第28話
『素晴らしい。これでまた一つ、「器」が完成に近づいた。』
カチン、と再生が止まる乾いた音が鳴ったとき
この部屋には凍りついたような沈黙しか残っていなかった。
「……」
誰も、何も言えない。
私だって、ダイキリだって。
そして何より、当の本人であるはずのアルベルトでさえも。
店内にはまだ、録音されていたあの子供の断末魔の余韻が、粒子となって漂っているようだった。
恐る恐るアルベルトを横目で見ると、彼はいつも通りの冷静な無表情を崩さず
ただ静かに、停止したテープレコーダーを見下ろしていた。
しかし、照明の加減だろうか。
彼の足元に伸びる影が、心なしか微かに揺れているのに気づいた。
それは根源的な恐怖なのか、あるいは遅すぎた怒りなのか。
それとも、封じられた記憶が肉体に引き起こした生理的な反応なのか──
私には、判別がつかなかった。
「……ねぇ、アルベルトさん」
ダイキリが、消え入りそうな声で、おそるおそる口を開いた。
「大丈夫、ですか?」
「ええ……問題ありません」
返ってきた答えは、期待を裏切るほどにいつもと同じ、平坦で抑揚のないもの。
「また少し…思い出してきたかもしれませんね……」
そう言いながら、彼はもう一度
目の前にある青いテープを、まるで異質な異物でも見るかのように無感情に見つめた。
私は重苦しい空気の中でゆっくりと立ち上がり、暖炉の傍に積んであった古い毛布を一枚手に取った。
「アルベルト」
呼びかけると、彼は機械的な正確さでこちらに目を向けた。
光を反射しないガラス玉のような瞳。
だが今、その奥底には、微かに水気を含んだような
歪んだ像が結ばれている気がしてならなかった。
「座りなさい。少し休みましょう」
「問題ありません。体はなんとも」
「体じゃなくて、心よ。混乱してるでしょ」
私が射抜くように言うと、アルベルトはしばし
プログラムの不具合でも起きたかのように逡巡するそぶりを見せた。
そして結局は私の指示に従い、黙って椅子を引き、そこに腰掛けた。
ダイキリが「すみません、アルベルトさん……私、不謹慎に、ワクワクするとか言っちゃって」と、申し訳なさそうに謝罪した。
その時、不意にアルベルトが重い口を開いた。
「いいんです。それに……私は確かにかつて、"痛い"と感じたことがあるのかもしれない」
他人事のように淡々と、事実を報告するだけの声。
だが、その声音の端々には、これまで決して存在しなかった僅かな揺らぎが、細い亀裂のように宿っていた。




