エピソード100:光の絆、魂の咆哮
いつもご愛読いただきありがとうございます。
おかげさまで、ついにエピソード100を迎えることができました!いつも温かい応援を本当にありがとうございます。
暴走する魔神ヴェルガーを前に、ナバールが下した決断。
それは「討伐」ではなく、父アランの想いをも継いだ「救済」でした。
セトから託される最大の光、そしてエイルの打った双剣が、今、奇跡を呼び起こします。
理性を失い、混沌の塊と化したヴェルガーが目の前で咆哮を上げる。
かつて父上――アラン王に切り落とされたはずの右腕からは、禍々しい漆黒の魔力が新たな腕となって這い出ていた。
その姿は、魔神の影を宿した恐るべき化け物そのものだった。
地響きと共に、ヴェルガーが身の丈を超える巨大な魔剣を容赦なく振り回す。
一撃一撃が大地を爆破させるほど恐ろしく強大だったが、エイルが魂を込めて打ってくれた、セト様の牙と爪からなる双剣を握る俺も、一歩も退かずに打ち合う。
金属同士が激突するたびに、狂ったような衝撃波が戦場を駆け抜け、俺の腕を激しく震わせた。
「くく、あははは! 素晴らしい、実に素晴らしい!
そろそろヴェルガーの自我が完全に消失する。そうなれば、その肉体を苗床として、偉大なるオルディオス様がこの世界に完全復活を遂げるのです!」
クレーターの縁から、衣服を焦がしたギルフォードが狂信的な笑声を響かせる。
どこまでも卑劣極まりない。
最初から叔父上を都合のいい器、オルディオス様を蘇らせるためのただの肉塊としか見ていなかったのだ。
「オ……、アァァァァァッ!!」
突然、ヴェルガーの叫び声が、人間のものではない不気味な重低音へと変貌した。
肉体が内側から膨れ上がるように蠢き、完全に別の何かに変わろうとしている。
それに伴い、攻撃の威力も数段跳ね上がった。
あまりの圧倒的なパワーに、俺の双剣での受け流しは限界を迎え、身体ごと後方へと激しく吹き飛ばされる。
「くそっ……!」
空中を転がりながら必死に体勢を整えようとしたが、奴の動きはそれ以上に速かった。
無防備な俺の頭上へ、すでに二撃目の魔剣が容赦なく振り下ろされている。
直撃を覚悟し、奥歯を噛み締めた、その瞬間――。
魔剣の刃が、俺の鼻先でピタリと止まった。
「……ナ、バール……よ……」
ヴェルガーの巨体が激しく痙攣し、その瞳に一瞬だけ、確かな人間の光が戻った。
叔父上が、自らの意志で肉体の制御を無理やりねじ伏せていたのだ。
その顔は、涙のような汗と血に塗れていた。
「今のうちに……俺の, 首を, 落とせ……!」
「叔父上……!?」
「私の中に、オルディオスが……いる。まもなく、完全に復活するだろう……。
はやく、俺を断て……!」
必死に黒い魔力を抑え込み、苦悶に顔を歪めながら呟くヴェルガー。
斬れ。そう言われても、俺の腕は動かなかった。動かせるはずがなかった。
父上が最期まで憎むことなく、命を奪わなかった弟。
跡継ぎになれないという些細なコンプレックスに付け込まれ、ギルフォードによって心を、人生を蝕まれてきた男。それがこの人の真実だったんだ。
迫るオルディオスの気配に恐怖しながら、それでも世界を守るために自分を殺せと叫ぶ叔父の姿に、俺の胸の奥から、ずっと張り詰めていた本心が言葉となって溢れ出た。
「……良かった」
俺の声は震えていた。情けないくらいに、ぽろぽろと涙が溢れてくる。
「あなたが、根っからの悪じゃなくて……本当に、良かった……!」
俺の言葉に、ヴェルガーが驚いたように大きく目を見開く。
「何をしているんです! さっさとその半純血を、ドラグーンの小倅を斬るのです!」
ギルフォードが狂ったように叫ぶ。
