第27話
氷のように冷え切った私の心には、ありがたかった。
カチ、とリールが重々しく回る音。
それに混じり、冷たい地下室の残響がスピーカーから漏れ出した。
流れてきたのは、整えられた「人の声」などではなかった。
それは、もっと生々しく、湿り気を帯びた──
「現場」の音そのもの。
『……おい。まだ「個」が残っているな。そんな濁った目で私を見るなと言ったはずだ』
低く、傲慢な男の声。
アルベルトの実施者であり、養父と呼ばれたあの男だ。
直後、スピーカーが割れんばかりの鈍い打撃音と、重い鎖が床を擦れる高い金属音が店内に響き渡る。
『……っ、あ……が……』
漏れ聞こえてきたのは、幼い子供の、掠れた悲鳴。
今のアルベルトの抑揚のない声とは違う
痛みと恐怖に喘ぎ、震える、紛れもない「人間」の子供の声だった。
ダイキリが息を呑むのが分かった。
隣に立つアルベルトの指先が、わずかに、本当にわずかにピクリと跳ねるのを私は見逃さなかった。
『教育が足りないな。お前は人間ではない。「アルベルト」という名の、スペアに過ぎないのだからな。お前の心など、この地下室のゴミと一緒に捨ててしまえ』
『……いや……だ……ぼく、は……』
『「ぼく」? ほう、まだそんな言葉を使える余裕があるのか。よろしい。では、その自意識が摩耗し、空っぽになるまでやり直そう』
『……おい、次の薬を持ってこい。脳を直接、伯爵の望む色に塗り替えてやる』
再び、凄惨な絶叫が店内の空気を切り裂いた。
『や、だ、あが、はな、して……っ!!』
それは声帯が千切れるような、魂を削り取るような叫びだった。
『あ゛……あ゛ぁっ!!ああ、あああぁぁぁぁぁぁっ……!!』
薬を強制的に投与されているのか、あるいは麻酔なしの外科的な処置を施されているのか。
ひゅー、ひゅー、と空気の漏れるような、喉が鳴る音がスピーカーを物理的に揺らす。
子供の細い指先が、逃げ場のないコンクリートを必死に掻き毟るような爪の音。
そして、次第に言語を失い
ただの「肉塊の悲鳴」へと変わっていくその残酷な変遷が、録音機には克明に、非道なまでに刻まれていた。
『あ……う、ああぁ……っ。あ、が……………』
テープ越しに、当時その場に充満していたであろう冷気と、鉄の臭いまでが漂ってくる気がした。
養父の満足げな笑い声が、途切れた悲鳴に重なる。
最後には、言葉にならない泡を吹くような音だけが残り、やがてそれさえも聞こえなくなった。
静寂。
ただ、養父が冷酷に器具を片付けるカチャカチャという乾いた金属音だけが、永遠のように長く続いていた。




