エピソード97:策士の誤算、激突の天空
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四方から包囲された魔王軍。
しかし、策士ギルフォードの目は、早くも次なる一手として上空の魔導船を捉えていました。
激風吹き荒れる天空を舞台に、千年の時を超えた因縁の決戦が幕を開けます。
遥か高空。
吹き荒れる烈風の中、魔導船『アヴァニール』の巨大な船体を背に受けるセトに向け、ギルフォードは無数の黒い魔力弾を掃射していた。
不吉な漆黒が、青空を幾重にも引き裂いていく。
「どうしました、セト! かつての威光はどこへ行ったのです!
まさか、その人間の小娘と変わらぬ脆弱な姿で、防戦一方になるのが精一杯ですか!」
「くっ……!」
美しい人間の女性の姿をとるセトは、ギルフォードの放つ邪悪な光線の射線に自ら入り、障壁を展開して船を守る。
直撃のたびに凄まじい衝撃波が空気を震わせ、セトの周囲に鋭い火花が散った。
何かを守りながらの戦闘が、どれほど圧倒的に不利なことか。
それは千年の時を生きるセト自身、百も承知のことであった。
しかし、敵の猛攻を浴び続けるセトの金色の瞳に、焦りの色は微塵もなかった。
(エイル、そちらの進路状況はどうだ)
防壁を展開しながら、セトは脳内で魔導船の操舵室と念話を繋ぐ。
(セト様、バッチリだぜ! 敵の意識は完全にそっちに向いてる。
爆撃ルートへの旋回、あと三十秒で完了だ!)
船内からのエイルの猛々しい声に、セトは息を整えながら小さく頷いた。
この防戦は、ただ耐えるだけの無策ではない。
エイルたちドワーフ技術者軍団と事前に打ち合わせた、アヴァニールの航行ルートと、地上への爆撃地点へギルフォードを完璧に誘導するための、知略を尽くした「芝居」であった。
しかし、己の知恵を疑わないギルフォードは、形勢有利と見て勝利を確信したように嘲笑を深める。
今のセトは、かつての巨大な大竜の姿ではない。
その人型の華奢な体躯を見て、ギルフォードの心には明らかな油断が生まれていた。
「千千年、偉大なるオルディオス様を封印した大竜ともあろうお方が、人間の作ったブリキの玩具を必死に守るとは、滑ッケイ極まりない!
そのような不自由な肉体に閉じこもり、無様に墜ちるがいい!」
ギルフォードの指先から放たれる魔法の連射速度が、さらに跳ね上がる。
隙を与えまいとする雨あられのような猛攻に、セトは徐々に高度を下げ、いよいよ追い詰められていくように見えた。
先ほどまでは飛来する魔法を確実に正面から相殺していたセトだったが、次第にその挙動に「乱れ」が生じ始める。
直撃を避け、不器用に向きを変えて徒手空拳の腕で弾き、かろうじてかわすような危うい仕草を連発してみせたのだ。
「ふむ、やはり千年前の傷が響いているようですね。限界ですか。
ならば、我らが主の仇、ここで一思いに葬って差し上げましょう!」
ここぞとばかりに、ギルフォードは勝利の決定打となる大魔術の詠唱に入った。
それは一撃でこの空間ごとすべてを消し去る超特大の暗黒魔法。
ギルフォードの周囲に、禍々しい紫黒の魔方陣が何重にも展開し、大気中の魔力を急速に吸い込んでいく。
勝機を確信し、ギルフォードの意識が完全に「攻撃」へと傾いた、まさにその刹那。
――一閃。
残像すら残さず、セトの身体がギルフォードの目の前へと肉薄していた。
その速度は、先ほどまでの鈍重な動きからは到底予想できないものだった。
「なっ……!? 速――馬鹿な、人型のままでこれほどの――」
「騙し合いなら、私も負けんぞ? 小賢しい羽虫が」
冷徹な声が響くと同時に、セトの細い両腕が鋭く閃いた。
その瞬間、彼女の十指から目に見えぬ竜の爪が伸長する。
人型とはいえ、その身に宿るは古の竜王の力。
セトの圧倒的な膂力と竜の爪は、ギルフォードの背から生えた漆黒の両翼を、その根本から生々しい音を立てて引きちぎった。
「ガ、あ、あァァァッ!? 貴様、これほどの力を隠して……っ!」
激痛に絶叫するギルフォードの脳天に向けて、セトは両手をがっちりと組んだハンマーナックルを容赦なく叩きつけた。
狙い澄ましたその軌道の先には、地上でこの戦いを見上げているナバールたちが陣取っている。
「ぐ、がぁはっ……! 衰えた、とはいえ、やはり、古竜……か……っ!」
自由を奪われ、真っ逆さまに地上へと叩き落とされるギルフォード。
その絶妙な落下のタイミングを、上空の魔導船が見逃すはずはなかった。
「エイル、そこだ! 墜ちる奴に向けて撃て!」
「応よ! 待たせたなセト様! 全門、斉射ァァッ!」
セトの合図と同時に、アヴァニールの下部砲塔が一斉に火を噴いた。
空中での回避手段を無くし、なす術なく落下していくギルフォードの身体に向けて、ドワーフたちが魂を込めた魔導爆撃が容赦なく浴びせられる。
ズドォォォンッ!!
大地が悲鳴を上げるほどの凄まじい衝撃音と大爆発が荒野に響き渡った。
ギルフォードの身体が地面に激突するのとほぼ同時に爆撃が炸裂し、巨大なクレーターのような不気味な爪痕が引き裂かれた土壌に刻まれる。
もうもうと立ち込める不快な土煙と、容赦ない爆炎が、戦場の風にゆっくりと流されていく。
全身から血を流し、衣服をボロボロに焦がしながら、屈辱に震えてなんとか這い上がろうとするギルフォード。
だが、その視界を遮るように、一歩、静かな影が踏み出した。
不器用ながらも温かい、しかし何者にも決して屈しない揺るぎない覚悟の眼差し。
「……久しぶりだな、ギルフォード」
ナバールが、静かに、そして力強く剣を構え、かつて国を脅かした宿敵を見下ろした。
「今度は、勝たせてもらう」
最後までお読みいただきありがとうございました。
セトの巧みな「芝居」とエイルたちの爆撃、見事な連携でした!
そしてラスト、満を持してギルフォードの前に立ちはだかったナバール。
不器用ながらも温かい、しかし決して屈しない彼の瞳が、かつての宿敵を射抜きます。
「ナバール、いけー!」「セト様かっこよすぎる!」と思った方は、
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次回、因縁の決着へ。どうぞお見逃しなく!