「早く……俺を、斬ってくれ……ナバール……!」
ギルフォードの狂乱の叫びと、ヴェルガーの魂の悲鳴。
斬って終わらせるなんて、そんな悲しいこと、俺は絶対にしない。
不器用でも、どんなに不格好でも、俺は誰も諦めない。
俺はセト様の牙と爪を宿す双剣を強く握り直し、届いてくれと願いながら天を仰いで声を張り上げた。
「セト様――ッ!!」
「わかっておる! ちゃんと見ておったわ!」
上空からまばゆい黄金の光を纏い、人間の姿のままセト様が猛スピードで降り立ってくる。
その表情は、いつになく優しく、そして誇らしげだった。
「お前がそう叫ぶのを、ずっと待っておったぞ。……かつてアランがそう願ったようにな。
ナバールよ、聖属性の魔法を使う! 我のありったけの魔力をぶつけるでの、コントロールはお前に一任するぞ。
ヴェルガーを、救い出すのじゃ!」
「はい……! よろしくお願いします、セト様!」
再び黒い霧に呑まれ、暴れ出そうとするヴェルガー。
だがその内側では、未だに叔父上の魂が、ナバールに、世界に、これ以上苦しみを与えたくないとオルディオスと精神世界で激しく戦い、必死に動きを鈍らせていた。
今しかない。
俺はセト様が放った膨大な聖属性の光の塊を、エイルが打ってくれた、不器用で温かい一対の双剣で受け止めた。
あの日、婚姻の儀の夜にセト様と交わした約束通り、俺のすべてをかけてこの力を導く。
これは敵を倒すための刃じゃない。
叔父上を、闇の呪縛から引っ張り上げるための、救いの祈りだ。
「届けぇぇぇッ!!」
俺は双剣を突き出し、黄金の光の濁流をヴェルガーの胸元へと真っ直ぐに解き放った。
清浄なる光が、ヴェルガーの肉体を優しく、しかし力強く包み込む。
次の瞬間、ヴェルガーの身体から、まるで悲鳴を上げるように黒い霧のモヤが噴き出した。
その不快な霧は、宙で恐ろしい魔神の形を象ると、決戦の地を離れ、スインウィッシュの方角へと猛烈な速度で飛び去っていった。
「オ、オルディオス様……!? 馬鹿な、そんな、置いて行かれるなど……!?」
絶対的な主を失い、ギルフォードが呆然と立ち尽くす。
しかし、すぐに我に返ると、自身の危機を察して残った魔力で身体を浮かせ、必死に逃亡を図った。
「……逃がす、か……!」
地に膝をついたヴェルガーが、最後の理性を振り絞って巨大な魔剣をギルフォードの背中に向けて投げ飛ばした。
凄まじい風切り音と共に放たれた魔剣は、ギルフォードの防御魔力ごと、その背を容赦なく打ち砕いた。
「ぎゃああああっ!?」
悲鳴を上げながら、ギルフォードは激しく吐血し、薄れゆく意識の中で空間転移の魔法を発動させて虚空へと消えていった。
静寂が戻った荒野で、ヴェルガーはその場にバタリと倒れ込んだ。
その顔から禍々しさは消え去り、ようやく呪縛から解き放たれたように、ひどく穏やかだった。
オルディオスの魂は去り、策士も致命傷を負って敗走した。
長く苦しかった魔族との戦争は、これで本当に終わりを迎えるのだろう。
俺は涙を拭い、倒れた叔父上へと一歩を踏み出した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ナバールの涙ながらの叫び、そしてセト様との見事な連携で、ついに叔父上を救い出すことができました!
魂だけとなってスインウィッシュへ逃げ去ったオルディオス、そして深い傷を負いながらも消えたギルフォード。
本当の終着点が、すぐそこまで見えてきました。
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次回からの最終章も、どうぞよろしくお願いいたします!




