エピソード79:共鳴する血
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死の都に潜んでいた影の正体は、国を追われた混血の魔族たちでした。
ナバールと、そのリーダーであるガーラント。
境遇を同じくする二人が対峙したとき、物語は新たな局面を迎えます。
「総員、構えろ! だが、できるだけ傷はつけるなよ!」
俺の号令が、中和結界の中に響く。
「ははっ、またそれ? 獣王国でも聞いたね、その無茶振り!」
アルテオが肩をすくめながらも、指先で魔導式の拘束術を編み上げる。
「毎度のことながら、我が主君は人使い……いえ、家臣使いが荒くて困りますな」
オーウェンも苦笑しながら、鞘に入ったままの剣を杖のようにつき、襲い来る影たちを見据えた。
「俺はリーダー格をやる。二人は周りをお願い!」
俺は二刀を抜かず、素手のまま地を蹴った。
対するは、黒い槍を操る男。その槍筋は鋭く、重い。
「甘いぞ、人族の王! 殺さぬなどと、我らを見くびるか!」
突き出される鋭い穂先を、俺は掌底でわずかに逸らし、懐へと潜り込む。
数合の打ち合い。槍を素手で捌きながら、俺は確信した。この男の攻撃には、単なる殺意ではない「守るための必死さ」が宿っている。
間合いを詰められ、一度も攻撃を当てられないことに、男の眉が動いた。
「……ガーラの刺客ではなさそうだな。だが、なぜ人族がこの死地に足を踏み入れる」
「人族、か。……確かにそう見えるよな。どこにも鱗なんて無いし」
俺は一度足を止め、自嘲気味に笑ってから、深く息を吸い込んだ。
次の瞬間、俺は全身から黄金色のオーラを爆発させた。
その奔流は俺の背後で巨大な黄金の竜の姿を形作り、実体を持たないはずの咆哮が、死の都の空気を震わせる。
「なっ……何!? このプレッシャーは……。姿は人そのものなのに、魂が竜だというのか!」
「俺は、人間と竜人の『混血』だ。……皆、戦いをやめてくれ!」
かつては呪わしく思っていた、証のないこの体。だが、今は違う。この力が、俺が何者であるかを語ってくれる。
俺の叫びに、周囲の魔族たちも動きを止めた。
「俺はドラグーン王国の王、ナバールだ。……あんたも、相当苦労してそうだな」
男は槍を引き、圧倒されたように立ち尽くしてから、自嘲気味に鼻で笑った。
「……混血の身で王だと? ははっ、お人好しなことだ。我はガーラント。見ての通り、国を追われた者たちのまとめ役だ」
俺たちはひとまず、安全なタウロスの車内へと場所を移した。
温かい茶を出すと、ガーラントはぽつりぽつりと重い口を開いた。
ガーラ帝国に新王ヴェルガーが即位して以来、純血主義は狂気へと変わり、「不純」とされた彼らは国を追われた。行き着いたのが、この呪われた場所だった。
「最初はもっといたんだがな……。今は我を含めて十名だけだ。それでも、ここしか居場所がなかったんだ」
俺もまた、自分の旅の目的と、叔父であるヴェルガーとの因縁を話した。
沈黙が流れる中、俺は真っ直ぐにガーラントの目を見た。
「ガーラ帝国に、未練はあるか?」
「……無いな。あそこはもう、我らの知る国じゃない」
「なら、ドラグーンに来ないか? 俺の国なら、あんたたちの力を必要としている」
ガーラントが目を見開いた。
「本気か!? 我らは魔族の血を引いている。お前の父を、民を苦しめた一族の血だぞ!」
「それはむしろ、受け入れる側のドラグーンが乗り越えるべき問題だ。……それに、ガーラの現王は俺の叔父だしな」
俺が少し申し訳なさを込めて答えると、ガーラントは真剣な眼差しで、自身の出自を明かした。
「わだかまりになる前に、我も言っておく。……我の父は、先代のガーラ帝国王だ。ヴェルガーに王座を奪われ、母と共に追放された。母はこの地への逃避行の途中で亡くなった……」
俺は絶句した。目の前の男は、俺以上に過酷な運命を背負い、それでも仲間を守って前を向いている。
「……親父は、純血主義を嫌っていた。我もその意志を継ぎたい。受け入れてくれるか?」
「断る理由なんて、どこにもない」
俺がそっと手を差し伸べると、ガーラントはガシッとその手を握り返した。
劇的な和解の空気が流れる中――。
「ああもう! 感動の話はいいけどさ!」
顔を真っ赤にして、エイルがフラフラと立ち上がった。
「あんたらいつから風呂入ってないんだい! 鼻が曲がるよ! 仲間になるならまず風呂だ! 全員シャワー室にぶち込め!」
「えっ、ちょ、エイル殿!? 離せ、我は誇り高き魔族の……」
「うるさい! 洗え!」
感動の余韻は、エイルの怒声と勢いよく響くシャワーの音にかき消されていった。
こうして、死の都に潜んでいた最強の混血部隊が、俺たちの仲間に加わったのである。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ナバールと同じコンプレックス、そしてそれ以上に過酷な運命を背負ったガーラント。
最強の味方を得た一行ですが、最後はやはりエイルの「日常」に飲み込まれてしまいましたね。




