クエスト開始!
「えー…霊園って聞いてたけど…」
ミトラとサリアは現在、元居たラ=ショードのはずれにある墓地に来ていた
そう、クエストの為である
しかし、その墓地は何よりも“気味が悪い”と言う言葉が何よりも似合う空間だった
池野悠也時代に埼玉のとある事故物件となっている団地の一室に肝試しで行ったことがあるが
その部屋自体、何か形容し難い空気感に包まれており、心霊番組のリポーターが言う寒気と言うものを直で感じたのである
その中でも特に洗面所が特に異様な…本能が危険信号を出すレベルで、
理性で察せるぐらいの雰囲気が固形となって収められてる空間であった
後に、旧居住者の個人事業のブリーダーがその洗面所で死んだ犬猫を解体していたことと
警察から逃れられなくなった旧居住者がその場所で首を吊った事を知った
今いる墓地はその洗面所を凝縮したものを無尽蔵に配置したような空気感である
当事者にしかわからない表現だろうが、この表現が一番正しい気がする
「う〜…怖いぃ…」
ミトラは気の強いサリアの手をずっと握って互いの腕が密着するぐらい近くでひっついていた
絡まる指先、触れ合う掌、温もりのある肘上
異様な寒風が吹く墓地で安心を得るのはこれだけで十分だった
「ん!で!何でアンタがここにいる訳?!」
サリアが溜息を吐く様な口調で目だけ横を見る
「いやあ〜、やっぱり心配ですからねー!女の子二人だけじゃ」
クリーム色の頭髪
韓流ドラマの俳優みたいな肌
カルア・ビリムがそこに立っていた
「今、ウチらはアンタといる方が心配だよ!」
サリアがこう言った訳は少し前の出来事が原因だ
それは小1時間前
冒険者ギルドをサリアが出た時であった
「ミートラ!申請と登録…受注も終わったよ!」
顔面から溢れんばかりの笑顔を浮かべたサリアはギルドから踏み出た瞬間
ミトラがいない事に気がついた
「あれ…ミトラー!何処ー?」
ミトラは案外すぐに見つかった
何やら路地裏でカルアと話しているようだ
サリアは顔を半分覗かせ観察していたが
その事を彼女は後悔した
「お願いだあああああああああ!!貴方様の翅を!美しき翅を!撫でても宜しいですかああああ!?」
この発言がかの蕩けるイケボの保持者であるカルアから発せられたとは到底思うまい
「貴様何言っとんじゃあああああ!!!!」
平日のお昼過ぎにサリア・パトールのドロップキックが炸裂した
「イッテぇ〜…何するんですか?(イケボ)」
「いや、巻き返せるかあ」
サリアは思いの丈を全てぶちまけるかの様に罵った
「何ですか、貴方って“そーゆー人”なんですか?はーそーですか!へーそーですか!
最初は『きゃー♡かっこいー///光GENJIー!』とか思ってたのにいざ蓋を開けると大っ変っ態!だったとは!あー怖いわー」
「サリア、何歳なの?しかも光GENJIってグループだし」
「世界観壊さないでもろて」
ミトラやカルアの声にも耳を貸さずサリアは続ける
「ミトラって何歳なんだと思ってんですか?17歳ですよ!プリップリの!今が旬の!食べごろの!」
「え、サリア?」
「それと比べて貴方は何歳なんですか?明らかに成人してますよね?
うーわきっも!きんんんんも!あ、別に合法ショタとかそーゆーのいらないんで、帰れや!ロリコン!少女愛者!童女趣味!」
「同じ意味では…?」
カルアの指摘にサリアはじろりと下から睨め付ける
その表情がとても恐ろしかったのかカルアは急いで姿勢を正した
「ちょっと…誤解だってサリアぁ」
ミトラの発言にサリアは目を丸くした
「え?そうなの?ご…ごめん…話聞かせてもらってもいい?」
「うん、この人…カルア・ビリムさんはこの町どころか中心区でも有名な憲兵らしくてね文武両道、容姿端麗、謙虚で愛想も良くてね、
ほら先刻も助けてくれたじゃん?そのお礼として…カルアさんはどうやら“翅フェチ”らしいから、そのお願いされてたんだー!だから、ね?いいっしょ?」
「いやいやいや!それを咎めてんだってのおおおおお!」
サリアは脳内で先刻までのカルアの行動を思い返して、改めておかしい箇所に複数気づいた
「大体なんだよ“翅フェチ”って!異常性癖乙!じゃねーか!」
「人の性癖を咎めるのはよくないと思いますよ、だって個人個人の個性じゃん?分かち合わないと?」
「うーわ…正論言われた…クソ変態にクソ正論言われたクソ腹立つんだよクソがよ」
カルアの言葉にサリアは更に気分を悪くしたようだ
そしてカルアは急に思い出したかのように目を見開いて胸元を腕で隠す仕草をする
「ま…まさか…ウチの事もそーゆー目で見てないよね?!」
「いやまさか〜…だって君は…“無い”じゃん」
「ええ、“ありません”よね〜」
「「アハハハハハハハハ!」」
「てめーらぶち殺すぞ…」
この時サリアは初めて殺意に体を乗っ取られた感覚を味わった
「兎に角!カルア・ビリムさん!貴方は来ないで下さい!そこら辺で座ってて下さい!」
厳しい口調で指摘する
そろそろカルアもしょぼくれてきたようだ
顔を見るにそれは明らかだ
「それじゃあ…ヤバくなったら連絡しますので…宜しくお願いします…!」
「連絡しないでいいから!」
サリアはミトラの手を引いて遠くに行ってしまった
何百m走っただろうか?
