エピソード80:刻まれた爪痕
いつもご愛読いただきありがとうございます。
死の都の深部で、アルテオとオーウェンはかつての滅びの爪痕を目撃します。
謎が深まる中、一行は新たな決意とともに、次なる一歩を踏み出します。
魔導船の修理をエイルたちに任せ、アルテオとオーウェンの二人は都の深部へと足を踏み入れていた。
外縁部とは比較にならないほどの重圧。視界は青白く発光する霧に覆われ、石畳からは巨大な「魔導結晶」が牙のように突き出している。
「……酷いな。ここはもはや、物質の世界というより魔力の固まりだよ」
アルテオが眉をひそめる。
かつての家屋も街路樹も、すべてが青く透き通る結晶へと変じ、時が止まったまま美しくも不気味に輝いていた。
「アルテオ殿、前方に巨大な構造物を確認しました。あれが……爆心地の主でしょうか」
オーウェンの視線の先には、街を薙ぎ倒してそびえ立つ異様な鉄の塊があった。
それは巨大な塔が倒壊したようにも見えたが、近づくにつれてその「殺意」が露わになる。何層にも重なった魔導回路、そして天を仰ぐ巨大な筒。
「……建物じゃない。これは、砲台だ」
それは魔導都市が誇った究極の叡智であり、同時に滅びの引き金となった「超長距離魔導砲」の残骸だった。
「アルテオ殿! こちらを……これは一体!?」
オーウェンが砲口の先を指さす。
二人の眼前に広がっていたのは、爆心地から北の空へ向かって、空間そのものが削り取られたかのような「一筋の巨大な亀裂」だった。
数百年経った今もなお、大気がチリチリと震え、その軌道上の土壌はガラスのように焼き固められている。
「この方角……霊峰スインウィッシュか。この街の住人は、あの聖山に向けて、持てるすべての魔力を打ち放ったというのか?」
答えを知る者はもういない。二人は、これ以上の探索は危険だと判断し、引き返すことにした。
「あ、オーウェン。ついでにさ、あそこにある純度の高い魔導結晶、お土産に持って帰りたいな」
「……アルテオ様。あなた様まで、ナバール様のように人使いが荒くなりましたな」
オーウェンは深いため息をつきながらも、その剛腕で巨大な結晶を根元から引き抜いた。
――数時間後。魔導船に戻った二人から報告を受け、俺は言葉を失った。
「……スインウィッシュへの攻撃跡か。この国が滅んだ理由と関係があるのかもな」
俺は、遠く北の空に座す聖山の影を見つめる。
魔族であるガーラントたちを仲間に加え、応急修理を終えた魔導船は、今まさに再出発の時を迎えようとしていた。
「エイル、お土産だよ。これ、使えるかな?」
アルテオが差し出した巨大な結晶を見て、エイルの目が輝く。
「こりゃすごいね! これがあれば、もっと強く速くしてやるぞ!」
作業の手を止めたエイルに、俺はずっと気になっていたことを尋ねた。
「なあエイル。この魔導船に、名前をつけてやらないか?」
「……アタイの故郷の言葉で『未来』って意味さ。アヴァニール……なんて、どうだい?」
エイルは少し照れくさそうに笑った。
「アヴァニール……未来を切り開く、か。いい名前だ」
俺はそっと、温かみを帯びた船体をなでた。
「そうか、アヴァニール。これからもよろしくな」
翌朝、応急修理を終えたアヴァニールが、結晶の粉を巻き上げて浮上した。
新たな仲間を乗せ、俺たちは死の都を後にする。
目指すは、俺の故郷、ドラグーン王国。
青空を切り裂き、俺たちの「未来」が再び動き出した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
「アヴァニール」という名を得て、再び空へと舞い上がった魔導船。
新たな仲間であるガーラントたちも加わり、一行の絆はさらに強まりました。
ナバールたちの旅を、これからも一緒に見守っていただければ幸いです。




