エピソード86:銀髪の守護竜、降臨す――その姿は美しき乙女?
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重厚な真実を胸に、聖域を後にしようとするナバールたち。
しかし、そんな彼らの前に現れたのは、これまでの緊張感を一気に吹き飛ばすような「想定外の美女」でした。
伝説の守護竜がもたらす、新たな騒動(?)の幕開けです!
セト様から授かった「真実の記憶」は、あまりに重く、そして鋭かった。
俺たちは新たな決意を胸に、静まり返った竜の祠を後にしようとする。
「……行こう、みんな。まずは城に戻って、これからのことを立て直さないと」
俺の言葉に、エイルもアルテオも、そして母上も深く頷いた。
だが、その背後で何か小さな声が聞こえたような気がしたが、昂ぶる感情に支配されていた俺たちは、それに気づかず祠の重い石扉を閉めてしまった。
祠を出て、待機させていた馬車の前まで戻ってきたときだ。
そこには、一人の女性が立っていた。
透き通るような銀の長髪、白い陶器のような肌を晒した美しい大人の女性だ。
「置いていくではない」
「おわっ!? 誰だい、この美人さんは!」
真っ先に声を上げたのはアルテオだった。彼は太ももまで大胆にスリットの入った彼女のドレスを、感心したように、それでいて魔道具の構造でも見るかのような無遠慮な視線で眺めている。
「ナバール、知り合いかい?」
「いや、まさか……。でも、綺麗というか、なんというか……」
俺は、その圧倒的な神々しさと美しさに、つい言葉を失って見惚れてしまった。
すると隣から、氷点下すら下回るような冷たい冷気が漂ってくる。
「……へぇ。ナバール、鼻の下が伸びてるわよ」
「わっ!? いや、エイル、これはその、単に驚いてるだけで!」
慌てて否定したが、エイルの鋭い視線は俺の脇腹を射貫いている。
その時、アルテオが、いつもの調子でひらひらと手を振って女性に問いかけた。
「……失礼ですが、どなたですか? 我々の馬車に何か御用で?」
「なんじゃ、その反応は。……我じゃよ。セトじゃ」
「「「「セト様!?」」」」
全員の声が山間に響き渡った。
「傷も癒えてきたしのう。千年ぶりに人化して、お主らのサポートをしようと思うてな」
「へぇー! 竜の人化魔法か! 古代魔導の極致だね、これ! セト様、そのドレスの構造、あとで詳しく解析させてもらってもいいかな?」
世界に三人しかいない大魔導士の一人という肩書きを、完全に趣味のために使いそうな勢いでアルテオが食いつく。
「お主、我の姿を見ても少しも恐れぬな。……まあよい。あまり期待するでないぞ。力は以前の半分以下というところじゃからな」
「いいんですか、セト様。目立ちすぎますよ、その格好!」
「ほう。我の末裔が、我に惚れるか? 今も昔もこういう衣装が好まれるのであろう?」
セト様がイタズラっぽく微笑み、俺の顔を覗き込んできた。
豊かな胸元が視界に入り、俺は慌てて目を逸らす。
「……ナバール、さっきから目が泳ぎすぎ」
すかさずエイルの肘が俺の脇腹に深く突き刺さった。
「セクシ……じゃなくて! 綺麗すぎて城がパニックになりますよ!」
「あらぁ、いいじゃない! セト様、女子会なんてどうかしら!」
「なんで母上まで真っ先にはしゃいでるんですか……」
「そうじゃの。お主らの食事にも興味があっての。千年前のドロドロした煮込み料理とは随分違うようじゃったしな」
セト様が期待に目を輝かせると、アルテオが能天気に親指を立てた。
「じゃあセト様、僕が特製料理を振る舞いますよ! 錬金術を応用した、見たこともない料理をね!」
「あー……。お主の料理は爪を通じて見てきたから、遠慮しておく。あれは、我のような高貴な存在が口にするものではない。もはや呪物に近いからの」
「えーっ!? 酷いな、あれは理論に基づいた完璧な栄養食なのに!」
「酷いといえば、アルテオ。お主、王家の剣が折れたときに『竜の牙を新しく抜いてもらえばいい』などと、とんでもないことを言っておったな?」
セト様の黄金の瞳がギロリと光る。
「あっ、聞こえてました?」
「乙女の歯を抜いてしまえばいいなどと、恐ろしい男じゃ。我は千年経っても忘れんからな。……ナバール、後でこやつの尻を我の代わりに蹴っておけ」
「ははは! 乙女だなんて、セト様も案外お茶目だなぁ! 」
「……うん、こいつ全く反省してないな」
呆れる俺を余所に、セト様と母上、そして魔導回路の仕組みをメモし始めたアルテオ。
伝説の守護竜という、これ以上ないほど強力で、これ以上ないほど「心強い?」仲間を迎え、俺たちの馬車はカオスな熱気を孕んだまま、再び走り出した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
圧倒的な威厳を放っていた守護竜セト様が、まさかの銀髪美女に!?
アルテオの不敬なまでの好奇心と、ナバールへの風当たりの強さ……。
これまでになく賑やかになった一行の旅を、これからも見守っていただければ幸いです。




