エピソード89:鉄を叩く音は嘘をつかない
いつもご愛読いただきありがとうございます。
明かされる世界の真実と、王としての大きな決断。
分断された歴史を終わらせるため、ナバールは最愛の戦友と共に、重鎮たちの前へと進み出ます。
不器用な職人の誓いが、固く閉ざされた国の扉を叩く瞬間をぜひ見届けてください。
朝を迎え、ドラグーン王国の会議室には、かつてないほどの緊張感が漂っていた。
母上、セト様、アルテオに加え、エドル、オーウェン、サムソン騎士団長をはじめとする王国の重鎮たちが顔を揃えている。
その中央に、俺はエイルを伴って現れた。
今日の彼女は、いつもの作業着ではない。
母上に夜通し叩き込まれたという礼法をこなし、美しいドレスを纏って、一分の隙もない完璧な挨拶を披露した。
「……ドワーフの国より参りました、エイルと申します。以後、お見知りおきを」
その堂々とした姿に、俺は改めて身を正す。
俺は深く一度深呼吸をし、居並ぶ忠臣たちを見据えて本題を切り出した。
「皆に集まってもらったのは他でもない。本題に入る前に、まずは皆に伝えなければならない『世界の真実』がある。守護竜セト様より授かった、この歪んだ歴史の正体だ」
俺は、霊峰スインウィッシュでセト様から見せられた光景を語った。
邪悪なる存在『堕天竜オルディオス』の封印。かつては種族の垣根を超えて共闘していたこと。
そして、今この世界に蔓延る「不毛な純血主義」こそが、オルディオスの側近たちが数百年かけて撒いた、絆を断つための「毒」であったことを。
「……つまり、俺たちが信じ込まされてきた偏見こそが、敵の復活を助けるための欺瞞だったんだ。種族を繋ぐ『混血の力』こそが、敵が最も恐れる封印の楔なのだと」
衝撃の事実に、会議室が静まり返る。
その静寂を切り裂くように、俺は宣言した。
「だからこそ、俺はこの偏見に満ちた歴史を終わらせる。……俺は、エイルと結婚したいと思っている。彼女と共に、分断された世界を再び繋ぎ合わせる。それがドラグーン王としての、俺の答えだ」
どよめきが爆発した。
エドルは「あぁ、あんなに立派になられて……」とハンカチで目頭を押さえ、なぜかオーウェンは「……は? え? まさか?」と一人で固まっている。
「結婚!?」
「しかし、彼女はいかなる御仁で!? 後ろ盾はどうなっているのです!」
特に伝統を重んじる文官たちから、鋭い問いが飛ぶ。
「ナバール様、彼女はドワーフの国を追われた身。外交的なメリットも保証もない。なぜ、わざわざ他国で異端とされる娘を、この国の母に選ばれるのですか?」
その問いに、俺は無言で右手から剣を出し、テーブルの上に置いた。
白銀の輝きを放つ、打ち直された王家の剣だ。
「この剣を見てくれ。先の戦いで無残に折れた王家の剣を、自身の理論と技術で『以前よりも強く』蘇らせたのは彼女だ。エイルはただの技術者じゃない。魔導船の艦長であり、敵の欺瞞を打ち破る技術を持った、代わりのいない戦友だ」
俺の言葉に、セト様がゆったりと口を開く。
『我が選んだ末裔ナバールが選び、我が爪を打ち直した娘だ。混血を嫌うのならば、ナバールとて混血。何が不服があれば申すが良い。この娘の魂は、かつての戦士たちにも劣らぬ美しさを持っておる』
守護竜の圧倒的な神威。その言葉に臣下たちも言葉を失った。
その時、エイルが俺の前に一歩出た。
彼女はドレスの裾を強く握りしめ、真っ直ぐに臣下たちを見据えた。
「アタイは不器用だ。王女様みたいな綺麗な言葉は言えない。ドワーフの国じゃ『鉄屑飛ばし』なんて呼ばれて、鼻つまみ者だったよ」
彼女の声が、静かな会議室に響く。
「でも、鉄を叩く音だけは嘘をつかない。ナバールがこの国を守るなら、アタイはそのための最高の武器を、最高の盾を、最高の船を造る。……アタイの腕一本、この国に捧げるよ。だから……アタイを、ナバールの隣にいさせてくれ!」
それは、洗練された演説ではなかった。
不器用で、どこか懐かしく温かい、「職人の魂」がこもった誓いだった。
しばしの沈黙のあと、サムソン騎士団長がガシャリと甲冑の音を鳴らして跪いた。
「……王を支えるのは血筋だけではない。その『覚悟』、しかと聞き届けました。エイル様……我ら騎士団、新たな王妃を全力でお守りいたしましょう!」
それを皮切りに、次々と臣下たちが跪いていく。
「エイル様」という呼び声と共に、会議室は祝福の拍手に包まれた。
「……よかったな、エイル」
「……ああ。手が、震えちまったよ」
俺は彼女の震える手を、そっと握りしめた。これこそが、俺が掲げる「混血の希望」の第一歩だ。
承認を得た俺たちは、次なる一手へと進む。
四カ国会議、そして、ヴェルガーとギルフォード率いる帝国への反撃。
バラバラになった世界を繋ぎ合わせるための戦いが、いよいよ本格的に始まろうとしていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ついに明かされた堕天竜オルディオスの影。
そして、エイルが「王妃」として認められた熱い一話となりました。
彼女の「腕一本、この国に捧げる」という言葉に、作者も胸が熱くなりました。
この作品を面白い、続きが気になると思ってくださった方は、
ぜひ【ブックマーク登録】や【広告の下にある評価(☆☆☆☆☆)】での応援をお願いします!
皆様の星一つ一つが、ナバールたちの戦う力になります!




