エピソード87:守護竜の奇跡と修羅場
いつもご愛読いただきありがとうございます。
伝説の守護竜セト様を迎え、活気づく王都。
久々の平和なひととき……のはずが、ナバールにとっては命がけの「案内」に?
最強の女性陣に囲まれたナバールの、賑やかすぎる日常編をお楽しみください!
城に戻り、俺は公式にセト様を皆に紹介した。
銀髪をなびかせ、凛とした佇まいで玉座の横に立つ彼女の姿に、場内は一瞬にして静まり返り――次の瞬間、地鳴りのような歓声が沸き起こった。
「我はセト。この国の守護竜である。世界の危機を救うため、末裔たるナバールに助力せん。皆、以後よしなにな」
その神々しい微笑みに、あの鉄面皮で知られるサムソン騎士団長ですら、耳まで真っ赤にして俯いている。
(……うぉー! って、すごい盛り上がりだな。俺の国王就任の時より大盛り上がりじゃないか。いいんだよ、いいんだけどさ……なんだかなぁ)
少し複雑な気分になりつつも、俺は主要メンバーにだけ祠で聞いた「世界の真実」を共有した。
その後、アルテオとエイル、母上は魔導船の強化のために工房へ。オーウェンは騎士団の演習へと向かった。
そして俺は――。
「さあ、ナバール。今の世の暮らしというものを見せてくれ。案内せよ」
というセト様のご所望により、二人で城下町を巡ることになった。
服屋、アクセサリー店、武器屋に防具屋。
セト様は目に入るものすべてに興味を示し、「ほう!」「これは見事な」とはしゃいでいる。
ただ、一つ困ったことがある。
「なんじゃ、歩きにくいのか? お主、さっきから顔が赤いぞ」
そう言って、セト様は当然のように俺의 腕を抱き込み、密着して歩くのだ。
竜人族特有の、人間よりも少し高い体温。
腕に伝わる柔らかい感触と、銀髪から漂う高貴な香りに、俺の心臓はさっきから暴走しっぱなしだった。
「セト様、目立ちすぎです。もう少し離れて歩かないと……」
「よいではないか。我とお主は血を分けた間柄。それに……こうして男を困らせるのも、案外楽しいものじゃな」
セト様が耳元で悪戯っぽく囁く。
神様というよりは、完全に俺を翻弄して楽しんでいる年上の美女だ。
市場に入ると、その熱気は最高潮に達した。
果物売りの中年男性が、真っ赤に熟した果実を差し出した。
「セト様! これ、食べてください! うちの自慢なんです!」
「……うむ、うまいぞ! そなたがこれを育てたのか?」
「は、はい! 毎日手塩にかけて育てたリンゴです!」
「そうか。いい仕事をしておる。励めよ」
セト様が感極まって震える男性の頭を優しく撫でると、男性はその場に泣き崩れた。
驚いたことに、セト様が通り過ぎた後の道端には、季節外れの花々が、彼女の魔力に当てられたかのように一斉に蕾を開いていく。
それを見た民たちは「神の奇跡だ!」と跪き、平和への祈りを捧げ始めた。
「ナバールよ……この国は、いいな。皆が前を向いておる」
ふと、父・アランのことを思い出した。
純血にこだわり閉ざされていたこの国を、他国と繋ぎ、豊かにするきっかけを作ったのは父上だった。
すべては父上が動いたからこそ、今、こうしてセト様が笑顔で歩ける街がある。
「この国を、そして世界を……守る!」
「うむ。お前なら, それができるはずだぞ」
新たな決意を胸に城へ戻ると、工房の入り口から、顔に少し油汚れをつけたエイルが顔を出した。
手には新しい魔導船の設計図があり、どうやらナバールのために必死に作業していたらしい。
「ナバール! これ見てよ、アルテオが新しい回路を――」
パッと顔を輝かせたエイルだったが、次の瞬間、彼女の表情はマイナス百度まで急降下した。
「おかえりなさい、ナバール。セト様と『仲睦まじく』お出かけだったかしら?」
いつの間にか背後にいた母上が、ニヤニヤしながら追い打ちをかける。
「べ、別に案内してただけですよ! 変なこと言わないでください」
「ふーん。じゃあ、なんでセト様と腕を組んで、そんなに幸せそうな顔をしてるんだい?」
エイルの視線の先――。
俺の腕には、未だにセト様がしな垂れかかっていた。
エイルの顔が、見る間に般若のように険しくなっていく。
「……ナバール。アタイ、工房で油まみれになってアンタのことを考えてたんだけど。……あんなプロポーズした直後に、これかい?」
「ま、待ってエイル! これはセト様が勝手に、というかその!」
「なんじゃ、エイル。そう焼くな。我はただ、おばあちゃんとして孫とお出かけをしていただけじゃぞ?」
セト様が涼しい顔で、さらに火に油を注ぐ。
「おばあちゃん……? 曾おばあちゃんの曾おばあちゃんでしょ! それに、アタイにプロポーズしたのに、デレデレしちゃって……!」
「あらぁ! エイルちゃん、プロポーズまでされたの!? 聞いてないわよ、ナバール!」
「いや、その, あれは……!」
「本当に信じて……いいの? 嘘なら、今のうちに言って……」
さっきまで強気だったエイルの声が、幽かに震えていた。
本気で心をさらけ出した相手だからこそ、裏切られることが何よりも怖いのだろう。
今にも零れ落ちそうなほどに、彼女の美しいターコイズブルーの瞳が大きく揺れていた。
「……いや、本当です! プロポーズしました!」
「なら話は早いわね。これからのこと、真剣に考えなきゃ。セト様、このあとお時間あります? ぜひご一緒にどうかしら」
「おお、そうじゃな。是非、三人で『女子会』とやらをしようではないか。ナバールの性癖についてもじっくり語り合わねばな。左手の爪を通じて、すべて見ておったからの」
「ちょっと、待ってえええ!」
ナバールの絶叫を余所に、最強の女性陣は意気揚々と奥の部屋へと消えていった。
どうやら、本当の波乱はこれから始まるらしい。
最後までお読みいただきありがとうございました。
神様としての奇跡を見せた直後に、女子会へと消えていくセト様。
そして、油まみれで頑張っていたのに嫉妬に燃えるエイル。
ナバールの城内での居場所が、どんどん狭くなっているような気がしますが……頑張れナバール!




