let's決闘!
桜桃の甘酸っぱくも芳醇な香りが鼻腔を突き刺す
8層のドレスを羽織り、苺で彩られた三角帽をじっと見つめるだけで幸福度が増していく
硝子製のカップが美しい黄金比を成しており
内側のホイップやクリーム色の生地が口内でダンスを舞うのを今か今かと待ち望んでいる
「ねえ…?食べてもいいかな?」
目を輝かせたミトラが溢れそうになった涎を飲み込み
サリアに問いかけた
「うん!うあ〜…写影機持ってくればよかったなー」
二人は先の小さな匙を各々の右手に差し込み
捲った袖から覗いた健康的な手首をパフェに突き出す
「それじゃあ…」
「うん!」
「「いっただっきまぁ〜〜あす!」」
ドオオオオン!
瞬間桜桃ホイップが机の木片や土砂と一緒に散った
「は…?スイート…」
輝きをなくし
現状を理解しきれない瞳で囁く
風の轟音が鼓膜を揺らすのが止んだ後
「我、見参」と言う声が聞こえた
同時に砂埃が晴れていく
前方にいたのはカルアであった
どうやら彼はさらに前方を凝視している
二人もその奥を見る
羊角の生えた銀髪の美女がそこに立っていた
肩の露出が多い濃い藍色と紫のドレスを着飾っており
宝石のような赤い瞳がとても美しい
二人の“困惑“はいつしか“憎悪“に変わっていく
その“憎悪”すら“殺意”に変わった途端
気持ちを抑えるのは至難となった
冷や汗まみれのカルアが振り返って目を丸くする
「殺す…絶対」
「何も喋んな、テメェの遺言なんか誰が聞きたいと思ってんの?」
目元の暗い二人の瞳が怪しい輝きを淡く放っている気がした
そんな二人の様子を認識したカルアは『ヤバい』と瞬時に理解できたようだ
瞬きの間に道の端に飛び移る
「おい、女」
「何、我の事?」
無機質な声が呼応する
独り言かのような声色に
「お前以外誰がいんのよ、状況判断できないわけ?」
二人がかりでDQNのように詰め寄る
「主語以外が消失する魔法をかけられている?やはり魔法は奥深い」
短気なサリアはムッとしたのか怪しい顔で嗤ってみせた
「何?喧嘩売ってる?」
(そっちがだろ…)
カルアは心の中でツッコむ
「うんこ野郎め…」
「⁉︎ 誰…なんだ?!」
カルアが声のした方角を凝視する
何を隠そう、ミトラである
彼はこの事を初見で判断できたわけでは無い
数秒前、彼の目線で物事を整理すると
左手に銀髪の美女
対の方向にハイライトが消失したサリアと、謎の黒い影
……黒い影…?
ミトラは何処かと探す
刹那、一つの可能性がカルアの大脳皮質に浮上した
影自身がミトラではないか…?
そう考えるしか無いのだ
「いや、本当に誰だよ!」
ミトラは最早、人の形を成した“闇”という概念に目と口が付いた様な形相をしている
そんな彼女を認識したカルアの第一声は妙にお気楽であった
そんな光景を他所目に銀髪は口を開き、八重歯を覗かせる
「おい!お前!名ぁなんて言う?!」
「名…、バルバス=ラ・バルーヌス…それが我の名」
「言いにくっ!クソ言いにくいじゃんか!絶対読者の半数読み飛ばしたよ!」
「うんこ野郎め…」
内心考えていた事を代弁してくれた
彼女等に敬礼をしたい気分である
……何故かカルア・ビリムが顔を逸らしたような気がした
「…おい、我を愚弄する気?」
明らかに目の色が変わった
勿論、雰囲気が変わったと言う意味で、だ
「我を何と心得てるの?かのビルカ・バリーヤ直属の魔神、」
「知るかゴラー!自分の土俵で戦えー!」
「うんこ野郎め…」
ここで勘の良い方やカルアであれば違和感に気づくだろう
(⁉︎ ビルカ・バリーヤ…だと?!『ンカラ神話』や『ゆらぎく聖王の庭』で語り継がれている、、あの?!)
自体を察知した彼は直様ミトラやサリア達に通達する
「おい!二人とも!ちょっとこっち来い!」
「…あぁん?」
「うんこ野郎め…」
人相すら豹変した二人の黒ずんだ目元に怪しく光る目に
カルア・ビリムは圧倒された
「…ふん、まあいい、我は3人に用事がある」
呆れたような表情でバルバスは告げる
「は?知るかばーーーーか、TPO弁えてから出直せやカスううう!」
「うんこ野郎め…」
「そこの黒い影、さっきから『うんこ野郎』しか言ってない…語彙力が消失する魔法をかけられている?やはり魔法は奥深い」
用事があるから来た…と言っても今現在の彼女らの仲の悪さは最高潮である
「『うんこ野郎め』だようんこ野郎!だからうんこ野郎なんだよ、うんこ野郎!」
この言い争いは小学1年生レベルと言おうか一世代前の2chのレスバと言おうか
兎も角、どう形容しようとも低レベル且つ醜いものであると言うしかない
「うんこネキはとりま置いておく…」
((うんこネキ…?))
