エピソード88:嵐の前の、あまりに甘い静寂
いつもご愛読いただきありがとうございます。
激動の戦いから一夜明け、ドラグーンでは着々と反撃の準備が進みます。
そんな中、親友アルテオと語らう裸の付き合い。
そして、一日の終わりにナバールを待っていたのは、あまりに刺激的な「静寂」でした。
怒涛の一日が終わり、夜の帳が下りる。
夕食の席では、今後の戦略について活発な意見交換が行われた。
当初、魔導船の修理と改造はエタンで行う予定だったが、このままドラグーンで進めることに決まった。
エタン側も独自の新型兵装の開発で手が離せない状況らしい。
(まあ、こちらにはエイルとドワーフの精鋭、そして開発狂の母上にアルテオまでいる。問題はないだろうが……)
この城自体、いつの間にかとんでもない魔改造を施されているしな。
もう、彼らに任せるしかない。
一方、軍事面でも着実に底上げが進んでいた。
オーウェンとガーランドたちが、城の騎士団と連日模擬戦を繰り返しているのだ。
襲撃の際、魔法に苦戦を強いられた騎士団は魔法対策に余念がない。
だが、ガーランドたちの肉弾戦と魔法を組み合わせた変則的な攻撃には、まだ翻弄されているようだ。
逆にガーランドたちも、騎士団が土壇場で放つ「オーラ」を纏った一撃に苦労している。
互いに切磋琢磨し、着実に力は底上げされていた。
魔導船の修理が終わり次第、俺たちはエイシェンツリーに向かい、カインとルルーナを迎えに行く。
あの二人も、きっと見違えるほど強くなっているはずだ。
(オーウェンのやつ、ルルーナの話になると露骨に動揺するから分かりやすいな……)
あとは、ドラグーンの俺、エタンのアルテオ、ベンドアのボナヴィスタ、そしてエイシェンツリーのアストリア。
この四カ国会談を早急に行い、ガーラ帝国への反撃の狼煙を上げなければならない。
やるべきことは山積みだが、不思議と心は落ち着いていた。
食後、俺はアルテオと大浴場に浸かっていた。
「ナバール、本当に結婚するの?」
湯気に包まれたアルテオが、いつもの能天気な調子で聞いてきた。
「……うん、そう考えてる」
「なんだい、その歯切れの悪さは。親友の僕が相談に乗ってあげるよ?」
「いや、なんて言うか……一気に話が進みすぎちゃってさ」
「エイルのこと、好きなんでしょ?」
「……もちろん。ただ、普通に告白するつもりが、気づいたらプロポーズになっていたんだよ」
俺が白状すると、アルテオはけらけらと声を上げて笑った。
「ははっ! いいじゃない。王族なんてのは浮ついた遊びはできないんだから、結果オーライだよ」
「他人事だと思って……。アルテオこそ、そういう相手はいないのかい?」
「僕は魔導が恋人さ。理論は裏切らないし、新しい術式を見つけるたびに胸が高鳴るからね」
アルテオはそう言って、指先から漏れた魔力で器用にハートマークを作ってみせた。
「はいはい、そういうと思ってたよ」
「まあ、国としても妃が決まれば安泰だしさ。ナバールとエイルが幸せになれるなら、心配することなんて何もないんじゃない?」
「……ありがとな。自分一人のことじゃないから、少し不安になっていたんだ。アルテオにそう言われると、少し楽になるよ」
「ふふっ、弱気なナバールも新鮮でいいねぇ」
俺たちは裸の付き合いで笑い合い、少しだけ心の重荷が軽くなった。
風呂を上がり、火照った体を冷ましながら自分の部屋に戻ろうとした時だった。
ドアの前に、エイルが立っていた。
淡いピンク色の、薄手のナイトガウンを纏っている。
……可愛らしいのだが、しなやかな体のラインが透けそうなほど薄く、胸元の谷間が大胆に覗くデザインに、俺の心臓は一気に跳ね上がった。
「……これ。セト様が『ナバールの好みだから』って。アイリス様が用意してくれたんだ。……似合うか?」
エイルは顔を真っ赤にして、ガウンの裾を所在なげにいじっている。
普段の快活な彼女からは想像もつかない、無防備で艶めかしい姿だった。
「う、うん。……とても、綺麗だよ。似合ってる」
(セト様、趣味が的中しすぎてて俺の精神が削られる……! 母上も絶対に楽しんでるな、これ!)
「ちょっとこの服、恥ずかしいんだよな。でも、ナバールが良いって言ってくれるなら……少しは自信持てる、かな?」
そう言って少しだけ顔を上げた彼女の瞳は、本気で俺の反応を恐れているように揺れていた。
俺は一歩踏み出し、彼女の肩にそっと手を置いた。
「エイル、今日は不安にさせてごめんな。明日、改めて皆と話して、俺たちの今後のこと……ちゃんと決めるから。俺は、本気だよ」
「……うん。わかった」
エイルは安堵したように、花が綻ぶような笑みを浮かべた。
そして、彼女は背伸びをすると、俺の唇に羽が触れるような優しい口付けを落とした。
「それ聞けただけでも、嬉しいよ。……じゃあ、また明日な」
彼女は逃げるように照れながら、自分の部屋へと戻っていった。
廊下に一人残された俺は、しばらくの間、暴走する胸の鼓動を鎮めるのに必死だった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
軍事的な緊張感が高まる一方で、プライベートの緊張感(?)も限界突破なナバール。
セト様とアイリス様の強力なバックアップ(?)を受けたエイルの姿に、作者自身もニヤニヤしながら筆を進めました。
これからの展開も、どうぞお楽しみに!




