エピソード95:聖母の裁き、黄金の騎士
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王都、そしてエタン。
二つの場所で、魔王軍による同時多発的な侵攻が始まろうとしていました。
不在の王、迫り来る魔の手。
ドラグーン公爵邸の静寂のなかで、絶望のカウントダウンが刻まれます。
午前。降り注ぐ陽光とは裏腹に、ドラグーン王都は緊迫した空気に包まれていた。
公爵邸の窓辺で、カリオーテは目の前のサンソンを血走った目で見据え、絶叫した。
「馬鹿な……我々の動きが読まれていただと!
だが、スインウィッシュの抜け道を知る者は、ごく限られているはず!」
「あれはセト様が教えてくれたんだ。……お前の底の浅さも含めてな」
サンソンの冷徹な回答に、カリオーテは顔を引きつらせた。
「セト様……! クソっ、あの古の守護竜め!
だが、もう遅いわ! ギルフォード率いる魔王軍本体は、既にエタンへと迫っている。
今さら増援を送ったところで、間に合いはせん!」
その時。
午前中の静寂を切り裂くように、王都全体を震わせる凄まじい地響きが鳴り響いた。
機械が噛み合い、巨大な構造物が変形していく、重厚な音。
「アイリス様はアラン様を失い、深く心を痛めておられた。
その弔いの砲が、今から上がるぞ」
「……何だと?」
ドラグーン城の尖塔が左右に割れ、城郭そのものを基部とした、回転式の巨大な魔導砲が青空に向けてその銃口を曝した。
ドラグーン城、管制室。
アイリスは、魔導パネルに映し出された地図上の輝点を鋭く見据えていた。
「目標、魔王軍本体。……方位、誤差修正完了」
技術者の報告に、アイリスが冷徹に命じる。
「……魔導エネルギー充填開始」
白昼の光の中でもはっきりと分かるほど、砲台の芯が青白く発光し、大気中の魔力が渦を巻いて集まっていく。
「充填率、八十……九十……。エネルギー充填、百パーセント!」
アイリスは、亡き夫の面影を脳裏に浮かべ、静かに、しかし力強く叫んだ。
「優しいアランを奪ったお前達に、ナバールたちの未来を、汚させはしない!」
「『ステラ・マリス(迷える者を導く聖母)』、発射!!」
凄まじい放電現象と共に、極太の青白いレーザーが昼の空を貫いた。
光の柱はエタン付近の戦場へ着弾し、魔王軍を飲み込んでいく。
「……着弾。目標地点の魔王軍、消失を確認しました」
「ステラ・マリス、オーバーヒート。クールダウンに入ります」
アイリスはふう、と深く息を吐き、モニターの向こうの空を見つめた。
「私にできるのは、ここまでね。……あとはナバール、任せたわよ」
その光景を、カリオーテは腰を抜かしながら見上げていた。
「……馬鹿な。何かやっているのは聞いていたが、あんな規格外の兵器を、アイリスが作っていたというのか……」
「さて、カリオーテ.大人しく捕まってもらおうか」
サンソンが剣を抜くと、カリオーテは正気を失ったように笑い出した。
「ふざけるな! 私を誰だと思っている! 王家の血を引く、純血の公爵だぞ!」
カリオーテは懐から取り出した小瓶の液体を、狂信的な目で見つめた。
「ギルフォード……奴が持ってきたこの強化薬さえあれば、貴様のような下郎など一捻りだ。私が最強の竜人となり、真の王をお迎えする!」
一気に液体を飲み干すカリオーテ。
直後、彼の体に異変が起きた。
「ガ、アッ……!? なんだ、熱い、体が、裂ける――!!」
竜人化などという生易しいものではなかった。
骨が砕ける音が響き、筋肉が意志に反して肥大し、肌を突き破って黒い触手が溢れ出す。
それは、器を壊して中身を魔物へ作り変える「崩壊」だった。
ギルフォードにとって、カリオーテもまた使い捨ての駒に過ぎなかったのだ。
「ウ、ガアァーーー!!」
理性は消失し、全身が醜く捻じれ、理屈の通じない魔龍へと変貌していく。
咆哮と共に無差別に暴れ狂うカリオーテを見つめ、サンソンは低く呟いた。
「……醜いな」
「ナバール陛下より、ドラグーンの盾という大役を仰せ付かっている。この国に仇なす不浄を、一歩たりとも通すわけにはいかないんでな」
サンソンの全身から、黄金のオーラが爆発的に放たれる。
彼もまた正当な竜人化を遂げると、音を置き去りにする速度で踏み込んだ。
一瞬。
サンソンがカリオーテを駆け抜けた直後、魔龍の巨体はバラバラに切り刻まれ、地面に崩れ落ちた。
「ギルフォード……。最初から、コイツをこうするつもりだったのか」
サンソンは剣の血を振り払い、静かに刀身を鞘に収めた。
「……あ。捕らえろ、と命じられていたんだったな。……任務失敗だ」
物言わぬ肉塊となったカリオーテを見下ろし、サンソンは少しだけ困ったように、独り言をこぼした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
アイリスの「ステラ・マリス」の威力、そしてサンソンの圧倒的な力。
「盾」としての役目を果たした彼らの姿にスカッとした方は、
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次回、ナバールの反撃が本格始動します。お楽しみに!




