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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード84:月下、折れない誓い

いつもご愛読いただきありがとうございます。


賑やかな宴の裏側、月明かりのテラス。

不器用な王様と、真っ直ぐな鍛冶師の娘。

二人がこれまで積み重ねてきた想いが、一つの形になります。


 祝宴の喧騒が遠くから響く王宮のテラス。


 アイリスが二人の手を重ねさせて去ってから、ナバールとエイルは繋いだ手を離せずにいた。

 夜風が、熱を帯びた二人の頬を優しく撫でていく。



「……なあ、突然こんな話になっちまったけど」


 沈黙を破ったのはエイルだった。

 彼女は俯き、ナバールの手に包まれた自分の無骨な指先を見つめている。


「本当に、アタイでいいのかい?」


「エイル?」


「アタイは見ての通りガサツだし、言葉遣いも荒い。ドワーフの国じゃ鼻つまみ者のハーフだったんだ。……ナバールは、立派な王様だろ? アタイなんかじゃ、釣り合わないよな」


 エイルが自嘲気味に笑い、強引に手を離そうとする。

 しかし、ナバールはその手を逃さず、指を絡めるようにして強く握りしめた。



「エイル、お互い茶化したりしないで、ちゃんと話したいんだ。……いいかな?」


 真っ直ぐな瞳に見つめられ、エイルが観念したように小さな肩を震わせる。


「……うん。話してよ」


「俺、実は……一目惚れだったんだ」



「えっ?」

 エイルが驚いて顔を上げる。30センチ上にあるナバールの顔を、信じられないといった表情で見つめた。


「廃鉱山に行く前の夕食の時、『何ジロジロ見てるんだ』って言われただろ? あの時、俺……君に見惚れてたんだ。ピンクの髪も、真っ直ぐな瞳も、眩しいくらいの笑顔も……。あの時にはもう、惹かれてた」


「そう……なのか? アタイ、てっきり嫌われてるのかと思ってたよ」


「逆だよ。だから、君が俺を助けるためにサラマンダーの炎に巻かれた時は、気が気じゃなかった」



 ナバールの手に力がこもる。その体温が、エイルの指先へと伝わっていく。


「大火傷を負った君の手を見て……もし、大好きな鍛冶ができなくなったら? 君が夢見た魔導船が造れなくなったら? そう考えたら、不安で、苦しくて、自分を呪ったんだ」


「ナバール……」

 エイルの瞳が潤み、視線を泳がせる。


「アタイはさ……最初はナバールのこと、放っておけない弟みたいだと思ってたんだよ。危なっかしくて、守らなきゃって」


「弟、か……」


 少し苦笑いするナバールに、エイルが言葉を重ねる。


「でも、怪我をしたアタイの手を、あんたは泣きそうな顔でずっと癒してくれただろ? あの姿を見てたらさ……なんだか愛おしくなっちゃって。最高の剣を打って、ずっと隣にいたいって、そう思っちまったんだよ」



 エイルは照れ隠しに、繋いでいない方の手で鼻を啜った。


「だから、不釣り合いなのは分かってたけど、アイリス様にマナーを教えてくれって頼んだんだ。あんたの隣に立っても、笑われないようにさ」


 健気な彼女の告白に、ナバールの胸が締め付けられる。

 彼は一度深く息を吸い込み、意を決して「王」としての表情を作った。


「エイル。国王として言わせてもらう。君の技術、そしてその高潔な心は、これからのドラグーン王国にとってなくてはならないものだ。ぜひ、俺の力になってほしい」



 少し硬い、いつもの公務のような口調。

 エイルは一瞬寂しげな顔をして、自分を見下ろすナバールの顔を見上げた。


「ったく……結局は王様としての勧誘かい。ま、16歳のガキにそんな顔で頼まれたら、22歳のアタイが面倒見てやるしかないよな」


 エイルはお姉さんぶった笑みを浮かべ、ナバールの頭を撫でようと、小さな手を精一杯伸ばした。

 だが、その手は届かなかった。


 ナバールがその手首を掴み、彼女の細い身体を自分の方へと引き寄せたからだ。



「……王としての話は終わりだ」


「な、ナバール?」


「子供扱いしないでくれ。……エイルを幸せにしたいと思ってる、『男』の顔を見てよ」


 至近距離で見つめられ、エイルは息を呑んだ。

 そこにはドラグーンの王としての仮面を脱ぎ捨てた、一人の少年――いや、熱く、純粋な情熱を宿した一人の男がいた。



「俺は、君と『家族』になりたい。エイルが船を造るなら俺がその風になるし、エイルが迷うなら俺が盾になる。……一生、俺の隣にいてほしいんだ」


「……卑怯だよ、あんた」


 エイルは真っ赤になった顔を隠すように、ナバールの胸に額を押し付けた。

 小柄な彼女の身体は、驚くほど細く、しかし職人としての確かな重みがあった。

 ナバールは彼女の鼓動を感じながら、その小さな肩を力強く抱きしめる。



「エイル、好きだ」


「……アタイも、大好きだよ。ナバール」



 月の光に照らされたテラスで、二人の距離がゼロになる。

 背伸びをするエイルと、少しだけ膝を折って視線を合わせるナバール。


 二人の唇が優しく重なり、夜の静寂の中に、甘く、熱い誓いが溶けていった。


最後までお読みいただきありがとうございました。


……書いていて、作者自身が一番顔から火が出そうなくらい気恥ずかしい回になってしまいました。

ですが、死線を越えてきた二人には、どうしてもこの静かな時間が必要だったのだと感じています。


戦記の合間の、ほんのひとときの休息。

二人の誓いが、これからの厳しい戦いを支える力になれば幸いです。


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