エピソード94:逆転の歯車、伝説の老兵
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カリオーテの策略により、がら空きとなったドラグーンの南。
魔王軍の本体が迫り、エイシェンツリーには不吉な影が躍ります。
惨劇の幕が上がろうとする中、静まり返った王都で一つの影が動きます。
絶望の淵で、物語は加速します。
エイシェンツリーには魔族の飛行部隊が迫り、
エタン王国には魔王軍の本体が音もなく忍び寄る。
いよいよ、世界を分かつ殺戮の火蓋が切られようとしていた。
ドラグーン王都、公爵邸。
カリオーテは窓からエタンの方角を眺め、独り言ちた。
「くく……、軍は我が領を抜け、間もなくエタンへ雪崩れ込む。
半純血の王の、絶望に歪む顔が目に浮かぶようだ……」
その時、背後から氷のように冷たい声が響いた。
「何がそんなにおかしいんだ、カリオーテ」
カリオーテが驚愕して振り返ると、
そこには騎士団長サンソンが腕を組み、壁にもたれかかっていた。
「……これはサンソン団長。突然の訪問に驚きましたが、どうされましたな?」
「下衆な笑い声が外まで聞こえてきたんでね。
何が楽しいのかと聞きに来たまでだ」
カリオーテは鼻で笑い、再び窓の外へ目を向けた。
「ふむ、随分と不遜な口の利き方だ。私は公爵だぞ?
まあよい。お前もじきに、新たなる真の王にお仕えすることになるのだからな」
「新しい王、だと?」
サンソンの一歩が、床を重く鳴らす。
「俺はナバール王から、逆賊カリオーテを捕らえるよう命を受けている」
カリオーテは腹を抱えて笑い飛ばした。
「ふはっ、はっはっは! 何の罪だ! 言ってみろ!」
「魔王軍を自領に通過させ、エタンに向かわせた罪だ」
カリオーテの笑いが、凍りついたように止まった。
(……何故それを知っている? しかもナバールの指示だと!?)
「何を馬鹿げたことを。
第一、ナバール王は今ごろエイシェンツリーで四カ国会談のはずだが?」
「そうだな。お前の持っている『情報』通りなら、な」
同時刻、エイシェンツリー上空。
魔王軍の将軍が、翼を広げた飛行部隊に檄を飛ばしていた。
「奴らは空からの攻撃に脆弱だ!
我らが本隊であると錯覚させるよう、徹底的に暴れ回れ!」
だが、その部隊がかつての戦の砦を通過しようとした、その時。
地上から凄まじい光の奔流が突き上げ、魔族の兵を次々と消し去った。
「下にエルフの戦士が待ち伏せか……」
さらに前方からは、翼あるドラグーン王国騎士団が整然と陣を敷いていた。
「これくらいは想定内。攪乱さえできれば良い。あれほどの魔力弾は何度も打てまい。相手を魔力切れに追い込んでやれ!」
しかし、空飛ぶ魔族たちは吸い寄せられるように次々と撃ち落とされていく。
「なんなんだ!? 先程もそうだが、これはエルフや竜人の攻撃ではないぞ!」
「ふぉっふぉっふぉっ! 流石ワシらの作った『対空自走砲』じゃわい! のうボネット?」
「はっはっはー! イーデルよ、魔導砲も絶好調じゃぞい!」
地上で笑うのは、二人の人間の老人だった。
魔族の将軍が絶叫する。
「あのジジイ共の仕業か! 降りて白兵戦だ! 叩き潰せ!」
地上に降り立った魔族たちを待っていたのは、巨大な鉄の塊だった。
「おー、降りてきたぞい。なら『対地上戦車』の出番じゃな」
「いやー、カタピラ式にして正解じゃった。エルフ領は道が悪いからのう」
ドゴーン! ドゴーン! と轟音が響くたび、魔族が肉塊となって吹き飛ぶ。
「なんなんだ、あのジジイらは……! クソが、エルフの国ごと吹き飛ばしてやる!」
将軍は全魔力を解き放ち、超特大の魔導弾を作り上げた。
エルフの国ごと消し去らんとする、風の暴力。
「おっ、あやつは他とは違うのう」
「イーデル、あれはまずいぞい! 周囲が吹っ飛んでしまう!」
イーデルは鼻歌混じりに「みんな下がっておれー」と手を振る。
「はぁっ、はぁっ、俺の全ての魔力をぶち込んでやったぞ。ジジイども、エルフの国共にちりとなれ!」
巨大な全てを切り裂く恐ろしい暴風の球が放たれた。
「ほーほー! 来たぞい、イーデル!」
「やるかの、ボネット!」
イーデルは杖を掲げて巨大な鏡のような魔法陣を展開した。
ボネットが森を覆うほどの魔障壁を背後に張り、イーデルが風を跳ね返す。
「なに……!? 何故だ、こんな人間のジジイにぃ……!!」
反射した自らの魔法に飲み込まれ、魔王軍の飛行部隊は跡形もなく消滅した。
「もっとワシらの戦車の活躍が見たかったぞい」
「まあ、これでこちらは安泰かのう。ナバール様との約束も守れたわい」
エルフの戦士もドラグーンの騎士も、ただ唖然として立ち尽くしていた。
これが、伝説の大魔導士イーデルとボネットの、底知れぬ力だった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
カリオーテの予想を遥かに超える、ナバールの「備え」。
そして、伝説の大魔導士二人の規格外の力……。
「不器用な王」と蔑まれたナバールが、その裏でどれほどの信頼を築いていたのか。
それを思い知らされる一話となりました。
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次回、さらに激動する戦局をお見逃しなく!