「うんこネキ?!」
バルバスが発した言葉に終始サリアとカルアは疑問符を浮かべている間
黒い人型は驚嘆の声を高々に上げた
「我がここに来た理由…それは貴様らにある…!貴様らの表情を見ると自らの犯した悪行を思い出せていないみたい、
いいだろう、ここは寛大な心を持つ我が…」
「さりさり〜アッパ〜!」
「タスマニアッデビルッ!」
魔神バルバスの迫真の悲鳴が響くほどの強烈な右ストレートがサリアから放たれる
しかし何故かその拳には“悪意”と呼ばれる想いは込められてはいなかった
「そのキャラをやめろオオオオオオオ!」
そう言い放ったサリアの表情はいつしか主人公のような面持ちに変わっていた
「その手の不思議ちゃんキャラは平成初期〜中期のアニメの特権なんだよ!確かに…!その不思議ちゃんは萌えるだろうが…萌えるだろうが!だがしかし!それを令和が手を出す事は許されていない!断じて!(※個人の感想です)ましてやお前のような大人キャラがやったってキモいだけだぞ!そこんとこ理解してんのかァ?ああ?!いいか!これだけは覚えとけ!てめーみてーな不思議ちゃんキャラが許されるのは15年前の二次元JKなんだよ!てか待て15年つったか!?クソがあああ!なんで…クソおおお!とにかく…!お前は!JKになってやり直せ!わかったかこの作者の性癖!」
面倒くさい闇ツイみたいな説教をくどくど聞かされたバルバスは堪忍袋の緒が切れかけていた
「おい、喋らせろ、シルフ」
…と言うよりもうズタズタに引き裂かれていたようだ
「ははっ、なんだ?喧嘩か?」
「当たり前
正々堂々殺りあおう…だから、その“胸元の鉄板“は狡いから外しな?」
「よし、*す」
その後、二人が取っ組み合いの大喧嘩を始めた事は言うまでもない
互いの怒号が矢のように飛び交い
互いが組み合う様子は剣を交えた兵士のよう
そんな当事者にとっては小戦争レベルの争いを横目に
いつしか影を拭い去ったミトラにカルアは告げる
「てかさ、この手のキャラがツッコミにまわるの珍しくね?」
どうやら、その声はバルバスにも届いたようだ
彼の囁き声に反し、彼女は叫び声で返した
「それは!それだけ貴様らが異常者の集団って事!反省して!」
「まあ…そりゃ、そうか……え?待って『貴様ら』、?『コイツら』じゃなくてですか?」
「うん」
やけにあっさりとバルバスは答えた
「なあんで俺がコイツらと同じ括りなんすかあああ!?」
「はァ?!それはウチの台詞!」
「一番異常者な節あるよ?カルア」
「は?は?は?わけわかんねええ!」
「いや、貴様ら全員揃って異常者」
バルバスは言い争う3人に慈悲なき言葉をぶつけた
「「「「コイツらと一緒にすんな!」」」
互いが互いを指差し罵る様はまさに滑稽である
それをただ呆然と眺めていたバルバスは
3人に向かって問う
「そろそろ本題に入っていい?」
「「「あ、どうぞお構いなく」」」
今までの時間が無意味に思える返答にバルバスは
自ら“禁忌“として封じた奥義を最大出力で3人にぶつけようか本気で悩んだそうな
「我がここに来た理由は唯一つ、
貴様ら…我の眷属が気に入っている従者を殺害したね」
従者…?殺害…?
あ。とサリアとカルアは顔を見合わせた後
二人共とある一方を見つめる
ビクゥ⁉︎とミトラが焦り出す
彼女は申し訳なさそうに捲った袖からヒョロリと生えた腕を上げた
「もしかして…それって、ゴブリン、だったり?」
「やっぱり貴様らか」
瞬間、全身に鳥肌が反り立ち
冷や汗が体全体を包み込む
「ご…ごめんなさい!正当防衛で…」
正当防衛…そんな言葉を発した途端ゴブリンが命乞いをしていたのを思い出し
さらに冷や汗が頬を濡らす
「ふむ…正当防衛……ならこっちにも非はある」
…誠に、申し訳なかった
あんなに荒々しい登場をしたバルバスがした頭を下げる謝罪は
当事者全員の背中をむず痒くさせた
ミトラはほっとした表情を見せて喉の奥に詰まった重苦しい空気を一気に排泄した
「しかし殺害は殺害、回帰する事のない生命を我々は失ったのだ」
そんなミトラも束の間再度重苦しい空気を吸い込み、肺胞内にそれを充満させた
「そこでどうだろう?いい解決策をたった今思いついた」
「解決策?」
3人は首を傾げ
バルバスの話を聞くことにした