「ええと…ここら辺の筈なんだけど…」
「あ!サリアサリア!みて!あれ!」
ミトラが指差す方向をみてサリアは感嘆した
ピンクや水色、黄色と紫の光が淡く点滅している
奥にある廃教会も相俟って荘厳さと幻想を共存させている
二人はピンクや水色に照らされた顔を互いに見合わせ
「これ…全部微精霊…なの?」
と問いかけ合う
「多分…そうなんじゃないかな?これはぁ…絶対二手に別れた方がいいよね」
「うん…でもサリア?もう捕まえちゃうの?こんなに綺麗なのにさ」
「そんなのんびりしてらんないって!ほら!パフェ食べるんでしょ?」
あ!と言うような顔をして見せたミトラは
「そうだったそうだった!急いで駆除しないと〜!」
と一人で駆け出してしまった
「あ…!ちょっともう〜…はぁあ、んじゃまあうちもやりますか…っと」
サリアは一回大きく伸びをした後
右ポケットから3センチ程の釘を4本取り出し、指と指の間に挟み込んだ
「刺突魔法」
釘同士の間に風が吹く
釘も共振しているかのように微弱に振動を出す
サリアも彼女自身の蜂の翅が広がっていていつもよりも神々しく感じる
「第1節!」
サリアの声の後
釘4本は各々飛び去り
一体ずつ刺し貫かれた微精霊は金属特有の音響かせながら木々や墓標に固定される
数秒かしたら微精霊たちの輝きも失われていって最終的には灰になった
「成程ねー、これが駆除したサインになるのか」
にしても…
サリアはポケットに突っ込んだ握り拳を取り出す
「うーん…釘はあと30本以上残ってて、剃刀も10本ぐらいしかない…絶対足りないじゃん」
但しそんな心配も束の間、彼女は周りに尖った石などもあるから大丈夫かと考えることにした
二人は流水の様に順調に微精霊駆除をこなしていく
30分ぐらい経っただろうか
微精霊の金平糖のような淡い光が元の半分まで少なくなった時である
「いやー疲れたねー…ちょっと休憩しよっか?」
「あー…確かに…うん!休憩にしよう!」
二人はすぐ近くの岩に腰をかける
ミトラは両腕両脚を伸ばし言った
「あとー…半分ってところかな?」
「うん!此処迄で30分、ねー…案外早く終わりそうでよかったー!あ、そうだ!ミトラーなんか尖ってるもの持ってない?」
「尖ってるものー?あー、魔法でいるのかー」
ミトラはガサゴソと身体中を探す
「はい!万年筆のペン先でよかったら」
「ナイスー!まじありがとー!でもミトラさ、魔法使えないのにどうやって駆除してるの?」
そう、なんとミトラフック・ボルタスはシルフでありながら魔法が使えないのである
そのことはまた別の機会に話すとして
先にサリアの問いが先決である
「そりゃあ虫取り網で捕まえて足で潰してるよ」
「おっけ!ウチは何も聞かなかった、いいね?」
ふー…とサリアは溜息をつく
「何分経ったら再開す—」
ドゴオオオオオン!
突如彼女らの後ろから轟音が響いた
「何!?なになになに!?」
「あ…見て、ミトラ…」
サリアが絶望の表情をあからさまに見せる
それもそうだ、サリアが指差す方向…轟音の方に鎮座していたのは
ゴブリンであった




