界が歪み、息が詰まる。
しかしエカテリーナの体温だけは確かだった。
「アルベルトッ!!な、なんで…っ、そんなことしたらアルベルトが…っ!!」
彼女の悲鳴が耳元で弾けた。
肩越しに見える青ざめた顔。
その瞳には涙が溜まっていた。
「……言ったで…しょう。私は…貴方の「盾」だと…っ」
声が出たのは奇跡に近い。
喉から鉄錆の匂いがした。
それでもなお言葉を紡ぐ。
「エカテリーナ、無事で……よかった……」
私の背中が焼けるように熱い。




